第100回(H29) 助産師国家試験 解説【午後26~30】

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26 40歳の1回経産婦。切迫早産の治療のため妊娠34週0日から入院して安静加療し、妊娠37週0日に骨盤位のため帝王切開術で分娩した。分娩時出血量は羊水を含めて1,000mLであった。術後1日の昼食後に軽い呼吸困難と多呼吸とを訴え、ペーパーバッグを口と鼻に当てたところ、すぐに消失した。術後2日の朝にベッドから降りて立ったとき、突然、胸痛と息苦しさとを訴え意識を失った。既往歴および家族歴に特記すべきことはない。
 最も疑われるのはどれか。

1.貧血
2.肺塞栓症
3.心筋梗塞
4.過換気症候群
5.起立性低血圧

解答

解説

本症例のポイント

・40歳の1回経産婦(既往歴、家族歴:特記なし)。
・妊娠34週0日から:切迫早産の治療のため入院して安静加療。
・妊娠37週0日:骨盤位のため帝王切開術で分娩した。
・分娩時出血量:羊水を含めて1,000mL。
・術後1日昼食後:軽い呼吸困難と多呼吸、ペーパーバッグを口と鼻に当てたところ、すぐに消失した。
・術後2日朝:ベッドから降りて立ったとき、突然、胸痛と息苦しさとを訴え意識を失った
→それぞれの選択肢の消去できる理由をあげられるようにしておこう。一般的に、帝王切開術の合併症として、出血、周辺臓器の損傷、赤ちゃんの一過性多呼吸、術後の腸管麻痺、腹腔内感染、創部離開、血栓塞栓症などがあげられる。それらを予防や観察しながらの看護が必要となる。

1.× 貧血より優先されるものが他にある。なぜなら、貧血の症状が当てはまっているともいえず(例えば、突然の意識喪失や胸痛など)、貧血と判断できる要素が少ないため。貧血とは、「単位容積の血液中に含まれているヘモグロビン(Hb)量が基準値より減少した状態」と定義している。主な症状として、倦怠感や動悸、息切れなどがあげられる。

2.〇 正しい。肺塞栓症が最も疑われる。なぜなら、本症例は帝王切開後で、ベッドから降りて立ったとき、突然、胸痛と息苦しさとを訴え意識を失ったため。肺塞栓症は手術後の安静期間や妊娠・出産に関連するリスクが高く、突然の胸痛、息苦しさ、意識喪失が典型的な症状である。ちなみに、肺塞栓症とは、肺動脈に血栓が詰まる病気のこと。この血栓が9割以上は脚の静脈内にできる。この血栓を「深部静脈血栓症」といい、それが血液の流れに乗って右心房、右心室を経由して肺動脈まで運ばれてきて、肺塞栓症の原因となる。肺塞栓症と深部静脈血栓症は、極めて関係が深い病気で、二つを合わせて「静脈血栓塞栓症」と呼ばれる。深部静脈血栓症患者の約50%は潜在性の肺塞栓症を有し、肺塞栓症患者の30%以上は証明可能な深部静脈血栓症患者を有すると報告されている。

3.× 心筋梗塞より優先されるものが他にある。なぜなら、妊娠・出産直後の年齢層や症状の急性発現を考慮すると、心筋梗塞より肺塞栓症の方が発症の可能性が高いため。また、心筋梗塞は発症すると安静にしていても激しい胸の痛みが20分以上続く。 突然、左胸部や左肩・首・下あご・みぞおちに締めつけられるような痛み、あるいは胸が押しつぶされるような苦しさを訴えることが特徴である。

4.× 過換気症候群より優先されるものが他にある。なぜなら、意識消失が該当しにくいため。ちなみに、過換気症候群とは、器質的障害が認められないのにストレスや緊張、不安などの心理的要因等により発作的に肺胞過換気状態を生じ、呼吸性アルカローシスに基づく臨床症状を呈する病態をいう。症状として、息をしにくい、息苦しい(呼吸困難)、呼吸がはやい、胸が痛い、めまいや動悸などがある。また、テタニーと呼ばれる手足のしびれや筋肉がけいれんしたり、収縮して固まる(硬直)症状がみられる。

5.× 起立性低血圧より優先されるものが他にある。なぜなら、胸痛や息苦しさが該当しにくいため。起立性低血圧とは、急に立ち上がったり、起き上がった時に血圧が低下し、軽い意識障害、いわゆる立ちくらみをおこすことである。機序として、血圧調節機能がうまく働かず血圧が低下し、脳血流が減少して、めまいや立ちくらみなどを起こす。仰臥位・坐位から立位への体位変換後3分以内に、以下のいずれかが認められるとき、起立性低血圧と診断する。①収縮期血圧が20mmHg以上低下、②収縮期血圧の絶対値が90mmHg未満に低下、③拡張期血圧が10mmHg以上低下。

 

 

 

 

 

27 生後2日の女児。在胎37週2日、体重2,800gで出生。この日の体重は2,600g。体温37.0℃、呼吸数48/分。排尿は8回/日、排便は2回/日。皮膚に黄染がみられ、血清総ビリルビンは16.0mg/dLであった。授乳間隔は3、4時間ごとで、母乳の後に人工乳を1回20mL補足している。
 この児のアセスメントで正しいのはどれか。

1.多呼吸である。
2.哺乳量不足である。
3.排泄回数が少ない。
4.高ビリルビン血症である。
5.体重減少率は生理的範囲を逸脱している。

解答

解説

本症例のポイント

生後2日の女児(在胎37週2日:体重2,800gで出生)。
・この日の体重:2,600g
・体温37.0℃、呼吸数48/分
・排尿は8回/日、排便は2回/日
・皮膚に黄染(血清総ビリルビン:16.0 mg/dL)。
・授乳間隔:3、4時間ごと
・母乳の後に人工乳を1回20mL補足。
→正常範囲と異常所見をしっかり把握しておこう。

1.× 多呼吸であるとはいえない。なぜなら、本児の呼吸数48/分(正常範囲:35~50回/分程度)であるため。これは、新生児の肺がまだ発育を始めたばかりで、ガス交換が行われている場所である肺胞の数が非常に少ないことで起こっている。

2.× 哺乳量不足であるとはいえない。なぜなら、本児の体重変化は約-7%であり、新生児の生理的体重の変化の範囲内であるため(下の解説参照)。

3.× 排泄回数が少ないとはいえない。なぜなら、排便回数は個人差が大きいため。ちなみに、一般的な新生児の授乳回数は1日8~12回である。排便回数は個人差が大きく、1日に10回以上排便することもあるが、1〜2日に1回程度の場合もある。一応、目安としては、母乳栄養児の場合、20~30ℊ/日を7~10回する。

4.〇 正しい。高ビリルビン血症である。なぜなら、本児の血清総ビリルビンは16.0 mg/dLであるため。①生理的黄疸:血中のビリルビン値が、黄疸のピーク時(生後4、5日)に成熟児で12mg/dl、未熟児で15mg/dl以下であり、かつ1日のビリルビン値の上昇が5mg/dl以下である。②病的黄疸:血中のビリルビン値が、成熟児で12mg/dl未熟児で15mg/dlを超える。または、1日のビリルビン値の上昇が5mg/dlを超える。光線療法とは、新生児に特殊な光線を当てて治療する方法である。光源は450~470nm付近の波長の青色LEDで、その光の作用で毒性の高い間接型ビリルビンを直接型に変え、体外への排出を促す。早ければ治療開始後2~3日で血中ビリルビン値は正常値に戻り、治療が完了する。

5.× 体重減少率は生理的範囲を逸脱しているとはいえない。なぜなら、本児の体重変化は約-7%であり、新生児の生理的体重の変化の範囲内であるため(下の解説参照)。

体重の変化

【新生児の生理的体重の変化】
正期産により出生した正常な新生児の生理的体重減少率は、出生体重の3~10%の範囲であり、生後3~5日がそのピークである。減少率とは、出生時体重からの減少の割合で、「(出生時の体重-現在の体重)÷ 出生時の体重 × 100」で算出される。

【正常乳児の一日体重増加量の目安】
・0~3か月:25~30g
・3~6か月:20~25g
・6~9か月:15~20g
・9~12か月:7~10g

 

 

 

 

28 Aさん(30歳、初妊婦)。夫と義母の3人暮らし。妊娠38週で子宮内胎児死亡となり、帝王切開術を受けた。手術後8日で退院する予定である。Aさんの実母から「赤ちゃんの父親は海外出張中で帰って来ることができません。死産届は誰が出したらよいでしょうか」と助産師に相談があった。
 届出者として最も適切なのはどれか。

1.義母
2.Aさん
3.Aさんの実母
4.死産に立ち会った医師
5.死産に立ち会った助産師

解答

解説

死産届とは?

死産届とは、妊娠第12週以降の胎児を死産したときに提出する届出である。死産届を提出すると、火葬許可証が発行される。
【国試で問われるポイント】
・死産届は7日以内に提出しなければならない。
・死産届は死産のあった場所の市町村長に提出する。

第七条 死産の届出は、父がこれをなさなければならない。やむを得ない事由のため父が届出をすることができないときは、がこれをなさなければならない。父母共にやむを得ない事由のため届出をすることができないときは、次の順序によつて届出をなさなければならない。
一 同居人
二 死産に立会つた医師
三 死産に立会つた助産師
四 その他の立会者
(※参考:「死産の届出に関する規程」e-GOV法令検索様HPより)

1.〇 正しい。義母が届出者として最も適切である。Aさんは、手術後8日は入院中であるため、届出者が困難である。したがって、同居人(今回は義母)→死産に立会つた医師→死産に立会つた助産師→その他の立会者という順で死産届を提出する。

2.× Aさんは、手術後8日は入院中であるため、届出者が困難である。ただし、入院しておらず、届出者の提出可能な環境であれば、最も優先度が高い。

3.× Aさんの実母は、同居していないため、死産届の提出リストから除外される。

4~5.× 死産に立ち会った医師/助産師は、Aさんと同居人が提出困難だった場合、死産に立会つた医師→死産に立会つた助産師→その他の立会者という順で死産届を提出する。

 

 

 

 

 

29 助産業務に関連する法律と内容の組合せで正しいのはどれか。

1.刑法:医行為の禁止
2.医療法:助産録の記載
3.児童福祉法:守秘義務
4.母体保護法:母性健康管理指導事項連絡カードの発行
5.保健師助産師看護師法:異常妊婦に対する臨時応急の手当

解答

解説
1.× 医行為の禁止は、「刑法」ではなく医師法(17条)に規定されている。刑法とは、犯罪とそれに対する刑罰の関係を規定する法である。ちなみに、医師法とは、医師全般の職務・資格などを規定する日本の法律である。つまり、一般人には禁止されている医療行為を、医師という有資格者に限って許可する法律である。

2.× 助産録の記載は、「医療法」ではなく保健師助産師看護師法(42条)に規定されている。医療法とは、病院、診療所、助産院の開設、管理、整備の方法などを定める日本の法律である。①医療を受けるものの利益と保護、②良好かつ適切な医療を効率的に提供する体制確保を主目的としている。保健師助産師看護師法とは、保健師・助産師および看護師の資質を向上し、もって医療および公衆衛生の普及向上を図ることを目的とする日本の法律である。通称は保助看法。

3.× 守秘義務は、「児童福祉法」ではなく保健師助産師看護師法(42条2項)に規定されている。42条2項には、「保健師、看護師又は准看護師は、正当な理由がなく、その業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない。保健師、看護師又は准看護師でなくなつた後においても、同様とする」と記載されている(※一部引用:「保健師助産師看護師法」厚生労働省HPより)。児童福祉法とは、児童の福祉を担当する公的機関の組織や、各種施設及び事業に関する基本原則を定める日本の法律である。児童が良好な環境において生まれ、且つ、心身ともに健やかに育成されるよう、保育、母子保護、児童虐待防止対策を含むすべての児童の福祉を支援する法律である。

4.× 母性健康管理指導事項連絡カードの発行は、「母体保護法」ではなく保健師助産師看護師法(37条)に規定されている。母性健康管理指導事項連絡カードとは、妊娠中および出産後の女性従業員が、病院やクリニックから指導を受けた内容を適切に事業主に伝達するための書類で、通称「母健連絡カード」と呼ばれる。母性健康管理指導事項連絡カードの記載は、助産師(もくしは医師も)が行える。母体保護法とは、不妊手術及び人工妊娠中絶に関する堕胎罪の例外事項を定めること等により、母親の生命健康を保護することを目的とした法律である。1948年7月13日に公布された。

5.〇 正しい。異常妊婦に対する臨時応急の手当は、「保健師助産師看護師法(38条)」に規定されている。38条には、「助産師は、妊婦、産婦、じよく婦、胎児又は新生児に異常があると認めたときは、医師の診療を求めさせることを要し、自らこれらの者に対して処置をしてはならない。ただし、臨時応急の手当については、この限りでない」と記載されている(※一部引用:「保健師助産師看護師法」e-GOV法令検索様HPより)。

 

 

 

 

30 Aさん(36歳、初産婦)。妊娠41週0日、胎児下降不良のため鉗子分娩となった。児の健康状態に問題はなかったが、側頭から前額にかけてうっすらと鉗子の圧痕がついていた。Aさんは主治医から、児の圧痕は徐々に薄くなると説明され「安心しました」と答えた。A さんの夫は仕事で分娩に立ち会えず、分娩2時間後の16時に来院した。状況を知った夫はナースステーションに来て「詳しく話が聞きたい。顔に痕が残らないと聞いたが、もし残ったらどうするのか」と声を荒げて話した。
 助産師の対応で最も適切なのはどれか。

1.「主治医から説明いたします」
2.「とにかく落ち着いてください」
3.「分娩の管理は問題ありませんでした」
4.「Aさんは状況について納得されています」
5.「生後1か月ころまでに消えるので心配ありません」

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(36歳、初産婦)。
・妊娠41週0日:胎児下降不良のため鉗子分娩
・児の健康状態:問題なし。
・側頭から前額にかけてうっすらと鉗子の圧痕がついていた。
・Aさんは主治医から児の圧痕は徐々に薄くなると説明され「安心しました」と答えた。
・夫:仕事で分娩に立ち会えず、分娩2時間後の16時に来院。
・状況を知った夫「詳しく話が聞きたい。顔に痕が残らないと聞いたが、もし残ったらどうするのか」と声を荒げて話した。

1.〇 正しい。「主治医から説明いたします」と対応する。なぜなら、実際に鉗子分娩を行った主治医からの具体的かつ丁寧な説明が必要な状態であるため。Aさんは主治医からの説明で、「安心しました」と言っていることからも、適切かつ納得できる説明をしてくれる可能性が高い。

2.× 「とにかく落ち着いてください」と対応するより優先されるものが他にある。なぜなら、落ち着くことが直接的な解決とはならないため。夫は、「詳しく話が聞きたい」と申し出ていることから、まずはどのように説明するか考えることが先決である。

3.× 「分娩の管理は問題ありませんでした」と対応するより優先されるものが他にある。なぜなら、夫の具体的な質問には答えていないため。夫の「顔に痕が残らないと聞いたが、もし残ったらどうするのか」という質問に対し、専門的な説明が必要である。Aさん(36歳)の夫であるため、理解力は一般的に持ち合わせていると考えられる。

4.× 「Aさんは状況について納得されています」と対応するより優先されるものが他にある。なぜなら、Aさんが納得していることと「鉗子の圧痕」に関して、関係ないため。夫の「顔に痕が残らないと聞いたが、もし残ったらどうするのか」という質問に対しても答えられていない。

5.× 「生後1か月ころまでに消えるので心配ありません」と対応するより優先されるものが他にある。なぜなら、夫の質問に対し、寄り添う気持ちも感じられず、聞き入れていない印象を受けるため。夫の「顔に痕が残らないと聞いたが、もし残ったらどうするのか」に対し、具体的な医学的説明は主治医が行うべきである。また、「心配ありません」と断言や約束した場合、訴訟のリスクになりかねない。

MEMO

緊急時の対応(症状の悪化や胎児仮死のある場合)として、鉗子分娩・吸引分娩及び緊急帝王切開などのほかにも、可能な限り速やかに分娩を完了させる必要がある場合に行われる産科手術で、急速遂娩と呼ばれる。つまり、急速分娩とは、分娩中に母児に危機的状況が生じた場合に、分娩を早めるために、①帝王切開、②鉗子分娩、③吸引分娩などによって児を娩出することである。

鉗子分娩とは、児頭を鉗子で挟み児を娩出させる急速遂娩法である。先進児頭の下降度によって、①低在鉗子(出口鉗子)、②中在鉗子、③高在鉗子に分けられる。①低在鉗子(出口鉗子)の定義は諸説あるが、おおむねStation+2~+3以上である。術前に陰部神経麻酔、硬膜外麻酔を行うことが望ましい。

 

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