第107回(H30) 看護師国家試験 解説【午前51~55】

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51 Aさん(80歳、女性)。大腿骨頸部骨折のため人工骨頭置換術を受けた。手術後14日、Aさんの経過は順調で歩行訓練を行っている。歩行による疼痛の訴えはない。
 現在のAさんの状態で最も注意すべきなのはどれか。

1.せん妄
2.創部感染
3.股関節脱臼
4.深部静脈血栓症

解答3

解説

本症例のポイント

・Aさん(80歳、女性)
・大腿骨頸部骨折:人工骨頭置換術を受けた。
手術後14日:経過順調で歩行訓練を行っている。
・歩行による疼痛の訴えはない。

【人工骨頭置換術の患側脱臼肢位】
①後方アプローチ:股関節内転・内旋・過屈曲
②前方アプローチ:股関節内転・外旋・伸展
※人工骨頭置換術の脱臼発生率は、2~7%と報告されており、前方アプローチと後方アプローチと比較して、後方アプローチで発生しやすい。

1.× せん妄(特に、術後せん妄)より優先度が高いものが他にある。なぜなら、術後せん妄は、通常、数日間後に出現し、通常1週間以内に消退することが多いため。
2.× 創部感染より優先度が高いものが他にある。なぜなら、術後7~10日で創部は癒合するため。本症例は、手術後14日、経過順調である。
3.〇 正しい。股関節脱臼は、最も注意すべきである。なぜなら、人工骨頭置換術の脱臼発生率は、2~7%と報告されているため。本症例は、歩行による疼痛の訴えはなく、今後さらなる活動が活発となる時期である。再手術にならないよう病棟でも脱臼防止のため生活指導を実施する。
4.× 深部静脈血栓症より優先度が高いものが他にある。なぜなら、本症例は、手術後14日、経過順調で歩行訓練を行っているため。つまり、離床や活動量が確保できており、深部静脈血栓症の予防ができていると考えられる。ちなみに、深部静脈血栓症とは、長時間の安静や手術などの血流低下により下肢の静脈に血栓が詰まってしまう病気である。下肢の疼痛、圧痛、熱感などの症状がみられる。Dダイマーを測定する血液検査や血管造影CT検査で診断する。造影CT検査は、動脈瘤・解離・出血・血栓症などの血管性病変の描出に有用である。

せん妄とは?

せん妄とは、疾患や全身疾患・外因性物質などによって出現する軽度~中等度の意識障害であり、睡眠障害や興奮・幻覚などが加わった状態をいう。高齢者は薬剤によってせん妄が引き起こされる場合も多い。
【原因】脳疾患、心疾患、脱水、感染症、手術などに伴って起こることが多い。他にも、心理的因子、薬物、環境にも起因する。

【症状】
①意識がぼんやりする。
②その場にそぐわない行動をする。
③夜間に起こることが多い。 (夜間せん妄)
④通常は数日から1週間でよくなる。

【主な予防方法】
①術前の十分な説明や家族との面会などで手術の不安を取り除く。
②昼間の働きかけを多くし、睡眠・覚醒リズムの調整をする。
③術後早期からの離床を促し、リハビリテーションを行う。

 

 

 

 

 

52 胎生期から小児期の血清免疫グロブリン濃度の年齢による変動を図に示す。
 ①が示しているのはどれか。


1.IgA
2.IgD
3.IgG
4.IgM

解答1

解説

1.〇 正しい。①は、IgAである。IgAとは、体内では2番目に多い免疫グロブリンで、鼻汁、涙腺、唾液、消化管、膣など、全身の粘膜に存在している。IgAは、粘膜の表面で病原体やウイルスと結合し、病原体やウイルスが持っている毒素を無効化して感染しないように阻止する働きがある。母乳(特に初乳)に多く含まれる。児が自分自身でも生産するため、徐々に濃度が上昇し10歳ごろに成人と同じレベルに達する。
2.× IgDとは、扁桃腺および上気道にある抗体を産生する形質細胞から放出され、呼吸器系の免疫に作用していると考えられている。 IgAやIgGと比較しても微量しか存在していない免疫グロブリンである。
3.× IgGとは、新生児や乳児が胎児期に母体から受け取った抗体である。分子量が最も小さい抗体であるため、唯一、胎盤を通過する免疫グロブリンである。IgMが生成された後に生成され始める。一般的に抗体検査というとこのIgGを調べることが多い。生後3~6か月には母体由来のIgGは減少・消失し、児のIgG自己産生能も未熟であるため、濃度は最低レベルとなる。5~6歳で成人並みとなる。
4.× IgMとは、新生児由来であり、児に感染が起きたときに産生される免疫グロブリンである。しかし、感染防御力は低い。出生直後の新生児の血中IgMが高値の場合は、胎内または分娩時の感染が示唆される。免疫応答の初期に産生され、1歳ごろに成人と同じレベルに達する。

(※引用:「アレルギー総論」厚生労働省HPより)

 

 

 

 

53 Aちゃん(生後4か月、女児)は、嘔吐とけいれんのため病院を受診した。受診時、Aちゃんは傾眠状態で、顔色不良と眼球上転がみられたため入院となった。受診時の体温は36.8℃であった。四肢は硬直し、数か所の内出血斑があった。大泉門は平坦であったが、次第に膨隆を認めるようになった。このときの頭部CTを下図に示す。
 Aちゃんの所見として考えられるのはどれか。


1.急性脳症
2.てんかん
3.硬膜下血腫
4.細菌性髄膜炎

解答3

解説

本症例のポイント

・Aちゃん(生後4か月、女児)
・病院受診:嘔吐、けいれん。
・受診時:傾眠状態、顔色不良、眼球上転、36.8℃。
・四肢硬直、数か所の内出血斑。
・大泉門:平坦、次第に膨隆を認める。
・頭部CTの所見:三日月状血腫硬膜下血腫の所見)
→頭部CTの所見から、硬膜下血腫を導き出せるかがポイントである。

1.× 急性脳症とは、脳の急激な浮腫によって、嘔吐や血圧・呼吸の変化、意識障害、けいれん、発熱、眼球上転などがみられる脳の危険な状態である。原因として、主にウィルス感染があげられる。急性脳症の場合、頭部CT検査では、低吸収域(黒い像)が確認される。
2.× てんかんとは、脳の神経の電気信号が過剰に発射され、意識障害やけいれん発作を繰り返す病気である。症候性てんかんの場合、脳腫瘍や脳血管障害などが原因となって起こるものもある。てんかんの場合、頭部CT検査において、出血像は見られない
3.〇 正しい。硬膜下血腫は、Aちゃんの所見として最も考えられる。急性硬膜下血腫とは短時間のうちに硬膜と脳の間に血腫が形成された状態のことであり、頭部外傷としては重症に分類される。ほとんどが頭部外傷によるもので、児童虐待の死因として最も多い。
4.× 細菌性髄膜炎とは、主な病原体は、髄膜炎菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌で起こる髄膜炎である。症状は、髄膜炎の3大症状でもある発熱、頭痛、項部硬直で、75%以上の意識障害(傾眠~昏睡と程度は様々)である。他にも、嘔吐や羞明もよくみられる。けいれんは初期症状にみられ、髄膜炎の全経過を通して20~40%に起きる。ちなみに、細菌性髄膜炎では、病原体に合わせた抗菌薬療法や、症状に応じた対症療法が行われる。細菌性髄膜炎の場合、頭部CT検査において、出血像は見られない

 

 

 

 

 

54 性同一性障害(GID)/性別違和(GD)について正しいのはどれか。

1.出現するのは成人期以降である。
2.ホルモン療法の対象にはならない。
3.生物学的性と性の自己認識とが一致しない。
4.生物学的性と同一の性への恋愛感情をもつことである。

解答3

解説

性同一性障害とは?

性同一性障害(GID:Gender Identity Disorder)とは、 「生物学的には完全に正常であり、しかも自分の肉体がどちらの性に所属しているかをはっきり認知していながら、その反面で、人格的には自分が別の性に属していると確信している状態」と定義されている。

性別違和(GD:Gender Dysphoria)とは、外見上の体の性別と内面上の心の性別が一致しない状態のことをさす。 多くは中学生までに出現し、思春期で悩みを強く持つことも多い。

2013年に DSM-5では、「性同一性障害」 の病名は 「性別違和」 に変更になっている。さらに2019年 ICD-11では「性別不合:Gender Incongruence」に変更され、2022年から実行の予定である(日本語訳はまだ正式ではない)。(※参考:「きよくりnews」発行元:村口きよ女性クリニックより)

1.× 出現するのは「成人期以降」ではなく、主に就学前の者(3歳ごろ)が多い。なぜなら、性同一性(ジェンダー・アイデンティティ)は通常3歳までに形成されるため。ただし、個人差も大きく、思春期になってからの者もいる。
2.× ホルモン療法の対象になる。治療には、①身体的治療、②精神科領域があげられる。①身体的治療として、ホルモン療法性別適合手術乳房切除術が挙げられている。ホルモン療法(二次性徴抑制療法を含む)は、医療チームの一員であるか医療チームから依頼を受けた医師であり、かつ内分泌学、小児内分泌学、泌尿器科学、産婦人科学を専門とする医師によって行われるべきである。ただし、地域性などの条件を考慮して、近医や非専門医がホルモン投与をする場合、専門医の診察を定期的に受けるようにするべきである。ホルモン療法により期待される効果は、性ホルモンとしての直接的な効果と視床下部-下垂体系抑制による性腺刺激ホルモン分泌の低下を介した効果がある。(※参考:「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第3版)」より)
3.〇 正しい。生物学的性と性の自己認識とが一致しない。性同一性障害(GID:Gender Identity Disorder)とは、 「生物学的には完全に正常であり、しかも自分の肉体がどちらの性に所属しているかをはっきり認知していながら、その反面で、人格的には自分が別の性に属していると確信している状態」と定義されている。ちなみに、診断の手順としては、性同一性障害に十分な理解と経験を持つ精神科医が診断にあたることが望ましい。児童思春期例の診断には、児童思春期精神医学の専門家にも意見を求めることが望ましい。2人の精神科医が一致して性同一性障害と診断することで診断は確定する。2人の精神科医の意見が一致しない場合は、さらに経験豊富な精神科医の診察を受けその結果を改めて検討する。
4.× 生物学的性と同一の性への恋愛感情をもつとはいえない。なぜなら、性同一性障害は自己の性に対する認識であるため。恋愛対象は性的趣向として、他者に向けられるものであり、恋愛対象が異性か同性かは関係ない。

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律

この法律によって、性同一性障害者のうち一定の要件を満たす者について、家庭裁判所の審判により、戸籍上の性別を変更することが認められるようになった。この法律では、性別変更の要件として5つを掲げて、これらをすべて満たす必要があると規定している。

(定義)
第二条 この法律において「性同一性障害者」とは、生物学的には性別が明らかであるにもかかわらず、心理的にはそれとは別の性別(以下「他の性別」という。)であるとの持続的な確信を持ち、かつ、自己を身体的及び社会的に他の性別に適合させようとする意思を有する者であって、そのことについてその診断を的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師の一般に認められている医学的知見に基づき行う診断が一致しているものをいう。

(性別の取扱いの変更の審判)
第三条 家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
一 十八歳以上であること。
二 現に婚姻をしていないこと。
三 現に未成年の子がいないこと。
四 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
五 その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること。

(※参考:「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」e-GOV法令検索様HPより)

 

 

 

 

55 ルービン,R.による母親役割獲得過程におけるロールプレイはどれか。

1.友人の出産体験を聞く。
2.人形で沐浴の練習をする。
3.購入する育児用品を考える。
4.看護師が行う児の抱き方を見る。

解答2

解説

Rubinの母親役割

ルービン,R.による母親役割獲得過程とは、①模倣、②ロールプレイ、③空想、④取り込みー投影ー拒絶、⑤悲嘆作業の5つの認識的操作を行いながら児との心理的絆形成が進むプロセスである。

①模倣:先輩母親や専門家の行動を母親役割のモデルとし、真似をすること。
②ロールプレイ:自分のお腹にいる子どもや他者の子どもを通して、母親たちが一般的に体験していることを自分も同じように体験すること。
③空想:自分の子どもや自分自身の状況を思い描くこと。
④取り込みー投影ー拒絶:空想した行動や態度などを母親役割のモデルとして自分に投影し、それを受け入れるか拒絶するかを吟味すること。
⑤悲嘆作業:母親としての自分とは立場が異なる過去の自分について思い起こし、妊娠によってできなくなったことや今度変化すると思われることについて考え、嫌だと思ったりあきらめたりすること。

母親として適応するための褥婦の心理的過程を3つの時期に分ける。
①受容期(自分自身の基本的欲求に意識が向けられる時期):産褥1~2日目(赤ちゃんを指先で触れたり、抱っこしたりすることで自分の子供だと認識する)
②保持期(自分の体のセルフケアができ、赤ちゃんの欲求に関心がうつり、子供との関係づくりが始まる時期):産褥3~10日間(喜びと同時に、母親としての能力があるかどうか不安を抱いたり、些細な周囲の言葉が傷つく)
③解放期(ママとしての課題を果たす時期):産褥10日~1か月(子供と母親がお互い理解し合っていくが、子供の要求が多すぎてママは応えきれずに罪悪感を抱き、自らの存在に対し否定的になることもある)
これらの3つの段階を通して、母親役割を獲得する。

1.× 友人の出産体験を聞くのは、「取り込みー投影ー拒絶」である。「取り込みー投影ー拒絶」とは、空想した行動や態度などを母親役割のモデルとして自分に投影し、それを受け入れるか拒絶するかを吟味することである。
2.〇 正しい。人形で沐浴の練習をするのは、ロールプレイである。ロールプレイとは、自分のお腹にいる子どもや他者の子どもを通して、母親たちが一般的に体験していることを自分も同じように体験することである。
3.× 購入する育児用品を考えるのは、空想である。空想とは、自分の子どもや自分自身の状況を思い描くことである。
4.× 看護師が行う児の抱き方を見るのは、模倣である。模倣とは、先輩母親や専門家の行動を母親役割のモデルとし、真似をすることである。

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