第97回(H26) 助産師国家試験 解説【午後16~20】

この記事には広告を含む場合があります。

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

 

16 助産師自身の健康を守るための感染予防対策はどれか。

1.正常新生児を抱きあげる前の手指消毒
2.感染症のない妊婦をケアする時のマスクの着用
3.分娩時に使用した器具を取り扱う際のゴム手袋の着用
4.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌〈MRSA〉保菌者をケアする時の予防衣の着用

解答

解説
1.× 正常新生児を抱きあげる前の手指消毒は、「助産師自身」ではなく正常新生児の健康を守るための感染予防対策である。新生児は免疫機能が未熟であり、正常新生児であっても感染予防は重要である。手指消毒を行うことで、新生児への感染リスクを防ぎ、助産師自身の健康も守ることができる。

2.× 感染症のない妊婦をケアする時のマスクの着用は、感染予防対策とはいえない。なぜなら、感染症がない妊婦に対して、通常はマスクの着用は必要ないため。ただし、妊婦や助産師が呼吸器感染症を疑う症状がある場合や、感染症が流行している場合には、マスクの着用が推奨される。通常のケア時にはマスクは必須ではない。

3.〇 正しい。分娩時に使用した器具を取り扱う際のゴム手袋の着用は、助産師自身の健康を守るための感染予防対策である。なぜなら、分娩時に使用した器具には、血液や体液が付着している可能性があり、助産師自身の感染のリスクがあるため。

4.× メチシリン耐性黄色ブドウ球菌〈MRSA〉保菌者をケアする時の予防衣の着用は「助産師自身」ではなく免疫が低下している疾患患者の健康を守るための感染予防対策である。なぜなら、黄色ブドウ球菌は非常にありふれた常在菌で、健常者でも髪の毛や鼻の粘膜、口腔内、傷口などによく付着しているため。高齢者や免疫力の弱い人が感染すると重症感染症(腸炎、肺炎、敗血症などの症状)がみられることがある。感染経路は感染者との接触や飛沫の吸入などである。

 

 

 

 

 

17 母体保護法第14条に基づき人工妊娠中絶の適応となるのはどれか。

1.妊婦が未成年である。
2.妊婦が強く希望している。
3.妊婦が妊娠中に風疹に罹患した。
4.胎児が染色体異常であると診断された。
5.重症妊娠悪阻により妊婦の全身状態が著しく悪化している。

解答

解説

人工妊娠中絶とは?

①妊娠初期(12週未満)と②妊娠12 週〜22 週未満の場合では中絶手術の方法やその後の手続きが異なる。人工妊娠中絶手術は母体保護法が適応される場合で、今回の妊娠を中断しなければならないときに行う手術である。

①妊娠初期(12週未満):子宮内容除去術として掻爬法(そうは法、内容をかきだす方法)または吸引法(器械で吸い出す方法)が行われる。子宮口をあらかじめ拡張した上で、ほとんどの場合は静脈麻酔をして、器械的に子宮の内容物を除去する方法である。通常は10 〜15分程度の手術で済み、痛みや出血も少ないため、体調などに問題がなければその日のうちに帰宅できる。

②妊娠12週〜22週未満:あらかじめ子宮口を開く処置を行なった後、子宮収縮剤で人工的に陣痛を起こし流産させる方法をとる。個人差はあるが、体に負担がかかるため通常は数日間の入院が必要になる。妊娠12週以後の中絶手術を受けた場合は役所に死産届を提出し、胎児の埋葬許可証をもらう必要がある。

中絶手術はほとんどの場合、健康保険の適応にはならない。妊娠12週以後の中絶手術の場合は手術料だけでなく入院費用もかかるため経済的な負担も大きくなる。したがって、中絶を選択せざるをえない場合は、できるだけ早く決断した方がいろいろな負担が少なくて済む。

母体保護法とは?

母体保護法とは、不妊手術及び人工妊娠中絶に関する堕胎罪の例外事項を定めること等により、母親の生命健康を保護することを目的とした法律である。1948年7月13日に公布された。

以下:第14条を一部引用する。

(医師の認定による人工妊娠中絶)
第十四条 都道府県の区域を単位として設立された公益社団法人たる医師会の指定する医師(以下「指定医師」という。)は、次の各号の一に該当する者に対して、本人及び配偶者の同意を得て、人工妊娠中絶を行うことができる。
一 妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの
二 暴行若しくは脅迫によつて又は抵抗若しくは拒絶することができない間に姦淫かんいんされて妊娠したもの
2 前項の同意は、配偶者が知れないとき若しくはその意思を表示することができないとき又は妊娠後に配偶者がなくなつたときには本人の同意だけで足りる。

(※一部引用:「母体保護法」e-GOV法令検索様HPより)

1.× 妊婦が未成年であることは、人工妊娠中絶の適応とはならない。年齢は該当しない。

2.× 妊婦が強く希望していることは、人工妊娠中絶の適応とはならない。妊婦の意思は該当しない。

3.× 妊婦が妊娠中に風疹に罹患したことは、人工妊娠中絶の適応とはならない。風疹の有無は該当しない。

4.× 胎児が染色体異常であると診断されたことは、人工妊娠中絶の適応とはならない。胎児の染色体異常は該当しない。

5.〇 正しい。重症妊娠悪阻により妊婦の全身状態が著しく悪化していることは、母体保護法第14条に基づき人工妊娠中絶の適応となる。これは、母体保護法第14条における「妊娠の継続又は分娩が身体的又は経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれのあるもの」に該当する。

妊娠悪阻とは?

妊娠悪阻とは、妊娠中にみられる極めて強い吐き気や激しい嘔吐のことである。通常の「つわり」がみられる女性とは異なり、妊娠悪阻の女性は体重が減少し、脱水を起こす。妊娠悪阻の重篤な合併症としてビタミンB1の欠乏から発症するウエルニッケ脳症があり、意識障害や小脳性運動失調などが出現し、50%以上で逆行性健忘、記銘力の低下、作話が特徴のコルサコフ症候群という後遺症が残る。 母体死亡に至る症例もあるため、慎重に管理する必要がある。悪心・嘔吐が強く、脱水、3kg以上の体重減少、飢餓によるケトアシドーシスをきたすもの、経口摂取が困難な時、尿ケトン体が陽性の場合は、輸液を行い水分と栄養、ビタミン類を補充する。

 

 

 

 

 

18 図の手技で出現する反射はどれか。

1.側弯反射
2.交叉性伸展反射
3.視性立ち直り反射
4.非対称性緊張性頸反射
5.Landau〈ランドー〉反射

解答

解説
1.〇 正しい。側弯反射(Galant反射、背反射)は、図の手技で出現する反射である。側弯反射(Galant反射、背反射)は、脊柱の外側に沿って上から下へこすると刺激側の背筋が収縮して側屈する。胎児期後期から生後2ヵ月までみられる。

2.× 交叉性伸展反射は、検者が一側下肢を伸展させ、同側の足底を刺激すると反対側の下肢が屈曲し、その後に刺激を与えている検者の手を払いのけるように伸展・交差する。胎児期後期から出現し、生後1~2ヵ月までに消失する。脊髄レベルである。

3.× 視性立ち直り反射とは、視覚刺激の誘発により、頭部の位置を正常に保持する反射のことで、例えば座位の場合、を座らせて左右に傾けると頭を垂直にしようとする。視性の刺激が立ち直りに関与する。腹臥位:3ヵ月、座位・立位:5~6ヵ月に出現し生涯継続する。

4.× 非対称性緊張性頸反射とは、背臥位にした子どもの顔を他動的に一方に回すと、頸部筋の固有感覚受容器の反応により、顔面側の上下肢が伸展し、後頭側の上下肢が屈曲する。生後4~6か月には消失する。

5.× Landau〈ランドー〉反射とは、乳児の腹部を検者の手掌で支えて水平にすると、頭を上げ体幹をまっすぐにし、さらに下肢を伸展する反応である。3つの頭部の立ち直り反応すべての効果が合わさった反応で、第1相:頸部、体幹軽度屈曲、四肢軽度屈曲。第2相:頸部水平、体幹軽度屈曲、四肢軽度屈曲。第3相:頸部伸展挙上、体幹伸展、四肢伸展傾向となる。第1相:0~6週、第2相:7週~3、4 ヵ月、第3相:6 ヵ月から1~2歳で統合される。つまり、Landau反射は、生後6か月ころに出現し、2歳ころに消失する中脳レベルの反射である。

立ち直り反射とは?

立ち直り反射とは、姿勢反射の一つで、姿勢を保持するときに働く機能系である。例えば、①頸の立ち直り反射や②視性立ち直り反射などがあげられる。頸筋性や視覚性のほかにも、迷路性、体性があげられる。

①頸の立ち直り反応とは、背臥位の子どもの頭を一方に向けると、頸筋群の固有感覚受容器が刺激されて、肩・体幹・腰部がその方向に丸太様に全体的に回転する。4~6 ヵ月に出現し、5歳までに消失する。

②視性立ち直り反射とは、視覚刺激の誘発により、頭部の位置を正常に保持する反射のことで、例えば座位の場合、を座らせて左右に傾けると頭を垂直にしようとする。視性の刺激が立ち直りに関与する。腹臥位:3ヵ月、座位・立位:5~6ヵ月に出現し生涯継続する。

 

 

 

 

 

19 新生児の疾病とリスク因子との組合せで正しいのはどれか。

1.先天性心疾患:羊水過多
2.先天性食道閉鎖:羊水過少
3.胎便関連性腸閉塞:過期妊娠
4.低カルシウム血症:妊娠糖尿病
5.呼吸窮迫症候群〈RDS〉:妊娠高血圧症候群

解答

解説
1.× 羊水過多は、「先天性心疾患」ではなく胎児奇形(例:消化管または尿路閉塞)、多胎妊娠、母体糖尿病などのリスクとなる。ちなみに、羊水過多とは、羊水量が800 mLを超える場合であり、母体の糖尿病や児が羊水をうまく飲めない消化管閉鎖などが原因となることが多い。診断方法は超音波検査によるamniotic fluid index(AFI)の計測であり、AFIの正常範囲は5~24cmであり、24cm以上は羊水過多を意味する。また、先天性心疾患のリスクは、多数の遺伝子と生活習慣などの環境要因が加わることで発症する。妊娠中の飲酒や喫煙、薬の服用、風疹ウイルス感染などでも発症リスクが高まる可能性が指摘されている。

2.× 先天性食道閉鎖は、羊水「過少」ではなく過多によるリスクである。これは、食道閉鎖があると、胎児が羊水を飲み込めず、羊水が過剰に溜まるため羊水過多が起こる。ちなみに、羊水過少とは、AFI5以下をいう。AFI(amniotic fluid index)とは、子宮の各4分の1について羊水深度を垂直に計測した値の合計である。羊水過少を起こす病態は、子宮の循環が悪くなる母体側の要因として、妊娠高血圧症候群(胎盤機能不全)、膠原病、血栓症などである。

3.× 胎便関連性腸閉塞は、過期妊娠ではなく超低出生体重児によるリスクである。なぜなら、腸管の機能が未熟なため。胎便関連性腸閉塞とは、胎便が小腸や大腸につまり、腸が閉塞した状態になる病態である。1000g以下の超低出生体重児に多く発症し、子宮内胎児発育遅延の児にも起こりやすい。腸管の機能が未熟なために胎便をおくりだすことができず、腸管内に停滞する時間が長くなって胎便から水分が吸収され、さらに粘稠度が増して詰まってしまうことが原因で起こる。症状としては,胆汁性嘔吐,腹部膨隆,出生後数日間の胎便の排泄不全などがある。ちなみに、過期妊娠とは、妊娠42週以降も妊娠が続く状態である。妊娠が長引きすぎると胎盤が胎児に十分な栄養を届け続けることができなくなり、胎児機能不全を起こす可能性がある。この状態を過熟と呼ぶ。

4.〇 正しい。妊娠糖尿病は、「低カルシウム血症」のリスクとなる。なぜなら、糖尿病(または副甲状腺機能亢進症)の母親から産まれた児(妊娠中にイオン化カルシウム濃度が正常より高くなるため)に低カルシウム血症を引き起こすため。新生児低カルシウム血症とは、大きく①早発型(生後2日以内)、②遅発型(生後3日以降:ごくまれ)に分けられる。①早発型低カルシウム血症の徴候として、筋緊張低下、頻脈、頻呼吸、無呼吸、哺乳不良、テタニー、痙攣などがある。早発型低カルシウム血症の危険因子として,未熟性,在胎不当過小児(SGA児),母体糖尿病,周産期仮死などが挙げられる(※引用:「新生児低カルシウム血症」MSDマニュアルプロフェッショナル版様HPより)。

5.× 妊娠高血圧症候群を呈している場合、呼吸窮迫症候群はリスクの減少に寄与する。呼吸窮迫症候群のリスクは、早産や糖尿病母体。分娩発来前の帝王切開、双胎(第2子)仮死男児である。一方、呼吸窮迫症候群のリスクの減少要因は、母体のステロイド投与、妊娠高血圧症候群などである。ちなみに、呼吸窮迫症候群とは、早産児にみられる呼吸疾患で、サーファクタントという肺胞を覆う物質が産生されないか不足している(肺表面活性物質の欠乏)ために、肺胞が拡張した状態を保てないことで起こる。早産児や妊娠中に母親が糖尿病にかかった新生児は、呼吸窮迫症候群を発症するリスクが高くなる。肺サーファクタントとは、肺胞の空気が入る側へと分泌されている界面活性剤である。なお、肺サーファクタントは単一の成分ではなく、リン脂質を主成分とした混合物である。肺胞内の水分の表面張力を減少させることで、肺胞がつぶれてしまうのを防いでいる。持続性気道陽圧法(Continuous Positive Airway Pressur:CPAP:シーパップ)とは、気道内圧を呼吸相全般にわたって常に一定の陽圧に(大気圧よりも高く)保ち、換気は機械的な換気補助なしに患者の自発呼吸にまかせて行う換気様式のことである。機械で圧力をかけた空気を鼻から気道(空気の通り道)に送り込み、気道を広げて睡眠中の無呼吸を防止できる。また、妊娠高血圧症候群とは、妊娠時に高血圧(収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上)を発症した場合をいう。妊娠前から高血圧を認める場合、もしくは妊娠20週までに高血圧を認める場合を高血圧合併妊娠という。妊娠20週以降に高血圧のみ発症する場合は妊娠高血圧症、高血圧と蛋白尿を認める場合は妊娠高血圧腎症と分類される。

胎児機能不全とは?

胎児機能不全とは、お産の途中でさまざまな原因によって胎児が低酸素状態になることをいう。胎児仮死、胎児ジストレスとも呼ぶ。原因としては母体の妊娠高血圧症候群、胎盤早期剥離、臍帯の圧迫などである。新生児蘇生法ガイドライン(NCPR)に従って蘇生初期処置を行い、蘇生終了後、新生児の健康に不安がある場合、新生児管理に関する十分な知識と経験がある医師に相談する。

 

 

 

 

 

20 妊娠41週0日の初産婦。妊娠経過は順調であった。子宮口2cm開大、展退度70%であるが分娩は開始していない。「陣痛が来るようにできることはしてみたい」と話す。
 分娩を誘発する効果があるのはどれか。

1.乳頭を刺激する。
2.横になって休養する。
3.グリセリン浣腸をする。
4.下腹部をマッサージする。
5.高エネルギーの食事を摂取する。

解答

解説

本症例のポイント

・妊娠41週0日の初産婦(妊娠経過は順調)。
・子宮口2cm開大、展退度70%。
分娩は開始していない
・「陣痛が来るようにできることはしてみたい」と。
→この時期の陣痛誘発の支援をおさえておこう。

1.〇 正しい。乳頭を刺激する。なぜなら、本症例の妊娠経過は順調で、「陣痛が来るようにできることはしてみたい」と言っているため。「エビデンスに基づく助産ガイドライン-妊娠期・分娩期・産褥期2020」P82 において、「乳房/乳頭への刺激は、ローリスク妊婦においては、介入から72時間以内に出産する女性を有意に増加させ、また分娩後出血を減少させる効果が認められている。一方で、ハイリスク妊婦で頸管が熟化していない場合には、72時間以内に出産に至る女性の数を減少させる可能性がある」と記載されている。

2.× 横になって休養する優先度は低い。なぜなら、横になることは、分娩を促進する効果はみられないため。疲労が著しい場合は、休養をとるよう勧めることもある。

3.× グリセリン浣腸をする必要はない。なぜなら、グリセリンとは、排便を促す目的のために浣腸液であるため。分娩を促進する効果はみられない。グリセリン浣腸とは、直腸内に50%グリセリン液を注入して排便を促す処置のことである。術前処置または便秘の治療として、直腸内容物を除去するために行われる。浣腸は一般的な処置であるが、腸管穿孔や溶血、血圧低下などさまざまなリスクがある。

4.× 下腹部をマッサージする優先度は低い。なぜなら、下腹部のマッサージは、リラクゼーション痛みの緩和に役立つものであるため。分娩を促進する効果はみられない。

5.× 高エネルギーの食事を摂取する優先度は低い。なぜなら、分娩誘発の効果はみられないため。分娩のための体力をつけるために食事を推奨することはある。

分娩期

【分娩第1期】
陣痛の開始から、子宮口(子宮頸部)が完全に開く(全開大、約10cm)までの期間を指す。

・分娩第1期
「①潜伏期」と「②活動期」に分けられる。
①潜伏期:陣痛がリズミカルになり、子宮頸部が薄くなり4cmほど開いた状態まで(初産婦で12時間・経産婦で5時間程度かかる)の時期を示す。
②活動期:子宮口が4センチから10cm(全開)に開き、胎児の一部が胎盤内に降りてくる(初産婦で3時間・経産婦で2時間程度かかる)。いきみたくなって来る段階である。

・分娩第2期:赤ちゃんが産道を通っている間
子宮口が完全に開大してから胎児を娩出するまでの期間を指す。この段階は初産婦では平均45~60分間、経産婦では15~30分間続く。

・分娩第3期:「後産」の時期
胎児を娩出してから胎盤を娩出するまでの期間である。この段階は数分間で終わるのが普通であるが、最大30分ほど続くこともある。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)