第97回(H26) 助産師国家試験 解説【午前16~20】

この記事には広告を含む場合があります。

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

 

16 出産後の母親の心理的特徴について適切なのはどれか。

1.産褥早期に一過性に情緒不安定となる。
2.授乳行動に対する不安は軽減する傾向にある。
3.産褥5~10日は依存的な態度を示す時期である。
4.出産について想起できるのは産褥5日以降である。

解答

解説
1.〇 正しい。産褥早期に一過性に情緒不安定となる。これをマタニティブルースという。マタニティーブルーズとは、分娩数日後から2週程度の間に多くの褥婦(約30%)が経験し、原因は産後のホルモンの変動である。症状は、涙もろさ、抑うつ気分、不安、緊張、集中力の低下、焦燥感などの精神症状と、頭痛、疲労感、食欲不振などの身体症状がみられる。それらの症状が2週間以上持続する場合には産後うつ病を疑う。

2.× 授乳行動に対する不安は、「軽減」ではなく増大する傾向にある。これを不快性射乳反射という。不快性射乳反射とは、 母乳育児によって起きる射入反射の30〜90秒前に不安や気分不快、胃の不快感、緊張、イライラなどの否定的感情が現れることをいう。射乳反射の度に不快症状は繰り返されるため、授乳自体が苦痛に感じる人もいる。

3.× 産褥5~10日は、「依存的な態度」ではなく子供との関係づくりを示す時期である。Rubinによる母親への適応過程では、保持期に該当する。この時期は、自分の体のセルフケアができ、赤ちゃんの欲求に関心がうつり、子供との関係づくりが始まる時期である。産褥3~10日間(喜びと同時に、母親としての能力があるかどうか不安を抱いたり、些細な周囲の言葉が傷つく)。

4.× 出産について想起できるのは、「産褥5日以降」ではなく出産直後である。想起とは、思い出すことである。前にあった事を、あとになって思い起こすこと。

Rubinの母親役割

ルービン,R.による母親役割獲得過程とは、①模倣、②ロールプレイ、③空想、④取り込みー投影ー拒絶、⑤悲嘆作業の5つの認識的操作を行いながら児との心理的絆形成が進むプロセスである。

①模倣:先輩母親や専門家の行動を母親役割のモデルとし、真似をすること。
②ロールプレイ:自分のお腹にいる子どもや他者の子どもを通して、母親たちが一般的に体験していることを自分も同じように体験すること。
③空想:自分の子どもや自分自身の状況を思い描くこと。
④取り込みー投影ー拒絶:空想した行動や態度などを母親役割のモデルとして自分に投影し、それを受け入れるか拒絶するかを吟味すること。
⑤悲嘆作業:母親としての自分とは立場が異なる過去の自分について思い起こし、妊娠によってできなくなったことや今度変化すると思われることについて考え、嫌だと思ったりあきらめたりすること。

母親として適応するための褥婦の心理的過程を3つの時期に分ける。
①受容期(自分自身の基本的欲求に意識が向けられる時期):産褥1~2日目(赤ちゃんを指先で触れたり、抱っこしたりすることで自分の子供だと認識する)
②保持期(自分の体のセルフケアができ、赤ちゃんの欲求に関心がうつり、子供との関係づくりが始まる時期):産褥3~10日間(喜びと同時に、母親としての能力があるかどうか不安を抱いたり、些細な周囲の言葉が傷つく)
③解放期(ママとしての課題を果たす時期):産褥10日~1か月(子供と母親がお互い理解し合っていきますが、子供の要求が多すぎてママは応えきれずに罪悪感を抱き、自らの存在に対し否定的になることもある)
これらの3つの段階を通して、母親役割を獲得する。

 

 

 

 

 

17 産褥1日、会陰裂傷第4度の褥婦から、縫合部にしみるようで怖くて排尿できないと訴えがあった。
 適切な対応はどれか。

1.膀胱留置カテーテルを留置する。
2.水分摂取量を減らすよう指導する。
3.臥床したまま便器を挿入して排尿させる。
4.縫合部に問題がないことを褥婦と一緒に確認する。

解答

解説

本症例のポイント

・産褥1日:褥婦(会陰裂傷第4度
・「縫合部にしみるようで怖くて排尿できない」
→会陰裂傷の第4度は、直腸まで損傷しているため、その程度を確認して直腸粘膜の縫合を行う。会陰裂傷は適切な治療が行われないと、肛門括約筋機能不全、便失禁のほか、将来的に子宮下垂や子宮脱の原因となる。また縫合不全や感染を起こすと瘻孔ろうこう(穴・欠損)を形成することがあり、炎症が治まってから再手術が必要になる場合がある。
【会陰裂傷の重症度】
第1度:会陰の皮膚、腟壁粘膜のみに限局し、筋層には達しない裂傷。
第2度:会陰筋層まで及ぶが、肛門括約筋には達しない裂傷。
第3度:肛門括約筋や腟直腸中隔に達する裂傷。
第4度:第3度裂傷に加え、肛門粘膜や直腸粘膜の損傷を伴う裂傷。

1.× 膀胱留置カテーテルを留置する必要はない。膀胱留置カテーテルの適応は、主に、内服や手術で解除できない尿道閉塞、皮膚に重篤な症状を引き起こす尿失禁、神経因性膀胱や尿閉の一部であるため。ちなみに、膀胱留置カテーテルとは、尿道に留置する方法である。長期の留置により、膀胱が膨らみにくくなるため、他の方法が選択できるのであれば、長期留置は避けるべきである。

2.× 水分摂取量を減らすよう指導する必要はない。なぜなら、脱水のリスクや適切な母乳の分泌に支障をきたす恐れがあるため。

3.× 臥床したまま便器を挿入して排尿させる必要はない。なぜなら、臥床したままの排尿により、「縫合部にしみるようで怖くて排尿できない」という不安を直接的に軽減することにはならないため。むしろ、姿勢が不自然になるため、排尿が困難になる可能性もある。

4.〇 正しい。縫合部に問題がないことを褥婦と一緒に確認する。なぜなら、縫合部に異常がないことを褥婦と一緒に確認することで、排尿にあたり安心させることが期待できるため。

 

 

 

 

 

18 32歳の初産婦。妊娠40週4日に経腟分娩で2840gの男児を出産した。30歳で甲状腺機能亢進症を発症し、プロピオチオウラシルを内服している。妊娠中の血中甲状腺ホルモン値は正常範囲内であった。
 授乳に関する説明で正しいのはどれか。

1.「お薬を減らせば授乳できます」
2.「昆布を多めに食べて授乳しましょう」
3.「特に授乳を制限する必要はありません」
4.「お薬を飲んでいるので授乳はやめてください」

解答

解説

本症例のポイント

・32歳の初産婦(妊娠40週4日:2840gの男児を出産)。
・30歳:甲状腺機能亢進症(プロピオチオウラシルを内服)。
・妊娠中の血中甲状腺ホルモン値:正常範囲内。
→甲状腺機能亢進症に対する内服薬についておさえておこう。妊娠初期のバセドウ病治療に主に使われている内服薬:チアマゾール」は妊娠初期には内服することができない。この場合は、「プロピルチオウラシル」を使用する。授乳にあたって、一般的に、プロピルチオウラシルは、乳汁中への移行は極めて少なく授乳は問題ないとされている。一方、チアマゾールは、乳汁中への移行がみられるため、主治医と相談しプロピルチオウラシルへの変更が望ましい。

1.× 「お薬を減らせば授乳できます」と伝える必要はない。プロピルチオウラシルは、乳汁中への移行は極めて少なく授乳は問題ないとされいる。

2.× 「昆布を多めに食べて授乳しましょう」と伝える必要はない。むしろ、昆布にはヨウ素が多く含まれておりが、甲状腺機能亢進症の患者にとって過剰なヨウ素摂取は避けるべきである。特に授乳期では、過剰なヨウ素摂取が乳児に影響を与える可能性もある。

3.〇 正しい。「特に授乳を制限する必要はありません」と伝える。なぜなら、授乳にあたって、一般的に、プロピルチオウラシルは、乳汁中への移行は極めて少なく授乳は問題ないとされているため。一方、チアマゾールは、乳汁中への移行がみられるため、主治医と相談しプロピルチオウラシルへの変更が望ましい。

4.× 「お薬を飲んでいるので授乳はやめてください」と伝える必要はない。なぜなら、授乳にあたって、一般的に、プロピルチオウラシルは、乳汁中への移行は極めて少なく授乳は問題ないとされているため。一方、チアマゾールは、乳汁中への移行がみられるため、主治医と相談しプロピルチオウラシルへの変更が望ましい。

甲状腺機能亢進症とは?

甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の症状として、発汗や食欲亢進、体重減少、下痢、振戦、メルセブルグ3徴(眼球突出、甲状腺腫、頻脈)がみられる。放射線性ヨウ素内用療法は、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)や甲状腺がんに対して行われる治療のひとつである。甲状腺機能亢進症では、放射性ヨウ素から放出されるベーター線で正常な甲状腺細胞を破壊し、甲状腺機能亢進症を改善させる。

【治療後1週間の注意事項】
・不要な放射性ヨウ素を早く体外に出すため十分に水分を摂る。
・排泄後、2度水を流す。尿の飛散による汚染を軽減させるため便座に座る。
・汗に少量の放射性ヨウ素が出るから入浴は最後に入る。
・可能ならば1人で寝る。
・唾液や体液にごく少量の放射性ヨウ素が出るからキスやセックスを避ける。
・子供との親密に接触(距離1m以内)すること、近くで長時間過ごすこと(添い寝など)などは避ける。

 

 

 

 

 

19 不規則抗体による新生児溶血性疾患について正しいのはどれか。

1.生後10日以降に発症する。
2.末梢血に有核赤血球が多数出現する。
3.直接ビリルビン優位の高ビリルビン血症となる。
4.RhD抗原が母親で陽性、児で陰性の組合せが多い。

解答

解説

新生児溶血性疾患とは?

新生児溶血性疾患とは、母体の抗体によって赤血球が分解または破壊される病気です。溶血とは、赤血球が破壊される現象です。
・この病気は、母体の血液が胎児の血液に適合していない場合に起こることがあります。
・診断は母親と場合により父親の血液検査の結果に基づいて下されます。
・新生児がこの病気にかかるのを予防するために、ときに妊娠中の母親に免疫グロブリンが投与されることがあります。
・治療法としては、分娩前の胎児への輸血や、分娩後の新生児への輸血などがあります。
・溶血性疾患がある分娩後の新生児は、むくんでいたり、皮膚が青ざめていたり、黄色かったりすることがある(黄疸)ほか、肝臓や脾臓が大きかったり、貧血や体液の貯留がみられることがあります。

(※一部引用:「新生児溶血性疾患」MSD家庭版より)

1.× 「日齢10以降」ではなく胎児もしくは出生後すぐに発症する。胎盤から移行した抗体が胎児の赤血球と結合すると、胎児の赤血球が壊れ、胎児は貧血となる。貧血が高度になれば心不全、胎児水腫などを引き起こし、胎内死亡に至ることもある。また出生後には黄疸が強くなり、脳性麻痺や死亡の原因(核黄疸)となることもある。

2.〇 正しい。末梢血に有核赤血球(網赤血球)が多数出現する。なぜなら、胎児や新生児の赤血球が母親からの抗体によって破壊されるため。したがって、赤血球を補うために骨髄が活発に働いた結果、末梢血に有核赤血球(通常は骨髄にのみ存在する)が多数出現する。ちなみに、網赤血球とは、成熟した赤血球のひとつ前の段階の未熟な赤血球のことである。貧血のタイプにより高値・低値を示す。溶血性貧血では、骨髄での赤血球造血が亢進し網赤血球は増加する。

3.× 「直接」ではなく間接ビリルビン優位の高ビリルビン血症となる。間接ビリルビンが上昇する代表的な疾患は溶血性貧血であり、溶血により多くの赤血球が壊れ、ビリルビンが肝臓の処理能力を超えて過剰に増加する。ちなみに、ビリルビンとは、赤血球が壊れたときにできる黄色い色素のことである。

4.× RhD抗原が母親で「陽性」ではなく陰性、児で「陰性」ではなく陽性の組合せが多い。この場合、母体がRhD抗原に対する抗体を産生し、これが胎児のRhD陽性の赤血球を攻撃することで溶血が生じる。ちなみに、Rh不適合妊娠とは、お母さんのRh式血液型がおなかのなかの赤ちゃんと異なる場合に起こる。血液細胞(赤血球)の表面に、RhD抗原という物質を持っている人がRh陽性(プラス)、持たない人がRh陰性(マイナス)になる。赤ちゃんは、お母さんとお父さんの遺伝子を半分ずつ引継ぎますので、お母さんがRh陰性でも、お父さんがRh陽性であれば、Rh陽性の赤ちゃんが生まれてくる。日本人の場合、90%以上の赤ちゃんがRh陽性になる。Rh陽性の赤ちゃんを妊娠したRh陰性のお母さんは、妊娠中、特別な注意が必要となる。

ABO血液型不適合とは?

その他の血液型不適合が、同様の(しかし、より軽症の)溶血性疾患を引き起こすことがあります。例えば、母親の血液型がOで胎児の血液型がAかBである場合、母親の胎内では抗Aまたは抗Bの抗体が作られます。すると、その抗体が大量に胎盤を通過し、胎児の赤血球に結合してそれらを破壊します(溶血)。その結果、軽度の貧血と高ビリルビン血症が起きることがあります。このタイプの血液型不適合を、ABO血液型不適合といいます。ABO血液型不適合は、たいていはRh式血液型不適合と比べて軽い貧血を起こし、Rh式血液型不適合とは違ってその後妊娠するたびに軽くなっていくのが通常です。

(※一部引用:「新生児溶血性疾患」MSD家庭版より)

 

 

 

 

 

20 在胎39週6日、助産所で出生した児。出生時体重3800g。母親の妊娠経過は順調であった。生後2時間に振戦があり、血糖値を測定したところ35mg/dlであったため、糖水を飲ませた。
 次に行う対応で適切なのはどれか。

1.経過観察する。
2.次回授乳からは人工乳を補足する。
3.60分後に血糖値を測定する。
4.直ちに搬送する。

解答

解説

本症例のポイント

・在胎39週6日:出生した児(出生時体重3800g)。
・母親の妊娠経過:順調。
・生後2時間:振戦、血糖値:35mg/dl
糖水を飲ませた。
→本児は、heavy-for-dates児(HFD)に該当する。heavy-for-dates児とは、在胎週数に比べて出生体重が大きい児のことをいう。在胎週数に対して体重が大きすぎる新生児を指します。日本では、在胎40週で男児の平均出生体重は約3300gである。本男児の場合、在胎39週6日で体重が3800gでありため、在胎週数に対して体重が重いと考えられる。

→「助産業務ガイドライン 2019  P30」において、LFD児・HFD児の「緊急に搬送すべき新生児の状況(助産所)」をおさえておこう。

(※引用:「助産業務ガイドライン 2019  P30」)

1.× 経過観察する必要はない。なぜなら、「助産業務ガイドライン 2019  P30」において、LFD児・HFD児の「緊急に搬送すべき新生児の状況(助産所)」に該当するため。

2.× 次回授乳からは人工乳を補足する必要はない。なぜなら、人工乳の適応には該当しないため。人工乳とは、何らかの理由(アトピー性皮膚炎や乳頭裂傷など)で母乳が与えられない場合、調製粉乳による人工乳が使用されることが多い。現在では母乳の代用品としての調製粉乳の品質も向上し、母乳の場合と比べても大差なく育児ができるようになっている。

3.× 「60分後」ではなく30分後に血糖値を測定する。血糖管理フローチャートに則り評価するため(下参照)。

4.〇 正しい。直ちに搬送する。なぜなら、「助産業務ガイドライン 2019  P30」において、LFD児・HFD児の「緊急に搬送すべき新生児の状況(助産所)」に該当するため。

(※引用:「助産業務ガイドライン 2019  P39」)

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)