第111回(R4) 看護師国家試験 解説【午後46~50】

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46 ヒト免疫不全ウイルス<HIV>感染症で正しいのはどれか。

1.空気感染する。
2.無症候期がある。
3.DNAウイルスによる。
4.血液中のBリンパ球に感染する。

解答2

解説

ヒト免疫不全ウイルス感染症とは?

ヒト免疫不全ウイルスは、人の免疫細胞に感染してこれを破壊し、最終的に後天性免疫不全症候群を発症させるウイルスである。ヒト免疫不全ウイルス〈HIV〉感染症に対する治療法は飛躍的に進歩しており早期に発見することでエイズの発症を予防できるようになってきている。しかし、治療を受けずに自然経過した場合、免疫力の低下により様々な障害が発現する。

1.× 空気感染しない。ヒト免疫不全ウイルス<HIV>の主な感染経路は、①性的接触、②血液感染、③母子感染である。母子感染防止の目的として、妊婦に抗HIV薬を投与する。児へも予防的に抗HIV薬の投与を行う。
2.〇 正しい。無症候期がある。無症候期とは、平均10年くらいで、無症状だが、他人にウイルスをうつす危険性があるこの時期のことをいう。活発に増殖するHIVとそれを抑え込もうとする免疫系が拮抗し、血中ウイルス量は比較的安定した値に保たれている状態である。この期間にある感染者を「無症候キャリア」という。ヒト免疫不全ウイルスは、感染して1~2週間後に、かぜに似た急性感染症状が出ることもあるが、無症状の人がほとんどである。この時期、HIVは急激に増殖するが、まだ抗体ができていないため、検査をしても陽性反応は出ない。感染して6~8週間後に、血液中にHIVに対する抗体ができるが、ほとんどが無症状で、抗体検査をしないと感染しているかどうか判断できない。
3.× 「DNAウイルス」ではなくヒト免疫不全ウイルス(RNAウイルス)による。ウイルスは、他生物の細胞を利用して自己を複製させる、極微小な感染性の構造体で、タンパク質の殻とその内部に入っている核酸からなる。ウイルスは、①DNAウイルスと②RNAウイルスに分けられる。①DNAウイルスとは、細胞のDNA合成に関わる酵素を利用しゲノムを複製する。①RNAウイルスとは、ウイルスRNAを鋳型として細胞質で作られ、且つ、機能する。従って、RNAウイルスは原則として細胞質で増殖する。ちなみに、DNAウイルスにはアデノやヘルペスなどが分類される。
4.× 血液中の「Bリンパ球」ではなくヘルパーT細胞に感染する。その後、ウイルスRNAを鋳型として細胞質で作られ、且つ、機能する。従って、RNAウイルスは原則として細胞質で増殖する。

感染経路と感染症

感染には、①接触感染、②空気感染、③飛沫感染がある。

①接触感染(例:流行性角結膜炎、疥癬、ノロウイルス感染症など)
(1)直接接触感染:感染者の皮膚粘膜との直接接触による伝播・感染する。
(2)間接接触感染:感染者の微生物で汚染された衣類、周囲の器物、環境などとの接触による伝播・感染する。

②飛沫感染(例:風疹、流行性耳下腺炎、 インフルエンザ、マイコプラズマ、百日咳など)
咳やくしゃみなどに伴って発生する飛沫(粒径5μm以上の粒子)が経気道的にヒトの粘膜に付着し感染する。飛散する範囲は1m以内であることが特徴。

③空気感染(例:結核、水痘、麻疹など)
飛沫核 (粒径5μm未満の粒子に付着した微生物)が長期間空中を浮遊し、これを吸い込むことで感染が伝播・感染する。

(※参考:「医療施設等における感染対策ガイドライン」厚生労働省様HPより)

 

 

 

 

 

47 鼓室形成術を受けた患者の退院指導の内容で正しいのはどれか。

1.水泳は可能である。
2.耳垢はこまめに除去する。
3.鼻を強くかむことを禁じる。
4.エレベーターの使用を勧める。

解答3

解説

鼓室形成術とは?

鼓室形成術とは、中耳に発生した問題を外科的に取り除き、さらに鼓室、すなわち、中耳の部分の空洞とその機能を修復する手術のことである。

【退院時指導と注意点】
・術後、創部にガーゼがあたっている間は、ご自身のフェイスタオルをよく絞り顔を拭く。
・規則的な生活をする(風邪を引くと耳に炎症を起こすため)
・洗髪時:耳の中に水が入らないようにイヤーキャップ、綿球などを使用する。
~控えること~
・鼻かみや鼻すすり、重労働、激しい運動、耳掃除水泳、登山、飛行機(鼓膜に負担をかけ、痛みを増す原因になる)
・飲酒(内耳の水分が増えるため)

1.× 水泳は医者の許可が下りるまで行えない。なぜなら、耳の中に水が入り、炎症感染を助長するため。したがって、洗髪時は、耳の中に水が入らないようにイヤーキャップ、綿球などを使用するよう指導する。
2.× 耳垢は「こまめに除去する」のではなく、医師に行ってもらう。なぜなら、鼓膜を傷つけ、炎症感染を助長するため。
3.〇 正しい。鼻を強くかむことを禁じる。なぜなら、鼓膜に負担をかけ、痛みを増す原因になるため。鼻かみ以外にも、鼻すすり、重労働、激しい運動、耳掃除、水泳、登山、飛行機は控える必要がある。
4.× あえてエレベーターの使用を勧める必要はない。むしろ急激な気圧の変化に対応できないことが多く、めまいや嘔気の助長につながりかねない。したがって、高低差が大きいエレベーターや階段昇降を含め登山、飛行機は控える必要がある。

 

 

 

 

48 下腿の介達牽引を受けている患者が足背のしびれを訴えている。
 看護師が確認すべき項目で優先度が高いのはどれか。

1.下肢の肢位
2.牽引の方向
3.重錘の重さ
4.弾性包帯のずれ

解答1

解説

牽引とは?

 牽引とは、持続的に引っ張って負荷をかけることで、骨折を整復する治療法である。骨折により転位している骨を持続的に牽引することで、転位を治し整復する。①直達牽引と②介達牽引の2種類がある。①直達牽引とは、骨に直接牽引力を働かせる方法をという。②介達牽引とは、骨に直接牽引力を加えず、皮膚や筋肉を介して骨に力を加える牽引法である。皮膚に絆創膏や包帯を巻いて牽引を行う。ちなみに、介達牽引中の合併症として、①腓骨神経麻痺、②安静による認知能力の低下、③褥瘡、皮膚の傷などの皮膚科分野のトラブル、④関節の拘縮と筋力の低下、⑤循環障害などが挙げられる。

1.〇 正しい。下肢の肢位は、看護師が確認すべき項目で優先度が高い。介達牽引中の合併症として、①腓骨神経麻痺、②安静による認知能力の低下、③褥瘡、皮膚の傷などの皮膚科分野のトラブル、④関節の拘縮と筋力の低下、⑤循環障害などが挙げられる。本症例は、足背のしびれを訴えていることから、介達牽引中の合併症である①腓骨神経麻痺が生じていると考えられる。下肢の肢位を観察し、腓骨神経が圧迫していないか確認する。
2.× 牽引の方向
3.× 重錘の重さ
4.× 弾性包帯のずれ

 

 

 

 

 

49 前立腺癌について正しいのはどれか。

1.肺転移の頻度は低い。
2.血清PSA値が高値となる。
3.患者の多くは60歳未満である。
4.テストステロン補充療法が行われる。

解答2

解説

前立腺癌とは?

前立腺がんとは、男性の膀胱の下にある前立腺という臓器に発生するがんのことである。早期は、多くの場合、自覚症状がないが、尿が出にくい、排尿の回数が多いなどの症状が出ることもある。進行すると、排尿の症状に加えて、血尿や、腰痛などの骨への転移による痛みがみられることがある。治療ではがんの状態や年齢などに応じて、手術や放射線治療、薬物療法を組み合わせて行う。検査の結果、治療をしないでも問題ない場合には、治療をせずに経過観察で様子を見ることもある。

1.× 肺転移の頻度は、「低い」とはいえない。約4〜5割ほどみられる。骨転移についで多い。
2.〇 正しい。血清PSA値が高値となる。PSA(Prostate Specific Antigen)とは、前立腺特異抗原で、前立腺で作られるタンパク質である。採血で測定し、前立腺がんの腫瘍マーカーとして用いられる。PSAの基準値は、0~4ng/mLとされている。4~10ng/mLは、25~40%の割合でがんが発見され、100ng/mLを超える場合には前立腺がんが強く疑われ、転移も疑われる。
3.× 患者の多くは、「60歳未満」ではなく60歳以上である。80歳以上の半数以上に潜在的な前立腺がんが隠れているとされている。
4.× テストステロン補充療法が行われるのは、「前立腺がん」ではなく男性更年期障害(LOH症候群:加齢性腺機能低下症)である。前立腺肥大症やがんのない方が適応となる。ちなみに、前立腺がんの治療では、がんの状態や年齢などに応じて、手術や放射線治療、薬物療法を組み合わせて行う。薬物療法は、テストステロンの産生や作用を抑制する治療が行われる。

 

 

 

 

50 乳癌の患者に対する抗エストロゲン薬の副作用はどれか。

1.低血糖
2.ほてり
3.肺線維症
4.末梢神経障害

解答2

解説

乳がんと抗エストロゲン薬について

抗エストロゲン薬とは、乳がん組織において、エストロゲンの作用を阻害する抗エストロゲン作用により乳がんを治療する薬である。乳がんとは、乳腺や乳管にできたがんであり、乳がんの発生や成長には女性ホルモンのエストロゲンが関与する。乳がん細胞にはエストロゲン受容体というものがあり、この受容体にエストロゲンが作用し乳がんが進行しやすくなる。

【副作用や注意点】
①血管系症状:ほてりなどがあらわれる場合がある。
②生殖器症状:性器出血などがあらわれる場合がある。
③消化器症状:吐き気、食欲不振、下痢、腹痛などがあらわれる場合がある。
④肝機能障害:頻度は稀である。
⑤血栓梗塞症:頻度は非常に稀である。

(※参考:「抗エストロゲン薬の解説」日経メディカル様HPより)

1.4.× 低血糖/末梢神経障害は起こりにくい。ちなみに、低血糖症状は、①自律神経症状と②中枢神経症状に分けられる。①自律神経症状は、冷感・顔面蒼白・頻脈・動悸・発汗・手の震え・空腹感などである。②中枢神経症状は、頭痛・集中力低下・視力低下・痙攣・昏睡などである。
2.〇 正しい。ほてりは、乳癌の患者に対する抗エストロゲン薬の副作用である。
3.× 肺線維症は起こりにくい。肺線維症とは、肺胞の周りの間質の壁が炎症により厚くなり、線維化している状態のこと。原因としては、職業上の粉塵吸入やペット飼育などの住環境、薬剤や健康食品(薬剤性肺障害)、関節リウマチ他の膠原病などさまざまなものが考えられる。

更年期障害とは?

更年期障害とは、更年期に出現する器質的な変化に起因しない多彩な症状によって、日常生活に支障をきたす病態と定義される。更年期症状は大きく、①自律神経失調症状、②精神神経症状、③その他に分けられるが、各症状は重複して生じることが多い。治療の一つに、ホルモン補充療法(HRT)があげられる。

ホルモン補充療法とは、エストロゲン(卵胞ホルモン)を補うことで、更年期障害を改善する治療法である。ほてり、のぼせ、発汗などといった代表的な症状に高い効果を示す。禁忌として、エストロゲン依存性悪性腫瘍(子宮内膜癌、乳癌)またその疑いのあるもの、重症肝機能障害、血栓性疾患などがあげられる。

 

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