第99回(H28) 助産師国家試験 解説【午前16~20】

この記事には広告を含む場合があります。

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

 

16 産科病棟における管理について適切なのはどれか。

1.管理者は助産師でなければならない。
2.助産師の配置数は年間分娩数によって決められている。
3.ハイリスク妊娠管理加算は算定できる日数に制限がある。
4.総合周産期医療特定集中治療室管理料の施設基準では入院患者5人に助産師1人の勤務が必要である。

解答

解説

助産所について

助産所について、「医療法」に記載されている。ちなみに、医療法とは、病院、診療所、助産院の開設、管理、整備の方法などを定める日本の法律である。①医療を受けるものの利益と保護、②良好かつ適切な医療を効率的に提供する体制確保を主目的としている。

助産所の管理(医療法第11条、第12条、第15条第2項)
・助産所の開設者は、助産師に、これを管理させなければならない。
・自ら管理者となることができるものである場合は、原則として、自ら管理しなければならない。
・助産所の管理者は、助産所に勤務する助産師その他の従業者を監督し、その業務遂行に遺憾のないよう必要な注意をしなければならない。

1.× 管理者は助産師で「なくてもよい」。管理者は助産師でなければならないのは、「助産所」である。産科病棟とは、主に産後を過ごす病棟で、切迫早産などのハイリスク妊娠の方が入院できる病室もある場合がある。

2.× 助産師の配置数は、「年間分娩数」ではなく患者数によって決められている。これは医療法施行規則の第19条の2項において「療養病床、精神病床及び結核病床に係る病室の入院患者の数を四をもつて除した数と、感染症病床及び一般病床に係る病室の入院患者の数を三をもつて除した数とを加えた数に、外来患者の数が三十又はその端数を増すごとに一を加えた数。ただし、産婦人科又は産科においてはそのうちの適当数を助産師とするものとし、また、歯科、矯正歯科、小児歯科又は歯科口腔くう外科においてはそのうちの適当数を歯科衛生士とすることができる。」と規定されている(※引用:「医療法施行規則」e-GOV法令検索様HPより)。

3.〇 正しい。ハイリスク妊娠管理加算は、算定できる日数に制限がある。これは、の注釈において「別に厚生労働大臣が定める施設基準に適合しているものとして地方厚生局長等に届け出た保険医療機関が、別に厚生労働大臣が定める患者について、入院中にハイリスク妊娠管理を行った場合に、1入院に限り20日を限度として所定点数に加算する」と規定されている(※引用:「A236-2 ハイリスク妊娠管理加算(1日につき)」今日の臨床サポート様HPより)

4.× 総合周産期医療特定集中治療室管理料の施設基準では、入院患者「5人」ではなく3人に、助産師(または看護師)1人の勤務が必要である(※引用:「総合周産期特定集中治療室管理料」より)。

 

 

 

 

 

17 着床前診断の対象となるのはどれか。

1.年齢35歳以上の女性
2.遺伝性婦人科癌の家族歴がある女性
3.Down<ダウン>症候群の児の分娩歴がある女性
4.体外受精を繰り返しても妊娠しない着床不全の女性
5.均衡型染色体構造異常に起因すると考えられる習慣流産の女性

解答

解説

着床前診断とは?

着床前診断とは、体外受精や顕微授精によって得られた受精卵(胚)の染色体や遺伝子を検査し、異常がないかどうかを調べる技術である。

着床前診断の対象は
1)医学的に重い遺伝性の病気が子どもに伝わる可能性がある方
PGT-M(日本産科婦人科学会の会告では、「重篤な遺伝性疾患」)

2)ご夫婦の染色体の形の変化が原因で、流産を繰り返される方
PGT-SR (日本産科婦人科学会の会告では、「染色体転座に起因する習慣流産(反復流産を含む)」)

(※参考:「着床前診断のはなしPGT-M, PGT-SR 編」)

1~4.× 年齢35歳以上の女性/遺伝性婦人科癌の家族歴がある女性/Down<ダウン>症候群の児の分娩歴がある女性/体外受精を繰り返しても妊娠しない着床不全の女性は、着床前診断の対象ではない

5.〇 正しい。均衡型染色体構造異常に起因すると考えられる習慣流産の女性は、着床前診断の対象となる。均衡型染色体構造異常とは、両親から受け継いだ23本の染色体の対になる染色体の形が異なる、いわゆる「隠れた染色体異常」の一種です。染色体の一部が欠失したり重複したり、種類の異なる染色体間で染色体の一部を交換したり、染色体の一部または全部が別の染色体にくっついたりするなど、正常な染色体とは異なる構造になっている状態を指す。

 

(※引用:「着床前診断のはなしPGT-M, PGT-SR 編」)

 

 

 

 

18 常染色体劣性遺伝疾患はどれか。

1.アンドロゲン不応症
2.先天性副腎過形成症
3.Down<ダウン>症候群
4.Turner<ターナー>症候群
5.Duchenne<デュシェンヌ>型筋ジストロフィー

解答

解説

常染色体劣性遺伝とは?

常染色体劣性遺伝とは、常染色体上の遺伝子の変異が2つある場合に発症する遺伝形式である。男性と女性の両方に現れる。

1.× アンドロゲン不応症(以前は精巣性女性化症候群とも)とは、通常、染色体が46,XYで精巣を持つが、表現型(外見に現れた形態・生理的な性質)が女性である病態のことである。つまり、外性器は完全に女性型であるが、精巣は存在しテストステロンやアンチミューラリアンホルモン(または抗ミュラー管ホルモン)は分泌されるため、ミューラー管から分化する子宮・卵巣・卵管は欠如する。したがって、外見的には女性であり、腟も存在し女性として養育され原発性無月経で初めて診断されることが多い。連鎖劣性遺伝(伴性劣性遺伝)で起こる。

2.〇 正しい。先天性副腎過形成症は、常染色体劣性遺伝疾患である。先天性副腎過形成症とは、副腎からのホルモンが不足して体のなかのカリウムやナトリウムなどのバランスが崩れ、死にいたることもある病気である。早期に発見することで必要なホルモンを補うなどの治療で発症を抑えることができる。

3.× Down<ダウン>症候群とは、染色体異常が原因で知的障害が起こる病気である。常染色体以上疾患の中で最多である。Down症候群になりうる異常核型は、3種に大別される。①標準トリソミー型:21トリソミー(93%)、②転座型(5%)、③モザイク型(2%)である。発症率は、平均1/1000人である。しかし、35歳女性で1/300人、40歳女性1/100人、45歳女性1/30人と、出産年齢が上がるにつれて確率が高くなる。症状として、①特異な顔貌、②多発奇形、③筋緊張の低下、④成長障害、⑤発達遅滞を特徴とする。また、約半数は、先天性心疾患や消化管疾患などを合併する。特異顔貌として、眼瞼裂斜上・鼻根部平坦・内眼角贅皮・舌の突出などがみられる。

4.× Turner<ターナー>症候群とは、典型的には身長が低く、首の後ろに皮膚のたるみがあり、学習障害がみられ、思春期が始まらないのが特徴である。2本のX染色体のうち1本の部分的または完全な欠失によって引き起こされる性染色体異常(性染色体モノソミー)である。

5.× Duchenne<デュシェンヌ>型筋ジストロフィーとは、幼児期から始まる筋力低下・動揺性歩行・登攀性歩行・仮性肥大を特徴とするX連鎖劣性遺伝病(伴性劣性遺伝)である。筋ジストロフィー症の中でもっとも頻度が高い。3歳頃に歩行や粗大運動の異常で気がつかれることが多い。ちなみに、仮性肥大とは、ふくらはぎが異常に太くなることである。原因は、ふくらはぎに筋肉ではなく、脂肪や結合織が増えることにより、筋肉が再生されなくなるためで起こる。

 

 

 

 

 

19 正常新生児の呼吸循環生理で正しいのはどれか。

1.肺水の大部分は児の口鼻腔から排出される。
2.出生直後から肺血管抵抗は上昇する。
3.出生直後の肺胞の拡張には10cmH2Oの圧力が必要である。
4.生後の動脈血酸素分圧<PaO2>の上昇によって動脈管が開く。
5.生後の肺血流量の増加によって卵円孔が閉鎖する。

解答

解説

1出生後の変化

出生直後に新生児は呼吸を開始し、肺胞に酸素を含む空気が充満する。これが、以下の変化を同時進行的に引き起こす。
1)肺血管の拡張(肺血管抵抗の低下)
肺動脈は酸素や一酸化窒素により拡張する性質がある。肺胞に空気が入ると肺間質の酸素濃度が上昇し、肺小動脈が拡張する。同時に肺血管内皮細胞で一酸化窒素が産生され、また胎児期のアシドーシスが無くなることで、肺動脈はさらに拡張する。さらに、肺胞内が液体から気体に代わることで、肺血管抵抗はもっと低下する。呼吸運動は肺血管内皮のプロスタサイクリン産生を促し、これも肺動脈を拡張させる。
2)臍動脈、臍静脈、静脈管の閉鎖
動脈血酸素分圧が上昇することにより、臍動脈が収縮する。臍動脈が収縮すると、臍静脈にも血液の流入が無くなり、受動的に収縮する。静脈管も胎盤血流が無くなることを受けて、おおむね受動的に収縮する。
3)動脈管の機能的閉鎖
動脈管を流れる血液の酸素分圧が上昇することと、動脈管を開存状態にしていた胎盤由来のプロスタグランジンが途絶え、さらに代謝されることにより、動脈管の中膜平滑筋が収縮し、生後数時間で機能的閉鎖にいたる。
4)卵円孔の機能的閉鎖
胎児循環では、『臍動脈⇒胎盤⇒臍静脈⇒静脈管』の血流ラインの血管抵抗が低く多量の血液が流れていたが、出生後にはこのラインの血流が無くなることにより、右房への血液流入が低下する。一方、胎児循環では右室から駆出された血液の殆どが動脈管を通り下行大動脈に流入していたが、動脈管の閉鎖と肺血管抵抗の低下により、肺血流が急増し、それが左房に流入する。すなわち、右房圧が低下し、左房圧が上昇する。これにより、卵円孔の一次中隔はフラップが閉じる形で左房側から押されて、卵円孔が機能的に閉鎖する。
5)左室圧の上昇と右室圧の低下
胎児循環では、右室から駆出された血液は、肺動脈および動脈管を通り、下行大動脈に流入していた。すなわち右室圧(肺動脈圧)の方が、左室圧(大動脈圧)よりも高かったが、出生後は、上記1-3の変化により左室圧(大動脈圧)の方が、右室圧(肺動脈圧)よりも高くなる。この圧バランスの逆転は、生後数分から数時間以内にみられる。
6)心機能の変化
胎児期および出生直後の心機能は未熟であるが、徐々に改善していき、生後1週間から1カ月で成犬と同様の血行動態を獲得する。
(※引用:「心エコー図検査-その22」著:田口大介様)

1.× 肺水の大部分は、児の「口鼻腔から排出」ではなく肺胞から間質へ吸収される。肺水は、胎児の気管や気管支、肺胞を満たしており、出産時には産道通過に伴う胸郭の圧迫で肺胞や気道から押し出されたり、自然に血液やリンパに吸収される。出生後1分間で肺水の多くは肺胞から間質へ吸収され、肺胞に空気が流入して肺胞が拡張する。

2.× 出生直後から肺血管抵抗は「上昇」ではなく低下(体血管抵抗とほぼ同等)する。なぜなら、出生とともに胎盤循環が途絶え、肺胞内に空気が入り呼吸が成立することで肺血管抵抗が低下し、肺血流が増加するため。また、肺胞が広がり、肺胞を取り巻く肺血管床の血管抵抗も急速に低下する。

3.× 出生直後の肺胞の拡張には、「10cmH2O」ではなく50~60cmH2Oの圧力が必要である。

4.× 生後の動脈血酸素分圧<PaO2>の上昇によって、動脈管が「開く」のではなく閉じる。なぜなら、動脈の中を流れる血液に酸素が多い(動脈血中酸素分圧が高い)場合に、血管は収縮するという性質をもっているため。ちなみに、動脈管とは、ボタロー管ともいう。動脈管(ボタロー管)は、胎児期において肺動脈と大動脈とを繋ぐ血管であり、胎児循環において静脈管(胎盤からの静脈血を大静脈に送り込む静脈)、卵円孔とともに重要な役割を果たす。

5.〇 正しい。生後の肺血流量の増加によって、卵円孔が閉鎖する。なぜなら、出生後、肺血流が増加すると左心房圧が上昇し、卵円孔は左心房側からふたをするように閉鎖するため。ちなみに、卵円孔は、右心房と左心房の間にある壁(心房中隔)の中央に組織が重なり合ってできた穴で、胎児の全身に酸素を多く含んだ血液を循環させるためにある。

胎児循環とは?

胎児循環とは、胎児における血液の流れ方のことで、肺のかわりを胎盤が果たす胎盤循環が主体である。胎児の下腹部で大動脈から出た左右の臍動脈は、胎盤で母体の血液とガス交換および栄養分・老廃物交換を行った後、1本の臍静脈として胎児体内に戻る。その後肝臓を通じ、あるいは静脈管を通って下大静脈から右心房に入る。この血液と上大静脈から右心房に入った血液の大部分は、心房中隔にあいている卵円孔を通じて直接左心房に移り、左心室から大動脈に出る。一部の右心房から右心室に入った血液は、肺動脈に出るが、肺がまだ活動していないので、その主体は動脈管を通じて大動脈に流入する。

 

 

 

 

20 28歳の初産婦。妊娠初期に検査した随時血糖の値は正常であった。妊娠20週0日、尿糖が陽性であったため血液検査を実施し、空腹時血糖140mg/dL、HbA1c7.0%であった。今まで糖尿病と診断されたことはなかった。
 この妊婦の現在の状態のアセスメントとして正しいのはどれか。

1.血糖に異常はみられない。
2.糖尿病の前段階である。
3.妊娠による一時的な耐糖能異常である。
4.妊娠糖尿病である。
5.妊娠時に診断された明らかな糖尿病である。

解答

解説

本症例のポイント

・28歳の初産婦。
・妊娠初期:随時血糖は正常。
妊娠20週0日尿糖が陽性。
・血液検査:空腹時血糖140mg/dLHbA1c7.0%
・今まで糖尿病と診断されたことはなかった。
→本症例の経過から、糖尿病の区別を行えるようにしよう。

(※引用:「産婦人科診療ガイドライン産科編2020 P22」)

1.× 血糖に異常は「みられる」。なぜなら、本症例(妊娠20週0日)は、尿糖が陽性、空腹時血糖140mg/dLHbA1c7.0%であるため。

2.× 糖尿病の「前段階ではない」。なぜなら、本症例(妊娠20週0日)の空腹時血糖140mg/dLHbA1c7.0%であり「妊娠中の明らかな糖尿病」と診断できる基準であるため。

3.× 妊娠による「一時的な耐糖能異常」とは判断しがたい。なぜなら、本症例(妊娠20週0日)の空腹時血糖140mg/dL、HbA1c7.0%であり「妊娠中の明らかな糖尿病」と診断できる基準であるため。

4.× 妊娠糖尿病であるとは判断しがたい。なぜなら、本症例(妊娠20週0日)の空腹時血糖140mg/dL、HbA1c7.0%であり「妊娠中の明らかな糖尿病」と診断できる基準であるため。妊娠糖尿病とは、妊娠中にはじめて発見、または発症した糖尿病まではいかない糖代謝異常のことである。胎盤からインスリンの働きを妨害するホルモンが分泌されるために起こる。ちなみに、糖代謝異常とは、血液に含まれる糖の量を示す血糖値が上がった状態である。肥満女性は妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、帝王切開分娩、巨大児などのリスクが高い。

5.〇 正しい。妊娠時に診断された明らかな糖尿病である。(※下図参照)

(※引用「産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020 P23」)

糖尿病の診断基準

・HbA1c:6.5%以上
・随時血糖値:200mg/dL以上
・空腹時血糖値:126mg/dL以上
・75g経口ブドウ糖負荷試験で2時間後血糖値:200mg/dL以上

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)