第97回(H26) 助産師国家試験 解説【午前51~55】

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次の文を読み50~52の問いに答えよ。
 36歳の2回経産婦。妊娠経過は順調であった。妊娠39週5日、2680gの児を正常分娩で出産した。会陰裂傷はなく、出血量は250mlであった。乳房の形はⅡa、短乳頭であった。前回は人工栄養であったが、今回は母乳栄養を希望している。

51 産褥3日。両乳房は全体的に温かく硬い感触である。乳管口の開口数は3~4本で、乳輪部の圧迫で乳汁がにじむ。左乳頭に水疱がある。立て抱きで授乳しており、児頭が不安定になっている。「お乳が張って痛いし、赤ちゃんもうまく吸えないみたいです」と言う。体温37.0℃、脈拍78/分。子宮収縮は良好である。
 このときの褥婦への対応で適切なのはどれか。

1.消炎鎮痛薬の投与を医師と相談する。
2.乳房全体を冷罨法する。
3.脇抱きで授乳をする。
4.直接授乳を中止する。

解答

解説

本症例のポイント

・36歳の2回経産婦(妊娠経過:順調)。
・妊娠39週5日:正常分娩(2680gの児)。
乳房の形はⅡa短乳頭
・産褥3日:両乳房は全体的に温かく硬い感触。
・乳管口の開口数:3~4本、乳輪部の圧迫で乳汁がにじむ。
・左乳頭:水疱あり。
・立て抱きで授乳、児頭が不安定。
・「お乳が張って痛いし、赤ちゃんもうまく吸えないみたいです」と言う。
・体温37.0℃、脈拍78/分。
・子宮収縮は良好である。
→乳房Ⅱa短乳頭の本症例は、乳頭の皮膚トラブルとうまく授乳することができていない。乳房のタイプにあった授乳介助と効果的な吸着(ラッチオン)が行えるように支援する。児の下顎が乳房に埋もれこむようにすることで効果的な吸着(ラッチオン)が行えるようになる。①口が大きく開く、②唇が外向き、③下顎が乳房に触れている、④乳房の上方に比べ下方を深く含んでいるといった深い吸い方ができると乳頭亀裂などのトラブルが少なくなる。

【乳房の形と抱きやすい姿勢】
Ⅰ型(a<b):縦抱き
Ⅱa型(a≒b):横抱き
Ⅱb型(a>b):フットボール抱き(脇抱き)
Ⅲ型(a>>b):添え乳(or脇抱き)

(※図引用:「産褥婦さんの乳房のタイプ」看護師イラスト集HPより)

1.× 消炎鎮痛薬の投与を医師と相談する必要はない。なぜなら、本症例は、発熱がなく、軽度の乳腺うっ滞の可能性が高いため。

2.× 乳房全体を冷罨法する優先度は低い。なぜなら、軽度の乳腺うっ滞に対する乳房への温罨法や冷罨法の有効性は実証されていないため。

3.〇 正しい。脇抱きで授乳をする。なぜなら、脇抱きや添え乳は、母親にとって楽な姿勢で余計な力が入りにくく授乳できるため。特に、脇抱きは、比較的深く吸啜させることができ、児の体重を枕などのクッションが支えるため、母親にとっては楽な方法である。乳房のタイプにあった授乳介助と効果的な吸着(ラッチオン)が行えるように支援する。児の下顎が乳房に埋もれこむようにすることで効果的な吸着(ラッチオン)が行えるようになる。①口が大きく開く、②唇が外向き、③下顎が乳房に触れている、④乳房の上方に比べ下方を深く含んでいるといった深い吸い方ができると乳頭亀裂などのトラブルが少なくなる。

4.× 直接授乳を中止する必要はない。なぜなら、母乳栄養を希望しており、直接授乳を中止する理由は特にないため。搾乳とは、児の哺乳力が弱いか、陥没乳頭などでうまく捕乳できない場合に、母乳を絞って哺乳瓶で与える方法である。ほかにも、NICUに入院したときや、今後児に影響がかかる薬物を内服する治療が始まるときなどに用いられる。

 

 

 

 

 

次の文を読み50~52の問いに答えよ。
 36歳の2回経産婦。妊娠経過は順調であった。妊娠39週5日、2680gの児を正常分娩で出産した。会陰裂傷はなく、出血量は250mlであった。乳房の形はⅡa、短乳頭であった。前回は人工栄養であったが、今回は母乳栄養を希望している。

52 産褥5日。1日の授乳回数は10回程度で母乳のみである。左乳頭の亀裂はあるが、痛みは自制内で授乳は続けていた。授乳後に両乳房の緊満は軽減する。褥婦から「家に帰ってからおっぱいに傷ができたらどうしたらいいですか」と質問があった。児の体重は2573gで、前日から20g増加している。経過は順調である。
 翌日に退院予定の褥婦に対する授乳の指導で適切なのはどれか。

1.3時間ごとの授乳
2.乳房温湿布
3.哺乳瓶授乳
4.カップ授乳

解答

解説

本症例のポイント

・36歳の2回経産婦(妊娠経過:順調)。
・妊娠39週5日:正常分娩(2680gの児)。
・乳房の形はⅡa、短乳頭。
・前回:人工栄養(希望:母乳栄養)。
産褥5日:1日の授乳回数は10回程度(母乳のみ)
左乳頭の亀裂(痛みは自制内)。
・授乳後に両乳房の緊満:軽減。
・褥婦「家に帰ってからおっぱいに傷ができたらどうしたらいいですか」と。
・児の体重:2573g、前日から20g増加(経過順調)。
→乳頭のケアをおさえておこう。

1.× 3時間ごとの授乳は優先度が低い。なぜなら、授乳のタイミングは、児が「自律授乳」が基本となるため。自律授乳とは、児が欲しがるときに欲しがるだけ飲ませる授乳方法のことである。児に吸われる刺激によって母乳分泌が促されて母乳育児がスムーズになることから、とくに生後1~2か月ぐらいまでの間は自律授乳が推奨されている。自律授乳の場合、新生児期の授乳回数は1日10回以上になることもあるが、たくさん吸うことで飲むことに慣れ、上手に飲めるようになっていく。赤ちゃんの口の動きなどからほしがるサインに早期に気づき、授乳できるよう指導する。

2.× 乳房温湿布は優先度が低い。なぜなら、本症例の左乳頭の亀裂に対する直接的な処置とはいえないため。ちなみに、乳房温湿布とは、乳房の張りや緊満感がある場合、温湿布を行うことで乳汁の分泌が促進され、張りの軽減に役立つことがある。ただし、乳頭のケアの基本は、保湿や適切な授乳姿勢の指導が重要である。

3.× 哺乳瓶授乳は優先度が低い。なぜなら、乳頭混乱を助長する可能性があるため。ちなみに、乳頭混乱とは、赤ちゃんが哺乳瓶や人工乳首、おしゃぶりを好み、母親の乳房から直接飲むのを嫌がる状態を指す。つまり、哺乳瓶のミルクは飲むが、おっぱいでの授乳は嫌がる状態である。

4.〇 正しい。カップ授乳を実施するように伝える。なぜなら、カップ授乳を用いることで、本症例の左乳頭の亀裂にも対応でき、デメリット少なく母乳栄養を続けることができるため。カップ授乳とは、カップフィーディングともいい、哺乳瓶を使用せずに、赤ちゃんに搾母乳や人工乳をカップで飲ませる授乳方法である。メリットとして、①乳頭混乱を避けることができること、②災害時など、哺乳瓶を消毒できない環境でも使用できることがあげられる。一方、デメリットとして、カップが必要であることである。

 

 

 

 

 

次の文を読み53~55の問いに答えよ。
 県の女性健康支援センターでは、5年前から電話相談を週2日実施している。電話相談は8名の助産師が輪番制で対応しており、相談日には1名が担当している。

53 52歳の女性から電話相談があった。最近、すぐイライラしたり、動悸がしたりして、なんとなく体調が悪い。長女が結婚して夫婦2人の生活になり、夫は仕事で忙しく、ほとんど話を聞いてもらえない。内科を何度も受診したが、薬だけが増え症状は改善されないという。
 対応として適切なのはどれか。

1.「精神科を受診してみませんか」
2.「薬を一度やめてみてはいかがですか」
3.「長女夫婦と同居してはいかがでしょうか」
4.「心配事について一緒に整理してみましょうか」

解答

解説

本症例のポイント

・52歳の女性。
・最近、すぐイライラしたり、動悸がしたりして、なんとなく体調が悪い
長女が結婚して夫婦2人の生活になる。
・夫は仕事で忙しく、ほとんど話を聞いてもらえない。
・内科を何度も受診したが、薬だけが増え症状は改善されない
→本症例は更年期障害が疑われる。女性特有の繊細な話題でもあるため、しっかり共感や受容しながら相談に乗る必要がある。

1.× 「精神科を受診してみませんか」と伝える必要はない。なぜなら、精神科への受診の推奨は時期尚早であるため。まずは相談者の不安を整理し、正確な評価が必要である。いきなり精神科への受診の推奨は、相談を聞くことを拒否していると受け取られかねない。

2.× 「薬を一度やめてみてはいかがですか」と伝える必要はない。なぜなら、薬の調整は医師が行うため。内科の医師と相談する必要がある。

3.× 「長女夫婦と同居してはいかがでしょうか」と伝える必要はない。なぜなら、必ずしも、長女夫婦との同居が直接的な解決に寄与するとはいえないため。むしろ、長女夫婦との同居がさらなるストレスや不安の助長になりかねない。

4.〇 正しい。「心配事について一緒に整理してみましょうか」と伝える。なぜなら、女性特有の繊細な話題でもあるため、しっかり共感や受容しながら相談に乗る必要があるため。必要に応じて婦人科の受診を提案する。

更年期障害とは?

更年期障害とは、更年期に出現する器質的な変化に起因しない多彩な症状によって、日常生活に支障をきたす病態と定義される。更年期症状は大きく、①自律神経失調症状、②精神神経症状、③その他に分けられるが、各症状は重複して生じることが多い。治療の一つに、ホルモン補充療法(HRT)があげられる。ホルモン補充療法とは、エストロゲン(卵胞ホルモン)を補うことで、更年期障害を改善する治療法である。ほてり、のぼせ、発汗などといった代表的な症状に高い効果を示す。禁忌として、エストロゲン依存性悪性腫瘍(子宮内膜癌、乳癌)またその疑いのあるもの、重症肝機能障害、血栓性疾患などがあげられる。

 

 

 

 

 

次の文を読み53~55の問いに答えよ。
 県の女性健康支援センターでは、5年前から電話相談を週2日実施している。電話相談は8名の助産師が輪番制で対応しており、相談日には1名が担当している。

54 助産師は女性からの相談を30分傾聴し、断続した不正性器出血があり、閉経が近いと考えていること、体調不良について相談する人が周囲にいないことが分かった。
 女性へのアドバイスで優先されるのはどれか。

1.婦人科の受診
2.心理カウンセリングの利用
3.更年期女性を対象とした健康教室への参加
4.女性健康支援センターの電話相談の継続的利用

解答

解説

本症例のポイント

・52歳の女性(更年期障害の疑い)。
・最近、すぐイライラしたり、動悸がしたりして、なんとなく体調が悪い。
・内科を何度も受診したが、薬だけが増え症状は改善されない。
・断続した不正性器出血があり
・閉経が近いと考えていること
・体調不良について相談する人が周囲にいない。
→本症例は、更年期障害の疑いであるものの断続した不正性器出血がある。これは、重大な疾患(例:子宮体がんや子宮頸がんなど)が潜んでいる可能性も示唆される。

1.〇 正しい。婦人科の受診が最も優先される。なぜなら、本症例は、更年期障害の疑いであるものの断続した不正性器出血があるため。これは、重大な疾患(例:子宮体がんや子宮頸がんなど)が潜んでいる可能性も示唆される。

2.4.× 心理カウンセリング/女性健康支援センターの電話相談の継続的利用は優先度は低い。なぜなら、本症例には、身体的な問題(特に不正性器出血)がみられるため。これは、重大な疾患(例:子宮体がんや子宮頸がんなど)が潜んでいる可能性も示唆される。

3.× 更年期女性を対象とした健康教室への参加は優先度は低い。なぜなら、本症例は更年期障害だと確定していないため。様々な可能性を配慮して提案する必要がある。

 

 

 

 

 

次の文を読み53~55の問いに答えよ。
 県の女性健康支援センターでは、5年前から電話相談を週2日実施している。電話相談は8名の助産師が輪番制で対応しており、相談日には1名が担当している。

55 電話相談の開始当初は、妊娠、出産や子育てに関する相談が主であった。1年ほど前から、50歳前後の女性からの不眠、頭痛、のぼせ、憂うつ、物忘れなどに関する相談件数が増え、約半数を占めている。そのため、女性健康支援センターでは相談を担当している助産師を対象に研修会を実施することになった。
 研修内容として最も適切なのはどれか。

1.脳血管疾患について
2.月経前症候群について
3.エストロゲン欠乏症状について
4.Alzheimer〈アルツハイマー〉病について

解答

解説

本症例のポイント

・相談の半数:妊娠、出産や子育てに関する相談。
・相談の半数:50歳前後の女性からの不眠、頭痛、のぼせ、憂うつ、物忘れなどに関する相談。
・女性健康支援センター:助産師を対象に研修会を実施する。
→50歳前後の生理的変化についておさえておこう。更年期障害とは、更年期に出現する器質的な変化に起因しない多彩な症状によって、日常生活に支障をきたす病態と定義される。更年期症状は大きく、①自律神経失調症状、②精神神経症状、③その他に分けられるが、各症状は重複して生じることが多い。治療の一つに、ホルモン補充療法(HRT)があげられる。ホルモン補充療法とは、エストロゲン(卵胞ホルモン)を補うことで、更年期障害を改善する治療法である。ほてり、のぼせ、発汗などといった代表的な症状に高い効果を示す。禁忌として、エストロゲン依存性悪性腫瘍(子宮内膜癌、乳癌)またその疑いのあるもの、重症肝機能障害、血栓性疾患などがあげられる。

1.× 脳血管疾患についての優先度は低い。なぜなら、50歳前後の女性から症状(不眠、頭痛、のぼせ、憂うつ、物忘れなど)と直接的な関連は低いため。厚生労働省「患者調査」では、2020(令和2)年の脳血管疾患の患者数を性・年齢別にみると、男性の70歳代(36.5万人)、女性の80歳以上(36.1万人)で患者数が多くなる。

2.× 月経前症候群についての優先度は低い。なぜなら、50歳前後の女性から症状(不眠、頭痛、のぼせ、憂うつ、物忘れなど)と直接的な関連は低いため。50歳前後は、閉経(月経が完全に停止した状態)となる。日本人女性の平均的な閉経年齢は50.5歳

3.〇 正しい。エストロゲン欠乏症状についてを研修内容とする。なぜなら、50歳前後の女性に見られる更年期症状(不眠、頭痛、のぼせ、憂うつ、物忘れなど)は、エストロゲンの欠乏による影響が大きいため。

4.× Alzheimer〈アルツハイマー〉病についての優先度は低い。なぜなら、50歳前後の女性から症状(不眠、頭痛、のぼせ、憂うつ、物忘れなど)と直接的な関連は低いため。アルツハイマー病は、40歳代以降の広い年齢層で発症するが、65歳以上で多くなる。ちなみに、アルツハイマー病とは、認知症の中で最も多く、病理学的に大脳の全般的な萎縮、組織学的に老人斑(アミロイドβの蓄積)・神経原線維変化の出現を特徴とする神経変性疾患である。特徴は、①初期から病識が欠如、②著明な人格崩壊、③性格変化、④記銘力低下、⑤記憶障害、⑥見当識障害、⑦語間代、⑧多幸、⑨抑うつ、⑩徘徊、⑩保続などもみられる。Alzheimer型認知症の患者では、現在でもできる動作を続けられるように支援する。ちなみに、休息をとることや記銘力を試すような質問は意味がない。

月経前症候群とは?

月経前、3~10日の間続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するものをいう。原因は、はっきりとはわかっていないが、女性ホルモンの変動が関わっていると考えられている。排卵のリズムがある女性の場合、排卵から月経までの期間(黄体期)にエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が多く分泌される。この黄体期の後半に卵胞ホルモンと黄体ホルモンが急激に低下し、脳内のホルモンや神経伝達物質の異常を引き起こすことが、PMSの原因と考えられている。しかし、脳内のホルモンや神経伝達物質はストレスなどの影響を受けるため、PMSは女性ホルモンの低下だけが原因ではなく多くの要因から起こるといわれている。精神神経症状として情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害、自律神経症状としてのぼせ、食欲不振・過食、めまい、倦怠感、身体的症状として腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張りなどがある。とくに精神状態が強い場合には、月経前不快気分障害(PMDD)の場合もある。治療法として、①日常生活の改善、②薬物療法(排卵抑制療法、症状に対する治療法、漢方療法)があげられる。

 

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