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次の文を読み45~47の問いに答えよ。
Aさん(40歳、初産婦)。妊娠38週2日。午後7時にAさんは電話で「午後4時からときどき子宮収縮がありましたが、午後6時からは10分間隔で今も変わりません。2日前の妊婦健康診査で、子宮の出口は3cm開いていると言われました。出血、破水やいきみたい感じはありません。B群溶連菌陽性と言われています」と落ち着いて話した。夫の立会い分娩の予定だが、夫はまだ帰宅していない。
46 Aさんから「夫が仕事から帰宅するのを待ちたいのですが、どうしたらよいでしょう」と言われた。
電話での対応で適切なのはどれか。
1.「すぐに来院してください」
2.「破水したらもう一度電話をしてください」
3.「夫の帰宅を待って一緒に来院してください」
4.「1時間たっても陣痛が10分間隔なら来院してください」
解答1
解説
・Aさん(40歳、初産婦、妊娠38週2日、B群溶連菌)。
・2日前:子宮出口は3cm開口。出血、破水やいきみ:なし。
・午後4時:ときどき子宮収縮。
・午後6時からは10分間隔で今も変わりません。
・予定:夫の立会い分娩(夫はまだ帰宅せず。)
・Aさん「夫が仕事から帰宅するのを待ちたいのですが、どうしたらよいでしょう」と。
→Aさんの対応をおさえておこう。なぜなら、今回妊娠中の尿培養でGBS感染症の場合、妊産婦の経腟分娩中あるいは前期破水後,新生児の感染を予防するためにペニシリン系などの抗菌薬を点滴静注するため(※参考:「産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020 P297」公益社団法人 日本産科婦人科学会より)。
(※図引用:「産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020 P297-8」公益社団法人 日本産科婦人科学会より)
1.〇 正しい。「すぐに来院してください」と伝える。なぜなら、今回妊娠中の尿培養でGBS感染症の場合、妊産婦の経腟分娩中あるいは前期破水後,新生児の感染を予防する目的で、ペニシリン系などの抗菌薬を点滴静注するため(※参考:「産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020 P297」公益社団法人 日本産科婦人科学会より)。
2~4.「破水したらもう一度電話をしてください」「夫の帰宅を待って一緒に来院してください」「1時間たっても陣痛が10分間隔なら来院してください」と伝える必要はない。なぜなら、破水後では対応が遅くなるため。GBS感染症の場合、分娩が開始される前から対応が必要である。破水とは、卵膜が破れて羊水が子宮外に流出することである。破水は、臍帯脱出や上行感染、胎児機能不全などの原因となり得る。
B群レンサ球菌とは、膣内に常在することのある細菌で、妊婦以外では、膀胱炎などの尿路感染症でもおこさない限り問題となることは少ない。ところが、出産時にこのB群レンサ球菌が膣内に存在すると、生まれる新生児に敗血症、髄膜炎、肺炎などの重症のB群レンサ球菌感染症を起こすことがありえることが知られている。この母から子への感染が問題とされている。B群連鎖球菌は、新生児における、敗血症や髄膜炎、肺炎の主要な原因菌の一つである。髄膜炎が死亡原因となることや、髄膜炎の後遺症として、聴力や視力が失われたり、運動や学習の障害などが残る場合もある。妊婦では、膀胱炎や子宮の感染症(羊膜炎、子宮内膜炎)、死産を起こすことがある。妊婦以外では、尿路感染症、敗血症、皮膚・軟部組織の感染症および肺炎を起こすことがあり、死亡例もある(※参考:「B群レンサ球菌(GBS)感染症について」横浜市HPより)。
次の文を読み45~47の問いに答えよ。
Aさん(40歳、初産婦)。妊娠38週2日。午後7時にAさんは電話で「午後4時からときどき子宮収縮がありましたが、午後6時からは10分間隔で今も変わりません。2日前の妊婦健康診査で、子宮の出口は3cm開いていると言われました。出血、破水やいきみたい感じはありません。B群溶連菌陽性と言われています」と落ち着いて話した。夫の立会い分娩の予定だが、夫はまだ帰宅していない。
47 その後Aさんは入院し、陣痛発来後8時間で、陣痛間欠5分、発作40秒となった。内診所見は、子宮口8cm開大、展退度80%、Station-1、子宮頸管の硬度は軟、子宮口の位置は前方であった。矢状縫合は第2斜径に一致、小泉門は10時方向、卵膜はなく、淡黄色の羊水の流出を確認した。胎児心拍数陣痛図の波形はレベル2。腰部痛を訴えている。
対応で最も適切なのはどれか。
1.散歩するよう促す。
2.仰臥位になるよう促す。
3.四つん這いの体位になるよう促す。
4.清潔なマットを敷き分娩介助の準備をする。
5.胎児心拍数陣痛モニタリングを3時間後に実施する。
解答3
解説
・Aさん(40歳、初産婦、妊娠38週2日、B群溶連菌)。
・入院:陣痛発来後8時間、陣痛間欠5分、発作40秒。
・子宮口8cm開大、展退度80%、Station-1、子宮頸管の硬度は軟、子宮口の位置は前方。
・矢状縫合:第2斜径に一致、小泉門:10時方向、卵膜はなく、淡黄色の羊水の流出。
・胎児心拍数陣痛図の波形:レベル2。
・腰部痛を訴えている。
→Aさんの状態を正確に評価し適切な対応を取ろう。
1.× 散歩するよう促す優先度は低い。なぜなら、現時点で破水(淡黄色の羊水の流出)をきたしているため。
2.× 仰臥位になるよう促す必要はない。なぜなら、仰臥位低血圧症候群を助長するため。仰臥位低血圧症候群とは、妊娠末期の妊婦が仰臥位になった際、子宮が脊柱の右側を上行する下大静脈を圧迫することにより右心房への静脈還流量が減少、心拍出量が減少し低血圧となることである。左側臥位をとることで圧迫が解消され、症状が改善する。
3.〇 正しい。四つん這いの体位になるよう促す。なぜなら、本症例の腰部痛に対応できるため。四つん這い分娩は、産痛緩和や臍帯圧迫の解除、回旋異常が自然に矯正されるなどが期待される。また、その他の特徴として、産道裂傷をきたしにくいこと、腰痛を緩和できることなどがあげられる。四つん這いの【利点】①陣痛の緩和、②骨盤・下半身の動かせる(腹圧の調整が可能)、③子宮による大動脈の圧迫がない、④児を股間から腹部に抱くことができるため、早期母子接触を行いやすい。⑤回旋異常が戻りやすい。【欠点】①小陰唇の裂傷が生じやすい。②産婦と介助者の顔が反対であるため、互いの顔がみえない。③胎児心音が聴取しにくい。④下肢のしびれが生じやすい。
4.× 清潔なマットを敷き分娩介助の準備をする優先度は低い。なぜなら、本症例の子宮口は8cm開大している状態(分娩第1期)であるため。あえて、現時点で清潔なマットを敷く必要はなく、子宮口完全開大(分娩第2期)で行うことが多い。
5.× 胎児心拍数陣痛モニタリングを「3時間後」ではなく一定時間(20分以上)に実施する。1)破水時、2)羊水混濁あるいは血性羊水を認めたとき、3)間欠的児心拍数聴取で(一過性)徐脈、頻脈を認めたとき、4)分娩が急速に進行したり、排尿・排便後など、胎児の位置の変化が予想される場合(間欠的児心拍聴取でもよい)(※引用「産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020 P223」)
(※引用:「胎児心拍数モニタリング―胎児心拍数陣痛図の判読と胎児管理の指針」日本産婦人科医会様HPより)
「経過観察」を満たしても、以下の場合は連続モニタリングを行う(ただし、トイレへの歩行や病室の移動等で胎児心拍数が評価できない期間を除く)
1)分娩第2期のすべての産婦
2)分娩時期を問わず、以下のような場合(①子宮収縮薬使用中、②用量41mL以上のメトロイリンテル挿入中、③用量41mL未満のメトロイリンテル挿入中であっても陣痛が発来した場合、④無痛分娩中、⑤38℃以上の母体発熱中、⑥上記以外に産婦が突然強い子宮収縮や腹痛を訴えた場合)
3)分娩時期を問わず、以下のようなハイリスク妊娠の場合(①母体側要因:糖尿病合併、“妊娠中の明らかな糖尿病”、コントロール不良な妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、妊娠・分娩中の低酸素状態が原因と考えられる脳性麻痺児、子宮内胎児死亡児出産既往(概ね30週以上)、子癇既往、子宮体部への手術歴、②胎児側要因:胎位異常、推定体重<2,000g、胎児発育不全、多胎妊娠、サイトメガロウイルス感染胎児、③胎盤、羊水、臍帯の異常:低置胎盤、羊水過多、羊水過少、臍帯卵膜付着が診断されている場合)
4)その他、ハイリスク妊娠と考えられる産婦(コントロール不良の母体合併症等)
7.以下の場合は分娩監視装置を一定時間(20 分以上)装着してモニタリングを記録し、評価する。1)破水時、2)羊水混濁あるいは血性羊水を認めたとき、3)間欠的児心拍数聴取で(一過性)徐脈、頻脈を認めたとき、4)分娩が急速に進行したり、排尿・排便後など、胎児の位置の変化が予想される場合(間欠的児心拍聴取でもよい)
(※引用「産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020 P223」)
【分娩第1期】
陣痛の開始から、子宮口(子宮頸部)が完全に開く(全開大、約10cm)までの期間を指す。
・分娩第1期
「①潜伏期」と「②活動期」に分けられる。
①潜伏期:陣痛がリズミカルになり、子宮頸部が薄くなり4cmほど開いた状態まで(初産婦で12時間・経産婦で5時間程度かかる)の時期を示す。
②活動期:子宮口が4センチから10cm(全開)に開き、胎児の一部が胎盤内に降りてくる(初産婦で3時間・経産婦で2時間程度かかる)。いきみたくなって来る段階である。
・分娩第2期:赤ちゃんが産道を通っている間
子宮口が完全に開大してから胎児を娩出するまでの期間を指す。この段階は初産婦では平均45~60分間、経産婦では15~30分間続く。
・分娩第3期:「後産」の時期
胎児を娩出してから胎盤を娩出するまでの期間である。この段階は数分間で終わるのが普通であるが、最大30分ほど続くこともある。
次の文を読み48、49の問いに答えよ。
37歳の初産婦。妊娠経過は順調で、既往歴に特記すべきことはない。妊娠40週5日、自然に陣痛発来した。陣痛発来後20時間、内診所見で、子宮口全開大、展退度100%、Station+3。胎児心拍数陣痛図では、基線細変動の減少を伴う遷延一過性徐脈が出現した。その30分後、経腟分娩により3,320gの男児を出産した。児はApgar〈アプガー〉スコア1分後6点、5分後8点、臍帯動脈血pH7.18であった。
48 出血は、胎盤娩出前は特に多くなかったが、後血腫を伴う胎盤を娩出後も持続している。子宮収縮は良好である。
最も可能性が高いのはどれか。
1.頸管裂傷
2.子宮破裂
3.弛緩出血
4.常位胎盤早期剝離
解答4
解説
・37歳の初産婦(妊娠経過:順調、既往歴:特記なし)
・妊娠40週5日:自然に陣痛発来。
・陣痛発来後20時間:子宮口全開大、展退度100%、Station+3。
・胎児心拍数陣痛図:基線細変動の減少を伴う遷延一過性徐脈。
・30分後:経腟分娩により3,320gの男児を出産。
・アプガースコア:1分後6点、5分後8点、臍帯動脈血pH7.18。
・出血:胎盤娩出前は特に多くなかったが、後血腫を伴う胎盤を娩出後も持続。
・子宮収縮は良好である。
→上記の評価を正確によみとれるようになろう。また、各選択肢の消去される理由もわかるようにしよう。
→遷延一過性徐脈とは、心拍数減少が15bpm以上で、開始から回復まで2分以上10分未満の波形をいう。その心拍数減少は直前の心拍数より算出される。10分以上の心拍数減少の持続は基線の変化とみなす。最下点が80bpm未満のものは高度遷延一過性徐脈と呼ばれる。
1.× 頸管裂傷は考えにくい。なぜなら、本症例は、経腟分娩により3,320gの男児を出産し、胎盤娩出前の出血も特に多くなかったため。ちなみに、頸管裂傷とは、子宮頸管に裂けてできた傷が起こることであり、急速に分娩が進行することや吸引分娩などの処置、巨大児などが原因となる。頸管裂傷になると持続的な出血(鮮紅色の出血)が起こる。主に分娩の際に生じる可能性があり、大量出血など生命の危険にまでつながるリスクがある。
2.× 子宮破裂は考えにくい。なぜなら、本症例は、子宮収縮は良好で、子宮破裂の症状がみられないため。ちなみに、子宮破裂とは、主として分娩時に起こる子宮体部ないしは子宮下部の裂傷である。強い腹痛が続き、胎児の心拍数が異常に下がる。帝王切開の既往がある女性で治癒した瘢痕線に沿って起こることが多い。他に多胎妊娠や羊水過多なども原因となることがある。
3.× 弛緩出血は考えにくい。なぜなら、本症例は、子宮収縮は良好で、出血においても、胎盤娩出前は特に多くなかったが、後血腫を伴う胎盤を娩出後も持続しているため。ちなみに、弛緩出血とは、児と胎盤の娩出後、本来なら子宮が収縮することで止まるはずの出血が続く状態である。原因は、多胎妊娠や巨大児による子宮の過伸展、子宮収縮剤の長時間投与、長引く分娩による母胎の疲労、子宮奇形などの体質によるもの、子宮内の凝血塊の遺残、全身麻酔などが挙げられる。弛緩出血が起きたときには、子宮収縮を促すためオキシトシンなどの子宮収縮剤の投与や、子宮マッサージが行われる。子宮底部の輪状マッサージとは、子宮筋を刺激して、子宮収縮を促進させるマッサージである。 排尿・排便を定期的に促し、膀胱・直腸充満からの圧迫による子宮収縮不全を防止する。早期離床を促し、悪露の貯留による子宮収縮不全を防止する。
4.〇 正しい。常位胎盤早期剝離が最も可能性が高い。今回の根拠として、遷延一過性徐脈であったこと、アプガースコア:1分後6点、5分後8点、臍帯動脈血pH7.18があげられる。ちなみに、常位胎盤早期剝離とは、子宮壁の正常な位置に付着している胎盤が、胎児娩出以前に子宮壁より剥離することをいう。剥離出血のため、性器出血や激しい腹痛、子宮内圧の上昇、子宮壁の硬化が起こり、ショック状態を起こすことがある。胎盤が早い時期に剥がれると、在胎週数の割に成長しなかったり、死亡することさえある。また、低酸素のために急速に胎児機能不全に陥る。
(※参考:「産婦人科診療ガイドライン産科編 2020 P164」)
次の文を読み48、49の問いに答えよ。
37歳の初産婦。妊娠経過は順調で、既往歴に特記すべきことはない。妊娠40週5日、自然に陣痛発来した。陣痛発来後20時間、内診所見で、子宮口全開大、展退度100%、Station+3。胎児心拍数陣痛図では、基線細変動の減少を伴う遷延一過性徐脈が出現した。その30分後、経腟分娩により3,320gの男児を出産した。児はApgar〈アプガー〉スコア1分後6点、5分後8点、臍帯動脈血pH7.18であった。
49 胎盤娩出後5分、褥婦は顔面蒼白で冷汗がみられた。総出血量は1,800ml。呼吸数20/分、脈拍120/分、血圧80/60mmHg。ショックインデックスは1.5であった。対応で正しいのはどれか。
1.血液検査の結果を待って輸血の要否を判断する。
2.総出血量が2000mlを超えたら輸血を開始する。
3.収縮期血圧が60mmHg以下になったら輸血を開始する。
4.直ちに輸血を開始する。
解答4
解説
・37歳の初産婦(妊娠経過:順調、既往歴:特記なし)
・妊娠40週5日:経腟分娩により3,320gの男児を出産。
・胎盤娩出後5分:顔面蒼白で冷汗がみられた。
・総出血量:1,800ml。呼吸数20/分、脈拍120/分、血圧80/60mmHg。
・ショックインデックス:1.5。
→上記の評価を正確に読み取ろう。
→ショック指数(ショックインデックス)とは、出血、体液喪失が原因で起こる循環不全を循環血液量減少性ショックといい、重症度の指標としてショック指数(SI)を用いることがある。SI=「脈拍数(心拍数)/収縮期血圧」で表す。1.0で循環血液量のおよそ20%が、1.5でおよそ40%が失われていると考えられる。基準として、正常(0.5)、軽症(1.0)、中等症(1.5)、重症(2.0)となる。
各種対応にも拘わらず、
出血持続と
バイタルサイン異常(乏尿、末梢循環不全)
or SI:1.5以上
or 産科 DIC スコア8点以上
or フィブリノゲン150 ㎎/dL 未満
となれば「産科危機的出血」をコマンダーは宣言し、 一次施設であれば高次施設へ搬送する。
1.4.× 「血液検査の結果を待って」ではなく、直ちに輸血を判断する。したがって、選択肢4.直ちに輸血を開始する。なぜなら、本症例は、ショックインデックスは1.5を超えており、「産科危機的出血」と宣言されるため。「産科危機的出血」と宣言し、①直ちに輸血開始、②高次施設へ搬送する必要がある(※参考:「産科危機的出血への対応指針 2022」日本産科婦人科学会より)。
2.× 総出血量が2000mlを超えたら輸血を開始するという基準はない。妊婦のSI:1は約1.5L、SI:1.5は約2.5Lの出血量であることが推測される(※参考:「産科危機的出血への対応指針 2022」日本産科婦人科学会より)。また、分娩時大量出血の診断基準として、産後24時間以内の出血量が、経腟分娩では500ml以上、帝王切開では1000ml以上の場合、もしくは持続する100bpm以上の頻脈、SI≧1.0の場合があげられる。処置として、子宮双手圧迫、輸液、子宮収縮薬投与などを開始し、系統的に原因検索を行い、原因に即した治療を行う。
3.× 収縮期血圧が60mmHg以下になったら輸血を開始するという基準はない。収縮期血圧が60mmHgの場合、低血圧症状やショック症状がみられている可能性が高く、産科危機的出血に至る前に,出血量が多くなってきたところで先手を打った対処が重要となる。児娩出後 24 時間以内の子宮や産道からの出血量が経腟分娩で 500mL、帝王切開で 1,000mL を超えてなお活動性の出血がある場合が「先手を打つ」目安となる。子宮双手圧迫、輸液、子宮収縮薬投与など初期治療を開始する。止血困難な産後の異常出血および出血性ショック時には産科危機的出血の対応も必要となる。
(※図引用:「産科危機的出血への対応指針 2022」日本産科婦人科学会より)
次の文を読み50~52の問いに答えよ。
在胎37週3日、体重2890gで出生した児。羊水混濁があり、出生直後に啼泣、四肢のチアノーゼ及び胎便がみられた。筋緊張は良好である。
50 最初に行う新生児への処置で適切なのはどれか。
1.皮膚の羊水を乾いたタオルで拭き取る。
2.母親の胸に直接新生児を抱かせる。
3.口鼻腔吸引を行う。
4.皮膚刺激を行う。
解答1
解説
・在胎37週3日(体重2890g:出生)。
・羊水混濁があり。
・出生直後:啼泣、四肢のチアノーゼ及び胎便がみられた。
・筋緊張:良好。
→上記の評価において正常な範囲をしっかりおさえておこう。今回は、羊水混濁があったことから、胎便吸引症候群のリスクがある。胎便吸引症候群とは、出生前または周産期に肺に胎便(暗緑色の、無菌の便)を吸い込んだ新生児にチアノーゼや呼吸困難(呼吸窮迫)がみられることである。酸素不足などのストレスによって反射的にあえぎ、胎便を含む羊水を肺に吸い込んでしまうことなどで起こる。多呼吸、羊水混濁が特徴である。
1.〇 正しい。皮膚の羊水を乾いたタオルで拭き取る。なぜなら、保温や皮膚乾燥を促すため。「NCPRアルゴリズム(下参照)」において、出生直後のチェックポイントは、①早産児、②弱い呼吸・啼泣、③筋緊張低下の3項目である。すべて認めない場合は、ルーチンケア(母親のそばで)①保温、②気道開通、③皮膚乾燥を実施し、さらなる評価を行う必要がある。
2.× 母親の胸に直接新生児を抱かせる優先度は低い。なぜなら、現時点(出生直後)、羊水混濁がある状態であるため。早期母子接触の適応基準として、胎児機能不全がないことがあげられる。まずは、ルーチンケア(母親のそばで)①保温、②気道開通、③皮膚乾燥を実施し、さらなる評価を行う必要がある。
3.× 口鼻腔吸引を行う必要はない。なぜなら、出生直後において、啼泣、四肢のチアノーゼがみられ、筋緊張も良好であることから、気道開通が行えていると考えられるため。
4.× 皮膚刺激を行う必要はない。なぜなら、出生直後において、啼泣がみられているため。皮膚刺激の適応は、新生児が呼吸を始めない場合に行う。
(※図引用:「JRC蘇生ガイドライン2015オンライン版‐第4章 新生児の蘇生(NCPR)」一般社団法人 日本蘇生協議会より)
【早期母子接触の適応基準、中止基準、実施方法】
施設の物理的、人的条件等により、ここに推奨する基本的な実施方法を一部変更せざるを得ない場合がある。そのような場合にも、早期母子接触の効果と安全性について十分に吟味し、母子の最大の利益となるように実施方法を決定する。また、早期母子接触を実施しない選択肢も考慮すべきである。以下に経腟分娩を対象とした各基準を示す。
<適応基準>
①母親の基準
・本人が「早期母子接触」を実施する意思がある
・バイタルサインが安定している
・疲労困憊していない
・医師、助産師が不適切と認めていない
②児の基準
・胎児機能不全がなかった
・新生児仮死がない(1 分・5 分 Apgar スコアが 8 点以上)
・正期産新生児
・低出生体重児でない
・医師、助産師、看護師が不適切と認めていない
<中止基準>
①母親の基準
・傾眠傾向
・医師、助産師が不適切と判断する
②児の基準
・呼吸障害(無呼吸、あえぎ呼吸を含む)がある
・SpO2:90%未満となる
・ぐったりし活気に乏しい
・睡眠状態となる
・医師、助産師、看護師が不適切と判断する
<実施方法>
早期母子接触は母子に対して種々の利点がある。したがって、早期母子接触を実施できない特別な医学的理由が存在しない場合は、周産期医療従事者として、その機会を設けることを考える必要がある。早期母子接触は医療ではなく、ケアであることから、母親とスタッフ間のコミュニケーションがスムーズに行われている必要があり、出産後の母子を孤立させない配慮が大切である。特に、早期母子接触を実施する時は、母親に児のケアを任せてしまうのではなく、スタッフも児の観察を怠らないように注意する必要がある。
・バースプラン作成時に「早期母子接触」についての説明を行う。
・出生後できるだけ早期に開始する。30 分以上、もしくは、児の吸啜まで継続することが望ましい。
・継続時間は上限を 2 時間以内とし、児が睡眠したり、母親が傾眠状態となった時点で終了する。
・分娩施設は早期母子接触を行わなかった場合の母子のデメリットを克服するために、産褥期およびその後の育児に対する何らかのサポートを講じることが求められる。
母親:①「早期母子接触」希望の意思を確認する。②上体挙上する(30 度前後が望ましい)。③胸腹部の汗を拭う。④裸の赤ちゃんを抱っこする。⑤母子の胸と胸を合わせ両手でしっかり児を支える。
児:①ドライアップする。②児の顔を横に向け鼻腔閉塞を起こさず、呼吸が楽にできるようにする。③温めたバスタオルで児を覆う。④パルスオキシメータのプローブを下肢に装着するか、担当者が実施中付き添い、母子だけにはしない。⑤以下の事項を観察、チェックし記録する(呼吸状態:努力呼吸、陥没呼吸、多呼吸、呻吟、無呼吸に注意する。冷感、チアノーゼ、バイタルサイン(心拍数、呼吸数、体温など)、実施中の母子行動)
・終了時にはバイタルサイン、児の状態を記録する。
(※一部引用:「早期母子接触」実施の留意点 日本周産期・新生児医学会HPより)