第97回(H26) 助産師国家試験 解説【午前46~50】

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次の文を読み44~46の問いに答えよ。
 25歳の初産婦。妊娠40週2日。妊娠経過は良好であった。午前5時に陣痛が発来し、午前7時に来院した。身長156cm、体重64kg(非妊時52kg)。胎児推定体重3320g。来院時の診察にて、胎児心拍数は130bpm、第1頭位。内診所見は、子宮口4cm開大、展退度40%、Station-1、未破水で回旋異常はない。

46 その後順調に陣痛が増強し、午後4時30分に破水した。陣痛間欠1分30秒、陣痛発作60秒。内診所見は子宮口全開大、展退度100%、Station+3、回旋は正常。羊水混濁を軽度認めた。さらに2時間後に内診したが所見は変わらず、産瘤が増大している。内診後の胎児心拍数陣痛図を下図に示す。
 今後の方針で最も適切なのはどれか。

1.経過観察
2.オキシトシンの増量
3.鉗子分娩
4.帝王切開

解答

解説

本症例のポイント

・25歳の初産婦(妊娠40週2日)。
・午前5時:陣痛発来、午前7時:来院。
・身長156cm、体重64kg(非妊時52kg)。
・順調に陣痛が増強し、午後4時30分に破水した。
陣痛間欠1分30秒陣痛発作60秒
子宮口全開大、展退度100%、Station+3、回旋は正常。
・羊水混濁を軽度認めた。
2時間後:内診したが所見は変わらず、産瘤が増大
・胎児心拍数陣痛図:遷延一過性徐脈
→本症例は、第2期遷延がみられる。第2期遷延とは、子宮口全開大後に標準の第2期所要時間(初産婦では2時間,経産婦では1時間)を超えて、分娩に至らない状態を指す。分娩第2期の遷延や吸引分娩などは、膀胱や尿道に対する圧迫や損傷のリスクを高め、尿閉を引き起こす可能性がある。したがって、産後の尿閉のリスクファクターは、尿閉硬膜外麻酔による無痛分娩、分娩第2期遷延、鉗子分娩などがあげられる。数日で軽快することがほとんどであるが、まれに自己導尿が必要となることもある。

→変動一過性徐脈とは、15bpm以上の心拍数減少が急速に起こり、開始から回復まで15秒以上2分未満の波形をいう。高度の判断は、①最下点が70 bpm未満で持続時間が30秒以上、②最下点が70 bpm以上80 bpm未満で持続時間が60秒以上で評価する。子宮収縮に伴って発生する場合は、一定の形を取らず、下降度、持続時間は子宮収縮ごとに変動することが多い。緊急時の対応(症状の悪化や胎児仮死のある場合)として、鉗子分娩・吸引分娩及び緊急帝王切開などのほかにも、可能な限り速やかに分娩を完了させる必要がある場合に行われる産科手術で、急速遂娩と呼ばれる。つまり、急速分娩とは、分娩中に母児に危機的状況が生じた場合に、分娩を早めるために、①帝王切開、②鉗子分娩、③吸引分娩などによって児を娩出することである。

1.× 経過観察より優先されるものが他にある。なぜなら、現時点で、異常所見(遷延一過性徐脈)がみられ、医療的処置を行う必要があるため。産瘤とは、赤ちゃんが産道を通過する際に、周囲から圧迫を受けて、頭や足などの皮下にこぶができることである。主に頭に数cmのこぶができることが多く、似た病気に頭血腫と帽状腱膜下血腫があり、見分けることが必要である。産瘤は病的なものではないため、治療の必要はなく、1日から3日で消失する。ちなみに、原因として、分娩の際に、先進部分の頭位であったり、逆子の場合だと、臀部であったり、子宮から出ている部分の圧迫感がなくなるために、体液が貯まりやすく、浮腫が起きやすい。更にお産に時間がかかると、この皮下浮腫が大きくなって、暗赤色の瘤のように見えることがある。

2.× オキシトシンの増量より優先されるものが他にある。なぜなら、陣痛間欠1分30秒、陣痛発作60秒であることから、微弱陣痛ではないため。微弱陣痛とは、一旦分娩開始した(陣痛の間隔が10分以内ごとであり 、痛みを伴う子宮収縮により分娩が進行)にも関わらず、陣痛の強さが弱く、発作の持続が短く、かつ陣痛の間隔が長くなってしまい、分娩が進行しない状態をいう。子宮口の開き具合により、6分30秒以上(子宮口の開き:4~6cm)、6分以上(子宮口の開き:7~8cm)、4分以上(子宮口の開き:9~10cm)が陣痛周期の目安とされている。また、オキシトシンとは、脳下垂体後葉から分泌される。乳汁射出、子宮収縮作用がある。また、分娩開始前後には分泌が亢進し、分娩時に子宮の収縮を促し、胎児が下界に出られるように働きかける。

3.〇 正しい。鉗子分娩を実施する。なぜなら、緊急時の対応が必要が必要であるため。緊急時の対応(症状の悪化や胎児仮死のある場合)として、鉗子分娩・吸引分娩及び緊急帝王切開などのほかにも、可能な限り速やかに分娩を完了させる必要がある場合に行われる産科手術で、急速遂娩と呼ばれる。つまり、急速分娩とは、分娩中に母児に危機的状況が生じた場合に、分娩を早めるために、①帝王切開、②鉗子分娩、③吸引分娩などによって児を娩出することである。鉗子分娩とは、児頭を鉗子で挟み児を娩出させる急速遂娩法である。先進児頭の下降度によって、①低在鉗子(出口鉗子)、②中在鉗子、③高在鉗子に分けられる。①低在鉗子(出口鉗子)の定義は諸説あるが、おおむねStation+2~+3以上である。術前に陰部神経麻酔、硬膜外麻酔を行うことが望ましい。

4.× 帝王切開より優先されるものが他にある。なぜなら、今回はStation+3(かつ子宮口全開大、回旋異常なし)であり、鉗子分娩で迅速に分娩を完了できる可能性が高いため。産瘤の増大も認められるため、吸引分娩より鉗子分娩が優先される。

帝王切開術の適応

①母体適応:児頭骨盤不均衡 前置胎盤,子宮破裂,重症妊娠高血圧症候群,常位胎盤早期剝離,分娩停止,分娩遷延など。
②胎児適応:胎児機能不全(胎児ジストレス),臍帯脱出,子宮内胎児発育遅延,切迫早産,前期破水,多胎など。

 

 

 

 

 

次の文を読み47~49の問いに答えよ。
 Aさん(38歳、初産婦)。妊娠糖尿病。妊娠中は、自己血糖測定、インスリン自己注射を行い、食事は6回の分割食とし血糖コントロールは良好であった。3100gの児を正常分娩にて出産し母児同室中である。産褥1日。医師からインスリン注射について「今は使用しなくてよいでしょう。今後は血糖値の変化をみながら使用について判断していきましょう」と説明があった。

47 産褥2日。血糖値は朝食前80mg/dl、朝食後2時間120mg/dlであった。助産師が訪室すると直接授乳を行っている。
 このときの対応で適切なのはどれか。

1.このまま経過を観察する。
2.飴をなめるように促す。
3.直ちに母乳を中止する。
4.直ちにインスリン注射の準備をする。

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(38歳、初産婦、妊娠糖尿病)。
・妊娠中:自己血糖測定、インスリン自己注射。
・食事6回の分割食とし血糖コントロール:良好。
・母児同室中(3100gの児を正常分娩)。
・産褥1日:医師からインスリン注射について「今は使用しなくてよいでしょう。今後は血糖値の変化をみながら使用について判断していきましょう」と。
・産褥2日:血糖値は朝食前80mg/dl、朝食後2時間120mg/dl
・助産師が訪室すると直接授乳を行っている。
→妊娠糖尿病とは、妊娠中にはじめて発見、または発症した糖尿病まではいかない糖代謝異常のことである。糖代謝異常とは、血液に含まれる糖の量を示す血糖値が上がった状態である。肥満女性は妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、帝王切開分娩、巨大児などのリスクが高い。日本糖尿病学会においては、妊娠中は、朝食前血糖値70~100mg/dL以下食後2時間血糖値120mg/dL以下、HbA1c:6.2%未満を血糖コントロールの目標とする。

1.〇 正しい。このまま経過を観察する。なぜなら、本症例の血糖値は朝食前80mg/dl、朝食後2時間120mg/dl(目標:朝食前血糖値70~100mg/dL以下、食後2時間血糖値120mg/dL以下)であるため。したがって、現在の血糖値は正常範囲であり、直ちに介入は低い。

2.× 飴をなめるように促す必要はない。なぜなら、低血糖症状はみられていないため。つまり、飴玉をなめる行動は、血糖値を上昇させるために行う。

3.× 直ちに母乳を中止する必要はない。なぜなら、現在、感染症などの疑いもないため。一般的に、妊娠糖尿病でも授乳をして問題ないとされている。

4.× 直ちにインスリン注射の準備をする必要はない。なぜなら、現在の血糖値は正常範囲であるため。インスリン注射は、血糖値を下降させる効果が期待できる。

低血糖症状

血糖値が低下するとカテコラミン(インスリン拮抗ホルモン)の分泌が上昇し、交感神経刺激症状が出現する。さらに血糖値が低下すると脳・神経細胞の代謝が低下し、中枢神経症状が出現する。頭痛や空腹感などの比較的軽度な症状から始まるが血糖値が低下し続けると昏睡に至る。低血糖症状は、①自律神経症状と②中枢神経症状に分けられる。①自律神経症状は、冷感・顔面蒼白・頻脈・動悸・発汗・手の震え・空腹感などである。②中枢神経症状は、頭痛・集中力低下・視力低下・痙攣・昏睡などである。予防法として、飴や角砂糖などを携帯してもらう。

 

 

 

 

 

次の文を読み47~49の問いに答えよ。
 Aさん(38歳、初産婦)。妊娠糖尿病。妊娠中は、自己血糖測定、インスリン自己注射を行い、食事は6回の分割食とし血糖コントロールは良好であった。3100gの児を正常分娩にて出産し母児同室中である。産褥1日。医師からインスリン注射について「今は使用しなくてよいでしょう。今後は血糖値の変化をみながら使用について判断していきましょう」と説明があった。

48 産褥6日。母乳分泌は良好で、授乳は母乳のみで行っている。児の体重は3150g、経過は順調である。1日の摂取エネルギーは1800kcal。退院後、食事療法で血糖コントロールを行うことになった。
 退院指導で適切なのはどれか。

1.「授乳前には軽い食事を摂るといいですよ」
2.「授乳を30分程度で切り上げて血糖値の変動を抑えましょう」
3.「母乳分泌量が増えてもこのまま1800kcalを維持しましょう」
4.「母乳を続けた方が、将来Aさんが糖尿病になりにくくなります」

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(38歳、初産婦、妊娠糖尿病)。
・母児同室中(3100gの児を正常分娩)。
・産褥6日:母乳分泌は良好、授乳は母乳のみで行っている。
・児の体重は3150g、経過は順調である。
・1日の摂取エネルギー:1800kcal。
・退院後、食事療法血糖コントロールを行う。
→妊娠糖尿病に対する退院指導をおさえておこう。

1.× 「授乳前」ではなく、血糖値の変化を考慮して食事を摂るように指導する。なぜなら、授乳中の低血糖を予防するため。特に食事のタイミングについては、インスリンの効果にも配慮しする必要がある。

2.× 「授乳を30分程度で切り上げて血糖値の変動を抑えましょう」と伝える必要はない。なぜなら、妊娠糖尿病の授乳のタイミングも一般的な、「自律授乳」が基本となるため。自律授乳とは、児が欲しがるときに欲しがるだけ飲ませる授乳方法のことである。児に吸われる刺激によって母乳分泌が促されて母乳育児がスムーズになることから、とくに生後1~2か月ぐらいまでの間は自律授乳が推奨されている。また、血糖値の変動は、授乳時間ではなく「授乳量」に影響を受けやすい。授乳による血糖値の変動は母乳分泌量に影響しており、時間で授乳を切り上げることで血糖値の変動を抑えられるわけではない。また、授乳時間を短縮することで、血糖値の変動を正確に評価することができなくなる恐れがある。

3.× 母乳分泌量が増えた場合、「1800kcalの維持」ではなく再検討が必要である。なぜなら、母乳分泌量が増えると低血糖になる可能性があるため。出産後は、妊娠中に比べ血糖が下がるため、妊娠中のインスリン量をそのまま続けると低血糖を起こす。授乳が始まるとさらに血糖値は下がる。したがって、血糖値を見ながらインスリンを減量していかなければならない。授乳をしている間は、食事エネルギー量を増やす。目安として、母乳100mLにつき1単位(80キロカロリー)であるが、母体の体重の変化も見ながらエネルギー量を決めていく必要がある。どのような食品をどのタイミングでとるか主治医および栄養士の指導を受ける。(参考:「糖尿病と妊娠に関するQ&A」日本糖尿病・妊娠学会HPより)

4.〇 正しい。「母乳を続けた方が、将来Aさんが糖尿病になりにくくなります」と指導する。妊娠糖尿病の母乳育児にはいくつかのメリットが報告されている(※下参照)。

母乳を飲ませてもいいのですか?

Q.母乳を飲ませてもいいのですか?
A.母乳は飲ませてください。授乳は母親にも子供にも糖尿病によいことが見出されています。
①授乳は2型糖尿病の発症予防につながる。
②1型糖尿病の発生率は母乳を飲んでいた子供で低い。
③妊娠糖尿病だった女性では授乳が糖尿病への進行を抑える。
④糖尿病母体から生まれた子供では母乳を飲んだ子の方が肥満や糖尿病の発生が少ない。
などの研究発表がある。

(参考:「糖尿病と妊娠に関するQ&A」日本糖尿病・妊娠学会HPより)

 

 

 

 

 

次の文を読み47~49の問いに答えよ。
 Aさん(38歳、初産婦)。妊娠糖尿病。妊娠中は、自己血糖測定、インスリン自己注射を行い、食事は6回の分割食とし血糖コントロールは良好であった。3100gの児を正常分娩にて出産し母児同室中である。産褥1日。医師からインスリン注射について「今は使用しなくてよいでしょう。今後は血糖値の変化をみながら使用について判断していきましょう」と説明があった。

49 出産後6か月、定期検査のため来院し、血糖値は正常であった。Aさんは「退院後は自分の食事療法と初めての育児で毎日が大変でした。でも、最近は自分なりの育児ができるようになり、母乳哺育で頑張っています。次の妊娠のことを考えています」と言う。
 Aさんへの説明として最も適切なのはどれか。

1.「妊娠するたびに妊娠糖尿病は重症化します」
2.「授乳中の避妊には低用量ピルを使いましょう」
3.「お子さんたちは糖尿病になる心配はないでしょう」
4.「次の妊娠は血糖コントロールが良い時にしましょう」

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(38歳、初産婦、妊娠糖尿病)。
・3100gの児を正常分娩。
・出産後6か月:血糖値は正常。
・Aさん「退院後は自分の食事療法と初めての育児で毎日が大変でした。でも、最近は自分なりの育児ができるようになり、母乳哺育で頑張っています。次の妊娠のことを考えています」と。
→本症例は、「次の妊娠のことを考えています」と挙児希望である。挙児希望とは、医療現場では来院時に子どもを生むことを希望している場合を呼ぶ。ただし、施設や論文の中で、それぞれ厳密に異なるときがあり、すぐにではなくとも将来的に子どもを望んでいれば 「挙児希望」に含まれることもある。

→2型糖尿病の原因は、生活習慣の乱れなどによるインスリンの分泌低下である。妊娠糖尿病とは、妊娠中にはじめて発見、または発症した糖尿病まではいかない糖代謝異常のことである。糖代謝異常とは、血液に含まれる糖の量を示す血糖値が上がった状態である。肥満女性は妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、帝王切開分娩、巨大児などのリスクが高い。

1.× 妊娠するたびに妊娠糖尿病は、「重症化する」という科学的根拠はない。ただし、妊娠糖尿病の既往がある女性は、将来の妊娠で再び妊娠糖尿病を「発症」するリスクは高い。適切な血糖コントロールと管理によって、重症化を防ぐことが必要である。

2.× 授乳中の避妊に、低用量ピルは禁忌である。なぜなら、低用量ピルの使用(エストロゲン投与)は、乳汁分泌量を減らし、授乳期間を短縮する可能性や母乳を通して新生児に与える影響が不明のため。ピルの服用が禁忌となるものとして、分娩後6週未満の授乳婦、高血圧、喫煙、肥満、高年齢(40歳以上は慎重投与)、糖尿病妊娠・授乳中、手術前・手術後、肝機能障害などがあげられる。主な副作用は、①不正出血、②吐き気、③気分の落ち込みや変化、④肌荒れ、⑤乳房の張りなどである。その中でも一番多い症状は不正出血で、服用者の約20%が経験するといわれている。低用量ピルとは、毎日同じ時間に服用できれば99.7%の避妊効果があり、飲み忘れたとしても91%の避妊効果を期待できる。また、ピルに含まれる女性ホルモンを体内に取り入れることで脳をだまし、排卵日に排卵が起こらないようにして妊娠を防ぐ仕組みである。

3.× 「お子さんたちは糖尿病になる心配はないでしょう」と断言することはできない。むしろ、妊娠糖尿病の母親から生まれた子どもは、将来的に肥満や糖尿病のリスクが高くなる可能性が示唆されている。これは遺伝的な要因のほか、環境的要因の影響を受けるためとされている。そのため、子どもの成長に合わせた健康的な食生活や体重管理が重要である。

4.〇 正しい。「次の妊娠は血糖コントロールが良い時にしましょう」と伝える。なぜなら、血糖コントロールを良好に保つことで、妊娠中の血糖管理も容易になり、母体や胎児に対するリスクを減少させることが期待できるため。例えば、妊娠糖尿病の胎児への影響として、胎児に栄養が届かないことで発育不全、巨大児、先天奇形、新生児低血糖といった影響が起こる可能性が考えられる。

 

 

 

 

 

次の文を読み50~52の問いに答えよ。
 36歳の2回経産婦。妊娠経過は順調であった。妊娠39週5日、2680gの児を正常分娩で出産した。会陰裂傷はなく、出血量は250mlであった。乳房の形はⅡa、短乳頭であった。前回は人工栄養であったが、今回は母乳栄養を希望している。

50 産褥1日。訪室すると、下腹部をおさえ顔をしかめて直接授乳を行っていた。授乳前の診察で子宮底の高さ臍下3横指、硬度良好、悪露は血性で少量、凝血塊はない。
 このときの対応で適切なのはどれか。

1.子宮収縮抑制薬の投与を医師と相談する。
2.今回の授乳を一時中断する。
3.輪状マッサージを行う。
4.ベッド上安静とする。

解答

解説

本症例のポイント

・36歳の2回経産婦(妊娠経過:順調)。
・妊娠39週5日:正常分娩(2680gの児)。
・会陰裂傷はなく、出血量は250ml。
・産褥1日:下腹部をおさえ顔をしかめて直接授乳を行っていた。
・授乳前:子宮底の高さ臍下3横指硬度良好悪露は血性で少量、凝血塊はない。
→本症例は、正常分娩で、分娩前・後も子宮復古状態を含め良好な経過をたどっている。ただし、強い後陣痛の訴えがある。後陣痛とは、赤ちゃんを出産した後に、子宮が元の大きさに戻ろうと収縮する時に生じる痛みのこと(生理的反応)である。子宮を収縮させることで、胎盤が剥がれた部分の血管断裂部を圧迫し、止血する役割がある。子宮復古を促進する生理な反応のひとつであり、初産婦に比べ経産婦で強い。

1.× 子宮収縮抑制薬の投与を医師と相談する必要はない。なぜなら、本症例は、正常分娩で、分娩前・後も子宮復古状態を含め良好な経過をたどっているため。子宮収縮抑制薬の臨床応用としては、切迫早産や切迫流産の際に子宮収縮(陣痛)を抑制するのに用いられる。投与中に過度の心拍数増加(頻脈)があらわれた場合には、減量するなど適切な処置を行うことが求められる。主な副作用として、動悸、振戦(手足の震え)、吐き気、発疹などが報告されている。胎児には、頻脈、不整脈があらわれる。作用機序として、β受容体刺激剤の中でも強いβ2選択性により、細胞内c-AMPを上昇させ、子宮収縮抑制効果を示す。

2.〇 正しい。今回の授乳を一時中断する。なぜなら、本症例は、後陣痛が強いため。これは、授乳時の乳頭への吸啜刺激が、後陣痛促進作用のあるオキシトシンの放出を促進したためと考えられる。オキシトシンとは、脳下垂体後葉から分泌される。乳汁射出、子宮収縮作用がある。また、分娩開始前後には分泌が亢進し、分娩時に子宮の収縮を促し、胎児が下界に出られるように働きかける。児の吸啜刺激によって分泌が亢進し、分娩後の母体の子宮筋の収縮を促す。

3.× 輪状マッサージを行う必要はない。なぜなら、本症例は、正常分娩で、分娩前・後も子宮復古状態を含め良好な経過をたどっているため。子宮底部の輪状マッサージとは、子宮筋を刺激して、子宮収縮を促進させるマッサージである。排尿・排便を定期的に促し、膀胱・直腸充満からの圧迫による子宮収縮不全を防止する。早期離床を促し、悪露の貯留による子宮収縮不全を防止する。

4.× ベッド上安静とする必要はない。なぜなら、後陣痛は生理的な現象であるため。通常の日常生活や授乳を続けながら対応していくことが推奨される。

子宮復古の状態

子宮復古不全とは、妊娠によって大きくなった子宮が出産を終えて元に戻る過程である子宮復古に異常が起き、通常の子宮収縮が認められない病態である。 原因は、①子宮内に胎盤の一部が残っている場合(子宮内残留)や、②母体疲労によるもの、③胎盤や卵膜の子宮内感染など原因は多岐に渡る。

・分娩直後:①子宮底長(11~12cm)、②子宮底の高さ(臍下2~3横指)、③悪露の色調・におい(赤色:鮮血性、血液のにおい)
・分娩後12時間:①子宮底長(15cm)、②子宮底の高さ(臍高~臍上1~2横指少し右方に傾く)、③悪露の色調・におい(赤色:鮮血性、血液のにおい)
・1~2日:①子宮底長(11~17cm)、②子宮底の高さ(臍下1~2横指)、③悪露の色調・におい(赤色:鮮血性、血液のにおい)
・3日:①子宮底長(9~13cm)、②子宮底の高さ(臍下2~3横指)、③悪露の色調・におい(褐色、赤褐色:軽い異臭)
・4日:①子宮底長(9~10cm)、②子宮底の高さ(臍と恥骨結合の中央:臍恥中央)、③悪露の色調・におい(褐色、赤褐色:軽い異臭)
・5日:①子宮底長(8~11cm)、②子宮底の高さ(恥骨結合上縁3横指)、③悪露の色調・におい(褐色、赤褐色:軽い異臭)
・6日:①子宮底長(8~11cm)、②子宮底の高さ(恥骨結合上縁3横指)、③悪露の色調・におい(褐色、赤褐色:軽い異臭)
・7~9日:②子宮底の高さ(恥骨結合上わずかに触れる)、③悪露の色調・におい(褐色、赤褐色:軽い異臭)
・10日以降~3週間:②子宮底の高さ(腹壁上より触知不能)、③悪露の色調・におい(黄色・無臭)
・4~6週間:③悪露の色調・におい(白色・無臭)

 

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