第97回(H26) 助産師国家試験 解説【午後41~45】

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次の文を読み39~41の問いに答えよ。
 53歳の女性。4回経妊3回経産婦。第1子は4100gで、鉗子分娩であった。48歳で閉経。夫は50歳で健在。初診時、身長145cm、体重70kg。6か月前から夕方になると外陰部に違和感を感じるようになったと話す。また、トイレが近く、尿を我慢していると立ち上がった時に少し漏れるという。診察すると、膀胱が努責により腟口から2cm上方まで下垂してくる。

41 3か月が経過した。「体操で膀胱が下がってくる感じは良くなったけれど、トイレが近いのが治りません。夜に何度もトイレに起きるので睡眠不足です」と訴えている。外来受診の際、排尿後の導尿で残尿は80mlであった。
 この女性に対する治療として考慮されるのはどれか。

1.腟閉鎖術
2.抗コリン薬の内服
3.定時的な自己導尿
4.排尿時の下腹部圧迫

解答

解説

本症例のポイント

・53歳の女性(4回経妊3回経産婦。第1子は4100g、鉗子分娩、48歳で閉経)。
・初診時:身長145cm、体重70kg。
骨盤臓器脱(腹圧性尿失禁)が疑われる。
・希望:保存的治療(骨盤底筋体操を指導)。
・3か月が経過「体操で膀胱が下がってくる感じは良くなったけれど、トイレが近いのが治りません。夜に何度もトイレに起きるので睡眠不足です」と。
・排尿後の導尿:残尿は80ml
→腹圧性尿失禁(過活動膀胱)に対する治療をおさえておこう。過活動膀胱とは、膀胱の蓄尿期において尿意切迫感があり、頻尿や尿失禁をきたす疾患である(切迫性尿失禁)。明らかな神経学的異常に起因する神経因性過活動膀胱と、原因を特定できない非神経因性過活動膀胱に分けられる。原因として、①加齢、②骨盤底筋の低下、③生活習慣病、④肥満などと関連するといわれている。有病率は高齢になるほど高くなる。過活動膀胱では、膀胱訓練や骨盤底筋訓練など機能訓練を行い、薬物療法で治療を行う。

骨盤底筋は子宮、膀胱、直腸を含む骨盤臓器を支える筋肉で、骨盤底筋を強化することで尿漏れ対策となる。仰臥位が基本的な姿勢であるが、伏臥位や座位など日常生活の中でどんな姿勢で行ってもよい。座位や膝立て背臥位などで、上体の力を抜いてお尻の穴を引き上げて「きゅっ」とすぼめ、5秒キープする動作を10~20回ほど繰り返す方法と、すぼめたりを繰り返す方法の2種類ある。

膀胱訓練とは、排尿の間隔を徐々に延長し、膀胱にためることができる尿量を徐々に増やしていくものである。最初は30秒程度からスタートし、徐々に我慢する時間を延ばしていく。

1.× 腟閉鎖術より優先されるものが他にある。なぜなら、本症例の現在の主訴は尿失禁であるため。腟閉鎖術とは、重度の骨盤臓器脱(膀胱瘤や子宮脱など)の場合に行われる手術で、腟を閉鎖し臓器の脱出を防ぐものである。頻尿や残尿の問題には直接効果がない。

2.〇 正しい。抗コリン薬の内服が最も優先される。抗コリン薬は、アセチルコリンの働きを抑えて副交感神経を抑制し、交感神経を優位にする働きを持つ。抗コリン作用により膀胱の過剰な収縮を抑え、神経因性膀胱や過活動膀胱などによる尿意切迫感や頻尿などの改善が期待できる。

3.× 定時的な自己導尿より優先されるものが他にある。なぜなら、定時的な自己導尿は、神経因性膀胱に適応となるため。神経因性膀胱とは、排尿に関与する神経の障害によって膀胱機能に異常が生じた病態である。主に、間欠自己導尿を用い排尿する。間欠自己導尿とは、何らかの原因によって自分で尿を出せなくなった場合に、一定時間ごとに尿道から膀胱にカテーテルを入れて、膀胱内に溜まった尿を排泄する方法である。

4.× 排尿時の下腹部圧迫より優先されるものが他にある。なぜなら、本症例の残尿は80mlであるため。つまり、排尿時の下腹部圧迫により残尿を減少させる優先度は低い。一般的に排尿直後が数ml~15ml程度で、50ml未満が正常とされている。高齢者であれば100ml未満であれば臨床的に問題とならないことが多い。

 

 

 

 

 

次の文を読み42~44の問いに答えよ。
 29歳の初産婦。妊娠32週2日。これまでの妊娠経過は順調である。身長160cm、体重61kg(非妊時体重53kg)。血圧136/72mmHg。尿蛋白(-)、尿糖(-)。子宮底長27cm。下肢に軽度の浮腫を認める。頭位で児背は母体の左側。胎児心拍数120bpm。胎児推定体重1600g、AFIは20cmであった。

42 現時点の胎児のアセスメントで正しいのはどれか。

1.発育は正常である。
2.第2胎向である。
3.羊水過多である。
4.胎児心拍数は少ない。

解答

解説

本症例のポイント

・29歳の初産婦(妊娠32週2日、妊娠経過は順調)。
・身長160cm、体重61kg(非妊時体重53kg)。
・血圧136/72mmHg。尿蛋白(-)、尿糖(-)。子宮底長27cm。
・下肢に軽度の浮腫あり。
・頭位:児背は母体の左側
・胎児心拍数120bpm胎児推定体重1600g、AFIは20cm
→上記の評価を正確に読み取れるようにしよう。

(※引用:「胎児計測と胎児発育曲線について」産婦人科学会様HPより)

(※図引用:「看護roo!看護師イラスト集」)

1.〇 正しい。発育は正常である。本症例(妊娠32週)の胎児推定体重は1600gである。妊娠32週の平均値は1805g、-2.0SDは1368g、+2.0SDは2242gである(下図参照)。したがって、若干小さいが、明らかに発育不全を示すほどの差ではなく、正常範囲内と判断できる。

2.× 「第2胎向」ではなく第1胎向である。なぜなら、本症例の頭位:児背は母体の左側であるため。第1頭位とは、胎児の背中が母体の左手側にあることをいう。つまり第1頭位の場合、入口部における小泉門は母体の左方にある。第2頭位とは、胎児の背中が母体の右手側にあることをいう。

3.× 羊水過多であるとはいえない。なぜなら、本症例のAFIは20cmであるため。羊水過多とは、羊水量が800 mLを超える場合であり、母体の糖尿病や児が羊水をうまく飲めない消化管閉鎖などが原因となることが多い。診断方法は超音波検査によるamniotic fluid index(AFI)の計測であり、AFIの正常範囲は5~24cmであり、24cm以上は羊水過多を意味する。

4.× 胎児心拍数は少ないとはいえない。なぜなら、本症例の胎児心拍数は120bpmであるため。胎児の正常心拍数は110~160bpmで、頻脈は160bpm以上をいう。

胎児心拍数陣痛図の基準値

胎児心拍数基線は、10分間の区間の平均心拍数で5の倍数で表現する。基線は一過性変動部分や基線細変動増加の部分は除外し、2分間以上持続している部分で判断する。胎児心拍数基線細変動は、胎児心拍数基線が判読可能な部分で判読する。基線細変動は、胎児心拍数基線の細かい変動で、定義上、1分間に2サイクル以上の胎児心拍数の変動で、振幅、周波数とも規則性がないものを指す。

①胎児心拍数基線
・頻脈:160bpm以上
・正常脈:110bpm~160bpm
・徐脈:110bpm未満

②胎児心拍数基線細変動
・細変動消失:肉眼的に認められない
・細変動減少:5bpm以下
・細変動中等度:6~25bpm
・細変動増加:26bpm以上

 

 

 

 

 

次の文を読み42~44の問いに答えよ。
 29歳の初産婦。妊娠32週2日。これまでの妊娠経過は順調である。身長160cm、体重61kg(非妊時体重53kg)。血圧136/72mmHg。尿蛋白(-)、尿糖(-)。子宮底長27cm。下肢に軽度の浮腫を認める。頭位で児背は母体の左側。胎児心拍数120bpm。胎児推定体重1600g、AFIは20cmであった。

43 妊娠34週2日。妊婦健康診査を受診した。散歩中に子宮収縮が時々みられるが、少し休むと落ち着くという。体重62kg。血圧134/76mmHg。尿蛋白(-)、尿糖(-)。Hb11.3g/dl、Ht34%。子宮底長29cm。下肢に軽度の浮腫を認める。内診所見で子宮口は閉鎖。経腟超音波検査で子宮頸管長は30mmであった。
 この時点の母体のアセスメントで適切なのはどれか。

1.正常経過
2.切迫早産
3.軽症の貧血
4.妊娠高血圧症候群

解答

解説

本症例のポイント

・29歳の初産婦(妊娠34週2日、妊娠経過は順調)。
・身長160cm、体重61kg(非妊時体重53kg)。
・散歩中に子宮収縮が時々みられるが、少し休むと落ち着くという。
・体重62kg。血圧134/76mmHg。尿蛋白(-)、尿糖(-)。
Hb11.3g/dlHt34%。子宮底長29cm。
・下肢に軽度の浮腫あり。子宮口は閉鎖、子宮頸管長は30mm
→上記の評価を正確に読み取れるようにしよう。

1.〇 正しい。正常経過といえる。本症例の散歩中に子宮収縮が時々みられるが、少し休むと落ち着くというものは、Braxton-Hicks〈ブラクストン・ヒックス〉収縮といえ、正常な範囲である。Braxton-Hicks<ブラックストン・ヒックス>収縮とは、「偽陣痛、本陣痛への練習」 とも呼ばれており、本陣痛の時に感じる収縮と似ている。子宮口は開いていないが、不規則な子宮収縮をすることで、母体の子宮が出産への準備をしている。

2.× 切迫早産は考えにくい。なぜなら、本症例の子宮頸管長は30mm(出血や頻回な子宮収縮の症状もない)であるため。ちなみに、切迫早産とは、子宮収縮が規則的かつ頻回に起こることにより子宮口が開き、早産となる危険性が高い状態である。頸管長が妊娠28週未満で30mm未満は切迫早産と診断とされる場合が多い。破水が先に起きたり、同時に起きたりすることもある。切迫早産の主な症状は、下腹部の張り、生理痛のような下腹部や腰の痛みである。このような症状がある場合には、まず横になって安静に促す。

3.× 軽症の貧血は考えにくい。なぜなら、本症例のHb11.3g/dlHt34%であるため。(Hb)ヘモグロビンとは、酸素分子と結合する性質を持ち、肺から全身へと酸素を運搬する役割を担っている。へモグロビン(Hb値):基準値 男性14~18g/dl、女性12~16g/dl. 血液中のヘモグロビンの量を示している。 へモグロビンは赤血球に含まれ、酸素を全身に運ぶ重要な役目を果たしており、減少すると「貧血」を起こす。世界保健機構(WHO)は妊娠中の場合はHb <11 g/dL、あるいはHt < 33%の場合で貧血と定義している。また、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)では妊娠中期はHb < 10.5 mg/dL、Ht < 32%としているが、それ以外の妊娠初期と後期に関してはWHOと同じ基準になっている。

4.× 妊娠高血圧症候群は考えにくい。なぜなら、本症例の血圧134/76mmHgであるため。妊娠高血圧症候群とは、妊娠時に高血圧(収縮期血圧140mmHg以上、または拡張期血圧90mmHg以上)を発症した場合をいう。妊娠前から高血圧を認める場合、もしくは妊娠20週までに高血圧を認める場合を高血圧合併妊娠という。妊娠20週以降に高血圧のみ発症する場合は妊娠高血圧症、高血圧と蛋白尿を認める場合は妊娠高血圧腎症と分類される。

(※図引用:「妊娠高血圧腎症の診断」著:神田昌子より)

 

 

 

 

 

次の文を読み42~44の問いに答えよ。
 29歳の初産婦。妊娠32週2日。これまでの妊娠経過は順調である。身長160cm、体重61kg(非妊時体重53kg)。血圧136/72mmHg。尿蛋白(-)、尿糖(-)。子宮底長27cm。下肢に軽度の浮腫を認める。頭位で児背は母体の左側。胎児心拍数120bpm。胎児推定体重1600g、AFIは20cmであった。

44 この妊婦から「最近、おなかが大きくなってきて夜眠れません。どうしたらよいでしょう」と質問があった。
 説明で適切なのはどれか。

1.運動を控えるように説明する。
2.日中は起きているように勧める。
3.Sims〈シムス〉位で休むことを勧める。
4.睡眠薬の処方を医師に依頼するように勧める。

解答

解説

本症例のポイント

・29歳の初産婦(妊娠34週2日、妊娠経過は順調)。
・身長160cm、体重61kg(非妊時体重53kg)。
・「最近、おなかが大きくなってきて夜眠れません。どうしたらよいでしょう」と。
→妊婦は、腰痛やストレスなどで睡眠に支障をきたすことが多い。

(図:シムス位)

シムス位とは?

Sims位とは、腹臥位に近い側臥位である。お腹を押しつぶすことなく敷布団に預けることができるため、重苦しさを感じにくい寝姿勢である。膣や直腸の診察に用いる体位で、妊婦特有の違和感をやわらげる効果も期待できる。

1.× 運動を控えるように説明する必要はない。むしろ、 適度な運動は、妊娠中の健康維持やストレス軽減し、夜間の睡眠の質を向上させることにつながる。

2.× 日中は起きているように勧める必要はない。なぜなら、本症例は「おなかが大きくなってきて夜眠れません」と訴えているため。日中起きていようが、腹部の大きさは変化しないため、寝れない可能性のほうが高い。

3.〇 正しい。Sims〈シムス〉位で休むことを勧める。なぜなら、シムス位は、お腹を押しつぶすことなく敷布団に預けることができるため。重苦しさを感じにくい寝姿勢であり、睡眠の改善に期待できる。

4.× 睡眠薬の処方を医師に依頼するように勧めるより優先されるものが他にある。なぜなら、最初から薬に頼るより、ほかに行えることがあるため。一般的に、通常用いられている睡眠薬は、妊娠後期はもちろん、妊娠前から妊娠初期にかけて継続的に服用していても、胎児への影響はないことが多い。 ただし、妊娠中の薬物療法の基本は、「必要最少の量を必要最短の期間用いる」こと優先される。出産後も睡眠薬に頼る生活になりかねない。

 

 

 

 

 

次の文を読み45~47の問いに答えよ。
 Aさん(40歳、初産婦)。妊娠38週2日。午後7時にAさんは電話で「午後4時からときどき子宮収縮がありましたが、午後6時からは10分間隔で今も変わりません。2日前の妊婦健康診査で、子宮の出口は3cm開いていると言われました。出血、破水やいきみたい感じはありません。B群溶連菌陽性と言われています」と落ち着いて話した。夫の立会い分娩の予定だが、夫はまだ帰宅していない。

45 Aさんから追加して確認すべき情報で最も適切なのはどれか。

1.切迫早産入院の有無
2.最後の排便時刻
3.夕食摂取の有無
4.夫の帰宅時刻
5.胎動の有無

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(40歳、初産婦、妊娠38週2日、B群溶連菌)。
・2日前:子宮出口は3cm開口。出血、破水やいきみ:なし。
・午後4時:ときどき子宮収縮。
・午後6時からは10分間隔今も変わりません
・予定:夫の立会い分娩(夫はまだ帰宅せず。)
→Aさんの状態を正しく聞き出し、適切な指示を出せるようになろう。

1.× 切迫早産入院の有無より優先されるものが他にある。なぜなら、Aさん(初産婦、妊娠38週2日)は、切迫早産の基準に該当しないため。切迫早産とは、子宮収縮が規則的かつ頻回に起こることにより子宮口が開き、早産となる危険性が高い状態である。頸管長が妊娠28週未満で30mm未満は切迫早産と診断とされる場合が多い。破水が先に起きたり、同時に起きたりすることもある。切迫早産の主な症状は、下腹部の張り、生理痛のような下腹部や腰の痛みである。このような症状がある場合には、まず横になって安静に促す。

2~3.× 最後の排便時刻/夕食摂取より優先されるものが他にある。なぜなら、排便時刻/夕食摂取は、陣痛や分娩には直接関係がないため。

4.× 夫の帰宅時刻より優先されるものが他にある。なぜなら、立ち合い分娩より生命に直結するAさんと胎児の状態が優先されるため。

5.〇 正しい。胎動の有無がAさんから追加して確認すべき情報である。なぜなら、胎動の有無は、胎児の酸素供給が正常であることを示す重要な指標であるため。本症例の場合、現在のところ異常所見はないが、胎児の健康状況を把握するために、胎動の有無の確認が優先される。

MEMO

B群レンサ球菌とは、膣内に常在することのある細菌で、妊婦以外では、膀胱炎などの尿路感染症でもおこさない限り問題となることは少ない。ところが、出産時にこのB群レンサ球菌が膣内に存在すると、生まれる新生児に敗血症、髄膜炎、肺炎などの重症のB群レンサ球菌感染症を起こすことがありえることが知られている。この母から子への感染が問題とされている。B群連鎖球菌は、新生児における、敗血症や髄膜炎、肺炎の主要な原因菌の一つである。髄膜炎が死亡原因となることや、髄膜炎の後遺症として、聴力や視力が失われたり、運動や学習の障害などが残る場合もある。妊婦では、膀胱炎や子宮の感染症(羊膜炎、子宮内膜炎)、死産を起こすことがある。妊婦以外では、尿路感染症、敗血症、皮膚・軟部組織の感染症および肺炎を起こすことがあり、死亡例もある(※参考:「B群レンサ球菌(GBS)感染症について」横浜市HPより)。

 

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