第96回(H25) 助産師国家試験 解説【午後1~5】

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1 日本で着床前診断の対象となる疾患はどれか。

1.フェニルケトン尿症
2.Down〈ダウン〉症候群
3.Turner〈ターナー〉症候群
4.Duchenne〈デュシェンヌ〉型筋ジストロフィー

解答

解説

着床前診断とは?

着床前診断とは、体外受精や顕微授精によって得られた受精卵(胚)の染色体や遺伝子を検査し、異常がないかどうかを調べる技術である。

着床前診断の対象は
1)医学的に重い遺伝性の病気が子どもに伝わる可能性がある方
PGT-M(日本産科婦人科学会の会告では、「重篤な遺伝性疾患」)

2)ご夫婦の染色体の形の変化が原因で、流産を繰り返される方
PGT-SR (日本産科婦人科学会の会告では、「染色体転座に起因する習慣流産(反復流産を含む)」)

(※参考:「着床前診断のはなしPGT-M, PGT-SR 編」)

1.× フェニルケトン尿症とは、指定難病の一つの遺伝性疾患で、症状は、通常生後数か月から2歳頃までに脳の発達障害を来す。小頭症、てんかん、重度の精神発達遅滞、行動上の問題などの徴候と症状を示す。特有の尿臭(ネズミ尿臭、カビ臭)、赤毛、色白、湿疹がみられることがある。したがって、血液中にフェニルアラニンの高値が続くと、知的能力の発達が同年代の人に比べて低い水準となる知的障害の原因となる。

2.× Down〈ダウン〉症候群とは、染色体異常が原因で知的障害が起こる病気である。常染色体以上疾患の中で最多である。Down症候群になりうる異常核型は、3種に大別される。①標準トリソミー型:21トリソミー(93%)、②転座型(5%)、③モザイク型(2%)である。発症率は、平均1/1000人である。しかし、35歳女性で1/300人、40歳女性1/100人、45歳女性1/30人と、出産年齢が上がるにつれて確率が高くなる。症状として、①特異な顔貌、②多発奇形、③筋緊張の低下、④成長障害、⑤発達遅滞を特徴とする。また、約半数は、先天性心疾患や消化管疾患などを合併する。特異顔貌として、眼瞼裂斜上・鼻根部平坦・内眼角贅皮・舌の突出などがみられる。

3.× Turner〈ターナー〉症候群とは、典型的には身長が低く、首の後ろに皮膚のたるみがあり、学習障害がみられ、思春期が始まらないのが特徴である。2本のX染色体のうち1本の部分的または完全な欠失によって引き起こされる性染色体異常である。完全欠損例では、卵巣は策状に萎縮するために性腺ホルモンの分泌はなく、第2次性徴の欠如をきたす。

4.〇 正しい。Duchenne〈デュシェンヌ〉型筋ジストロフィーは、日本で着床前診断の対象となる疾患である。デュシェンヌ型筋ジストロフィーとは、病気の進行に伴い、 呼吸筋の筋力低下により呼吸障害を呈するため。20歳頃には、呼吸障害や心不全で死亡する。非侵襲的陽圧換気〈NPPV〉療法は、気管切開することなくマスクを介して換気を行う治療法である。高二酸化炭素血漿を伴う呼吸不全(Ⅱ型呼吸不全)が対象となる。非侵襲的陽圧換気は、挿管をせずに鼻・口にマスクを使用した陽圧換気法で、患者にとって負担の少ない補助換気法である。気管内挿管が不要であるため患者は、苦痛が少ないが、挿管をして換気を行う侵襲的陽圧換気法の方が気道確保や換気は確実である。

(※引用:「着床前診断のはなしPGT-M, PGT-SR 編」)

 

 

 

 

 

2 月経前症候群の身体症状に主に関わるホルモンを分泌するのはどれか。

1.卵巣
2.脳下垂体前葉
3.脳下垂体後葉
4.視床下部

解答

解説

月経前症候群とは?

月経前、3~10日の間続く精神的あるいは身体的症状で、月経開始とともに軽快ないし消失するものをいう。原因は、はっきりとはわかっていないが、女性ホルモンの変動が関わっていると考えられている。排卵のリズムがある女性の場合、排卵から月経までの期間(黄体期)にエストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)が多く分泌される。この黄体期の後半に卵胞ホルモンと黄体ホルモンが急激に低下し、脳内のホルモンや神経伝達物質の異常を引き起こすことが、PMSの原因と考えられている。しかし、脳内のホルモンや神経伝達物質はストレスなどの影響を受けるため、PMSは女性ホルモンの低下だけが原因ではなく多くの要因から起こるといわれている。精神神経症状として情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害、自律神経症状としてのぼせ、食欲不振・過食、めまい、倦怠感、身体的症状として腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張りなどがある。とくに精神状態が強い場合には、月経前不快気分障害(PMDD)の場合もある。治療法として、①日常生活の改善、②薬物療法(排卵抑制療法、症状に対する治療法、漢方療法)があげられる。

1.〇 正しい。卵巣は、月経前症候群の身体症状に主に関わるホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)を分泌する。
・エストロゲンとは、主に卵巣から分泌される女性らしさをつくるホルモンで、成長とともに分泌量が増え、生殖器官を発育・維持させる働きをもっている。女性らしい丸みのある体形をつくったり、肌を美しくしたりする作用もあるホルモンである。分泌量は、毎月の変動を繰り返しながら20代でピークを迎え、45~55歳の更年期になると急激に減る。
・プロゲステロン(黄体ホルモン)は、卵巣と胎盤で合成・分泌され、基礎体温を上げ、受精卵が着床しやすい状態にする作用を持つ。プロゲステロン(黄体ホルモン)は、性周期が規則的で健常な成人女性において、着床が起こる時期に血中濃度が最も高くなるホルモンである。着床が起こる時期とは、月経の黄体期である。黄体期は、排卵した後の卵胞(黄体)から黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されるようになる時期である。

2.× 脳下垂体前葉から分泌されるホルモンは、①成長ホルモン(欠損すると小人病)、②甲状腺刺激ホルモン、③副腎皮質刺激ホルモン(欠損するとアジソン病)、④性腺刺激ホルモン(卵胞刺激ホルモン・黄体形成ホルモン)、⑤プロラクチン(催乳ホルモン)である。

3.× 脳下垂体後葉から分泌されるホルモンは、オキシトシンとバソプレシンである。
オキシトシンは、射乳、子宮収縮に作用を持つ。
バソプレシンは、水の再吸収を促進する抗利尿作用・血圧上昇が起きる。尿を濃くし尿量を減らす作用がある。

4.× 視床下部とは、間脳に位置し、内分泌や自律機能の調節を行う総合中枢である。 ヒトの場合は脳重量のわずか0.3%、4g程度の小さな組織であるが、多くの神経核から構成されており、体温調節やストレス応答、摂食行動や睡眠覚醒など多様な生理機能を協調して管理している。つまり、視床下部は自律神経の最高中枢である。

視床下部ホルモン hypothalamic hormone のうち放出ホルモン(RH)は、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)、プロラクチン放出ホルモン(PRH)およびメラニン細胞刺激ホルモン放出ホルモンである。

 

 

 

 

 

3 授乳が禁止となる薬剤はどれか。

1.アンピシリン
2.プレドニゾロン
3.メトトレキサート
4.アセトアミノフェン

解答

解説
1.× アンピシリンは、抗菌薬のひとつである。授乳中の使用は一般的に安全とされている。GBS産婦への投与が代表的である。

2.× プレドニゾロンは、ステロイド薬のひとつである。授乳中の使用は一般的に安全とされている。炎症性の病気、免疫系の病気、アレルギー性の病気などに広く使用されている。たとえば、膠原病、ネフローゼ、関節リウマチ、重い喘息、ひどいアレルギー症状、めまい、耳鳴り などに用いる。副作用として、倦怠感や吐き気、腹痛などがある。

3.〇 正しい。メトトレキサートは、授乳が禁止となる薬剤である。メトトレキサートは、葉酸代謝拮抗機序をもち免疫抑制剤に分類される薬剤である。抗悪性腫瘍薬、抗リウマチ薬、妊娠中絶薬などとして使用される。副作用として、間質性肺炎、口内炎、肝機能障害、白血球減少、貧血、血小板減少などがみられる。

4.× アセトアミノフェンは、医療用医薬品の「カロナール」と同じ成分での解熱剤である。赤ちゃんの解熱剤としても使われる成分である。お薬が母乳中に出てくる量は非常に少なく、赤ちゃんへの影響はみられていない成分のため、授乳中に飲んでも差し支えない。また、アセトアミノフェンのほか、授乳中に安心して飲める薬として、ロキソプロフェンナトリウム、イブプロフェンなどである。

 

 

 

 

 

4 卵膜を構成するもので母体に由来するのはどれか。

1.羊膜
2.脱落膜
3.絨毛膜
4.結合組織層

解答

解説

(※図引用:「羊膜のご提供をお考えのお母さまへ」東京歯科大学HPより)

胎児由来

胎児は受精卵から作られるが、胎児付属物(胎盤や臍帯、羊膜)も受精卵の一部から形成される。これらは、胎児が子宮内で母体から栄養や酸素を得て老廃物を母体血に引き渡すために必要な、いわば胎児の生命維持装置である。そのやり取りのために、胎盤、臍帯には母児の血液が多量に潅流しており、その異常の発生は胎児の生命だけでなく、母児の各種トラブルや後遺症と深く関連する。胎児だけでなく、妊娠中の胎児付属物に対する超音波診断も重要である。

1.× 羊膜は、胎児由来の細胞を主体として構成されている。羊膜とは、子宮の中で赤ちゃんを包む卵膜の最内層を覆う厚さ約100~150μmの半透明の膜であり、母体からの胎盤組織への拒絶反応の抑制等、赤ちゃんを保護したり、羊水を分泌する役割があると考えられている。

2.〇 正しい。脱落膜は、卵膜を構成するもので母体に由来する。脱落膜とは、子宮内膜が受精卵の着床により肥大・増殖したもので、受精卵の着床によってこの変化が始まり、後にその一部は胎盤の構成にあずかる。

3.× 絨毛膜は、胎児由来の細胞を主体として構成されている。絨毛とは、器官の内面または外面をおおう膜から突出した微細な突起のことである。腸の粘膜や胎盤などに存在し、これによって表面積が著しく増大し、吸収などが有効に行われるようになる。

4.× 結合組織層は、胎児由来の細胞を主体として構成されている。絨毛膜と子宮内膜の結合組織である。

(※図引用:「25. 胎盤・臍帯の超音波像」日本産婦人科医会様HPより)

(※図引用「産婦人科ガイドライン」公益社団法人 日本産科婦人科学会より)

 

 

 

 

 

5 妊娠に伴う変化で正しいのはどれか。

1.心拍出量は減少する。
2.腎血漿流量は減少する。
3.循環血流量は減少する。
4.腎の糸球体濾過率は増加する。

解答

解説

「妊娠の生理」

【泌尿器系】
腎臓は、妊娠中わずかに拡大する。糸球体濾過率、腎血漿流量は妊娠初期から増加し、妊娠中期の初めには非妊娠時の50%まで増加する。糸球体濾過率は妊娠末期まで高値を保つが、腎血漿流量は妊娠後期に減少する。妊娠末期には体位により腎機能検査値が変化する。正常妊婦の血清クレアチニン、尿素窒素の値は非妊娠時より低値を示す。クレアチニンクリアランスは30%増加する。妊娠中の腎の特徴として,各種の栄養素の尿中排泄が挙げられる。アミノ酸や水溶性ビタミンは非妊娠時と比較し多量に排泄される。尿糖は必ずしも異常ではなく、多くは糸球体濾過の増加と尿細管での再吸収能の低下に起因する。生理的変化であるが、妊娠糖尿病の可能性を見逃してはならない。尿蛋白は通常認めない。
(※一部引用:「産科疾患の診断・治療・管理」より)

1.× 心拍出量は、「減少」ではなく増加する。心拍出量は妊娠10週で増加し始め、25~30週の間に妊娠前の心拍出量を30~50%上回るピークに達する。一回拍出量は妊娠5週から20〜35%増加して約32週で最大に達し、以後わずかに減少していく。心拍数も心拍出量の増加に影響する。分娩時には拍出量はさらに増加する。

2.× 腎血漿流量は、「減少」ではなく増加する。腎臓は、妊娠中わずかに拡大する。糸球体濾過率、腎血漿流量は妊娠初期から増加し、妊娠中期の初めには非妊娠時の50%まで増加する。

3.× 循環血流量は、「減少」ではなく増加する。全身の循環血液量が最大となるのは、「妊娠初期」ではなく妊娠末期である。循環血液量は妊娠初期から増加し、妊娠28〜32週で最大となる。循環血液量において、妊娠中の母体の循環血液量は著しく増加する。妊娠末期には平均で非妊時の40~45%増となるが、個人差が大きい。循環血液量は妊娠初期から増加し、中期には増加速度は急速となり、妊娠28~32週で最大となり妊娠末期まで持続する。循環血液量の増加で前負荷が増加する。分娩後は4~6週で非妊娠時のレベルに戻る。(※参考:「産科疾患の診断・治療・管理」より)

4.〇 正しい。腎の糸球体濾過率は増加する。糸球体濾過率<GFR>とは、腎臓の機能を示しており、フィルターの役目を果たす糸球体が1分間にどれくらいの血液を濾過して尿をつくれるかを表す。腎機能が悪くなると球体濾過率<GFR>は低くなる。妊娠中は、体内の血液量が約1.5倍になるものの腎臓の再吸収できる量は妊娠前と変わらないため吸収しきれなかった糖が尿糖として出やすくなる。

(※図引用:「妊娠期の生理学的変化」より)

 

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