第96回(H25) 助産師国家試験 解説【午前1~5】

この記事には広告を含む場合があります。

記事内で紹介する商品を購入することで、当サイトに売り上げの一部が還元されることがあります。

 

1 世界保健機構〈WHO〉が提唱しているリプロダクティブ・ヘルスの基本的四大要素で正しいのはどれか。

1.健全な家族関係を維持できる。
2.婦人科系がんの早期発見ができる。
3.思春期の人たちの栄養状態を適切に保つ。
4.すべての女性が安全な妊娠と出産を享受できる。

解答

解説

セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは?

セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(Sexual and Reproductive Health and Rights:SRHR)とは、日本語訳で「性と生殖に関する健康と権利」とされ、すべての人の「性」と「生き方」に関わる重要なことである。例えば、人々が政治的・社会的に左右されず、「子どもを持つ」「持たない」を決める自由を持ち、自分たちの子どもの数、出産間隔、出産する時期を自由に決定でき、そのための健康を享受できること、またそれに関する情報と手段を得ることができる権利である。

基本的4大要素
1)女性自らが妊孕性を調節し、抑制できること
2)すべての女性にとって安全な妊娠と出産を享受できること
3)すべての新生児が健全な小児期を享受できること
4)性感染症の恐れなしに性的関係をもてることと
(Sciarra,1993)

1.× 健全な家族関係を維持できる。
2.× 婦人科系がんの早期発見ができる。
3.× 思春期の人たちの栄養状態を適切に保つ。
これらは、世界保健機構〈WHO〉が提唱しているリプロダクティブ・ヘルスの基本的四大要素とはいえない。

4.〇 正しい。すべての女性が安全な妊娠と出産を享受できることは、世界保健機構〈WHO〉が提唱しているリプロダクティブ・ヘルスの基本的四大要素である。

 

 

 

 

 

2 尖圭コンジローマで正しいのはどれか。

1.男性は感染しない。
2.一度罹患すれば再発しない。
3.ワクチンで感染を予防できる。
4.妊婦が罹患すれば分娩後に治療する。

解答

解説

尖圭コンジローマとは?

尖圭コンジローマとは、性病の一種で、性器にイボのようなぶつぶつができる病気で、主に性行為や性行為に似た行為によって感染する。粘膜が接触することで、傷口などからヒトパピローマウイルス(HPV)が侵入する。粘膜だけではなく皮膚に傷があれば、そこから感染することもある。

1.× 男性も感染する。男女比は1:1で、女性は20歳代、男性は30歳代がピークとなる。

2.× 一度罹患すれば再発しないとはいえない。なぜなら、尖圭コンジローマが再発する原因は、治療後に潜んでいたヒトパピローマウイルス(HPV)が新たなイボとして現れることであるため。したがって、治療によって大部分の感染細胞を除去しても、免疫力が下がると再発することがある。3ヵ月以内に約25%は再発するといわれている。

3.〇 正しい。ワクチンで感染を予防できる。尖圭コンジローマは、唯一ワクチンにて予防のできる性感染症である。子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)を接種することにより尖圭コンジローマの発症を予防することができる。

4.× 妊婦が罹患すれば、「分娩後」ではなく分娩前に治療する。なぜなら、尖圭コンジローマに感染している妊婦さんが出産するとき、産道で赤ちゃんにウイルスが感染(産道感染)することがあるため。 その結果、赤ちゃんにも尖圭コンジローマが発症したり、まれに多発性咽頭乳頭腫(のどにイボができる難治性の再発性喉頭乳頭腫)があらわれることがある。

 

 

 

 

 

3 プロスタグランディンF2αの投与が禁忌である産婦の内科合併症はどれか。

1.糖尿病
2.気管支喘息
3.甲状腺機能低下症
4.特発性血小板減少性紫斑病

解答

解説

MEMO

プロスタグランジンF2αは、陣痛促進剤や人工妊娠中絶剤として使用されている。薬物療法として鎮静薬(抗痙攣薬)、降圧薬、利尿薬、強心薬などを使用する。けいれんの救急処置としては、鎮静薬を与え、からだを横むきにし、気道を確保して舌をかむ危険を防ぐようにする。気管支を収縮させ、喘息発作を悪化または誘発する恐れがあるため、気管支喘息の合併妊婦には禁忌となっている。

(※図引用:「産婦人科 診療ガイドライン ―産科編 2020」日本産科婦人科学会より)

1.× 糖尿病に対し、プロスタグランディンF2αの投与は禁忌ではない。2型糖尿病とは、遺伝的な体質(インスリン分泌低下、インスリン抵抗性)に過食、運動不足、肥満が加わることにより起こる糖尿病を指す。一方で、1型糖尿病の原因として、自己免疫異常によるインスリン分泌細胞の破壊などがあげられる。

2.〇 正しい。気管支喘息は、プロスタグランディンF2αの投与が禁忌である産婦の内科合併症である。プロスタグランジンF2αは、妊娠末期における陣痛誘発・陣痛促進・分娩促進の目的で静脈内注射投与により行われる。気管支を収縮させ、喘息発作を悪化または誘発する恐れがあるため、気管支喘息の合併妊婦には禁忌となっている。ちなみに、気管支喘息とは、主に気管支に炎症が起きている状態である。炎症により気管支が狭くなったり(狭窄)、刺激に対して過敏な反応を示したりする。喘息は乳幼児期に発症することが多く、全体の60~70%が2~3歳までに発症する。子どもの喘息の多くは思春期の頃には症状がよくなっていくが、そのうちの約30%は大人になっても続くといわれている。

3.× 甲状腺機能低下症に対し、プロスタグランディンF2αの投与は禁忌ではない。甲状腺機能低下症とは、甲状腺に炎症が引き起こされることによって徐々に甲状腺が破壊され、甲状腺ホルモンの分泌が低下していく病気のことである。慢性甲状腺炎とも呼ばれる。甲状腺機能低下症になると、全身の代謝が低下することによって、無気力、疲れやすさ、全身のむくみ、寒がり、体重増加、便秘、かすれ声などが生じる。

4.× 特発性血小板減少性紫斑病に対し、プロスタグランディンF2αの投与は禁忌ではない。特発性血小板減少性紫斑病とは、血液中の血小板が減少することにより出血しやすくなる病気である。原因は不明であるが、体の中の免疫反応が過剰になり、自分の血小板を攻撃してしまうために、血小板が減少するといわれている。

(※図引用:「産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020 P245」公益社団法人 日本産科婦人科学会より)

 

 

 

 

 

4 成人T細胞白血病ウイルス陽性の母親から出生した児への対応で正しいのはどれか。

1.入院中は他の児と隔離する。
2.抗体検査は新生児期に実施する。
3.毎月外来受診するよう母親に指導する。
4.乳児期の予防接種は通常どおり実施する。

解答

解説

ヒトT細胞性白血病ウイルスとは?

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は成人T細胞白血病(ATL)というリンパ球の悪性腫瘍や、HTLV-1関連脊髄症(HAM)と呼ばれる慢性の神経疾患の原因ウイルスで、日本に現在約80万人の感染者が存在すると推定されている。約40年以上の潜伏期の後に年間1000人に1人の割合で発症するとされている。ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の主な感染経路は、①性的接触、②血液感染、③母子感染である。母乳からウイルスが感染することが証明されている感染症は、①HIV(ヒト免疫不全ウイルス) 、②HTLV1(成人T 細胞白血病ウイルス )、③CMV(サ イトメガロウイルス)である。母子感染では、主に経母乳感染することから、母子感染率を減らすには人工栄養が最も確実な方法である。

【母乳における対応】
①人工栄養:もっとも確実で推奨される。感染源となるリンパ球を含んだ母乳を遮断できる。
②短期母乳:母体から移行抗体が存在するとされる生後90日以内の授乳のみ実施。
③加工母乳:搾乳して一定時間冷凍保存した母乳を与える。

1.× 入院中は他の児と隔離する必要はない。なぜなら、ヒトT細胞性白血病ウイルスは日常生活や接触を介しては容易に感染しないため。母乳を介して感染するリスクがある。

2.× 抗体検査は新生児期に実施する必要はない。なぜなら、「新生児期」は、母体から移行した抗体を保有しているため。したがって、検査結果が正確に感染状況を反映しない。ほぼ全員がヒトT細胞性白血病ウイルス抗体の陽性となる。抗体検査は、母乳を経て感染する可能性を考慮し、1歳以降に実施されることが一般的である。

3.× 毎月外来受診するよう母親に指導する必要はない。なぜなら、ヒトT細胞性白血病ウイルスは日常生活や接触を介しては容易に感染しないため。ただし、感染の管理(母乳の対応)は慎重に行う必要がある。

4.〇 正しい。乳児期の予防接種は通常どおり実施する。なぜなら、ヒトT細胞性白血病ウイルス陽性の可能性がある児に対しても、予防接種は制限されることはなく、免疫をしっかりと獲得させることが重要であるため。

 

 

 

 

 

5 母体血中の糖を胎児に転送する作用を持つホルモンはどれか。

1.エストロゲン
2.プロゲステロン
3.hPL〈ヒト胎盤性ラクトゲン〉
4.hCG〈ヒト絨毛性ゴナドトロピン〉

解答

解説
1.× エストロゲンとは、主に卵巣から分泌される女性らしさをつくるホルモンで、成長とともに分泌量が増え、生殖器官を発育・維持させる働きをもっている。女性らしい丸みのある体形をつくったり、肌を美しくしたりする作用もあるホルモンである。分泌量は、毎月の変動を繰り返しながら20代でピークを迎え、45~55歳の更年期になると急激に減る。

2.× プロゲステロン(黄体ホルモン)は、基礎体温を上げ、受精卵が着床しやすい状態にする作用を持つ。プロゲステロン(黄体ホルモン)は、性周期が規則的で健常な成人女性において、着床が起こる時期に血中濃度が最も高くなるホルモンである。着床が起こる時期とは、月経の黄体期である。黄体期は、排卵した後の卵胞(黄体)から黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されるようになる時期である。

3.〇 正しい。hPL〈ヒト胎盤性ラクトゲン〉は、母体血中の糖を胎児に転送する作用を持つホルモンである。特に、母体血中のブドウ糖を胎児に転送しやすくする作用がある。一般的に、hPL<ヒト胎盤性ラクトゲン>は、胞刺激ホルモンおよび黄体形成ホルモンと同様に、黄体を維持することにより排卵を抑制する。 卵巣はβ-hCGに刺激されることでエストロゲンおよびプロゲステロンを産生し続けるため、これらのホルモンの値は妊娠早期に上昇する。

4.× hCG〈ヒト絨毛性ゴナドトロピン〉とは、妊娠中にのみ測定可能量が著しく産生されるホルモンであり、妊娠の早期発見や自然流産や子宮外妊娠といった妊娠初期によくみられる異常妊娠の診断と管理のために使用される。主に絨毛組織において産生され、妊娠初期の卵巣黄体を刺激してプロゲステロン産生を高め、妊娠の維持に重要な働きをしている。また、胎児精巣に対する性分化作用や母体甲状腺刺激作用がある。絨毛性腫瘍の他に、子宮、卵巣、肺、消化管、膀胱の悪性腫瘍においても異所性発現している例もある。

妊娠中の糖代謝の特徴

妊娠すると、胎盤から分泌されるホルモン(ヒト胎盤性ラクトゲン(HPL)、 プロゲステロン、 エストロゲン)の影響でインスリン抵抗性が強くなる。インスリン抵抗性とは、インスリンは十分な量が作られているけれども、効果を発揮できない状態である。運動不足や食べ過ぎが原因で肥満になると、インスリンが働きにくくなることを指す。「インスリンの抵抗性が強くなる」ということは、つまり糖を効率よく取り込めない(分解できない)ことを意味する。したがって、連鎖的に下記の①~③のことが起こる。

①インスリンの過剰分泌→②食後血糖の上昇→③空腹時血糖の低下

糖質異常を有する妊婦の血糖コントロールは、低血糖のリスクを最小限にとどめ、可能な限り健常妊婦の血糖日内変動に近づけることを目標とする。これまでの報告では、食事療法やインスリン療法、血糖自己測定などを行い、良好な血糖値を維持することで、母児の予後が良好になることが示されている。血糖を厳格に管理するためには、血糖自己測定を活用し、適切な食事療法、運動療法、薬物療法(インスリン)を行っていくことが重要である。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)