第95回(H24) 助産師国家試験 解説【午後26~30】

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26 正常分娩の介助技術で正しいのはどれか。

1.児頭の後頭結節が恥骨弓下を滑脱するまでは反屈位を促す。
2.第3回旋開始時には産婦に努責をかけるよう誘導する。
3.第4回旋開始時に肩甲娩出を行う。
4.第4回旋誘導時は産瘤のある側を恥骨結合方向へ回旋させる。
5.肩甲娩出後は骨盤誘導線の方向と反対方向に躯幹を娩出させる。

解答

解説

”児頭の産道通過機転”

第1回旋(屈曲):児頭が骨盤入口部に進入する時、児頭は両耳結合線を軸とする横軸回旋をして強い前屈位をとる(後頭位)。この第1回旋により、先進部は小泉門となり、小斜径で産道に接するようになる。
第2回旋(内回旋):児頭は先進する小泉門が常に母体前方に向かうように、胎児長軸を軸とする縦軸回旋をしながら下降する(前方後頭位)。分娩所要時間のうち、この過程に最も時間を要する。
第3回旋(伸展):児頭後頭部が恥骨結合下を通過して、後部が恥骨下縁に接すると、そこを支点として頭部が反屈状に横軸回旋する。この運動によって、児頭は前頭、顔面、オトガイ部の順に会陰を滑って娩出される。第1回旋の逆の動きである。
第4回旋(外回旋):児頭娩出に引き続き、肩甲の下降が起こり、それに伴って児の顔面が母体大腿内側を向く縦軸回旋をする。第2回旋の逆の動きである。

第1・第3回旋:胎児の姿勢を変化させる回旋(胎勢回旋・横軸回旋)である。
第2・第4回旋:体幹の向きが移動する回旋(胎向回旋・縦軸回旋)である。

1.× 児頭の後頭結節が恥骨弓下を滑脱するまでは、「反屈位」ではなく屈曲位を促す。その後、恥骨弓を超えてから反屈位となる。

2.× 第3回旋「開始時」ではなく開始前、産婦に努責をかけるよう誘導する。むしろ、第3回旋開始時は発露となるため、産婦に努責をかけない。ちなみに、努責は発露まで行い、その後は短息呼吸へと切り替える。具体的な切り替えタイミングは、児娩出時の後頭結節が恥骨弓からはずれ、反屈位となって会陰部に児頭があらわれたときである。短息呼吸とは、赤ちゃんの頭が出る瞬間に会陰部を傷つけないよう、お腹の力をゆるめて自然に産道を通過させるために行う。いきみから短息呼吸への切り替えは、助産師がリードする。〈方法〉①両手を胸に置き、体中の筋肉をゆるめ、口を開けハッハッハッと息を早く吐く呼吸をする。②息が続かなくなったら、息つぎをする。

3.× 第4回旋「開始時」ではなく終了後に肩甲娩出を行う。なぜなら、第4回旋は、児頭娩出後に肩が娩出しやすいように胎児の体が回旋する動きであるため。したがって、肩甲娩出は第4回旋後に行われる。

4.〇 正しい。第4回旋誘導時は、産瘤のある側を恥骨結合方向へ回旋させる。産瘤とは、赤ちゃんが産道を通過する際に、周囲から圧迫を受けて、頭や足などの皮下にこぶができることである。主に頭に数cmのこぶができることが多く、似た病気に頭血腫と帽状腱膜下血腫があり、見分けることが必要である。産瘤は病的なものではないため、治療の必要はなく、1日から3日で消失する。ちなみに、原因として、分娩の際に、先進部分の頭位であったり、逆子の場合だと、臀部であったり、子宮から出ている部分の圧迫感がなくなるために、体液が貯まりやすく、浮腫が起きやすい。更にお産に時間がかかると、この皮下浮腫が大きくなって、暗赤色の瘤のように見えることがある。また、第4回旋は縦軸回旋(外回旋)である。 児頭の娩出に続き肩甲が回旋し、下降する。これは、胎児の方は横に長いため体を90°回転して出てくる必要がある。児頭娩出直後、胎児の顔面は母体の後方を向いているが、肩甲の回旋に伴って母体大腿の内面を向く。これは児頭娩出後、母体の股間で行われる外回旋である。自然な力で回旋が起きるため、介助の力加減には十分配慮する必要がある。

5.× 肩甲娩出後は、骨盤誘導線の方向と「反対方向」ではなく同一方向に躯幹を娩出させる。肩甲娩出後(体幹の娩出)は、なるべく骨盤誘導線を小回りで通過させる。なぜなら、盤誘導線に反対方向や大回りをとると産道を痛めやすいため。

(※図引用:「助産師基礎教育テキスト:第 5 巻:2020 年版訂正ご案内」株式会社日本看護協会出版会様HPより)

 

 

 

 

 

27 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律に基づく短時間勤務制度を利用できる子の年齢上限はどれか。

1.1歳2か月
2.1歳6か月
3.3歳
4.小学校就学の始期
5.小学校3年生の始期

解答3or4
理由:厚生労働省設問が不明確で複数の選択肢が正解と考えられるため、複数の選択肢を正解として採点する。

解説

育児介護休業法とは?

育児介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)とは、育児・介護に携わる労働者について定めた日本の法律である。①労働者の育児休業、②介護休業、③子の看護休暇、④介護休暇などが規定されている。

1~2.5.× 1歳2か月/1歳6か月/小学校3年生の始期は、短時間勤務制度を利用できる子の年齢上限とはいえない

3.〇 正しい。3歳は、短時間勤務制度を利用できる子の年齢上限である。第二十三条(所定労働時間の短縮措置等)において、「事業主は、その雇用する労働者のうち、その三歳に満たない子を養育する労働者であって育児休業をしていないものに関して、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づき所定労働時間を短縮することにより当該労働者が就業しつつ当該子を養育することを容易にするための措置を講じなければならない」と記載されている(※引用:「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」e-GOV法令検索様HPより)。

4.〇 正しい。小学校就学の始期は、短時間勤務制度を利用できる子の年齢上限である。第二十四条(小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者等に関する措置)において、「事業主は、その雇用する労働者のうち、その小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者に関して、労働者の申出に基づく育児に関する目的のために利用することができる休暇を与えるための措置及び次の各号に掲げる当該労働者の区分に応じ当該各号に定める制度又は措置に準じて、それぞれ必要な措置を講ずるよう努めなければならない」と記載されている(※引用:「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」e-GOV法令検索様HPより)。

 

 

 

 

 

28 妊娠中と比較した分娩第1期の母体の状態で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.血液凝固能は亢進する。
2.静脈還流量は減少する。
3.1回心拍出量は減少する。
4.消化吸収機能は低下する。
5.カテコラミン値は低下する。

解答1・4

解説

妊娠中の生理的機序

心疾患合併の頻度は全分娩の1~3%である。妊娠により母体では様々な生理的変化が出現する。中でも、循環器系変化は顕著である。循環血液量と心拍出量は妊娠の進行と伴に増加し、妊娠28~32週頃にはピークとなり、非妊娠時の約1.5倍の増加を示す。正常妊娠ではこうした増加に対し、末梢血管抵抗が低下し、腎臓や子宮への血流量を増加させている。実際、腎血流量は非妊娠時に比べ30%増加し、子宮血流量は10倍になる。これらの循環変化は母体が順調に胎児を育んで行く上に必須のものであるが、心疾患を合併した妊婦ではしばしば負担となる。また、分娩中は子宮収縮により静脈環流量が増加し、第2期では努責による交感神経興奮により頻脈になり、心拍出量が増加する。したがって、分娩中は心疾患合併妊婦の症状が悪化する危険な時期といえる。分娩後(産褥早期)、子宮は急速に収縮し静脈環流量が増加するが、循環血液量は急には減少しないため、一過性に心負担は増加する。この心拍出量増加は、産後の利尿により循環血液量が減少するまで継続する。産褥期に一過性に浮腫が増悪することがあるが、こうした循環器系変化のためと考えられる。

(※一部引用:「周産期看護マニュアル よくわかるリスクサインと病態生理」(中井章人著,東京医学社)より)

1.〇 正しい。血液凝固能は亢進する。なぜなら、分娩中は、出産に伴う出血に備えるため。「妊娠によって惹起された血液所見の変化は分娩後2週後にほぼ正常に復帰する。分娩直前にみられた赤血球や白血球の増加は産褥1週後には正常に復する。凝固・線溶系においては、血小板数は胎盤剝離後ただちに低下するが数日以内に増加する。凝固因子Ⅱ、Ⅶ、Ⅹ因子は陣痛発来とともに低下し、産褥3日以降には非妊娠時の正常レベルまで下がる。フィブリノーゲンは、産褥1週間維持されるがその後低下し10日目には正常のレベルに下がる。線溶系のプラスミノーゲン活性は産褥3日後には非妊娠時のレベルにもどる(※引用:「分娩の生理・産褥の生理」杏林舎様HPより)」。

2~3.× 静脈還流量/1回心拍出量は「減少する」ではなく増加する。なぜなら、分娩時には循環系が活発化(交感神経が優位)し、心臓に戻る血液量が増加するため。

4.〇 正しい。消化吸収機能は低下する。なぜなら、陣痛やストレスに伴う交感神経の活性化などが原因である。したがって、分娩時には消化不良や胃の内容物の逆流のリスクが高まる。

5.× カテコラミン値は、「低下」ではなく増加する。なぜなら、分娩中は、陣痛によるストレスや痛みにより、交感神経が優位となるため。ちなみに、カテコラミンとは、①アドレナリン、②ノルアドレナリン、③ドパミンの総称であり、 副腎髄質ホルモンまたは神経伝達物質としての働きを持つ。血圧上昇気管支拡張、血糖値上昇の作用がある、末梢血管が収縮し、体熱の放散を防ぎ、体温が上がる。

分娩期

【分娩第1期】
陣痛の開始から、子宮口(子宮頸部)が完全に開く(全開大、約10cm)までの期間を指す。

・分娩第1期
「①潜伏期」と「②活動期」に分けられる。
①潜伏期:陣痛がリズミカルになり、子宮頸部が薄くなり4cmほど開いた状態まで(初産婦で12時間・経産婦で5時間程度かかる)の時期を示す。
②活動期:子宮口が4センチから10cm(全開)に開き、胎児の一部が胎盤内に降りてくる(初産婦で3時間・経産婦で2時間程度かかる)。いきみたくなって来る段階である。

・分娩第2期:赤ちゃんが産道を通っている間
子宮口が完全に開大してから胎児を娩出するまでの期間を指す。この段階は初産婦では平均45~60分間、経産婦では15~30分間続く。

・分娩第3期:「後産」の時期
胎児を娩出してから胎盤を娩出するまでの期間である。この段階は数分間で終わるのが普通であるが、最大30分ほど続くこともある。

 

 

 

 

 

29 Bowlby〈ボウルビィ〉が母子関係形成理論で述べたのはどれか。2つ選べ。

1.インプリンティング
2.アタッチメント
3.基本的信頼
4.3歳児神話
5.母性剝奪

解答2・5

解説

MEMO

J. Bowlby(ジョン・ボウルビー)は、愛着理論である。乳幼児期において療育者に受け入れられ十分な愛情を受ける経験をすることが、その後の人格形成に重要である、と提唱した。「子どもが不安な時に親や身近にいる信頼できる人にくっつき安心しようとする行動」のことである。

【J.Bowlbyの愛着理論】
第1段階(生後3か月間):自分と他者(母親)との分化が不十分である。愛着はまだ形成されず、誰に対しても同じように泣いたり微笑したりする。
第2段階(生後6か月頃まで):母親に対して、特によく微笑し、より多く凝視する。
第3段階(2、3歳頃まで):母親を安全基地として、母親から一定の範囲内で、安心して行動したり探索したりする。母親からの距離は次第に遠くなる。
第4段階(3歳以上):身体的接触を必要としなくなり、母親の感情や動機を洞察し、協調性が形成されてゆく。

1.× インプリンティング(刷り込み)は、コンラート・ローレンツが提唱した。インプリンティングとは、生後間もない時期に特定の刺激や対象物に対して固定的な行動パターンや感情的な結びつきを形成する学習プロセスである。特に、鳥類において顕著に見られ、鶏やガチョウ、アヒルなどがこの行動を示す。

2.〇 正しい。アタッチメントは、Bowlby〈ボウルビィ〉が母子関係形成理論で述べた。愛着(アタッチメント)とは、主に乳幼児期の子どもと母親をはじめとする養育者との間で築かれる、心理的な結びつきのことである。ネグレクトによって反応性愛着障害(反応性アタッチメント障害)が起こる。反応性愛着障害とは、5歳までに発症し、小児の対人関係のパターンが持続的に異常を示すことが特徴であり、その異常は、情動障害を伴い、周囲の変化に反応したものである(例:恐れや過度の警戒、同年代の子どもとの対人交流の乏しさ、自分自身や他人への攻撃性、みじめさ、ある例では成長不全)。こどもの対人関係の障害である。

3.× 基本的信頼は、エリクソン発達理論で述べられている。エリクソンの発達課題において、乳児期(0歳~1歳6ヶ月頃):基本的信頼感vs不信感である。親に対して強い愛情表現を示す愛着行動が特徴である。

4.× 3歳児神話は、日本における子供の発達に関する認識の一つである。背景には、ジョン・ボウルビィの「愛着理論」がある。3歳児神話とは、子供の性格や能力が3歳までに形成されるという考え方である。子供が3歳頃までに母親のもとで適切に育てられなければ、その後の発達に悪影響があるといわれているが、根拠は乏しく、厚生労働省は1998年の「厚生白書」で否定されている。

5.〇 正しい。母性剝奪は、Bowlby〈ボウルビィ〉が母子関係形成理論で述べた。母性剥奪とは、愛情遮断症候群ともいわれ、乳幼児期に自分の行動(接触・接近)に対して一貫して応答(笑いかけや抱っこなどを)してくれる養育者がいないことである。特に精神的な安定が満たされないため、この状態が続くとその後の人間関係の構築に問題が生じると主張されている。

エリクソン発達理論

乳児期(0歳~1歳6ヶ月頃):基本的信頼感vs不信感
幼児前期(1歳6ヶ月頃~4歳):自律性vs恥・羞恥心
幼児後期(4歳~6歳):積極性(自発性)vs罪悪感
児童期・学童期(6歳~12歳):勤勉性vs劣等感
青年期(12歳~22歳):同一性(アイデンティティ)vs同一性の拡散
前成人期(就職して結婚するまでの時期):親密性vs孤立
成人期(結婚から子供が生まれる時期):生殖性vs自己没頭
壮年期(子供を産み育てる時期):世代性vs停滞性
老年期(子育てを終え、退職する時期~):自己統合(統合性)vs絶望

 

 

 

 

 

30 乳汁分泌を抑制するのはどれか。2つ選べ。

1.休養
2.脱水
3.温罨法
4.乳汁うっ滞
5.頻回の授乳

解答2・4

解説

母乳育児成功のための10か条(WHO・ユニセフによる共同声明)

①母乳育児の方針を全ての医療に関わっている人に、常に知らせること。
②全ての医療従事者に母乳育児をするために必要な知識と技術を教えること。
③すべての妊婦に母乳育児の良い点とその方法をよく知らせること。
④母親が分娩後、30分以内に母乳を飲ませられるように援助すること。
⑤母親に授乳の指導を十分にし、もし、赤ちゃんから離れることがあっても母親の分泌を維持する方法を教えること。
⑥医学的な必要がないのに母乳以外のもの、水分、糖水、人工乳を与えないこと。
⑦母子同室にする。赤ちゃんと母親が一日中24時間、一緒にいられるようにすること。
⑧赤ちゃんが欲しがるときに、欲しがるままの授乳を勧めること。
⑨母乳を飲んでいる赤ちゃんにゴムの乳首やおしゃぶりを与えないこと。
⑩母乳育児のための支援グループ作りを援助し、退院する母親に、このようなグループを紹介すること。

1.× 休養は、乳汁分泌を促進する要因である。なぜなら、母親の疲労(ストレス)を軽減し、ホルモンの調整に寄与するため。

2.〇 正しい。脱水は、乳汁分泌を抑制する要因である。なぜなら、脱水状態になると体液のバランスが崩れ、乳汁の生成に必要な水分が不足するため。

3.× 温罨法は、乳汁分泌を促進する要因である。なぜなら、温めることで血流が増加し、乳腺の機能が活性化するため。

4.〇 正しい。乳汁うっ滞は、乳汁分泌を抑制する要因である。なぜなら、乳汁がうっ滞すると、乳房内の圧力が上がり、プロラクチンの分泌が抑制されるため。ちなみに、プロラクチンとは、乳腺刺激ホルモンともいい、脳の下垂体から分泌され、妊娠すると高くなり乳腺を成長させ乳汁産生を行う。一般的に出産後など授乳期間中において、乳頭の刺激で高くなり乳汁を分泌する。

5.× 頻回の授乳は、乳汁分泌を促進する要因である。なぜなら、授乳が頻繁に行われることでプロラクチンとオキシトシンの分泌が増加されるため。オキシトシンとは、視床下部で合成され、脳下垂体後葉から分泌される。乳汁射出、子宮収縮作用がある。また、分娩開始前後には分泌が亢進し、分娩時に子宮の収縮を促し、胎児が下界に出られるように働きかける。

 

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