第111回(R4) 看護師国家試験 解説【午後66~70】

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66 長期に大量飲酒をした後で、急に断酒した際にみられるのはどれか。

1.病的酩酊
2.振戦せん妄
3.アルコール性認知症
4.Korsakoff<コルサコフ>症候群

解答2

解説
1.× 病的酩酊とは、アルコール摂取によって興奮や意識障害が起こる異常な酔い方のことである。飲酒中に突然、周囲からは理解不可能な激しい興奮や粗暴な行動を起こし、本人は翌日にそのことを覚えていない(健忘状態)のが特徴である。周囲から見ると理解不可能な言動を繰り返し、幻覚・妄想や状況の根本的な誤認から重大な犯罪に及ぶこともある。
2.〇 正しい。振戦せん妄は、長期に大量飲酒をした後で、急に断酒した際にみられる。振戦せん妄とは、アルコール断酒後に起こる離脱症状の一つである。断酒2~3日後には、振戦せん妄が生じる。離脱症状とは、飲酒中止後に生じ、精神的、肉体的な症状を呈する。最終飲酒から数時間後から出現し、20時間後にピークを迎える早期離脱症候群(振戦、自律神経症状、発汗、悪心・嘔吐、けいれん、一過性の幻覚)と最終飲酒後72時間頃から生じ数日間持続する後期離脱症候群(早期離脱症状に加え意識変容を呈したもの、振戦せん妄といわれる。小動物幻視や日頃やり慣れた動作、例えば運転動作を繰り返す、夜間に目立つ)に分けられる。
3.× アルコール性認知症とは、アルコールの大量摂取が原因と考えられる認知症のことをいう。Korsakoff<コルサコフ>症候群と同じという意見もある。大量に飲酒する人に認知機能の低下や認知症がみられる。
4.× Korsakoff<コルサコフ>症候群とは、①健忘、②記銘力低下、③見当識障害、④作話が特徴的な症状である。ビタミンB1の欠乏による脳障害が原因であり、治療はビタミンB1の投与である。完治しにくく後遺症を残す可能性が高い。

 

 

 

 

 

67 母親がAさん(27歳、統合失調症)に対して「親に甘えてはいけない」と言いながら、過度にAさんの世話をすることで、Aさんが混乱していた。
 この親子関係を示すのはどれか。

1.共依存
2.同一視
3.ネグレクト
4.二重拘束<ダブルバインド>

解答4

解説
1.× 共依存とは、自分と特定の相手がその関係性に過剰に依存しており、その人間関係に囚われている関係への嗜癖状態を指す。依存症・アディクション(嗜癖:しへき)は、「身体的・精神的・社会的に、自分の不利益や不都合となっているにもかかわらず、それをやめられずに反復し続けている状態」である。
2.× 同一視とは、反動形成の一つで、取り入れ、同一化などともいう。自分にとって好ましい人・理想とする人の特性を取り入れてまねをし、それにより自己の欲求の満足を図ることである。例えば、好きなタレントの髪型をまねるなどをいう。
3.× ネグレクトとは、養育拒否・怠慢のことをさし、子どもに食事を与えなかったり、病気になっても病院に連れて行かなかったりすることをいう。
4.〇 正しい。二重拘束<ダブルバインド>がこの親子関係に見られる。二重拘束<ダブルバインド>とは、2つ以上の矛盾するメッセージにより精神的な束縛を受けたりストレスを抱えたりするようなコミュニケーションの状況のことをさす。例えば、「わからないことはなんでも聞きなさい」と言う一方で、質問に対して「そんなこともわからないのか、なぜ調べてから来ないのか」と責めたりする例などが挙げられる。家庭や上下関係のある中など、逃げ場のない場所や関係性の中で繰り返しダブルバインドを経験すると、統合失調症をはじめとしたメンタルヘルスの不調の原因となる可能性がある。

 

 

 

 

68 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律<精神保健福祉法>において、精神科病院で隔離中の患者に対し、治療上で必要な場合に制限できるのはどれか。

1.家族との面会
2.患者からの信書の発信
3.患者からの退院の請求
4.人権擁護に関する行政機関の職員との電話

解答1

解説

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)とは?

①精神障害者の医療及び保護を行うこと、②障害者総合支援法とともに、精神障害者の社会復帰の促進、自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な援助を行うこと、③精神疾患の発生の予防や、国民の精神的健康の保持及び増進に努めることによって、精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上を図ることを目的とした法律である。(参考:「精神保健福祉法について」厚生労働省HPより)

1.〇 正しい。家族との面会を精神科病院で隔離中の患者に対し、治療上で必要な場合に制限できる。ただし、精神科病院入院患者の院外にある者との通信及び来院者との面会は、患者と家族、地域社会等との接触を保ち、医療上も重要な意義を有するとともに、患者の人権の観点からも重要な意義を有するものであり、原則として自由に行われることが必要である。
2.4.× 患者からの信書(手紙)の発信/人権擁護に関する行政機関の職員との電話は、制限することができない。なぜなら、人権侵害に該当する恐れがあるため。また、精神保健福祉法第36条2項に「(処遇)精神科病院の管理者は、前項の規定にかかわらず、信書の発受の制限、都道府県その他の行政機関の職員との面会の制限その他の行動の制限であつて、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める行動の制限については、これを行うことができない」と記載されている(※一部引用:「精神保健福祉法」e-GOV法令検索様HPより)。
3.× 患者からの退院の請求は、制限することができない。なぜなら、人権侵害に該当する恐れがあるため。また、精神保健福祉法第38条4項に「(退院等の請求)精神科病院に入院中の者又はその家族等(その家族等がない場合又はその家族等の全員がその意思を表示することができない場合にあつては、その者の居住地を管轄する市町村長)は、厚生労働省令で定めるところにより、都道府県知事に対し、当該入院中の者を退院させ、又は精神科病院の管理者に対し、その者を退院させることを命じ、若しくはその者の処遇の改善のために必要な措置を採ることを命じることを求めることができる」と記載されている(※一部引用:「精神保健福祉法」e-GOV法令検索様HPより)。

精神保健福祉法

第四節 精神科病院における処遇等
(処遇)
第三十六条 精神科病院の管理者は、入院中の者につき、その医療又は保護に欠くことのできない限度において、その行動について必要な制限を行うことができる。
2 精神科病院の管理者は、前項の規定にかかわらず、信書の発受の制限、都道府県その他の行政機関の職員との面会の制限その他の行動の制限であつて、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める行動の制限については、これを行うことができない。
3 第一項の規定による行動の制限のうち、厚生労働大臣があらかじめ社会保障審議会の意見を聴いて定める患者の隔離その他の行動の制限は、指定医が必要と認める場合でなければ行うことができない。

(※一部引用:「精神保健福祉法」e-GOV法令検索様HPより)

 

 

 

 

 

69 感染徴候のない在宅療養者に対する床上での排便の援助において、訪問看護師が行う感染対策で適切なのはどれか。

1.援助時には使い捨てのエプロンを着用する。
2.使用済みのオムツは感染性廃棄物として処分する。
3.使用済みの寝衣は次亜塩素酸ナトリウム液に浸す。
4.陰部洗浄で使用したボトルの洗浄に中性洗剤は用いない。

解答1

解説

標準予防策〈standard precautions〉とは?

標準予防策〈standard precautions〉とは、院内感染の防止策として推奨されている方法である。感染の有無に関わらず入院患者すべてに適用される予防対策であり、患者の血液や体液、分泌、排泄されるすべての湿性物質、粘膜、創傷の皮膚などは感染の恐れがあるとみなして、対応、行動する方法である。

1.〇 正しい。援助時には使い捨てのエプロンを着用する。なぜなら、個人防護具(ガウンやエプロン)の使用は、血液や排泄物、体液から遮断するために用いる(標準予防策)ため。
2.× 使用済みのオムツは、「感染性廃棄物」ではなく家庭一般廃棄物(一般ごみ)として処分する。なぜなら、本症例は感染徴候がないため。医療廃棄物とは、医療行為に関係して排出される廃棄物のことを指す。廃棄物処理法上の区分では「感染性廃棄物」と言い、「特別管理廃棄物」に区分される。 感染症の汚染源となる可能性があるため、適切に処分する必要がある。 
3.× 使用済みの寝衣は、「次亜塩素酸ナトリウム液」ではなく、「一般的な洗濯」で良い。なぜなら、本症例は感染徴候がないため。ちなみに、次亜塩素酸ナトリウムは、台所用漂白剤に含まれ水で希釈して食器類の消毒に用いる。吸い込むと健康障害につながり、皮膚に対しても刺激が強すぎる。
4.× 陰部洗浄で使用したボトルの洗浄に中性洗剤は、「用いない」のではなく用いる。もちろん汚染が認められる場合は、次亜塩素酸ナトリウム液で洗浄する。

 

 

 

 

70 Aさん(85歳、女性)は1人暮らし。うっ血性心不全で臥床して過ごすことが多い。訪問看護師が訪問すると、Aさんは体温37.6℃、口唇の乾燥はなく、体熱感はあるが手足が冷えると言って羽毛布団を肩まで掛けている。室温30℃、湿度65%、外気温は32℃、冷房設備はあるが使っていない。
 このときの訪問看護師の対応で適切なのはどれか。

1.羽毛布団を取り除く。
2.冷房設備で室温を調整する。
3.頓用の解熱薬を服用してもらう。
4.直ちに経口補水液を飲むよう促す。

解答2

解説

本症例のポイント

・Aさん(85歳、女性、うっ血性心不全
・1人暮らし:臥床して過ごすことが多い。
体温37.6℃、口唇の乾燥はない。
・「体熱感はあるが手足が冷える」と羽毛布団を肩まで掛けている。
室温30℃、湿度65%、外気温32℃、冷房設備はあるが使っていない
→本症例は、熱中症が疑われる。熱中症の対応にも優先順位があげられる。高齢者は体内の水分量が減少しているにもかかわらず、温度に対する感覚が弱くなるため、室内でも熱中症にかかりやすいといわれている。ちなみに、うっ血性心不全とは、心臓のポンプ機能が弱まり、充分な量の血液を全身に送れなくなって、血液の滞留(うっ血)が起こしている状態である。このため、呼吸困難や倦怠感、むくみなどが生じる。BNPが100pg/mL以上であることが診断基準である。

1.× 羽毛布団を取り除く優先度は低い。なぜなら、Aさんは「体熱感はあるが手足が冷える」と羽毛布団を肩まで掛けている状態である。訴えを傾聴しながら、熱中症への対応が必要である。
2.〇 正しい。冷房設備で室温を調整する。なぜなら、室温30℃で、冷房設備はあるが使っていないため。Aさんが臥床している状態でも熱中症対策が行える。
3.× 頓用の解熱薬を服用してもらう必要はない。むしろ解熱薬は無効である。なぜなら、熱中症は高体温症であって、発熱ではないため。涼しい場所で、体を冷やし、ゆっくり休ませることで自然と熱は引いていく。
4.× 「直ちに」経口補水液を飲むよう促す優先度は低い。経口補水液(日本救急医学会の熱中症診療ガイドライン2015ではOS-1など)の熱中症への対処時の摂り方は、まずは50~150mlをゆっくり飲んで、1~2分間して、さらに50~150mlをゆっくり飲む。 まだ飲めると感じたら、さらに50~150mlを繰り返す。

 

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