第110回(R3) 看護師国家試験 解説【午前86~90】

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86 悪性貧血で正しいのはどれか。2つ選べ。(※不適切問題:解3つ)

1.黄疸が生じる。
2.異食症が出現する。
3.小球性の貧血である。
4.胃癌の発症率が高い。
5.自己免疫機序で発症する。

解答1・4・5(3通りの解答を正解として採点する)
理由:3つの選択肢が正解であるため。

解説

悪性貧血とは?

悪性貧血とは、ビタミンB12または葉酸の欠乏によって生じる巨赤芽球性貧血の中である。最も発生頻度が高いビタミンB12欠乏性の貧血が悪性貧血である。ビタミンB12は胃液中の内因子との結合によって小腸下部で吸収され、葉酸とともに骨髄内での赤血球生成に利用される。悪性貧血は、高度の萎縮性胃炎による内因子分泌の欠乏が一次的原因である。その結果、回腸末端部からのビタミンB12の吸収障害をおこす。欠乏症状として①動悸、②めまい、③耳鳴り、④全身倦怠感、⑤舌炎、⑥悪心、⑦嘔吐、⑧下痢、⑨神経症状として四肢の知覚異常、⑩歩行困難、⑪視力障害などがおこる。時には興奮,軽い意識混濁などの精神障害をきたすこともある。

1.〇 正しい。黄疸が生じる。なぜなら、悪性貧血におけるビタミンB12の欠乏は、造血細胞におけるDNA合成障害が起こり、これにより成熟前の幼弱な造血細胞が崩壊しやすくなるため。間接ビリルビンが上昇し黄疸が生じる。ちなみに、黄疸とは、皮膚や粘膜が胆汁色素(ビリルビン)で黄色に染まることで、胆汁色素の血漿中濃度の上昇により生じる。原因としては、①溶血によるもの、②肝細胞の障害によるもの、③胆汁の流れの障害によるもの、④体質によるもの、などがある。胆汁は肝臓で作られ、胆管を通じて十二指腸に排出されるが、その流れが障害されたときに生じる黄疸のことを閉塞性黄疸と呼ぶ。多くは総胆管結石や腫瘍により、胆管が閉塞することが原因となる。
2.× 異食症はみられない。異食症とは、食べものではないものを日常的に食べることを特徴とする摂食障害である。異食症は、栄養障害などでみられることがあり、鉄欠乏性貧血における氷食症が有名である。悪性貧血ではまれに精神障害をきたすこともあるが、症状として①興奮や②軽い意識混濁などである。
3.× 「小球性」ではなく巨赤芽球性の貧血である。悪性貧血は、ビタミンB12または葉酸の欠乏によって生じる巨赤芽球性貧血である。一方、小球性貧血(鉄欠乏性貧血やサラセミアなど)とは、ヘモグロビン合成が障害されることで起こるヘモグロビン異常症でみられる。 鉄欠乏状態が長く続くと、爪がスプーン状に変形することがある。
4.〇 正しい。胃癌の発症率が高い。胃癌の合併率が高いため、定期的な上部消化管検査を勧める。「摂取されたビタミンB12は胃壁の細胞から分泌される内因子と結合した後、回腸から吸収され主に肝臓で貯蔵されます。従って、胃癌などで胃の全てを摘出された患者さん、胃壁の細胞を攻撃する自己抗体を持っている方では内因子が分泌されず、ビタミンB12吸収障害が発生します。この自己抗体の存在によるビタミンB12欠乏を原因とする巨赤芽球性貧血を特に悪性貧血と呼び、日本人では巨赤芽球性貧血の61%を占めています。一方、胃全摘は、巨赤芽球性貧血の発症原因の34%を、その他のビタミンB12欠乏が2%を占めています(引用:「巨赤芽球性貧血」)大森病院臨床検査部様より」
5.〇 正しい。自己免疫機序で発症する。悪性貧血は自己免疫反応による慢性萎縮性胃炎が原因となり内因子が欠乏し、ビタミンB12の吸収不良を生じることでおこる。

 

 

 

 

 

 

87 労働者災害補償保険法に規定されているのはどれか。2つ選べ。

1.通勤災害時の療養給付
2.失業時の教育訓練給付金
3.災害発生時の超過勤務手当
4.有害業務従事者の健康診断
5.業務上の事故による介護補償給付

解答1・5

解説

労働者災害補償保険法とは?

労働者災害補償保険法とは、労働者災害補償保険により、業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするために制定された法律である。必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、適正な労働条件の確保等を図り、労働者の福祉の増進に寄与する。

第三節 通勤災害に関する保険給付
第二十一条 第七条第一項第三号の通勤災害に関する保険給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 療養給付
二 休業給付
三 障害給付
四 遺族給付
五 葬祭給付
六 傷病年金
七 介護給付

(※参考:「労働者災害補償保険法」e-GOV法令検索様HPより)

1.〇 正しい。通勤災害時の療養給付は、労働者災害補償保険法に規定されている。保険給付の中には、労働者の通勤による負傷、疾病、障害または死亡(通勤災害)に関する保険給付があげられている。第三節 第二十一条に「通勤災害に関する保険給付」が規定されている。(※参考:「労働者災害補償保険法」e-GOV法令検索様HPより)
2.× 失業時の教育訓練給付は『雇用保険法』に規定されている。失業時の教育訓練給付金は、失業等給付は、求職者給付、就職促進給付、教育訓練給付および雇用継続給付とするとされている。ちなみに、雇用保険法とは、「労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に必要な給付を行うほか、労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合に必要な給付を行うことにより、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、求職活動を容易にする等その就職を促進し、あわせて、労働者の職業の安定に資するため、失業の予防、雇用状態の是正及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他労働者の福祉の増進を図ること」(第1条)を目的として制定された、日本の法律である。
3.× 災害発生時の超過勤務手当は、『労働基準法』に規定されている。災害やその他避けられない事柄によって臨時に必要となる場合は、労働時間を延長し、休日に労働させることができる。この場合、割増賃金が発生する。ちなみに、労働基準法とは、労働者の生存権の保障を目的として、①労働契約や賃金、②労働時間、③休日および年次有給休暇、④災害補償、⑤就業規則といった労働者の労働条件についての最低基準を定めた法律である。
4.× 有害業務従事者の健康診断は、『労働安全衛生法』に規定されている。有害業務従事者は特殊健康診断の対象であり、実施時期は有害業務への雇用時、有害業務への配置転換時のほか、基本的には6か月以内ごとに1回実施すると定められている。健康診断は、業務災害や通勤災害を受けた場合のみである。ちなみに、労働安全衛生法とは、労働者の安全と衛生についての基準を定めた日本の法律である。事業者は安全衛生管理体制を整備することが義務づけられており、それぞれの事業規模に応じた①衛生管理者、②総括安全衛生管理者などを選任しなければならない。
5.〇 正しい。業務上の事故による介護補償給付は、労働者災害補償保険法に規定されている。保険給付の中には、労働者の業務上の負傷、疾病、障害または死亡(業務災害)に関する保険給付があげられている。傷病や障害で介護が必要な場合に現物給付される。第三節 第二十一条に「通勤災害に関する保険給付」が規定されている。(※参考:「労働者災害補償保険法」e-GOV法令検索様HPより)

 

 

 

 

88 尿管結石症の治療で適切なのはどれか。2つ選べ。

1.尿路変更術
2.血管拡張薬の投与
3.カルシウム製剤の投与
4.体外衝撃波砕石術〈ESWL〉
5.非ステロイド系抗炎症薬の投与

解答4・5

解説

尿路結石とは?

尿路結石症とは、尿路に、結石(尿に含まれるカルシウム・シュウ酸・リン酸・尿酸などが結晶化したもの)ができる病気である。結石のできる位置によって、腎結石(腎臓内にある結石) 、尿管結石、膀胱結石などと呼ばれる。結石ができる原因は明確に分かっていないが、リスク要因としては体質遺伝の他、生活習慣が大きく関わっているとされている。典型的な最初の症状は脇腹から下腹部にかけての突然の激痛である。 「動くと痛い」というのは結石の症状ではなく筋肉や骨からの症状のことが多いが、尿管結石の場合はじっとしていてももだえるほどの症状が出ることがある。 また、結石によって閉塞した部位の中枢側の尿路が拡張し、腰背部の仙痛発作が起こる。治療としては、①体外衝撃波腎・尿管結石破砕術、②経尿道的尿路結石除去術、③経皮的尿路結石除去術(もしくは②と③を同時に併用する手術)などがあげられる。

1.× 尿路変更術(尿路変向術)は、膀胱がんに適応となる。膀胱癌に対して膀胱全摘除術と同時に実施する治療法で、①回腸導管造設術、②自排尿型新膀胱造設術、③尿管皮膚ろう造設術などがあげられる。ちなみに、悪性腫瘍による尿管の閉塞時に作成する腎瘻も尿路変向(尿路変向)である。
2.× 血管拡張薬は、心疾患(狭心症)脳血管障害に適応となる。血管拡張薬は、その名の通り末梢血管(高血圧治療薬冠血管)を拡張させ治療に寄与する。ちなみに、尿管結石症は、排石するために利尿剤抗コリン薬などが使われる。他にも、腰背部疝痛に対する鎮痙薬・鎮痛薬のほか、結石排石促進、結石溶解を目的とした薬剤を用いる。
3.× カルシウム製剤の投与は、予防法である。なぜなら、シュウ酸とカルシウムは腸の中で結合し、便として排泄されるため。尿路結石のなかで最も多いシュウ酸カルシウム結石の再発予防において、食事中のシュウ酸の吸収を抑制する目的で、バランスよくカルシウム摂取が推奨される。カルシウムを多く含む食品として乳製品・大豆製品など、シュウ酸を多く含む食品としてほうれん草・キャベツ・ブロッコリーなどである。予防法であるため、治療法においては、他の選択肢の方が有効である。
4.〇 正しい。体外衝撃波砕石術〈ESWL〉は、尿管結石症の治療である。外科手術をせずに体の外より衝撃波をあて、体に傷をつけることなく結石を粉々に砕き、体の外に流しだす治療法である。
5.〇 正しい。非ステロイド系抗炎症薬の投与は、尿管結石症の治療である。非ステロイド性抗炎症薬(NSATDs)には、痛みを引き起こすプロスタグランジンの産生を抑える作用があり、尿管の閉塞で生じる腰背部の痛痛発作に対する応急処置として有効である。排石するために利尿剤や抗コリン薬などが使用される。

抗コリン薬とは?

抗コリン薬は、アセチルコリンの働きを抑えて副交感神経を抑制し、交感神経を優位にする働きを持つ。なぜなら、ムスカリン受容体を遮断するため。ちなみに、前立腺肥大症に、抗コリン薬を使用は禁忌である。なぜなら、交感神経系が緊張状態となり、尿閉を悪化させるため。適応疾患として、過敏性腸症候群、胃十二指腸潰瘍、気管支喘息、肺気腫パーキンソン病などに用いられる。

類似問題です↓

【3問】尿路結石についての問題「まとめ・解説」

 

 

 

 

 

 

89 Aさん(38歳、女性)は、大腸癌の終末期である。癌性腹膜炎による症状緩和の目的で入院し、鎮痛薬の静脈内注射と高カロリー輸液が開始された。Aさんは自宅で過ごしたいと希望したため、医師と看護師で検討し、症状緩和をしながら自宅退院の方向で退院支援カンファレンスを開催することになった。
 退院支援カンファレンスの参加者で適切なのはどれか。2つ選べ。

1.薬剤師
2.言語聴覚士
3.臨床検査技師
4.介護支援専門員
5.ソーシャルワーカー

解答1・5

解説

本症例のポイント

・Aさん(38歳、女性、大腸癌の終末期
・入院目的:癌性腹膜炎による症状緩和
鎮痛薬の静脈内注射と高カロリー輸液が開始。
・Aさんの希望:自宅で過ごしたい
・「症状緩和をしながら自宅退院の方向」で退院支援カンファレンスを開催する。
→Aさんは、大腸がんの終末期である。腹膜炎の症状があることから、退院後も疼痛をはじめとする多様な症状への対応が必要となる。そのため、Aさんの希望「自宅で過ごしたい」をどのように安全に行えるか専門職を選択するのが望ましい。終末期医療とは、末期がんの患者などが、残された余命を平穏に過ごせるように行われるケアのことである。主に身体的・精神的苦痛を取り除くための処置が行われる。ちなみに、退院支援カンファレンスとは、患者および家族の希望や状況、治療や入院中の経過などの情報を共有し、参加者がそれぞれの役割を明確にしたうえで話し合い、退院に向けての課題を明らかにする場でもある。

1.〇 正しい。薬剤師は、退院支援カンファレンスの参加者で適切である。なぜなら、退院後の疼痛コントロール投薬に対し専門的意見を得られるため。疼痛管理などにかかわってきた薬剤師からの、退院後の生活を視野に入れた情報提供や支援は重要である。
2.× 言語聴覚士の優先度は低い。言語聴覚士とは、言語や聴覚、音声、呼吸、認知、発達、摂食・嚥下に関わる障害に対して、その発現メカニズムを明らかにし、検査と評価を実施し、必要に応じて訓練や指導、支援などを行う専門職である。
3.× 臨床検査技師の優先度は低い。臨床検査技師とは、病院などの医療機関において種々の臨床検査を行う技術者で、患者の血液や尿などの検体や脳をはじめとした患者の身体の検査を行う職業である。検体検査、生理学的検査、および採血などの検体採取が業務である。
4.× 介護支援専門員の優先度は低い。介護支援専門員とは、介護保険法等を根拠に、ケアマネジメントを実施することのできる公用資格、また有資格者のことをいう。免許という位置づけではなく、要支援・要介護認定者およびその家族からの相談を受け、介護サービスの給付計画を作成し、自治体や他の介護サービス事業者との連絡、調整等を行う。本症例の場合、介護保険の申請などといった状況設定の記載がないため、確実に必要とはいいにくい。特に、今回は薬学的管理を必要とするため、介護保険サービスより医療保険サービスの方が重要と考えられる。
5.〇 正しい。ソーシャルワーカーは、退院支援カンファレンスの参加者で適切である。ソーシャルワーカーとは、社会福祉士や児童福祉司など社会福祉支援活動を行う人の総称で、病気になった患者や家族を社会福祉の立場からサポートする医療機関などにおける福祉の専門職である。社会福祉の立場から患者やその家族の抱える経済的・心理的・社会的問題の解決、調整を援助する役割がある。

 

 

 

 

90 身体的フレイルの評価基準はどれか。2つ選べ。

1.視力低下
2.体重減少
3.聴力低下
4.歩行速度の低下
5.腸蠕動運動の低下

解答2・4

解説

フレイルとは?

フレイルとは「加齢により心身が衰えた(虚弱な)状態」のことをいう。身体的フレイルの評価基準には、一般的にFriedらによるフレイルの定義が用いられることが多く、①体重減少(6か月間で2~3㎏以上)、②主観的活力低下、③握力低下、④歩行速度の低下、⑤活動度の低下の5項目のうち3項目以上が当てはまればフレイルであるとしている。ちなみに、1~2項目該当で「プレフレイル」という。

【フレイルの要因】
①身体的:体重減少、活力低下、握力低下、歩行速度低下など。
②社会的:閉じこもりがち、社会交流の減少など。
③精神的:認知機能の低下、意欲判断力の低下、抑うつなど。

1.× 視力低下は、身体的フレイルの評価基準に含まれない。視力低下は、加齢に伴う生理的老化である。40歳頃より視力は遠視に傾き暗順応が低下する。
2.〇 正しい。身体的フレイルの評価基準の中に、体重減少(6か月で2~3kg以上)が含まれる。ちなみに、体重減少には、筋力や栄養状態が影響していることが多い。したがって、栄養状態の評価としても用いられる血清アルブミン値をモニタリングする。栄養状態を検査できる項目として、血清総たんぱく(TP)、アルブミン(Alb)、 コリンエステラーゼ(ChE)、ヘモグロビン(Hb)、総リンパ球数(TLC)である。
3.× 聴力低下は、身体的フレイルの評価基準に含まれない。生理的老化による感音性難聴により、50歳頃から始まる。弁別能の低下や高音域の聞き取りにくさがみられ、人との会話が聞き取りづらくなる。これにより、人と会ったり、外出したりすることを避けるようになり、外部との交流が途絶え、孤立につながる。
4.〇 正しい。身体的フレイルの評価基準の中に、歩行速度の低下(通常歩行速度<1.0m/秒)が含まれる。身体的フレイルの原因として、筋力量の減少(サルコペニア)が挙げられるが、歩行速度の低下や握力低下はサルコペニアの診断基準に含まれる。筋力量の減少(サルコペニア)により、身体機能の低下だけではなく、QOLが低下し、入院リスクが高まるといわれている。
5.× 腸嬬動運動の低下は、身体的フレイルの評価基準に含まれない。生理的老化により、消化管では、消化液の分泌低下、蠕動運動の低下が起こる。したがって、腸の運動低下、腹筋の弛緩、直腸内圧閾値上昇により、便秘傾向になる。

 

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