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次の文を読み44~46の問いに答えよ。
Aさん(39歳、1回経産婦)、妊娠経過は順調で無痛分娩をする予定だった。妊娠37週1日、3時間前から続く腹痛と性器出血を主訴に、午前9時に産婦人科を受診した。意識は清明だが、痛みのため苦悶様の表情で、子宮は硬い。バイタルサインは、体温37.3℃、脈拍69/分、整、血圧114/72mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉97%(room air)。内診所見は、未破水、子宮口3cm開大、展退度50%、Station-1、児頭が触れた。胎児心拍が消失しており胎児死亡と診断された。このときの腹部超音波断層法写真を下に示す。
46 Aさんは午後2時に死児を出産した。胎盤が娩出された直後から、子宮から多量の出血を認め、直ちに医師によって子宮双手圧迫が行われた。
止血の目的で、次に行う処置はどれか。
1.子宮摘出
2.子宮の冷罨法
3.子宮動脈塞栓術
4.子宮腔内バルーンタンポナーデ
解答4
解説
・午後2時に死児:出産。
・胎盤が娩出された直後:子宮から多量の出血を認めた。
・直ちに医師によって子宮双手圧迫が行われた。
→産後の異常出血の予防・対応について覚えておこう。
(※図引用:「産婦人科診療ガイドライン産科編 2020 P260」)
1.× 子宮摘出の判断は時期尚早である。なぜなら、子宮摘出は、通常、出血が他の治療法で止まらない場合や、他の重篤な合併症が存在する場合にのみ行われるため。まず本症例の場合、輸血や子宮腔内バルーンタンポナーデなど、侵襲性が低いものが選択される。
2.× 子宮の冷罨法は、分娩後出血の予防介入方法のひとつである。すでに、本症例は「分娩後出血」が発症していると考えられるため不適切である。ちなみに、子宮の冷罨法のほかにも、授乳、子宮底のマッサージまたは圧迫、乳頭刺激などあげられるが、未だ有効性が検証されていないものも多い。
3.× 子宮動脈塞栓術の判断は時期尚早である。なぜなら、子宮動脈塞栓術は、子宮摘出と同様、通常、出血が他の治療法で止まらない場合や、他の重篤な合併症が存在する場合にのみ行われるため。子宮動脈塞栓術とは、大腿動脈を刺し、細い管(カテーテル)をエックス線で見ながら両側の子宮を栄養する動脈(子宮動脈)にまで進め、造影剤に混ぜた塞栓物質(エンボスフィア)を注入して、筋腫の血流を止める治療法である。血流が止まることで酸素の供給が絶たれた筋腫は組織が死んで縮小していき、90%の症例で筋腫による症状の改善が見られる。正常な子宮は子宮動脈以外の動脈からの血流があり、一時的に血流が足りない状態になるが、やがて回復する。(※参考:「子宮動脈塞栓術(UAE)について」つくばセントラル病院より)
4.〇 正しい。子宮腔内バルーンタンポナーデが、止血の目的で、次に行う処置である。なぜなら、子宮内を圧迫止血する必要があるため。子宮内腔バルーン圧迫法(子宮腔内バルーンタンポナーデ)とは、子宮腔内に生理食塩水などで膨らんだ水風船(バルーン)を留置し、圧迫する方法である。子宮体下部をバルーンで圧迫すると、子宮を収縮させる作用のあるオキシトシンの分泌が促され、その結果子宮筋全体が収縮し、出血がおさまると考えられている。
次の文を読み47~49の問いに答えよ。
Aさん(32歳、初産婦)は、妊娠39週0日。2時に破水感があり、3時にパートナーとともに来院し、入院した。入院時の検査でBTB試験紙は青色を示した。8時、陣痛間欠8分、陣痛発作20秒で陣痛が開始した。11時、陣痛間欠8~9分、陣痛発作20秒、羊水の流出はない。四肢末梢の冷感がある。「お腹の痛みは少しで、腰の方が痛みますが、我慢できます。少し胃のむかつきがあり、朝食は果物だけ食べました」と話す。
47 このときの助産師のAさんへの対応で適切なのはどれか。
1.「深呼吸をしましょう」
2.「足浴をしてみましょう」
3.「入浴をしてみましょう」
4.「昼食は残さず食べましょう」
5.「パートナーに肛門を圧迫してもらいましょう」
解答2
解説
・Aさん(32歳、初産婦、妊娠39週0日)
・2時:破水感があり、3時:入院。
・入院時の検査:BTB試験紙は青色。
・8時:陣痛間欠8分、陣痛発作20秒で陣痛が開始。
・11時:陣痛間欠8~9分、陣痛発作20秒、羊水の流出はない。
・四肢末梢の冷感がある。
・「お腹の痛みは少しで、腰の方が痛みますが、我慢できます。少し胃のむかつきがあり、朝食は果物だけ食べました」と話す。
→本症例は「微弱陣痛」が疑われる。微弱陣痛とは、一旦分娩開始した(陣痛の間隔が10分以内ごとであり 、痛みを伴う子宮収縮により分娩が進行)にも関わらず、陣痛の強さが弱く、発作の持続が短く、かつ陣痛の間隔が長くなってしまい、分娩が進行しない状態をいう。子宮口の開き具合により、6分30秒以上(子宮口の開き:4~6cm)、6分以上(子宮口の開き:7~8cm)、4分以上(子宮口の開き:9~10cm)が陣痛周期の目安とされている。子宮口が完全に開いてから(分娩第2期)は、初産婦では4分以上、経産婦では3分30秒以上が微弱陣痛の目安となる。
【用語説明】
破水とは、卵膜が破れて羊水が子宮外に流出することである。破水は、臍帯脱出や上行感染、胎児機能不全などの原因となり得る。【破水の種類】①前期破水とは、分娩が始まる前の破水のこと、②早期破水とは、分娩開始以降で子宮口全開大前の破水のこと、③適時破水:子宮口全開大に達する頃の破水のことをいう。
満期の破水を診断する際に、もっとも一般的に用いられる方法がBTB試験紙法である。正常の腟内は弱酸性(pH4.5~6.0)で、羊水は中性から弱アルカリ性(pH7.0~8.5)である。BTB試験紙が青変(青く変色)することにより、羊水流出による腟内のpHの変化を確認する。ただし、血液・精液・薬剤などの影響による偽陽性の場合も少なからずあるため、診断には注意を要す。
【微弱陣痛の治療】
母体疲労がある場合は、無理をして分娩を進行させるだけでなく、睡眠をとれるよう支援したり、痛みを緩和させるケアをする。温かいタオルを痛みが強い場所に置いたり、マッサージを行ったり、足浴をして緊張を解いたりする場合もある。また、不安や恐怖も微弱陣痛に関与しているため、不安軽減に努めることも大切なケアの一つになる。陣痛を有効な(正常な)陣痛にするために、陣痛促進剤の点滴を行うこともある。破水していない場合は医師、助産師の判断で人工的に破膜させることで陣痛を増強させることがある。分娩が停止してしまい、経腟分娩が可能な状態であれば、鉗子分娩や吸引分娩を行う場合がある。経腟分娩が不可能と判断される場合や母体と胎児に危険があると判断される場合には、緊急で帝王切開術を行う場合がある。
1.× 「深呼吸をしましょう」と伝えるより優先されるものが他にある。なぜなら、深呼吸に根拠がないため。
2.〇 正しい。「足浴をしてみましょう」と対応する。なぜなら、本症例は、四肢末梢の冷感があり、破水を伴い微弱陣痛が疑われるため。母体疲労がある場合は、無理をして分娩を進行させるだけでなく、睡眠をとれるよう支援したり、痛みを緩和させるケアをする。温かいタオルを痛みが強い場所に置いたり、マッサージを行ったり、足浴をして緊張を解いたりする場合もある。また、不安や恐怖も微弱陣痛に関与しているため、不安軽減に努めることも大切なケアの一つになる。
3.× 「入浴をしてみましょう」と伝える必要はない。なぜなら、破水後は感染のリスクが高まるため。したがって、破水後は入浴やシャワーは控えるべきである。
4.× 「昼食は残さず食べましょう」と伝える必要はない。なぜなら、Aさんは、痛みと胃のむかつきがあり、朝食は果物だけ食べられる状況であるため。無理な食べ物の摂取は嘔吐や気分不快につながりかねない。
5.× 「パートナーに肛門を圧迫してもらいましょう」と伝えるのは時期尚早である。肛門圧迫は、分娩第1期(子宮の収縮が頻度を増してきたとき)、努責(いきみ)を逃すために行う有効な手段である。
【分娩第1期】
陣痛の開始から、子宮口(子宮頸部)が完全に開く(全開大、約10cm)までの期間を指す。
・分娩第1期
「①潜伏期」と「②活動期」に分けられる。
①潜伏期:陣痛がリズミカルになり、子宮頸部が薄くなり4cmほど開いた状態まで(初産婦で12時間・経産婦で5時間程度かかる)の時期を示す。
②活動期:子宮口が4センチから10cm(全開)に開き、胎児の一部が胎盤内に降りてくる(初産婦で3時間・経産婦で2時間程度かかる)。いきみたくなって来る段階である。
・分娩第2期:赤ちゃんが産道を通っている間
子宮口が完全に開大してから胎児を娩出するまでの期間を指す。この段階は初産婦では平均45~60分間、経産婦では15~30分間続く。
・分娩第3期:「後産」の時期
胎児を娩出してから胎盤を娩出するまでの期間である。この段階は数分間で終わるのが普通であるが、最大30分ほど続くこともある。
次の文を読み47~49の問いに答えよ。
Aさん(32歳、初産婦)は、妊娠39週0日。2時に破水感があり、3時にパートナーとともに来院し、入院した。入院時の検査でBTB試験紙は青色を示した。8時、陣痛間欠8分、陣痛発作20秒で陣痛が開始した。11時、陣痛間欠8~9分、陣痛発作20秒、羊水の流出はない。四肢末梢の冷感がある。「お腹の痛みは少しで、腰の方が痛みますが、我慢できます。少し胃のむかつきがあり、朝食は果物だけ食べました」と話す。
48 Aさんは、23時に子宮口が全開大し、翌日の0時30分に3,800gの男児を出産した。Apgar〈アプガー〉スコアは1分後9点。0時33分、恥骨結合上の腹壁を圧すると臍帯が腟内に引き込まれ、臍帯を把持して子宮底を軽く叩くと振動が臍帯に伝わる。子宮収縮良好であり、会陰裂傷はⅠ度で産道損傷はない。
助産師の対応で適切なのはどれか。
1.子宮底をマッサージしながら臍帯を強く引っ張る。
2.子宮収縮薬の投与を医師に依頼する。
3.胎盤の娩出を行う。
4.経過を観察する。
解答4
解説
・Aさん(32歳、初産婦、妊娠39週0日)
・2時:破水感があり、3時:入院。
・8時:陣痛間欠8分、陣痛発作20秒で陣痛が開始。
・23時:子宮口が全開大。
・翌日の0時30分:3,800gの男児を出産。
・アプガースコア:1分後9点。
・0時33分:恥骨結合上の腹壁を圧すると臍帯が腟内に引き込まれ()、臍帯を把持して子宮底を軽く叩くと振動が臍帯に伝わる(シュトラスマン徴候)。
・子宮収縮良好であり、会陰裂傷はⅠ度で産道損傷はない。
→Aさんは胎盤剥離徴候がみられないことから、胎盤残留への発展が疑われる。胎盤残留とは、通常赤ちゃんの出生後数分~10分ほどで自然に排出される胎盤が、なにかしらの原因で排出されず子宮内に残ってしまう状態のことをいう。胎盤用手剥離とは、子宮の中まで手を挿し入れ胎盤を用手的に子宮壁から剥離する方法である。この場合、剥離面から急激な出血が起こる場合があるため注意して観察する必要がある。
胎盤剥離徴候が起こっているか観察が必要である。
・キュストネル徴候(Kustner徴候):恥骨上を押すと子宮は押しつぶされて子宮底部は頭側に移動する。剥離していないと臍帯も一緒に引き戻されるが、剥離していると引き戻されず、むしろ臍帯が出る。
・シュレーダー徴候(Schroder徴候):児娩出後ほぼ臍高にあった子宮底が胎盤剥離するとやや上昇し右に傾く。
・アールフェルド徴候(Ahlfeld徴候):胎児娩出直後に臍帯の腟入口に位置する部に止血鉗子で目じるしをつけておくと、胎盤が剥離下降してくるとこの目じるしが10〜15cm外方へ下垂する現象である。
・キュストナー徴候(Kustner徴候):胎児娩出後に恥骨結合上から子宮下方を骨盤内に圧すると臍帯が圧出される状態である。
・シュトラスマン徴候(Strassmann徴候):一方の手で臍帯を持ち、他方の手で子宮底を叩いても手に響かない。癒着しているときは手に響く。
1.× 子宮底をマッサージしながら、臍帯を「強く引っ張る」必要はない。なぜなら、臍帯を強く引っ張ると、臍帯が切れてしまったり、子宮が反転してしまうリスクがあるため。また、胎盤・卵膜の遺残は、出血が多く凝血塊が貯留するため、弛緩出血を助長する。弛緩出血とは、児と胎盤の娩出後、本来なら子宮が収縮することで止まるはずの出血が続く状態である。原因は、多胎妊娠や巨大児による子宮の過伸展、子宮収縮剤の長時間投与、長引く分娩による母胎の疲労、子宮奇形などの体質によるもの、子宮内の凝血塊の遺残、全身麻酔などが挙げられる。
2.× 子宮収縮薬の投与を医師に依頼する必要はない。なぜなら、Aさんの子宮収縮が良好であるため。なぜなら、子宮収縮薬の適応に該当しないため。子宮収縮剤の投与の適応としては、①胎児側因子と②母体側因子が考えられる。①胎児側因子:過期妊娠、胎盤機能不全、子宮内胎児発育遅延などで、子宮内環境が悪く、 分娩させて体外で管理したほうがよいと判断される場合。一方、②母体側因子:前期破水、妊娠中毒症など、妊娠を継続することで母体に危険があると判断される場合である。
3.〇 正しい。胎盤の娩出を行う。「胎児の娩出後、医師か助産師が母親の腹部にそっと手をあてて、子宮が収縮を続けていることを確認します。胎児が出てきてから3~10分以内に胎盤が子宮から剥がれて娩出され、続いて出血がみられます。通常、母親はいきんで胎盤を自力で娩出します。しかし多くの病院では、胎児の娩出後すぐに母親にオキシトシンを投与し(静脈内投与または筋肉内注射)、腹部を定期的にマッサージして子宮の収縮と胎盤の娩出を促します。いきんで胎盤を娩出できない場合や、特に大量に出血している場合は、医師か助産師が腹部を強く圧迫し、胎盤を子宮から剥がして押し出します。胎児が出てきてから45~60分経っても胎盤が娩出されないときは、医師か助産師が子宮の中に手を入れ、胎盤を子宮から剥がして取り出すこともあります。この処置には鎮痛薬または麻酔が必要になります」(※引用:「分娩」MSDマニュアル家庭版HPより)。
4.× 経過を観察する優先度は低い。なぜなら、多くの病院では、胎児の娩出後すぐに母親にオキシトシンを投与し(静脈内投与または筋肉内注射)、腹部を定期的にマッサージして子宮の収縮と胎盤の娩出を促しますため(※参考:「分娩」MSDマニュアル家庭版HPより)。
【分娩第1期】
陣痛の開始から、子宮口(子宮頸部)が完全に開く(全開大、約10cm)までの期間を指す。
・分娩第1期
「①潜伏期」と「②活動期」に分けられる。
①潜伏期:陣痛がリズミカルになり、子宮頸部が薄くなり4cmほど開いた状態まで(初産婦で12時間・経産婦で5時間程度かかる)の時期を示す。
②活動期:子宮口が4センチから10cm(全開)に開き、胎児の一部が胎盤内に降りてくる(初産婦で3時間・経産婦で2時間程度かかる)。いきみたくなって来る段階である。
・分娩第2期:赤ちゃんが産道を通っている間
子宮口が完全に開大してから胎児を娩出するまでの期間を指す。この段階は初産婦では平均45~60分間、経産婦では15~30分間続く。
・分娩第3期:「後産」の時期
胎児を娩出してから胎盤を娩出するまでの期間である。この段階は数分間で終わるのが普通であるが、最大30分ほど続くこともある。
次の文を読み47~49の問いに答えよ。
Aさん(32歳、初産婦)は、妊娠39週0日。2時に破水感があり、3時にパートナーとともに来院し、入院した。入院時の検査でBTB試験紙は青色を示した。8時、陣痛間欠8分、陣痛発作20秒で陣痛が開始した。11時、陣痛間欠8~9分、陣痛発作20秒、羊水の流出はない。四肢末梢の冷感がある。「お腹の痛みは少しで、腰の方が痛みますが、我慢できます。少し胃のむかつきがあり、朝食は果物だけ食べました」と話す。
49 胎盤娩出から1時間が経過した。Aさんのバイタルサインは、体温37.2℃、脈拍70/分、血圧110/70mmHg。子宮底の高さは臍下1横指で硬度はやや軟らかく、子宮底のマッサージを行い硬度良好となる。後陣痛はない。1時間値の出血量は60mLであった。会陰部に違和感と軽度の痛みがある。早期母子接触を行っている。児のバイタルサインは、体温37.4℃、呼吸数42/分、心拍数150/分、経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉98%(room air)。
助産師の対応で適切なのはどれか。2つ選べ。
1.医師に出血量を報告する。
2.早期母子接触を中止する。
3.膀胱充満の有無を確認する。
4.次回の子宮収縮の観察は1時間後に行う。
5.15分間隔でAさんのバイタルサインの測定を行う。
解答1・3
解説
・翌日の0時30分:3,800gの男児を出産。
・胎盤娩出:1時間が経過。
・バイタルサイン:体温37.2℃、脈拍70/分、血圧110/70mmHg。
・子宮底の高さは臍下1横指、硬度はやや軟らかく、子宮底のマッサージを行い硬度良好。
・後陣痛はない。
・1時間値の出血量:60mL。
・会陰部に違和感と軽度の痛みがある。
・早期母子接触を行っている。
・児のバイタルサイン:体温37.4℃、呼吸数42/分、心拍数150/分、SpO2:98%。
→Aさんから、異常な出血がみられる。したがって、子宮復古不全が疑われ、最悪の場合、弛緩出血への発展しかねない。弛緩出血とは、児と胎盤の娩出後、本来なら子宮が収縮することで止まるはずの出血が続く状態である。原因は、多胎妊娠や巨大児による子宮の過伸展、子宮収縮剤の長時間投与、長引く分娩による母胎の疲労、子宮奇形などの体質によるもの、子宮内の凝血塊の遺残、全身麻酔などが挙げられる。弛緩出血が起きたときには、子宮収縮を促すためオキシトシンなどの子宮収縮剤の投与や、子宮マッサージが行われる。子宮底部の輪状マッサージとは、子宮筋を刺激して、子宮収縮を促進させるマッサージである。 排尿・排便を定期的に促し、膀胱・直腸充満からの圧迫による子宮収縮不全を防止する。早期離床を促し、悪露の貯留による子宮収縮不全を防止する。
(※図引用:「早期産褥期の医師への報告の目安」厚生労働省HPより)
1.〇 正しい。医師に出血量を報告する。Aさんの状態から、異常な出血が疑われ、弛緩出血へと発展しかねないため。分娩後の出血量は重要な指標であり、胎盤娩出後から1時間の出血量が50ml以上であれば、異常な出血を疑う(※参考:「早期産褥期の医師への報告の目安」厚生労働省HPより)。
2.× 早期母子接触を中止する必要はない。早期母子接触の中止基準に該当しないため。早期母子接触の中止基準は、①母親の基準(傾眠傾向や医師、助産師が不適切と判断する場合)、②児の基準:呼吸障害(無呼吸、あえぎ呼吸を含む)がある、SpO2:90%未満となる、ぐったりし活気に乏しい、睡眠状態となる、医師、助産師、看護師が不適切と判断する場合である。ちなみに、早期母子接触とは、「正期産新生児を対象として出生直後に実施する皮膚接触」のことである。主な利点として、赤ちゃんへの愛情が深まり、母としての実感が持てるようになる。また、赤ちゃんの呼吸が規則的になり穏やかになる。そして、親子の絆が深まり、スムーズな育児のスタートができる。
3.〇 正しい。膀胱充満の有無を確認する。なぜなら、膀胱が充満していると子宮の収縮が妨げられるため。排尿・排便を定期的に促し、膀胱・直腸充満からの圧迫による子宮収縮不全を防止する。
4.× 次回の子宮収縮の観察は、「1時間後」ではなく頻繁に(状態に応じて)行う。ナースコールの説明をして、体調が悪い時はすぐ呼んでもらう必要がある。
5.× 「15分間隔」ではなくモニタリング(監視)でAさんのバイタルサインの測定を行う。なぜなら、弛緩出血へと発展し急変となる可能性があるため。医師と相談して決定する必要がある。
【連続モニタリングの適応】「経過観察」を満たしても、以下の場合は連続モニタリングを行う(ただし、トイレへの歩行や病室の移動等で胎児心拍数が評価できない期間を除く)
1)分娩第2期のすべての産婦
2)分娩時期を問わず、以下のような場合(①子宮収縮薬使用中、②用量41mL以上のメトロイリンテル挿入中、③用量41mL未満のメトロイリンテル挿入中であっても陣痛が発来した場合、④無痛分娩中、⑤38℃以上の母体発熱中、⑥上記以外に産婦が突然強い子宮収縮や腹痛を訴えた場合)
3)分娩時期を問わず、以下のようなハイリスク妊娠の場合(①母体側要因:糖尿病合併、“妊娠中の明らかな糖尿病”、コントロール不良な妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、妊娠・分娩中の低酸素状態が原因と考えられる脳性麻痺児、子宮内胎児死亡児出産既往(概ね30週以上)、子癇既往、子宮体部への手術歴、②胎児側要因:胎位異常、推定体重<2,000g、胎児発育不全、多胎妊娠、サイトメガロウイルス感染胎児、③胎盤、羊水、臍帯の異常:低置胎盤、羊水過多、羊水過少、臍帯卵膜付着が診断されている場合)
4)その他、ハイリスク妊娠と考えられる産婦(コントロール不良の母体合併症等)
7.以下の場合は分娩監視装置を一定時間(20 分以上)装着してモニタリングを記録し、評価する。1)破水時、2)羊水混濁あるいは血性羊水を認めたとき、3)間欠的児心拍数聴取で(一過性)徐脈、頻脈を認めたとき、4)分娩が急速に進行したり、排尿・排便後など、胎児の位置の変化が予想される場合(間欠的児心拍聴取でもよい)(※引用「産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020 P223」)
(※図引用:「産婦人科診療ガイドライン産科編2020 P260」)
子宮復古不全とは、妊娠によって大きくなった子宮が出産を終えて元に戻る過程である子宮復古に異常が起き、通常の子宮収縮が認められない病態である。 原因は、①子宮内に胎盤の一部が残っている場合(子宮内残留)や、②母体疲労によるもの、③胎盤や卵膜の子宮内感染など原因は多岐に渡る。
・分娩直後:①子宮底長(11~12cm)、②子宮底の高さ(臍下2~3横指)、③悪露の色調・におい(赤色:鮮血性、血液のにおい)
・分娩後12時間:①子宮底長(15cm)、②子宮底の高さ(臍高~臍上1~2横指少し右方に傾く)、③悪露の色調・におい(赤色:鮮血性、血液のにおい)
・1~2日:①子宮底長(11~17cm)、②子宮底の高さ(臍下1~2横指)、③悪露の色調・におい(赤色:鮮血性、血液のにおい)
・3日:①子宮底長(9~13cm)、②子宮底の高さ(臍下2~3横指)、③悪露の色調・におい(褐色、赤褐色:軽い異臭)
・4日:①子宮底長(9~10cm)、②子宮底の高さ(臍と恥骨結合の中央:臍恥中央)、③悪露の色調・におい(褐色、赤褐色:軽い異臭)
・5日:①子宮底長(8~11cm)、②子宮底の高さ(恥骨結合上縁3横指)、③悪露の色調・におい(褐色、赤褐色:軽い異臭)
・6日:①子宮底長(8~11cm)、②子宮底の高さ(恥骨結合上縁3横指)、③悪露の色調・におい(褐色、赤褐色:軽い異臭)
・7~9日:②子宮底の高さ(恥骨結合上わずかに触れる)、③悪露の色調・におい(褐色、赤褐色:軽い異臭)
・10日以降~3週間:②子宮底の高さ(腹壁上より触知不能)、③悪露の色調・におい(黄色・無臭)
・4~6週間:③悪露の色調・におい(白色・無臭)
【早期母子接触の適応基準、中止基準、実施方法】
施設の物理的、人的条件等により、ここに推奨する基本的な実施方法を一部変更せざるを得ない場合がある。そのような場合にも、早期母子接触の効果と安全性について十分に吟味し、母子の最大の利益となるように実施方法を決定する。また、早期母子接触を実施しない選択肢も考慮すべきである。以下に経腟分娩を対象とした各基準を示す。
<適応基準>
①母親の基準
・本人が「早期母子接触」を実施する意思がある
・バイタルサインが安定している
・疲労困憊していない
・医師、助産師が不適切と認めていない
②児の基準
・胎児機能不全がなかった
・新生児仮死がない(1 分・5 分 Apgar スコアが 8 点以上)
・正期産新生児
・低出生体重児でない
・医師、助産師、看護師が不適切と認めていない
<中止基準>
①母親の基準
・傾眠傾向
・医師、助産師が不適切と判断する
②児の基準
・呼吸障害(無呼吸、あえぎ呼吸を含む)がある
・SpO2:90%未満となる
・ぐったりし活気に乏しい
・睡眠状態となる
・医師、助産師、看護師が不適切と判断する
<実施方法>
早期母子接触は母子に対して種々の利点がある。したがって、早期母子接触を実施できない特別な医学的理由が存在しない場合は、周産期医療従事者として、その機会を設けることを考える必要がある。早期母子接触は医療ではなく、ケアであることから、母親とスタッフ間のコミュニケーションがスムーズに行われている必要があり、出産後の母子を孤立させない配慮が大切である。特に、早期母子接触を実施する時は、母親に児のケアを任せてしまうのではなく、スタッフも児の観察を怠らないように注意する必要がある。
・バースプラン作成時に「早期母子接触」についての説明を行う。
・出生後できるだけ早期に開始する。30 分以上、もしくは、児の吸啜まで継続することが望ましい。
・継続時間は上限を 2 時間以内とし、児が睡眠したり、母親が傾眠状態となった時点で終了する。
・分娩施設は早期母子接触を行わなかった場合の母子のデメリットを克服するために、産褥期およびその後の育児に対する何らかのサポートを講じることが求められる。
母親:①「早期母子接触」希望の意思を確認する。②上体挙上する(30 度前後が望ましい)。③胸腹部の汗を拭う。④裸の赤ちゃんを抱っこする。⑤母子の胸と胸を合わせ両手でしっかり児を支える。
児:①ドライアップする。②児の顔を横に向け鼻腔閉塞を起こさず、呼吸が楽にできるようにする。③温めたバスタオルで児を覆う。④パルスオキシメータのプローブを下肢に装着するか、担当者が実施中付き添い、母子だけにはしない。⑤以下の事項を観察、チェックし記録する(呼吸状態:努力呼吸、陥没呼吸、多呼吸、呻吟、無呼吸に注意する。冷感、チアノーゼ、バイタルサイン(心拍数、呼吸数、体温など)、実施中の母子行動)
・終了時にはバイタルサイン、児の状態を記録する。
(※一部引用:「早期母子接触」実施の留意点 日本周産期・新生児医学会HPより)
次の文を読み50~52の問いに答えよ。
Aさん(36歳、初妊婦、専業主婦)は夫(35歳、会社員)と2人暮らしである。Aさんは双胎妊娠で、妊娠高血圧症候群を合併していたため、妊娠34週から管理入院していた。面会に来た夫から助産師に対して「出産育児一時金について教えてほしい」と相談があった。
50 夫への説明で正しいのはどれか。
1.「双子の場合も1人分が支給されます」
2.「分娩にかかった費用によって金額が変わります」
3.「妊娠中に給付金の一部を受け取ることができます」
4.「医療保険者から病院に直接支払われる制度があります」
解答4
解説
・Aさん(36歳、初妊婦、専業主婦)
・2人暮らし:夫(35歳、会社員)
・Aさん(双胎妊娠、妊娠高血圧症候群):妊娠34週から管理入院
・夫から「出産育児一時金について教えてほしい」と。
→出産育児一時金についておさえておこう。出産育児一時金とは、健康保険法に基づき、日本の公的医療保険制度の被保険者が出産したときに支給される手当金(1児ごとに42万円)である。そもそも正常な出産のときは病気とみなされないため、定期健診や出産のための費用は自費扱いとなる。出産育児一時金は直接支払制度となっている。直接支払制度とは、出産育児一時金42万円が直接医療機関に支払われる制度であり、分娩後、褥婦は医療機関に保険証を提示し、所定の合意書に記載することでこの制度を利用する。出産費用が出産育児一時金の額より少ない場合、その差額を被保険者等に支給する。したがって、日本の公的医療保険に加入していることが条件となる。
1.× 双子の場合は、「1人分」ではなく2人分が支給される。多胎児を分娩したときは、胎児数分だけ支給される。
2.× 「金額が変わるもの」ではなく、一定額(1児ごとに42万円)が支給される。出産費用が出産育児一時金の額より少ない場合、その差額を被保険者等に支給する。
3.△ 「妊娠中に給付金の一部を受け取ることができる」と断言できない。なぜなら、対象に当てはまらないといけないため。出産育児一時金は、出産費貸付制度という出産育児一時金(家族出産育児一時金)の8割を限度額として、無利息で貸付が受けられる制度がある。ただし、貸付を受けられる対象として、①被保険者、または被扶養者が、出産予定日まで1ヵ月以内の場合、②被保険者、または被扶養者が、妊娠4ヵ月以上で、病院に一時的な支払が必要になった場合などがあげられる。
4.〇 正しい。「医療保険者から病院に直接支払われる制度があります」と説明する。これを直接支払制度という。直接支払制度とは、出産前に被保険者等と医療機関等が出産育児一時金の支給申請及び受取りに係る契約を結び、医療機関等が被保険者等に代わって協会けんぽに出産育児一時金の申請を行い、直接、出産育児一時金の支給を受けることができる制度である。