第107回(R6) 助産師国家試験 解説【午前36~40】

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36 産科危機的出血への対応指針に示されている産科危機的出血の定義に当てはまるのはどれか。2つ選べ。

1.出血の持続
2.Hb値6.8g/dL
3.産科DICスコア7点
4.ショックインデックス1.5
5.経腟分娩後24時間以内の出血量500mL

解答1・4

解説

(※図引用:「産科危機的出血への対応指針 2022」日本産科婦人科学会より)

MEMO

各種対応にも拘わらず、

出血持続
バイタルサイン異常(乏尿、末梢循環不全)
or SI:1.5以上
or 産科 DIC スコア8点以上
or フィブリノゲン150 ㎎/dL 未満

となれば「産科危機的出血」をコマンダーは宣言し、 一次施設であれば高次施設へ搬送する。

1.4.〇 正しい。出血の持続/ショックインデックス1.5、産科危機的出血への対応指針に示されている産科危機的出血の定義に当てはまる。ショック指数(ショックインデックス)とは、出血、体液喪失が原因で起こる循環不全を循環血液量減少性ショックといい、重症度の指標としてショック指数(SI)を用いることがある。SI=「脈拍数(心拍数)/収縮期血圧」で表す。1.0で循環血液量のおよそ20%が、1.5でおよそ40%が失われていると考えられる。基準として、正常(0.5)、軽症(1.0)、中等症(1.5)、重症(2.0)となる。

2.× Hb値6.8g/dLの場合、「貧血」と判断することが多い。へモグロビン(Hb値):基準値 男性14~18g/dl、女性12~16g/dl. 血液中のヘモグロビンの量を示している。 へモグロビンは赤血球に含まれ、酸素を全身に運ぶ重要な役目を果たしており、減少すると「貧血」を起こす。世界保健機構(WHO)は妊娠中の場合はHb <11 g/dL、あるいはHt < 33%の場合で貧血と定義している。また、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)では妊娠中期はHb < 10.5 mg/dL、Ht < 32%としているが、それ以外の妊娠初期と後期に関してはWHOと同じ基準になっている。

3.× 産科DICスコアは、「7点」ではなく8点以上で、産科危機的出血の定義に当てはまる。7点以下で「その時点でDICとはいえない」。8点~12点以下で「DICに進展する可能性が高い(DICとしての治療を開始する目安)」。13点以上で「DICとしてよい」ことになっている。ちなみに、DIC(播種性血管内凝固症候群:disseminated intravascular coagulation)とは、本来血液が凝固しないはずの血管内で、何らかの原因により血液が固まってしまい、全身の細小血管に細かな血栓が次々と作られてしまう症候群である。血栓が臓器の血管中に発生すると腎不全などの臓器障害を引き起こす。

5.× 経腟分娩後24時間以内の出血量500mLの場合、「分娩時大量出血」と判断することが多い。分娩時大量出血の診断基準として、産後24時間以内の出血量が、経腟分娩では500ml以上、帝王切開では1000ml以上の場合、もしくは持続する100bpm以上の頻脈、SI≧1.0の場合があげられる。処置として、子宮双手圧迫、輸液、子宮収縮薬投与などを開始し、系統的に原因検索を行い、原因に即した治療を行う。

 

 

 

 

 

37 乳幼児のRSウイルス感染症で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.感染した場合には抗ウイルス薬を内服する。
2.鼻汁や咳などの呼吸器症状がみられる。
3.生の魚介類を食べることで感染する。
4.ほとんどの乳幼児が感染する。
5.定期予防接種がある。

解答2・4

解説

RSウイルス感染症とは?

RSウイルス感染症とは、年齢を問わず感染を起こすが、特に乳幼児期において重要な病原体である。初感染は、軽症の感冒様症状から重症の細気管支炎や肺炎などの下気道疾患に至るまで様々である。しかしながら、初感染においては下気道疾患を起こす危険性は高い。1/3 が下気道疾患を起こすと報告されている。発熱・鼻汁などの上気道炎症症状が数日続き、そのあと下気道症状が出現する。

1.× 一般的に、感染した場合、抗ウイルス薬の内服はしない。なぜなら、RSウイルス感染症の特別な治療法はないため。症状を軽くする対症療法や呼吸困難を助ける治療を行う。重症例の場合、点滴で水分補給をし、呼吸困難の程度で酸素投与や人工呼吸器で対応する。

2.〇 正しい。鼻汁や咳などの呼吸器症状がみられる。発熱・鼻汁などの上気道炎症症状が数日続き、そのあと下気道症状が出現する。ほとんどの場合は軽症で、1週間ほどで治る。

3.× 生の魚介類を食べることで感染するのは、「アニサキスや腸炎ビブリオなど」である。アニサキスとは、寄生虫(線虫)の一種である。アニサキス幼虫は、長さ2~3cm、幅は0.5~1mmくらいで、白色の少し太い糸のように見える。生の魚介類を摂取した際に、消化器系に寄生することがあり、アニサキス症と呼ばれる感染症を引き起こすことがある。

4.〇 正しい。ほとんどの乳幼児が感染する。RSウイルス感染症は、2歳までにほとんどの乳幼児が一度は感染する代表的な呼吸器感染症である。

5.× 定期予防接種が「ない」。定期予防接種とは、「予防接種法」に規定されたワクチン接種のことである。現在、定期接種のワクチンとして10種類が認められている。

予防接種法とは?

予防接種法とは、公衆衛生の観点から伝染のおそれがある疾病の発生・まん延を予防するためにワクチンの予防接種を行うとともに、予防接種による健康被害の迅速な救済を図ることを目的として制定された日本の法律である。予防接種法に基づく予防接種には、①定期予防接種と②臨時予防接種があり、定期予防接種の対象疾患には、①A類疾病と②B類疾病がある。さらに同法に基づかない任意接種もある。

A類疾病:主に集団予防、重篤な疾患の予防に重点を置き、国の積極的な勧奨があり、本人(保護者)に努力義務がある。
疾患:結核、ジフテリア、破傷風、百日咳、ポリオ、麻疹、風疹、日本脳炎、ヒブ(インフルエンザ菌b型)感染症、小児の肺炎球菌感染症、水痘、ヒトパピローマウイルス感染症、B型肝炎

B類疾病:主に個人予防に重点を置き、国の積極的な勧奨なく、本人(保護者)に努力義務はない。
疾患:季節性インフルエンザと高齢者の肺炎球菌感染症

(参考:「予防接種とは?」東京都医師会HPより)

 

 

 

 

 

38 出生後24時間以内の早産児に出現しやすい生理学的特徴はどれか。2つ選べ。

1.貧血
2.高血圧
3.低血糖
4.高カルシウム血症
5.中枢性の無呼吸発作

解答3・5

解説

(※図引用:「産婦人科診療ガイドライン産科編2020 P363」)

MEMO

出生後24時間以内の早産児は正期産児に比べ、低血糖、黄疸、低体温、呼吸障害、哺乳障害が起きやすい。出生後24時間以内の早産児を管理する際、体温、体重、呼吸状態、哺乳状況、活動性、皮膚色(黄疸、チアノーゼ等)を定期的に観察する。Ishiguroらは35、36週で出生した児が新生児室からNICUに入院する原因の80%は低血糖無呼吸発作であったと報告している。無症候性の低血糖でも神経発達に影響することがあり、定期的な血糖測定が望ましいが、そのタイミングについての明確な指針は存在しない。また、蘇生時に問題なくても、その後に無呼吸発作が出現する可能性を考慮して、酸素飽和度モニターや呼吸監視モニター等の装着をすることが望ましい(※引用:「産婦人科診療ガイドライン産科編2020 P363」)。

1.× 貧血は、早産児において長期的に見られる。つまり、出生直後の24時間以内に特に出現しやすいわけではない。未熟児貧血とは、早産児に発症する貧血であり、早産児は出産時の赤血球数が少なく、貧血に対する生理反応が正期産時よりも弱いため、貧血が進行しやすく鉄欠乏性貧血を発症するリスクも高い。未熟児貧血による症状は、短期的には頻呼吸、多呼吸、体重減少などがある。未熟児貧血に対して、予防的にエリスロポエチンが使用される。

2.× 高血圧は、将来にわたって高血圧や慢性腎臓病に罹患しやすい。これは、生涯もつネフロンの数は出生体重や出生時の在胎期間と非常によく相関するためといわれている(※参考:「早産低出生体重児における高血圧および慢性腎臓病のリスク」昭和大学DOHaD班様HPより)。

3.〇 正しい。低血糖は、出生後24時間以内の早産児に出現しやすい生理学的特徴である。なぜなら、早産児は、グリコーゲンの貯蔵量が少ないため。ほかにも、出生直後は呼吸や体温調節など多くのエネルギーを消費することなどがあげられる。

4.× 「高」ではなく低カルシウム血症は、通常生後2日以内に発生しやすい。なぜなら、生まれた後も母乳の栄養だけでは骨の成長に必要なカルシウムを補うことができないため。したがって、早産児骨減少症を引き起こす可能性がある。

5.〇 正しい。中枢性の無呼吸発作は、出生後24時間以内の早産児に出現しやすい生理学的特徴である。なぜなら、脳の呼吸中枢が未熟であるため。したがって、「呼吸をしなさい」という指示が行えていないといわれている。

 

 

 

 

 

39 Aちゃん(女児)は在胎32週0日に経腟分娩で出生した。弱々しく泣き、筋緊張は低下していた。出生後1分の心拍数120/分。マスクバック換気を経て有効な換気ができ、NICUに入院した。生後4時間、助産師はNICUに初めて面会に来た母親に対応した。
 ディベロップメンタルケアの視点からの説明で適切なのはどれか。2つ選べ。

1.「オムツ交換は看護師が行います」
2.「タオルを用いてAちゃんの周囲を囲い込みます」
3.「Aちゃんに触れる際は医療用手袋を装着してください」
4.「面会時はAちゃんがよく見えるように照明を明るくします」
5.「Aちゃんが目を開けているときはやさしく語りかけてあげましょう」

解答2・5

解説

本症例のポイント

・Aちゃん(女児、在胎32週0日、経腟分娩)
・弱々しく泣き、筋緊張は低下。
・出生後1分:心拍数120/分。
・マスクバック換気を経て有効な換気ができた。
・生後4時間:助産師はNICUに初めて面会に来た母親に対応した。
→本症例は、早産期(妊娠22週0日~36週6日)による分娩である。ディベロップメンタルケアという専門用語が分からなくとも、一般的な対応を心掛けよう。

【ディベロップメンタルケアとは?】
ディベロップメンタルケアとは、早産で出生した低出生体重児や疾患をもって出生した新生児の成長発達を促すケアである。主な内容として、①ポジショニング、②ハンドリング、③早期母子接触、④タッチケアなどがある。光や音による刺激を緩和し、静かで暗くて温かい子宮内に近づけた環境に調整し、子宮内にいた時の姿勢に近づけたポジショニング(良肢位保持)を行う。また、赤ちゃんの睡眠覚醒リズムに合わせたケアを行い、体位変換やおむつ交換などでストレスがかからないよう優しい手技でケアを行う。また、家族の協力を得て、肌との触れ合いによる情緒的ケアも行う(※参考:「NICUにおける看護の取り組み」富山県HPより)。

1.× あえて、「オムツ交換は看護師が行います」と説明する優先度は低い。むしろ、ディベロップメンタルケア(③早期母子接触)のため、母親ができる範囲でオムツ交換などのケアに参加することは、親子の絆を深めることにつながる。

2.〇 正しい。「タオルを用いてAちゃんの周囲を囲い込みます」と説明する。なぜなら、ディベロップメンタルケアの①ポジショニングにつながるため。早産児は外界からの刺激に敏感であり、タオルを用いて囲い込みを行うことは安心感を与え、安定した環境を提供することができる。

3.× 「Aちゃんに触れる際は医療用手袋を装着してください」と説明する優先度は低い。なぜなら、ディベロップメンタルケアの④タッチケアにつながるため。家族の協力を得て、肌との触れ合いによる情緒的ケアも行う。

4.× 「面会時はAちゃんがよく見えるように照明を明るくします」と説明する優先度は低い。なぜなら、早産児は外界からの刺激に敏感であるため。光や音による刺激を緩和し、静かで暗くて温かい子宮内に近づけた環境に調整し、子宮内にいた時の姿勢に近づけたポジショニング(良肢位保持)を行う。

5.〇 正しい。「Aちゃんが目を開けているときはやさしく語りかけてあげましょう」と説明する。なぜなら、早産児に優しく語りかけることは、感覚刺激を提供し、親子の絆を深めるために非常に重要であるため。

早期母子接触とは?

早期母子接触とは、「正期産新生児を対象として出生直後に実施する皮膚接触」のことである。主な利点として、赤ちゃんへの愛情が深まり、母としての実感が持てるようになる。また、赤ちゃんの呼吸が規則的になり穏やかになる。そして、親子の絆が深まり、スムーズな育児のスタートができる。

<中止基準>
①母親の基準:傾眠傾向、医師、助産師が不適切と判断する。
②児の基準:呼吸障害(無呼吸、あえぎ呼吸を含む)がある。SpO2:90%未満となる。ぐったりし活気に乏しい。睡眠状態となる。医師、助産師、看護師が不適切と判断する。(※詳しくは解説下に記載)

 

 

 

 

 

40 平日の午後2時、震度6強の地震があった。地域周産期母子医療センターの産科病棟は建屋が免震構造であったため、内部の被害はほぼなかったがエレベーターが緊急停止した。ニュースでは公共交通機関が運転を中止し、道路の渋滞が起き始めたと報道している。
 看護管理者の初期対応はどれか。2つ選べ。

1.災害時小児周産期リエゾンを任命する。
2.出勤できない夜勤スタッフの勤務調整を行う。
3.母親と同室している新生児をスタッフステーションに集める。
4.非常用電源での分娩監視装置の動作確認をスタッフへ指示する。
5.被災した地域の連携病院で分娩予定だった産婦の受け入れを決定する。

解答2・4

解説

本症例のポイント

・平日の午後2時、地震(震度6強)。
・地域周産期母子医療センターの産科病棟:免震構造。
・内部の被害:ほぼなし(エレベーター緊急停止)。
・ニュース:公共交通機関が運転を中止道路の渋滞
→災害に備えるためには、関係者の意識変革、日ごろの業務整理、定期的な確認、訓練が必要である。

→看護管理者とは、病院内の看護部門および病棟・看護の現場をマネジメントする人のことを指す。客観的な視点から物事を把握しつつ、さまざまなリソース(財政・物質・人員)を活用しながらチームを束ね、目標達成へと導いていくのが使命である。それぞれ「病院の経営陣の1人として」「部門の責任者として」「看護師のリーダーとして」マネジメント業務を遂行する必要がある。

(※引用:「分娩施設における災害発生時の対応マニュアル作成ガイド」日本看護協会様HPより)

1.× 災害時小児周産期リエゾンを任命するのは、看護管理者ではなく「都道府県」である。リエゾン活動とは、フランス語の「liaison(リエゾン)」に由来する言葉で、「連携」「橋渡し」「つなぐ」という意味である。「災害時小児周産期リエゾンとは、災害時に、都道府県が小児・周産期医療に係る保健医療活動の総合調整を適切かつ円滑に行えるよう、保健医療調整本部において、被災地の保健医療ニーズの把握、保健医療活動チームの派遣調整等に係る助言及び支援を行う都道府県災害医療コーディネーターをサポートすることを目的として、都道府県により任命された者である。災害時小児周産期リエゾンは、平常時から当該都道府県における小児・周産期医療提供体制に精通しており、専門的な研修を受け、災害対応を担う関係機関等と連携を構築している者が望ましい」と記載されている(※参考:「災害時小児周産期リエゾン活動要領」厚生労働省HPより)。

2.〇 正しい。出勤できない夜勤スタッフの勤務調整を行う。なぜなら、設問の中にて、公共交通機関が運転を中止道路の渋滞しているニュースがあったため。したがって、夜勤スタッフが出勤できない可能性がる。これに対応するための勤務調整は、病棟の運営を維持するために必要な初期対応である。ちなみに、看護管理者とは、病院内の看護部門および病棟・看護の現場をマネジメントする人のことを指す。客観的な視点から物事を把握しつつ、さまざまなリソース(財政・物質・人員)を活用しながらチームを束ね、目標達成へと導いていくのが使命である。それぞれ「病院の経営陣の1人として」「部門の責任者として」「看護師のリーダーとして」マネジメント業務を遂行する必要がある。

3.× あえて、母親と同室している新生児をスタッフステーションに集める優先度は低い。むしろ、母親と新生児を分けることは、混乱を招く可能性がある。今回の設問において、内部の被害は、エレベーター緊急停止した程度で「ほぼない」ことからも、母親と新生児は一緒にいてもらう。余震が起こり、緊急に避難が必要な際に備えてもらうほうが良い。

4.〇 正しい。非常用電源での分娩監視装置の動作確認をスタッフへ指示する。なぜなら、地震による停電などの影響を考慮する必要があるため。特に、分娩監視装置は母子の安全を確保につながる。ちなみに、分娩監視装置とは、子宮収縮や胎児心拍、胎動の状態で調べられるものである。

5.× 被災した地域の連携病院で分娩予定だった産婦の受け入れを決定するのは、「看護管理者」ではなく主に院長(医師)の判断で行う。空室やベッド数など看護師長と相談となることもある。ただし、今回のケースでは、内部の被害はほぼないもののエレベーターが緊急停止している。ベッドの搬入・移動が困難なことなどが考えられるため、連携病院からの受け入れを決定するのは、より慎重に判断するべきである。

 

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