第107回(R6) 助産師国家試験 解説【午後31~35】

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31 妊娠中期に発症した妊娠糖尿病で母体の血糖値の管理が不十分である場合、妊娠後期に生じやすいのはどれか。2つ選べ。

1.胎児構造異常
2.前置胎盤
3.羊水過多
4.過期産
5.巨大児

解答3・5

解説

妊娠糖尿病とは?

妊娠糖尿病とは、妊娠中にはじめて発見、または発症した糖尿病まではいかない糖代謝異常のことである。糖代謝異常とは、血液に含まれる糖の量を示す血糖値が上がった状態である。肥満女性は妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、帝王切開分娩、巨大児などのリスクが高い。

1.× 胎児構造異常(胎児奇形)の原因は、ダウン症などの染色体異常を含めた遺伝子の異常がある場合や、他にも風疹やトキソプラズマ症などの感染症、麻薬やタバコを含めた薬剤、化学物質(放射線、水銀など)があげられる。

2.× 前置胎盤のリスク要因は、高齢妊娠、 喫煙者、多産婦、双胎、以前に子宮の手術を受けた(帝王切開、流産・妊娠中絶手術、筋腫核出)などである。ちなみに、前置胎盤とは、胎盤が正常より低い位置(腟に近い側)に付着してしまい、そのために胎盤が子宮の出口(内子宮口)の一部もしくは全部を覆っている状態のことをいう。頻度として、全分娩の約1%弱を占めている。一般的に前置胎盤は無症状であるが、典型的な症状として①腹痛を伴わない突然の性器出血(警告出血)や大量性器出血があげられる。これらの症状は、お腹が大きくなり張りやすくなる妊娠28週以降に増加するといわれている。

3.〇 正しい。羊水過多は、妊娠中期に発症した妊娠糖尿病で母体の血糖値の管理が不十分である場合、妊娠後期に生じやすい。胎児が高血糖になることで尿産生が増加し、胎児が多尿になり、羊水過多となる。ちなみに、羊水過多とは、羊水量が800 mLを超える場合であり、母体の糖尿病や児が羊水をうまく飲めない消化管閉鎖などが原因となることが多い。診断方法は超音波検査によるamniotic fluid index(AFI)の計測であり、AFIの正常範囲は5~24cmであり、24cm以上は羊水過多を意味する。

4.× 過期産の原因は、一般に不明であるが、過期産歴がある場合リスクは2~3倍上昇する。過期産は、胎児の下垂体-副腎系に影響する異常(例、無脳症、副腎低形成、先天性副腎過形成症)および胎盤性サルファターゼ欠損に関連する伴性遺伝性魚鱗癬によって起こる可能性がある(※参考:「過期産児および過熟児」MSDマニュアルプロフェッショナル版様HPより)。ちなみに、妊娠糖尿病がある場合、母体や胎児の健康のために早めに分娩を誘導することが多い。

5.〇 正しい。巨大児は、妊娠中期に発症した妊娠糖尿病で母体の血糖値の管理が不十分である場合、妊娠後期に生じやすい。なぜなら、妊娠糖尿病で母体の血糖値が高い状態が続くと、胎児も高血糖状態になり、胎児の成長が促進され、巨大児になるリスクが高まるため。ちなみに、巨大児とは、出生体重が4000g以上の正期産児をさす。

分娩時期の分類

流産期とは、妊娠21週6日までの妊娠中絶(分娩)。
早産期とは、妊娠22週0日~36週6日における分娩。
正期産とは、妊娠37週0日~41週6日までの分娩。
過期産とは、42週0日以後の分娩。

(※引用:「産婦人科診療ガイドライン産科編2020 P25」)

 

 

 

 

 

32 リトドリン塩酸塩の使用時に注意する母体の副作用はどれか。2つ選べ。

1.嗜眠
2.高血糖
3.肺水腫
4.呼吸抑制
5.腱反射低下

解答2・3

解説

(※図引用:「子宮収縮剤のリスク、ベネフィット」著:西島正博様)

1.× 嗜眠/呼吸抑制は、硫酸マグネシウムの副作用の使用時に注意する母体の副作用である。嗜眠とは、意識レベルの低下の一つで、傾眠よりやや強い意識混濁している状態である。ただし、強く刺激すれば覚醒し、食事のような合目的的行動も可能である。

2~3.〇 正しい。高血糖/肺水腫は、リトドリン塩酸塩の使用時に注意する母体の副作用である。
【母体の副作用】
①β1刺激により心拍出量、収縮期血圧は上昇するが、β2刺激による末梢血管拡張、血管抵抗低下から拡張期血圧は低下する。この脈圧の増加と脳血管の拡張から顔面紅潮、頭痛、熱感などが10~15%の患者に発生する。
②β2刺激により膵臓のグルカゴン分泌は増加し、肝と筋肉でのクリコーグン分解が促進されるため高血糖となる。高度の高血糖が放置されれば糖尿病性ケトアシドーシス、胎児死亡を来す可能性もあり、糖尿病患者への投与は避けるべきである。また高血糖と刺激によるカリウムの細胞内への移動によって低カリウム症となる。
③β1刺激による心臓への周期変動作用と変力作用の増強により循環器系のさまざまな副作用が出現する。上記、低カリウム血症をともなえば不整脈、心電図異常をみる。
④最も重大な副作用は、肺水腫である。β2刺激によるNa・水貯留作用は潜在的な危険因子である(※参考:「子宮収縮剤のリスク、ベネフィット」著:西島正博様)。
ちなみに、肺水腫とは、肺静脈性肺高血圧と肺胞内の液貯留を伴った重度の急性左室不全である。

5.× 腱反射低下は、リトドリン塩酸塩/硫酸マグネシウムの副作用どちらともいえない。だだし、硫酸マグネシウムの副作用として、筋力低下がみられるため、腱反射低下も起こしやすい。

リトドリン塩酸塩とは?

塩酸リトドリンとは、子宮収縮抑制薬(子宮鎮痙薬とも)である。臨床応用としては、切迫早産や切迫流産の際に子宮収縮(陣痛)を抑制するのに用いられる。投与中に過度の心拍数増加(頻脈)があらわれた場合には、減量するなど適切な処置を行うことが求められる。主な副作用として、動悸、振戦(手足の震え)、吐き気、発疹などが報告されている。胎児には、頻脈、不整脈があらわれる。作用機序として、β受容体刺激剤の中でも強いβ2選択性により、細胞内c-AMPを上昇させ、子宮収縮抑制効果を示す。

【禁忌】
・強度の子宮出血、子癇、前期破水例のうち子宮内感染を合併する症例、常位胎盤早期はく離、子宮内胎児死亡、その他妊娠の継続が危険と判断される者
・重篤な甲状腺機能亢進症
・重篤な高血圧症
・重篤な心疾患
・重篤な糖尿病
・重篤な肺高血圧症
・妊娠16週未満の妊婦
・本剤の成分に対し重篤な過敏症の既往歴のある患者

 

 

 

 

 

33 Aさん(34歳、初産婦)は妊娠35週3日に妊婦健康診査のため来院した。外来待合室で意識を消失し、心肺停止状態となった。
 このときの対応で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.左側臥位にする。
2.帝王切開の準備をする。
3.胸骨圧迫を80回/分で行う。
4.胸骨下半分で胸骨圧迫を行う。
5.胸骨圧迫と人工呼吸を10:2の割合で行う。

解答2・4

解説

(※画像引用:日本ACLS協会ガイド様HPより「BLSとは?」)

本症例のポイント

・Aさん(34歳、初産婦、妊娠35週3日
・妊婦健康診査:外来待合室で意識を消失し、心肺停止状態
→本症例は、妊婦の心停止状態である。一次救命処置が必要となるため、その対応をおさえておこう。ちなみに、一次救命処置とは、呼吸が止まり、心臓も動いていないと見られる人の救命へのチャンスを維持するため、特殊な器具や医薬品を用いずに行う救命処置であり、胸骨圧迫と人工呼吸からなる心肺蘇生法(CPR)、そしてAEDの使用を主な内容とする。

1.× 「左側臥位」ではなく左半側臥位(もしくは用手的に子宮を左方移動し背臥位)にする。妊娠中は、増大した子宮によって下大静脈が圧迫されやすいことから、下肢の静脈還流が妨げられ低血圧を呈することがしばしばある。それを予防するために仰臥位の妊婦であれば用手的に子宮を左方移動し、手術台などでは手術台を傾けて左半側臥位にする(※参考:「妊産婦蘇生ガイドライン2020」著:田中 博明様)。

2.〇 正しい。帝王切開の準備をする。これを死戦期帝王切開という。死戦期帝王切開とは、妊婦が心停止を起こした際に、お母さんと赤ちゃんを出 来る限り救うための手段である。妊娠中の子宮は下大静脈を圧迫するため、帝王切開でこれを解除することで血液還流が改善し、さらに大きな子宮をなくすことで心臓マッサージもしやすくなり、お母さんの蘇生を助けることになる。

3.5.× 胸骨圧迫を「80回/分」ではなく100~120回/分で行う。胸骨圧迫と人工呼吸を「10:2」ではなく30:2の割合で行う。
成人に対する一次救命処置では、胸骨圧迫を30回したのち、人工呼吸を2回行い(30対2)、これを繰り返す。成人であれば胸骨が少なくとも5~6cm沈むように圧迫し、1分間に100~120回のテンポで行う。

4.〇 正しい。胸骨下半分で胸骨圧迫を行う。胸骨圧迫とは、心停止した傷病者の心臓付近を圧迫することにより脳や心臓に血液の循環を促す心肺蘇生を目的とした一次救命処置である。成人と幼児で適する力の入れ具合や胸骨の沈み具合が異なるが、妊婦と成人では胸骨(下半分)が、5cmほど沈むように胸骨圧迫をする。一方で、幼児では年齢に応じた体格の差があるため、成人のような絶対値を当てはめることができない。

 

 

 

 

 

34 初診時の感染症スクリーニング検査で風疹抗体HI抗体価が256倍の妊婦へのその後の対応で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.アジスロマイシンの内服治療を行う。
2.同居家族へのワクチン接種を勧める。
3.羊水検査で胎児の感染を確認する。
4.風疹抗体HI抗体価を再検査する。
5.風疹IgM抗体価を検査する。

解答4・5

解説

(※引用:「産婦人科診療ガイドライン産科編2020 P304」)

1.× アジスロマイシンの内服治療を行うのは、主にクラミジア治療である。クラミジアとは、細菌とウイルスの中間に属する病原体で、子宮頸管の中にひそんでいると、お産のときに赤ちゃんに感染し、 赤ちゃんに結膜炎、肺炎などを引き起こす恐れがある。このため、妊娠中にクラミジア検査を行い、陽性の場合は治療を要し、お腹の中の癒着や、卵管の通過障害の存在が疑われる。「日本性感染症学会は「性感染症診断・治療ガイドライン 2016」の中で、現在わが国で用いられているアジスロマイシン(ジスロマックⓇ錠等)、クラリスロマイシン(クラリスⓇ錠等)、ミノサイクリン(ミノマイシンⓇ錠等)、ドキシサイクリン(ビブラマイシンⓇ錠等)、レボフロキサシン(クラビットⓇ錠等)、トスフロキサシン(オゼックスⓇ錠等)、シタフロキサシン(グレースビットⓇ錠等)の中から、胎児に対する安全性を考慮しアジスロマイシン、クラリスロマイシン(いずれもわが国の添付文書では有益性投与)が投与可能としている」と記載されている(※引用:「産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020」より)。

2.× 同居家族へのワクチン接種を勧めるのは、風疹HI抗体価が16倍以下の場合である。

3.× 羊水検査で胎児の感染を確認する優先度は低い。なぜなら、風疹抗体価が高いだけでは、胎児の感染を疑う証拠にはならないため。ちなみに、羊水検査とは、羊水穿刺により羊水中に浮遊する胎児細胞を分析し、染色体の数や構造の異常などを診断する検査である。15~16週以降の胎児染色体異常・遺伝子異常に適応となり、ほぼ100%で確定診断が可能である。

4.〇 正しい。抗体HI抗体価を再検査する。以下の場合は問診とともに風疹感染診断検査を行う。①風疹患者と明らかな接触があった場合(B)、②風疹様症状(発疹,発熱,リンパ節腫脹)があった場合(B)、③妊娠初期の検査でHI抗体価256倍以上(C)である。HI抗体価256倍以上であった妊婦全例に感染診断が必要かについては,再検討の余地があり,その地域での風疹の流行がなく,問診により小児との接触が多い就労などの危険因子がなく,感染の可能性が低いと考えられる場合には感染診断は必要ないとの意見が多い.そのため,HI抗体価のみが256倍以上の場合については推奨Cとした(※参考:「産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020」より)。

5.〇 正しい。風疹IgM抗体価を検査する。なぜなら、確定診断の材料となるため。HI抗体価の4倍以上の上昇や、IgG抗体価の明らかな上昇も陽性の判定根拠となる。この場合採取時期の異なる同一患者の血清は、同時に測定するのが原則である。顕性感染の場合、発疹が出現してから遅くとも4日後には HI 抗体および IgM 抗体の上昇が見られる(※引用:「風疹 第二版」国立感染症研究所様HPより)。

(※引用:「予防接種が推奨される風しん抗体価について」厚生労働省様)

 

 

 

 

 

35 助産師が死産児を検案して異常があると認めた場合の届出で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.48時間以内に届け出なければならないと規定されている。
2.妊娠4か月の死産児は対象となる。
3.医療法に定められている。
4.届出は義務である。
5.保健所に届け出る。

解答2・4

解説

異常死産児とは?

異常死産児とは、病死・自然死以外の死亡死体で、事故、災害、中毒、自殺、他殺による死亡及びそれら後遺症による死亡や、病死と判断されてもその原因が不詳の場合、また手術中や診療・検査中の予期せぬ急死や乳幼児の突然の死亡も異状死体に含まれる。

異常死産児の届出には、①医師法(第21条)と保健師助産師看護師法(第41条)に義務として記載されている。①医師法第21条(異状死体の届出)により医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異常があると認めたときは、24時間以内所轄警察署に届け出なければならないと定められている。②保健師助産師看護師法(第41条)助産師は、妊娠四月以上の死産児を検案して異常があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署にその旨を届け出なければならない。(※参考:e-GOV法令検索様HPより)

1.× 「48時間」ではなく24時間以内に届け出なければならないと規定されている。

2.〇 正しい。妊娠4か月の死産児は対象となる

3.× 「医療法」ではなく医師法(もしくは保健師助産師看護師法)に定められている。医療法とは、病院、診療所、助産院の開設、管理、整備の方法などを定める日本の法律である。①医療を受けるものの利益と保護、②良好かつ適切な医療を効率的に提供する体制確保を主目的としている。ちなみに、医師法とは、医師全般の職務・資格などを規定する日本の法律である。つまり、一般人には禁止されている医療行為を、医師という有資格者に限って許可する法律である。また、保健師助産師看護師法とは、保健師・助産師および看護師の資質を向上し、もって医療および公衆衛生の普及向上を図ることを目的とする日本の法律である。通称は保助看法。

4.〇 正しい。届出は義務である。違反した場合、50万円以下の罰金が科せられる(※参考:医師法第33条の3)。

5.× 「保健所」ではなく所轄警察署に届け出る。

保健所とは?

保健所とは、精神保健福祉・健康・生活衛生など地域保健法に定められた14の事業(主に疾病予防・健康増進・環境衛生などの公衆衛生活動)を中心に行っている。保健所では保健師や精神保健福祉士、医師などが生活面や社会復帰について相談にのってくれる。都道府県、特別区、指定都市、中核市、『地域保健法施行令』で定める市に必置である。

 

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