第107回(R6) 助産師国家試験 解説【午後11~15】

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11 Aさん(38歳、初産婦)は妊娠39週6日に経腟分娩に至り、胎盤が娩出された直後から強い下腹部痛と多量の出血を認めた。腹部で子宮底を触れず、腟内に超手拳大の腫瘤を触れる。
 このときの診断で正しいのはどれか。

1.頸管裂傷
2.弛緩出血
3.子宮内反
4.癒着胎盤

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(38歳、初産婦)
・妊娠39週6日に経腟分娩に至る。
・胎盤が娩出された直後:強い下腹部痛と多量の出血。
腹部で子宮底を触れず、腟内に超手拳大の腫瘤を触れる
→それぞれの選択肢の症状と原因をおさえておこう。

1.× 頸管裂傷とは、子宮頸管に裂けてできた傷が起こることであり、急速に分娩が進行することや吸引分娩などの処置、巨大児などが原因となる。頸管裂傷になると持続的な出血(鮮紅色の出血)が起こる。主に分娩の際に生じる可能性があり、大量出血など生命の危険にまでつながるリスクがある。本症例の場合、腹部で子宮底を触れず、腟内に超手拳大の腫瘤を触れることから頸管裂傷は否定できる。

2.× 弛緩出血とは、児と胎盤の娩出後、本来なら子宮が収縮することで止まるはずの出血が続く状態である。原因は、多胎妊娠や巨大児による子宮の過伸展、子宮収縮剤の長時間投与、長引く分娩による母胎の疲労、子宮奇形などの体質によるもの、子宮内の凝血塊の遺残、全身麻酔などが挙げられる。本症例の場合、腟内に超手拳大の腫瘤を触れることから弛緩出血は否定できる。

3.〇 正しい。子宮内反と診断できる。子宮内反とは、子宮が内膜面を外方に反転した状態をいう。子宮が裏返しになり子宮内膜面が腟内または腟外に露出し、胎盤剝離面から出血が続く状態である。病因は外因性と内因性がある。ほとんどが外因性で、胎盤剝離前の臍帯牽引によることがもっとも多く、他のリスク因子として癒着胎盤や過短臍帯、臍帯巻絡がある。また、診断は、①分娩直後の強烈な疼痛や異常出血、子宮底が触れないこと、内診で腫瘤が触れることがあげられる。これらの症状はAさんの症状に一致している。

4.× 癒着胎盤とは、胎盤の組織の一部(絨毛)が脱落膜を貫通して子宮の筋肉の内側に入り込んでいる状態をいう。分娩前には正確な診断が難しく、赤ちゃんを取り出した後、胎盤が子宮からなかなかはがれないために判明することがほとんどである。出血が多量になることにより血液凝固異常が引き起こされ、止血が難しい状態となる。本症例の場合、腹部で子宮底を触れず、腟内に超手拳大の腫瘤を触れることから頸管裂傷は否定できる。

 

 

 

 

 

12 Aさん(28週、初妊婦)の推定胎児体重は930g(-1.5SD)であり、超音波検査とノンストレステスト〈NST〉が実施された。胎児異常はない。Biophysical Profile Score〈BPS〉は10点であった。
 Aさんへの対応で必要なのはどれか。

1.経過観察
2.酸素投与
3.葉酸投与
4.羊水検査

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(28週、初妊婦、推定胎児体重は930g:-1.5SD
・超音波検査、ノンストレステスト:胎児異常はない
・Biophysical Profile Score〈BPS〉10点
→本児は、胎児発育不全が疑われる。胎児発育不全とは、平均と比べて成⻑が遅くなっていることをいい、胎盤由来の妊娠合併症の代表的なものである。子宮内での胎児の発育が遅延あるいは停止したために在胎週数に相当した胎児の発育が見られない状態で、妊娠週数に対して胎児が明らかに小さい場合をいい、胎児発育曲線において「-1.5SD以下」の場合に診断される。

(※図引用:「産婦人科診療ガイドライン産科編2020 P160」)

1.〇 正しい。経過観察がAさんへの対応で必要である。本児は、胎児発育不全が疑われるが、超音波検査とノンストレステストで異常がなく、Biophysical Profile Scoreも満点の10点である。したがって、胎児の健康状態に問題ないと判断できる。この場合、定期的な経過観察を行うことが最も適切である。とはいえ、経過観察には、胎児の成長と健康状態を継続的にモニタリングするために、定期的な超音波検査やノンストレステストの実施を継続する。

2.× 酸素投与の必要ない。なぜなら、本児は、Biophysical Profile Score〈BPS〉10点であるため。Biophysical Profile Score<BPS>とは、胎児仮死の診断に用いられることが多く、NST(Non Stress Test:ノンストレステスト)と超音波断層法により得られる4項目の情報とを合わせた5項目の観察に基づき胎児の状態を判定する。5項目のそれぞれについて正常所見なら2点、異常所見なら0点とし合計点で判定する。合計点が8~10点の場合を正常、4点以下の場合は胎児のアシドーシスが疑われる。

3.× 葉酸投与の必要ない。なぜなら、Aさんは妊娠28週であるため。葉酸は、妊娠初期における胎児の神経管欠損を予防するために重要な栄養素であるが、「医師の管理下に妊娠前から妊娠11週末まで、1日4~5mgの葉酸を服用する」と「妊娠11週末まで」と定められている(※参考:「産婦人科診療ガイドライン産科編2020 CQ105」)

4.× 羊水検査の必要ない。なぜなら、本児から異常がみられないため。羊水検査とは、羊水穿刺により羊水中に浮遊する胎児細胞を分析し、染色体の数や構造の異常などを診断する検査である。15~16週以降の胎児染色体異常・遺伝子異常に適応となり、ほぼ100%で確定診断が可能である。

胎児のwell-beingの評価

胎児のwell-beingの評価には、主にバイオフィジカルプロファイルスコアリング(BPS:biophysical profile scoring:生物物理的プロフィール得点)が用いられることが多い。バイオフィジカルプロファイルスコアリング(BPS:biophysical profile scoring:生物物理的プロフィール得点)とは、超音波検査とNST(分娩監視装置による胎児心拍の観察)を用いて胎児のwell-beingを評価する方法である。胎児の各状態をチェックして点数評価し合計点で胎児の状態を診断する。

①胎児の呼吸運動:【正常な状態(2点)30分間に30秒以上続く運動が1回以上】【異常な状態(0点)無いとき】

②胎動:【正常な状態(2点)30分間に身体の大きな動きが3回以上】【異常な状態(0点)2回以下】

③筋緊張:【正常な状態(2点)30分間に手足の動きが1回以上】【異常な状態(0点)認めない】

④羊水量:【正常な状態(2点)直径2cm以上の羊水ポケットが1ヶ所以上】【異常な状態(0点)2cm以下】

⑤non-stress test:【正常な状態(2点)20~40分間中に15bpm以上の一過性品脈が2回以上】【異常な状態(0点)2回未満】

 

 

 

 

 

13 Aさん(36歳、2回経産婦)は産後1か月。身長160cm、体重53kgで、非妊時に戻っている。母乳のみで授乳している。現在のAさんの平均摂取カロリー量は2,000kcal/日である。
 授乳期に推奨される1日当たりの摂取カロリー量にするために、Aさんが増量する必要があるカロリー量に近いのはどれか。

1.100kcal
2.200kcal
3.400kcal
4.600kcal

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(36歳2回経産婦、産後1か月)。
・身長160cm、体重53kg、非妊時。
母乳のみで授乳している
・現在の平均摂取カロリー量:2,000kcal/日
→本症例のBMIは20.7(普通)である。身体活動レベルは不明であるが、2回経産婦で育児や家事をやっていると考えられるため、一般的な女性2000kcal+授乳婦450kcalが望ましい。BMIとは、体重(㎏) ÷ 身長の2乗(m) で計算される体格指数のことである。日本肥満学会の基準では、18.5以下:低体重、25以下:普通、30以下:肥満Ⅰ度、35以下:肥満Ⅱ度、40以下:肥満Ⅲ度、40以上:肥満Ⅳ度である。

(※引用:「主食を中心に、エネルギーをしっかりと」厚生労働省様HPより)

1~2.× 100kcal/200kcalは、授乳に必要な追加のエネルギーを補うには不十分と考えられる。身体活動レベルⅠ(生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合)は、1700kcal+授乳婦450kcalとなるため、2150kcal(本症例の場合+150kcal)が目安となる。

3.〇 正しい。400kcalは、Aさんが増量する必要があるカロリー量に近い。本症例のBMIは20.7(普通)である。身体活動レベルは不明であるが、2回経産婦で育児や家事をやっていると考えられるため、一般的な女性2000kcal+授乳婦450kcalが望ましい。BMIとは、体重(㎏) ÷ 身長の2乗(m) で計算される体格指数のことである。日本肥満学会の基準では、18.5以下:低体重、25以下:普通、30以下:肥満Ⅰ度、35以下:肥満Ⅱ度、40以下:肥満Ⅲ度、40以上:肥満Ⅳ度である。

4.× 600kcalは、授乳に必要な追加のエネルギーを補うには過剰と考えられる。身体活動レベルⅢ(移動や立位の多い仕事への従事者の場合)は、2300kcal+授乳婦450kcalとなるため、2750kcal(本症例の場合+750kcal)が目安となる。

 

 

 

 

 

14 乳癌の診断を受けた完全母乳栄養で育児中の母親に対する授乳指導で正しいのはどれか。

1.内分泌療法中でも授乳が可能である。
2.授乳を継続することで乳癌の進展が抑えられる。
3.治療中は授乳を中止すれば体力の消耗が抑えられる。
4.放射線照射後でも健側の乳房からは授乳が可能である。

解答

解説
1.× 内分泌療法中でも授乳が「可能である」と断言することはできない。可能か不可能かと聞かれた場合、授乳自体の行為は可能であるが、薬によっては乳汁の中に分泌されるものもあるため、薬物治療中の授乳は避けるべきである(※参考:「患者さんのための乳癌診療ガイドライン2019年版」日本乳癌学会事務局様HPより)。

2.× 授乳を継続することで乳癌の進展が抑えられる「という科学的根拠はない」。授乳歴は、乳がんの「進展」ではなく発症に起因する。乳がんのリスク要因は、①初経年齢が早い、②閉経年齢が遅い、③出産歴がない、④初産年齢が遅い、⑤授乳歴がないことなどである。閉経後の肥満は乳がん発症の高リスクであると考え、 また閉経後の女性では運動による乳がんリスク減少の可能性が示されている。

3.× 治療中は授乳を中止すれば、体力の消耗が抑えられる「という科学的根拠はない」。授乳をやめた場合、母乳育児中に分泌されていたホルモンの分泌量が減ることで、精神状態が不安定になりやすいという特徴もある。また、母乳の分泌量が減り、乳房内に母乳がたまって痛みを感じることもある。また、ミルクを作ったりという工程も増えるため、体力の消耗が抑えられるともいえない。

4.〇 正しい。放射線照射後でも健側の乳房からは授乳が可能である。放射線療法後に出産した場合は、乳房に放射線をあてることによって乳汁をつくる機能は失われるため、照射した乳房から母乳が出ることはほとんどないが、反対側(健側)の乳房からは普通に授乳できる。

 

 

 

 

 

15 Aさん(35歳、1回経産婦)は、妊娠26週2日。75gOGTTで、空腹時血糖90mg/dL、1時間値190mg/dL、2時間値150mg/dLであった。Aさんに、医師から妊娠糖尿病について説明された。
 Aさんへの指導で正しいのはどれか。

1.運動を控える。
2.食事内容を記録する。
3.経口糖尿病薬を内服する。
4.食事から摂取するエネルギーは非妊時から50kcal/日増やす。

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(35歳、1回経産婦、妊娠26週2日
・75gOGTT、空腹時血糖90mg/dL、1時間値190mg/dL、2時間値150mg/dL。
・医師から:妊娠糖尿病について説明された。
→妊娠糖尿病とは、妊娠中にはじめて発見、または発症した糖尿病まではいかない糖代謝異常のことである。糖代謝異常とは、血液に含まれる糖の量を示す血糖値が上がった状態である。肥満女性は妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、帝王切開分娩、巨大児などのリスクが高い。日本糖尿病学会においては、妊娠中は、朝食前血糖値70~100mg/dL以下、食後2時間血糖値120mg/dL以下、HbA1c:6.2%未満を目標とする。

1.× 運動を控える必要はない。なぜなら、適度な運動は血糖管理となるため。糖尿病の運動療法として効果的なのは、ウォーキングやジョギング、水泳などの全身運動にあたる有酸素運動である。このうち妊婦が取り入れやすい運動は、ウォーキングであるが、家事や買い物など、日常生活の中で無理なくできる動作を取り入れるよう指導する。

2.〇 正しい。食事内容を記録する。なぜなら、食事療法が血糖管理の基本であるため。食事療法では、医師や栄養士の指導のもと、肥満の有無や妊娠時期によってエネルギー付加量を変える。1日3回の食事で血糖コントロールが難しい場合は、4~6分割食にしてカロリー摂取を小分けにする。それでも血糖コントロールが難しい場合は、インスリン療法を行うことが多い。

3.× 「経口糖尿病薬」ではなくインスリンを内服する。なぜなら、インスリンは胎盤を通過しないが、経口糖尿病薬は胎盤を通過して胎児に移行する可能性があり、赤ちゃんへの安全性が確認されていないものが多いため。

4.× 食事から摂取するエネルギーは非妊時から「50kcal/日増やす」必要はない。むしろ、妊娠糖尿病の管理にはエネルギー摂取の制限が必要で、栄養バランスのとれた適切なカロリー摂取を心がけるべきである。本症例(35歳)の場合、妊娠26週2日(妊娠中期)であるため、身体活動レベル+250kcalを摂取することを指導する

(※引用:「主食を中心に、エネルギーをしっかりと」厚生労働省様HPより)

 

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