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次の文を読み115〜117の問いに答えよ。
Aさん(42歳、女性)は、2年前に筋萎縮性側索硬化症<ALS>の確定診断を受けた。夫(50歳)と長女(16歳)と自宅で過ごしている。Aさんは「なるべく口から食べるようにしたい」と話し、食事と併せて胃瘻から栄養剤の注入を行っている。要介護2の認定を受け、訪問看護および訪問介護を利用している。食事の介助を行う夫から、訪問看護師に「介助の方法が良くないのか、妻はうまく飲み込めていません」と相談の電話があった。
116 6か月後、Aさんは呼吸障害と嚥下障害とが進行し、気管切開による人工呼吸療法を開始するために入院した。
退院に向けて病棟看護師が行う家族への気管内吸引の説明として最も適切なのはどれか。
1.夜間に定期的な吸引を行う。
2.就寝前に体位ドレナージを行う。
3.気道内圧が低下したら吸引する。
4.吸引時は気管カニューレのカフ圧を上げる。
解答2
解説
・Aさん(42歳、女性、要介護2)
・2年前:筋萎縮性側索硬化症<ALS>
・6か月後:呼吸障害と嚥下障害が進行。
・入院:気管切開による人工呼吸療法を開始するため。
→本症例は、筋萎縮性側索硬化症である。嚥下がうまくできない原因は、さまざまな要因が考えられる。例えば、介助方法だけでなく、食事の形態や病気の進行具合なども考えられる。筋萎縮性側索硬化症は進行性の病気であるため、そのときの身体能力や状態に応じて、介助が必要になる。
1.× 夜間に定期的な吸引を行う必要はない。なぜなら、夜間の定期的な吸引は、患者本人の睡眠の妨げにもなるため。体位ドレナージでも十分なのか?、どの程度夜間に吸引が必要か?な評価し、患者の負担にならないよう必要最小限にとどめる。
2.〇 正しい。就寝前に体位ドレナージを行う。なぜなら、就寝前に体位ドレナージを行うことで、無気肺や肺炎などの合併症を予防できるだけでなく、安全かつ良質な睡眠につながるため。ちなみに、排痰促進法である体位ドレナージを行い、その後気管内吸引を行うと効果的である。体位ドレナージは、重力を利用して痰の排出を図る方法である。痰貯留部位が上、気管支が下となる体位をとり、痰を排出する。
3.× 気道内圧が、「低下」ではなく上昇したら吸引する。なぜなら、気道内圧が上昇した場合、気道内で痰が閉塞された状況を示すため。他にも、チューブが折れ曲がって、閉塞が起こることでも、気道内圧は上昇する。原因を確認し、対応する必要がある。ちなみに、気道内圧の低下の原因は、人工呼吸器のチューブ損傷や接続不良、カニューレのカフのエア抜けが起こった際などに起こる。
4.× 吸引時は気管カニューレのカフ圧を上げる必要はない。気管内吸引をする吸引圧は-150mmHg以下に設定する。なぜなら、気道粘膜の損傷や低酸素状態肺胞の虚脱などを防ぐためである。ちなみに、逆にカフ圧が低いと、刺激による咳反射などでカフから分泌物が垂れ込み、誤嚥しやすい。
「気管吸引とは、人工気道を含む気道からカテーテルを用いて機械的に分泌物を除去するための準備、手技の実施、 実施後の観察、アセスメントと感染管理を含む一連の流れのこと」と定義されている。(※引用:気管吸引ガイドライン2013)
【目的】口腔内・鼻腔内吸引は気道内の貯留物や異物を取り除くこと。
①人工呼吸器関連肺炎などの感染リスクを回避する。(ディスポーザブル手袋を着用、管吸引前には口腔及びカフ上部の吸引を行う)
②吸引中は無呼吸となるため必ずモニター等でSpO2の確認しながら、カフ圧は-20kPa(150mmHg)以内に保ち、に保ち1回の吸引時間は10秒以内とする。
③カテーテル挿入時は陰圧をかけず、自発呼吸がある場合は、患者さんの吸気に合わせて吸引を行う。
④終了後は気道内の分泌物がきちんと吸引できたか、呼吸音等で確認する。
(※参考:「吸引(口腔・鼻腔)の看護|気管吸引の目的、手順・方法、コツ」ナース専科様HPより)
次の文を読み115〜117の問いに答えよ。
Aさん(42歳、女性)は、2年前に筋萎縮性側索硬化症<ALS>の確定診断を受けた。夫(50歳)と長女(16歳)と自宅で過ごしている。Aさんは「なるべく口から食べるようにしたい」と話し、食事と併せて胃瘻から栄養剤の注入を行っている。要介護2の認定を受け、訪問看護および訪問介護を利用している。食事の介助を行う夫から、訪問看護師に「介助の方法が良くないのか、妻はうまく飲み込めていません」と相談の電話があった。
117 Aさんは要介護5に区分が変更され、自宅で療養通所介護を利用することになった。退院後1か月、Aさんは療養通所介護の看護師に「ゆっくりお風呂に入ってみたい」と文字盤を使って話した。入浴を開始するにあたり、看護師と介護職員との間でカンファレンスを行うことになった。
検討する内容として優先順位が高いのはどれか。
1.夫の介護負担
2.座位の保持能力
3.緊急時の対応方法
4.入浴後の人工呼吸器の回路交換の方法
5.入浴時の関節可動域<ROM>訓練の実施
解答3
解説
・Aさん(42歳、女性、2年前に筋萎縮性側索硬化症<ALS>)
・気管切開による人工呼吸療法中。
・要介護5に区分が変更。
・自宅で療養通所介護を利用。
・退院後1か月:「ゆっくりお風呂に入ってみたい」と文字盤を使って話した。
・入浴を開始するにあたり、看護師と介護職員との間でカンファレンス。
→本症例は、筋萎縮性側索硬化症(要介護5、人工呼吸療法中)である。「ゆっくりお風呂に入ってみたい」と希望していることから、何をどのように配慮すれば、より安全に実行できるか検討する必要がある。
1.× 夫の介護負担は、最優先の検討事項ではない。なぜなら、療養通所介護での入浴についての検討であるため。ちなみに、療養通所介護とは、難病等の重度要介護者やがん末期の者であって、サービス提供に当たり看護師による観察が必要な利用者を対象とする地域密着型サービスである。入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話や機能訓練を行うことで、利用者の社会的孤立感の解消や心身の機能の維持、利用者の家族の身体的・精神的負担の軽減を図る(※参考:「療養通所介護」厚生労働省HPより)。
2.× 座位の保持能力は、最優先の検討事項ではない。なぜなら、生命に対する緊急性や関連性は低いため。また、座位の保持が困難であれば入浴用の特殊寝台を利用できるため、入浴方法の検討の優先度は低い。
3.〇 正しい。緊急時の対応方法は、優先順位が高い。なぜなら、本症例は、筋萎縮性側索硬化症(要介護5、人工呼吸療法中)であるため。患者の命にかかわる状況のため、緊急時の迅速な対応方法の検討は最優先事項となる。
4.× 入浴後の人工呼吸器の回路交換の方法は、最優先の検討事項ではない。なぜなら、身体的な負担や急変は、「入浴後」ではなく入浴中に起こりやすいため。そもそも人工呼吸器の回路に汚染等がなければ入浴後に交換する必要はない。入浴後ではなく入浴時に、人工呼吸器の回路交換が必要となる。
5.× 入浴時の関節可動域<ROM>訓練の実施は、最優先の検討事項ではない。なぜなら、入浴時は、身体的な負担や急変が起こりやすいため。入浴を安全に実施する。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、主に中年以降に発症し、一次運動ニューロン(上位運動ニューロン)と二次運動ニューロン(下位運動ニューロン)が選択的にかつ進行性に変性・消失していく原因不明の疾患である。病勢の進展は比較的速く、人工呼吸器を用いなければ通常は2~5年で死亡することが多い。男女比は2:1で男性に多く、好発年齢は40~50歳である。
【症状】3型に分けられる。①上肢型(普通型):上肢の筋萎縮と筋力低下が主体で、下肢は痙縮を示す。②球型(進行性球麻痺):球症状(言語障害、嚥下障害など)が主体、③下肢型(偽多発神経炎型):下肢から発症し、下肢の腱反射低下・消失が早期からみられ、二次運動ニューロンの障害が前面に出る。
【予後】症状の進行は比較的急速で、発症から死亡までの平均期間は約 3.5 年といわれている。個人差が非常に大きく、進行は球麻痺型が最も速いとされ、発症から3か月以内に死亡する例もある。近年のALS患者は人工呼吸器管理(非侵襲的陽圧換気など)の進歩によってかつてよりも生命予後が延長しており、長期生存例ではこれらの徴候もみられるようになってきている。ただし、根治療法や特効薬はなく、病気の進行に合わせて薬物療法やリハビリテーションなどの対症療法を行うのが現状である。全身に筋萎縮・麻痺が進行するが、眼球運動、膀胱直腸障害、感覚障害、褥瘡もみられにくい(4大陰性徴候)。終末期には、眼球運動と眼瞼運動の2つを用いたコミュニケーション手段が利用される。
(※参考:「2 筋萎縮性側索硬化症」厚生労働省様HPより)
次の文を読み118〜120の問いに答えよ。
Aさん(50歳、女性)は、子宮頸癌の終末期で入院し緩和ケア治療を行っている。倦怠感は強いが食事は摂れている。麻薬を使用し疼痛のコントロールはできており、ふらつきはあるがトイレ歩行はできる。医師からは余命2か月と告知されており、退院して自宅で最期を迎えたいと希望している。主な介護者となる夫は58歳で、5年前の脳梗塞の後遺症で不全麻痺がある。経済的には安定している。子どもはいない。
118 病棟看護師はAさんと夫とを交えてカンファレンスを行った。夫は「妻は体力がとても落ちて、見ているのがつらいです。病気が進行すると動けなくなると聞きました。私は介護に自信がありません」と不安を訴えた。
Aさんと夫への今後の不安に対する対応として最も適切なのはどれか。
1.生活保護の手続きをするよう促す。
2.要介護認定の申請手続きをするよう促す。
3.家事をしてくれる人を雇用するよう促す。
4.訪問リハビリテーションの利用を勧める。
解答2
解説
・Aさん(50歳、女性、子宮頸癌の終末期)
・緩和ケア治療を行っている。
・倦怠感は強いが、食事は摂れている。
・麻薬を使用し疼痛のコントロール可能。
・ふらつきはあるが、トイレ歩行はできる。
・医師から「余命2か月」と告知されている。
・希望「退院して自宅で最期を迎えたい」と。
・介護者:夫(58歳、5年前:脳梗塞の後遺症で不全麻痺)
・経済的には安定。
・子どもはいない。
・病棟看護師はAさんと夫とを交えてカンファレンスを行った。
・夫「妻は体力がとても落ちて、見ているのがつらいです。病気が進行すると動けなくなると聞きました。私は介護に自信がありません」と不安を訴えた。
→問題文から、本症例と家族の何が問題で、不安に思っているのか具体的に見つけられるようにしておこう。緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に同定し、適切な評価と治療によって、苦痛の予防と緩和を行うことで、QOL(Quality of Life:生活の質) を改善するアプローチである。
1.× 生活保護の手続きをするよう促す必要はない。なぜなら、本症例は経済的には安定しているため。生活保護とは、『日本国憲法』25条の理念に基づき、生活困窮者を対象に、国の責任において、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長することを目的としている。
2.〇 正しい。要介護認定の申請手続きをするよう促す。なぜなら、主な介護者となる夫は58歳で、「私は介護に自信がありません」と不安を訴えているため。Aさん(50歳、がん末期)は、介護保険の第2号被保険者(40~64歳、特定疾病)の対象となる。介護保険を活用することで、夫の不安の軽減だけでなく、実際に介護負担は軽減できる。ちなみに、介護保険とは、平成12年4月から開始された介護を必要とする方に費用を給付し、適切なサービスを受けられるようにサポートする保険制度である。
3.× 家事をしてくれる人を雇用するよう促す必要はない。なぜなら、家事よりも介護の手助けが必要な状況であるため。また、介護保険を活用し、訪問介護サービスを受けることで、Aさんに対する家事は訪問介護員(ホームヘルパー)に依頼できる。
4.× 訪問リハビリテーションの利用を勧める必要はない。なぜなら、本症例は、子宮頸癌の終末期、緩和ケア治療を行っているため。また、リハビリテーションの希望も聞かれていない。ちなみに、訪問リハビリテーションとは、病院、診療所、介護老人保健施設の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が利用者の自宅を訪問し、心身の機能の維持・回復、日常生活の自立を支援するために、理学療法、作業療法等のリハビリテーションを行うサービスである。
生活保護制度は、『日本国憲法』25条の理念に基づき、生活困窮者を対象に、国の責任において、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長することを目的としている。8つの扶助(生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助)があり、原則現金給付であるが、医療扶助と介護扶助は現物給付である。被保護人員は約216.4万人(平成27年度,1か月平均)で過去最高となっている。
①生活扶助:日常生活に必要な費用
②住宅扶助:アパート等の家賃
③教育扶助:義務教育を受けるために必要な学用品費
④医療扶助:医療サービスの費用
⑤介護扶助:介護サービスの費用
⑥出産扶助:出産費用
⑦生業扶助:就労に必要な技能の修得等にかかる費用
⑧葬祭扶助:葬祭費用
【生活保護法の4つの基本原理】
①国家責任の原理:法の目的を定めた最も根本的原理で、憲法第25条の生存権を実現する為、国がその責任を持って生活に困窮する国民の保護を行う。
②無差別平等の原理:全ての国民は、この法に定める要件を満たす限り、生活困窮に陥った理由や社会的身分等に関わらず無差別平等に保護を受給できる。また、現時点の経済的状態に着目して保護が実施される。
③最低生活の原理:法で保障する最低生活水準について、健康で文化的な最低限度の生活を維持できるものを保障する。
④保護の補足性の原理:保護を受ける側、つまり国民に要請される原理で、各自が持てる能力や資産、他法や他施策といったあらゆるものを活用し、最善の努力をしても最低生活が維持できない場合に初めて生活保護制度を活用できる。
【4つの原則】
①申請保護の原則:保護を受けるためには必ず申請手続きを要し、本人や扶養義務者、親族等による申請に基づいて保護が開始。
②基準及び程度の原則:保護は最低限度の生活基準を超えない枠で行われ、厚生労働大臣の定める保護基準により測定した要保護者の需要を基とし、その不足分を補う程度の保護が行われる。
③必要即応の原則:要保護者の年齢や性別、健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して、有効且つ適切に行われる。
④世帯単位の原則:世帯を単位として保護の要否及び程度が定められる。また、特別な事情がある場合は世帯分離を行い個人を世帯の単位として定めることもできる。
(※参考:「生活保護制度」厚生労働省HPより)
(※参考:「生活保護法の基本原理と基本原則」室蘭市HPより)
次の文を読み118〜120の問いに答えよ。
Aさん(50歳、女性)は、子宮頸癌の終末期で入院し緩和ケア治療を行っている。倦怠感は強いが食事は摂れている。麻薬を使用し疼痛のコントロールはできており、ふらつきはあるがトイレ歩行はできる。医師からは余命2か月と告知されており、退院して自宅で最期を迎えたいと希望している。主な介護者となる夫は58歳で、5年前の脳梗塞の後遺症で不全麻痺がある。経済的には安定している。子どもはいない。
119 看護師が退院に向けて最も連携すべき職種はどれか。
1.理学療法士
2.管理栄養士
3.介護支援専門員
4.保健所の保健師
解答3
解説
・Aさん(50歳、女性、子宮頸癌の終末期)
・緩和ケア治療を行っている。
・倦怠感は強いが、食事は摂れている。
・希望「退院して自宅で最期を迎えたい」と。
・介護者:夫(58歳、5年前:脳梗塞の後遺症で不全麻痺)
・経済的には安定。
・子どもはいない。
・病棟看護師はAさんと夫とを交えてカンファレンスを行った。
・夫「妻は体力がとても落ちて、見ているのがつらいです。病気が進行すると動けなくなると聞きました。私は介護に自信がありません」と不安を訴えた。
→本症例の主な介護者となる夫は58歳で、「私は介護に自信がありません」と不安を訴えている。Aさん(50歳、がん末期)は、介護保険の第2号被保険者(40~64歳、特定疾病)の対象となる。介護保険を活用することで、夫の不安の軽減だけでなく、実際に介護負担は軽減できる。ちなみに、介護保険とは、平成12年4月から開始された介護を必要とする方に費用を給付し、適切なサービスを受けられるようにサポートする保険制度である。
1.× 理学療法士より優先度が高いものが他にある。なぜなら、本症例は、リハビリテーションを行う計画はないため。理学療法士とは、医師の指示のもとに治療体操や運動・マッサージ・電気刺激・温熱などの物理的手段を用いて、運動機能の回復を目的とした治療法・物理療法(理学療法)を行う専門職である。つまり、関節可動域や筋力の向上などが役割である。
2.× 管理栄養士より優先度が高いものが他にある。なぜなら、本症例は、食事は摂れているが、緩和ケア(末期)であるため。好きなものを食べてもらう方が優先度は高い。管理栄養士とは、労働大臣の免許を受けた国家資格で、病気を患っている人から健康な人まで一人ひとりに合わせて専門的な知識と技術をもって栄養指導や栄養管理を行う職種である。
3.〇 正しい。介護支援専門員は、看護師が退院に向けて最も連携すべき職種である。なぜなら、本症例は、介護保険の第2号被保険者の対象であり、介護保険サービスを検討する必要性は高いため。なぜなら、主な介護者となる夫も「私は介護に自信がありません」と不安を訴えていることから、介護保険サービスを検討する必要性は高いと考えられる。ちなみに、介護支援専門員とは、介護保険法等を根拠に、ケアマネジメントを実施することのできる公用資格、また有資格者のことをいう。免許という位置づけではなく、要支援・要介護認定者およびその家族からの相談を受け、介護サービスの給付計画を作成し、自治体や他の介護サービス事業者との連絡、調整等を行う。
4.× 保健所の保健師より優先度が高いものが他にある。なぜなら、本症例の希望「退院して自宅で最期を迎えたい」とのことで、退院に向けて準備に向かっているため。保健師とは、地域に住む住民の保健指導や健康管理、乳幼児検診などをおこなうことが主な仕事の専門職である。ちなみに、保健所とは、精神保健福祉・健康・生活衛生など地域保健法に定められた14の事業(主に疾病予防・健康増進・環境衛生などの公衆衛生活動)を中心に行っている。保健所では保健師や精神保健福祉士、医師などが生活面や社会復帰について相談にのってくれる。都道府県、特別区、指定都市、中核市、『地域保健法施行令』で定める市に必置である。
地域における保健師の保健活動に関する指針
①地域診断に基づくPDCAサイクルの実施
②個別課題から地域課題への視点及び活動の展開
③予防的介入の重視
④地区活動に立脚した活動の強化
⑤地区担当制の推進
⑥地域特性に応じた健康なまちづくりの推進
⑦部署横断的な保健活動の連携及び協働
⑧地域のケアシステムの構築
⑨各種保健医療福祉計画の策定及び実施
⑩人材育成
【活動領域に応じた保健活動の推進】
~都道府県保健所等~
都道府県保健所等に所属する保健師は、所属内の他職種と協働し、管内市町村及び医療機関等の協力を得て広域的に健康課題を把握し、その解決に取り組むこと。また、生活習慣病対策、精神保健福祉対策、自殺予防対策、難病対策、結核・感染症対策、エイズ対策、肝炎対策、母子保健対策、虐待防止対策等において広域的、専門的な保健サービス等を提供するほか、災害を含めた健康危機への迅速かつ的確な対応が可能になるような体制づくりを行い、新たな健康課題に対して、先駆的な保健活動を実施し、その事業化及び普及を図ること。加えて、生活衛生及び食品衛生対策についても、関連する健康課題の解決を図り、医療施設等に対する指導等を行うこと。さらに、地域の健康情報の収集、分析及び提供を行うとともに調査研究を実施して、各種保健医療福祉計画の策定に参画し、広域的に関係機関との調整を図りながら、管内市町村と重層的な連携体制を構築しつつ、保健、医療、福祉、介護等の包括的なシステムの構築に努め、ソーシャルキャピタルを活用した健康づくりの推進を図ること。市町村に対しては、広域的及び専門的な立場から、技術的な助言、支援及び連絡調整を積極的に行うよう努めること。
~市町村~
市町村に所属する保健師は、市町村が住民の健康の保持増進を目的とする基礎的な役割を果たす地方公共団体と位置づけられ、住民の身近な健康問題に取り組むこととされていることから、健康増進、高齢者医療福祉、母子保健、児童福祉、精神保健福祉、障害福祉、女性保護等の各分野に係る保健サービス等を関係者と協働して企画及び立案し、提供するとともに、その評価を行うこと。その際、管内をいくつかの地区に分けて担当し、担当地区に責任を持って活動する地区担当制の推進に努めること。また、市町村が保険者として行う特定健康診査、特定保健指導、介護保険事業等に取り組むこと。併せて、住民の参画及び関係機関等との連携の下に、地域特性を反映した各種保健医療福祉計画を策定し、当該計画に基づいた保健事業等を実施すること。さらに、各種保健医療福祉計画の策定にとどまらず、防災計画、障害者プラン及びまちづくり計画等の策定に参画し、施策に結びつく活動を行うとともに、保健、医療、福祉、介護等と連携及び調整し、地域のケアシステムの構築を図ること。
(一部抜粋:「地域における保健師の保健活動に関する指針」厚生労働省HPより)」
次の文を読み118〜120の問いに答えよ。
Aさん(50歳、女性)は、子宮頸癌の終末期で入院し緩和ケア治療を行っている。倦怠感は強いが食事は摂れている。麻薬を使用し疼痛のコントロールはできており、ふらつきはあるがトイレ歩行はできる。医師からは余命2か月と告知されており、退院して自宅で最期を迎えたいと希望している。主な介護者となる夫は58歳で、5年前の脳梗塞の後遺症で不全麻痺がある。経済的には安定している。子どもはいない。
120 退院後1か月。訪問看護ステーションの看護師が訪問した際、夫から「妻は痛みで苦しんでいる様子はない。トイレと食事以外は眠っていることが多く、このまま死んでしまうのでしょうか。家で看取ることができるか不安です」と相談を受けた。
夫への支援で最も適切なのはどれか。
1.夫に頑張るよう励ます。
2.病院に入院するよう提案する。
3.麻薬の量を増やすことを提案する。
4.Aさんが希望する看取りの場について再度話し合う。
解答4
解説
・Aさん(50歳、女性、子宮頸癌の終末期)
・緩和ケア治療を行っている。
・医師から「余命2か月」と告知されている。
・希望「退院して自宅で最期を迎えたい」と。
・介護者:夫(58歳、5年前:脳梗塞の後遺症で不全麻痺)
・退院後1か月:訪問看護ステーションの看護師が訪問した際、夫から「妻は痛みで苦しんでいる様子はない。トイレと食事以外は眠っていることが多く、このまま死んでしまうのでしょうか。家で看取ることができるか不安です」と相談を受けた。
→家での看取りに対して、主な介護者となる夫に葛藤や不安がみられる。家での看取りの具体的に不安なことを評価するのが優先される。ちなみに、緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、痛みやその他の身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題を早期に同定し、適切な評価と治療によって、苦痛の予防と緩和を行うことで、QOL(Quality of Life:生活の質) を改善するアプローチである。
1.× 夫に頑張るよう励ます必要はない。なぜなら、励ましが必ずしも夫の不安の直接的な解決へとはつながらないため。むしろ、励ましは、かえってプレッシャーや負担になりやすいため、傾聴するよう努める。
2.× 病院に入院するよう提案する必要はない。なぜなら、Aさんの希望は、「退院して自宅で最期を迎えたい」と具体的に言っているため。Aさんの意向を無下に扱うことになるため、まずは話し合い、夫の具体的に不安に思うことについて評価する。
3.× 麻薬の量を増やすことを提案する必要はない。なぜなら、夫から「妻は痛みで苦しんでいる様子はない」と言っていることから、Aさんの痛みのコントロールは行えているため。また、麻薬の量の調整は、看護師ではなく医師の判断で行う。
4.〇 正しい。Aさんが希望する看取りの場について再度話し合う。なぜなら、家での看取りに対して、主な介護者となる夫に葛藤や不安がみられるため。家での看取りの具体的に不安なことを評価するのが優先される。
※注意:解説はすべてオリジナルのものとなっています。私的利用の個人研究・自己研鑽のため作成いたしました。間違いや分からない点があることをご了承ください。またコメントにて解き方等教えてくださると幸いです。
問題引用:第102回保健師国家試験、第99回助産師国家試験、第105回看護師国家試験の問題および正答について