第103回(R2) 助産師国家試験 解説【午後41~45】

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次の文を読み39〜41の問いに答えよ。
 Aさん(33歳、初産婦)。30 歳で甲状腺機能亢進症を発症し、Basedow<バセドウ>病の診断により甲状腺亜全摘術を受け、レボチロキシンの内服を継続していた。Aさんは無月経を主訴に産婦人科を受診して、妊娠6週相当と診断された。また、診察で子宮体部の筋層内に複数の子宮筋腫が指摘されて子宮体部全体は新生児頭大であった。

41 妊娠38週0日に陣痛発来し、Aさんは入院となった。入院後12時間の経過で子宮口が全開し、その後4時間で分娩となった。児は3,650gの男児で、Apgar<アプガー>スコア1分後9点、5分後9点である。胎盤は児の娩出の5分後に自然娩出となった。その後も出血が持続しており、胎盤娩出後5分間の出血量は450mLとなった。医師による診察が行われているが原因が特定できていない。Aさんは意識清明で、バイタルサインは脈拍85/分、血圧120/75mmHg、経皮的動脈血酸素飽和度<SpO2>98%(room air)である。
 この時点でのAさんへの対応で最も優先されるのはどれか。

1.飲水を促す。
2.酸素を投与する。
3.末梢静脈を血管確保する。
4.側臥位への体位変換を促す。
5.弾性ストッキングの着用を勧める。

解答

解説

本症例のポイント

・妊娠38週0日:陣痛発来、入院。
・入院後12時間:子宮口全開、4時間で分娩。
・児:3,650gの男児、アプガースコア1分後9点、5分後9点。
・胎盤:児の娩出の5分後に自然娩出。
・その後:出血が持続、胎盤娩出後5分間の出血量450mL
原因が特定できていない
・Aさん:意識清明、脈拍85/分、血圧120/75mmHg、SpO2:98%
→本症例は、娩出後も出血が持続、胎盤娩出後5分間の出血量450mL原因が特定できていない。したがって、産後の異常出血が疑われる。産科危機的出血に至る前に,出血量が多くなってきたところで先手を打った対処が重要となる。児娩出後 24 時間以内の子宮や産道からの出血量が経腟分娩で 500mL、帝王切開で 1,000mL を超えてなお活動性の出血がある場合が「先手を打つ」目安となる。子宮双手圧迫、輸液、子宮収縮薬投与など初期治療を開始する。止血困難な産後の異常出血および出血性ショック時には産科危機的出血の対応も必要となる。

(※図引用:「産婦人科診療ガイドライン―産科編 2020 P260」公益社団法人 日本産科婦人科学会より)

1.× 飲水を促す優先度は低い。なぜなら、本症例は産後の異常出血が疑われるため。ショックに発展した場合、誤嚥性肺炎につながる危険性も考えられる。ただし、一般的に異常がない場合は、分娩で消耗した体力・発汗による水分を回復するためエネルギー・水分補給を勧めていく。
2.× 酸素を投与する必要はない。なぜなら、現状AさんのSpO298%であるため。一般的に、母親への酸素投与が必要な場合は、胎児機能不全に適応となる。胎児の一部は分娩時に、心拍数異常または排便(胎便)など機能不全の徴候を示すことがあり、これは胎盤を通って母親から胎児に運ばれる酸素が不足しているためと考えられている。場合によって女性は、胎児が利用可能な酸素を増加させるため、マスクを用いて十分に酸素を吸うよう(酸素投与)促される場合がある。
3.〇 正しい。末梢静脈を血管確保する。ショックや急変が疑われる際の初期対応として、静脈路確保、母体モニター装着などすぐに対応できる処置を行う。ちなみに、末梢静脈路確保とは、皮膚に針を刺し、静脈内にプラスチック製のチューブ(くだ)を入れる方法である。短時間の場合には金属の針を入れる場合もある。採血の時のように静脈内に針を刺す。
4.× 側臥位への体位変換を促す場合は、「仰臥位低血圧症候群」のときである。仰臥位低血圧症候群とは、妊娠末期の妊婦や下腹部腹腔内腫瘤の患者が仰臥位になった際、妊娠子宮や腫瘤が脊柱の右側を上行する下大静脈を圧迫し、それにより右心房への静脈還流量が減少するため、心拍出量が減少し低血圧となるものである。多くの場合、妊娠末期の妊婦が帝王切開の準備のため腰椎麻酔をおこなった後に生じやすい。突然にショックとなり、頻脈、悪心・嘔吐、冷汗、顔面蒼白などの症状を呈する。対応としては、患者を仰臥位から左側臥位にし、右心系に血液が戻ってくるようにすることで、症状は速やかに回復する。(※参考:「仰臥位低血圧症候群」日本救急医学会HPより)
5.× 弾性ストッキングの着用を勧める場合は、「リンパ浮腫深部静脈血栓の予防」のときである。また、弾性ストッキングは帝王切開時などで術後血栓のリスクがある場合には必要である。弾性ストッキングにより静脈還流を促すことが期待できる。

 

(※画像引用:ナース専科様HPより)

 

 

 

 

 

次の文を読み42〜44の問いに答えよ。
 Aさん(36歳、初妊婦、会社員)。現在、妊娠14週3日。昨夜、少量の性器出血があったため、家族とともに外来受診した。身長165cm、体重57.0kg(非妊時体重56.5kg)。血圧126/68mmHg。Hb 11.5 g/dL、Ht 33.2 %。尿蛋白(-)、尿糖(-)。下肢浮腫(-)、下肢に静脈瘤を認めるが痛みはない。既往歴は特にない。

42 胎児心拍数150bpm、下腹部痛の自覚なし。診察後に絨毛膜下血腫を指摘され、医師からなるべく安静にするように言われた。Aさんは「安静の必要性について上司にどのように伝えればいいですか」と助産師に相談した。
 Aさんへの助産師の対応で適切なのはどれか。

1.家族から説明してもらうように提案する。
2.助産師が上司に電話で説明することを伝える。
3.母子健康手帳を使って説明するように伝える。
4.母性健康管理指導事項連絡カードの利用を提案する。

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(36歳、初妊婦、会社員)
・現在:妊娠14週3日。
・昨夜:少量の性器出血。
・身長165cm、体重57.0kg(非妊時体重56.5kg)
・血圧126/68mmHg、Hb 11.5g/dL、Ht 33.2%。尿蛋白(-)、尿糖(-)
・下肢浮腫(-):下肢に静脈瘤を認めるが痛みはない。既往歴は特にない。

・胎児心拍数150bpm、下腹部痛の自覚なし。
・診察後:絨毛膜下血腫を指摘
・医師から「なるべく安静にするように」と。
・Aさん「安静の必要性について上司にどのように伝えればいいですか」と。
→本症例は、絨毛膜下血腫を指摘されている。絨毛膜下血腫とは、妊娠初期や中期にみられる胎嚢の周りにみられる血液が溜まった部分のことをいう。不正性器出血で気づき、超音波検査で診断がつく。報告に幅がみられるが、全妊娠の0.5%~22%ぐらいの頻度である。多くの場合が、安静などの自然経過で改善する。

1.× 家族から説明してもらうように提案する優先度は低い。なぜなら、Aさんは病気についての理解がないわけではなく、上司への伝え方に戸惑いがあるため。また、Aさん以上に家族は、Aさんの病気について理解していないことも考えられたり、上司への伝え方に不安がある可能性が考えられる。
2.× 助産師が上司に電話で説明することを伝える優先度は低い。なぜなら、電話だと「言った」もしくは「言わない」などの揉めごとに発展しやすいため。書面で残る「母性健康管理指導事項連絡カード」が望ましい。
3.× 母子健康手帳を使って説明するように伝える優先度は低い。なぜなら、母子健康手帳とは、母子保健法に定められた市町村が交付する、妊娠、出産、育児の一貫した母子の健康状態を記録する手帳のことであるため。Aさんの個人情報やプライバシーのことが書かれていることが多く、他の情報を上司に見られる可能性もあるため、母子健康手帳は使用しないほうが望ましい。
4.〇 正しい。母性健康管理指導事項連絡カードの利用を提案する。母性健康管理指導事項連絡カードとは、妊娠中および出産後の女性従業員が、病院やクリニックから指導を受けた内容を適切に事業主に伝達するための書類で、通称「母健連絡カード」と呼ばれる。母性健康管理指導事項連絡カードの記載は、助産師(もくしは医師も)が行える。ちなみに、男女雇用機会均等法の第十三条には「事業主は、その雇用する女性労働者が前条の保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることができるようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない」と記載されている(※「男女雇用機会均等法」e-GOV法令検索様HPより)。

 

 

 

 

 

 

次の文を読み42〜44の問いに答えよ。
 Aさん(36歳、初妊婦、会社員)。現在、妊娠14週3日。昨夜、少量の性器出血があったため、家族とともに外来受診した。身長165 cm、体重57.0 kg(非妊時体重56.5 kg)。血圧126/68 mmHg。Hb 11.5 g/dL、Ht 33.2 %。尿蛋白(-)、尿糖(-)。下肢浮腫(-)、下肢に静脈瘤を認めるが痛みはない。既往歴は特にない。

43 妊娠32週。妊婦健康診査で特に異常はなかった。Aさんは助産師に「被用者保険に加入していますが、これから出産準備に入って仕事ができないと、収入がなくなりますよね。収入がなくなるのはとても困ります」と不安そうにしている。
 産前休業取得中にAさんが支給の対象となるのはどれか。

1.出産育児一時金
2.出産手当金
3.育成医療
4.出産扶助

解答

解説

本症例のポイント

妊娠32週
・妊婦健康診査:異常はなし。
・Aさん「被用者保険に加入していますが、これから出産準備に入って仕事ができないと、収入がなくなりますよね。収入がなくなるのはとても困ります」と不安そう。
→Aさんは、収入がなくなるのは困ると考えている。産前休業取得中に支給されるのは出産手当金である。

1.× 出産育児一時金とは、健康保険法に基づき、日本の公的医療保険制度の被保険者が出産したときに支給される手当金である。手当金は、1児ごとに42万円である。そもそも正常な出産のときは病気とみなされないため、定期健診や出産のための費用は自費扱いとなる。出産育児一時金は直接支払制度となっている。直接支払制度とは、出産育児一時金42万円が直接医療機関に支払われる制度であり、分娩後、褥婦は医療機関に保険証を提示し、所定の合意書に記載することでこの制度を利用する。出産費用が出産育児一時金の額より少ない場合、その差額を被保険者等に支給する。したがって、日本の公的医療保険に加入していることが条件となる。
2.〇 正しい。出産手当金は、産前休業取得中にAさんが支給の対象となる。出産手当金とは、健康保険の被保険者が出産のため会社を休んだために事業主から報酬が受けられない場合に支給される手当金である。支給金額は、対象日数 ×(支給開始日以前12か月間の各標準報酬月額を平均した額)÷ 30日 × (2/3)である。
3.× 育成医療(自立支援医療)とは、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)に基づき、身体に障害のある児童又はそのまま放置すると将来障害を残すと認められる疾患がある児童(18歳未満)で、確実な治療効果が期待できる方が指定医療機関において医療を受ける場合に給付が受けられる制度である。
4.× 出産扶助とは、生活保護の扶助の1つで、出産のために必要な費用の支給を受けることができる。出産にあたって、保健上必要であるにもかかわらず、経済的な理由で病院又は助産所に入院できない妊産婦で、出産前に申請した場合に対象となる。

生活保護制度とは?

生活保護制度は、『日本国憲法』25条の理念に基づき、生活困窮者を対象に、国の責任において、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長することを目的としている。8つの扶助(生活扶助、住宅扶助、教育扶助、医療扶助、介護扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助)があり、原則現金給付であるが、医療扶助と介護扶助は現物給付である。被保護人員は約216.4万人(平成27年度,1か月平均)で過去最高となっている。

生活扶助:日常生活に必要な費用
住宅扶助:アパート等の家賃
教育扶助:義務教育を受けるために必要な学用品費
医療扶助:医療サービスの費用
介護扶助:介護サービスの費用
出産扶助:出産費用
生業扶助:就労に必要な技能の修得等にかかる費用
葬祭扶助:葬祭費用

【生活保護法の4つの基本原理】
①国家責任の原理:法の目的を定めた最も根本的原理で、憲法第25条の生存権を実現する為、国がその責任を持って生活に困窮する国民の保護を行う。
②無差別平等の原理:全ての国民は、この法に定める要件を満たす限り、生活困窮に陥った理由や社会的身分等に関わらず無差別平等に保護を受給できる。また、現時点の経済的状態に着目して保護が実施される。
③最低生活の原理:法で保障する最低生活水準について、健康で文化的な最低限度の生活を維持できるものを保障する。
④保護の補足性の原理:保護を受ける側、つまり国民に要請される原理で、各自が持てる能力や資産、他法や他施策といったあらゆるものを活用し、最善の努力をしても最低生活が維持できない場合に初めて生活保護制度を活用できる。

【4つの原則】
①申請保護の原則:保護を受けるためには必ず申請手続きを要し、本人や扶養義務者、親族等による申請に基づいて保護が開始。
②基準及び程度の原則:保護は最低限度の生活基準を超えない枠で行われ、厚生労働大臣の定める保護基準により測定した要保護者の需要を基とし、その不足分を補う程度の保護が行われる。
③必要即応の原則:要保護者の年齢や性別、健康状態等その個人又は世帯の実際の必要の相違を考慮して、有効且つ適切に行われる。
④世帯単位の原則:世帯を単位として保護の要否及び程度が定められる。また、特別な事情がある場合は世帯分離を行い個人を世帯の単位として定めることもできる。

(※参考:「生活保護制度」厚生労働省HPより)
(※参考:「生活保護法の基本原理と基本原則」室蘭市HPより)

 

 

 

 

 

 

次の文を読み42〜44の問いに答えよ。
 Aさん(36歳、初妊婦、会社員)。現在、妊娠14週3日。昨夜、少量の性器出血があったため、家族とともに外来受診した。身長165 cm、体重57.0 kg(非妊時体重56.5 kg)。血圧126/68 mmHg。Hb 11.5 g/dL、Ht 33.2 %。尿蛋白(-)、尿糖(-)。下肢浮腫(-)、下肢に静脈瘤を認めるが痛みはない。既往歴は特にない。

44 Aさんは妊娠41週5日、妊婦健康診査のために病院を受診した。超音波検査で推定胎児体重2,600g、AFI 5で羊水量の減少が確認された。胎児心拍数陣痛モニタリングではリアクティブパターンであった。体温36.5℃、脈拍60/分、血圧130/78mmHg。尿蛋白(-)、尿糖(-)。医師からAさんは分娩誘発のための入院を勧められたが「分娩誘発のために入院になるなんて思いもよらなかった。入院しないでいたらどんなことが起きてくるのですか」と助産師に尋ねた。
 Aさんの分娩で特に予測されるのはどれか。

1.常位胎盤早期剝離
2.胎児機能不全
3.子宮内感染
4.肩甲難産
5.弛緩出血

解答

解説

本症例のポイント

妊娠41週5日(妊娠後期)
・超音波検査:推定胎児体重2,600g、AFI 5で羊水量の減少
・胎児心拍数陣痛モニタリング:リアクティブパターン。
・体温36.5℃、脈拍60/分、血圧130/78mmHg。
・尿蛋白(-)、尿糖(-)。
・医師は「分娩誘発のための入院を勧める
・Aさん「分娩誘発のために入院になるなんて思いもよらなかった。入院しないでいたらどんなことが起きてくるのですか」と。
→本症例は、リアクティブ・パターン(胎動にともなって赤ちゃんの脈が一時的に早くなるパターン。胎児が元気なサイン)であるが、AFI 5で羊水量の減少していることから羊水過少に進行しやすいと考えられる。羊水過少とは、羊水量の不足である。羊水の量が極端に少なくなると、胎児が圧迫され、四肢の変形、平らな鼻、下顎が小さくなり後退しているように見えるなどの問題が生じる。吸収が減少する病態として、食道閉鎖や十二指腸閉鎖などの上部消化管閉鎖(狭窄)などの先天異常、染色体異常などで機能的に嚥下ができない場合がある。また、上部消化管周囲から羊水の通過を妨げる口腔、頸部、肺などの腫瘍も原因となる。ちなみに、羊水過少はAFI5以下をいう。AFI(amniotic fluid index)とは、子宮の各4分の1について羊水深度を垂直に計測した値の合計である。

1.× 常位胎盤早期剝離とは、子宮壁の正常な位置に付着している胎盤が妊娠20週以降に剥がれてしまうことである。子宮壁の正常な位置に付着している胎盤が、胎児娩出以前に子宮壁より剥離することをいう。剥離出血のため、性器出血や激しい腹痛、子宮内圧の上昇、子宮壁の硬化が起こり、ショック状態を起こすことがある。胎盤が早い時期に剥がれると、在胎週数の割に成長しなかったり、死亡することさえある。また、低酸素のために急速に胎児機能不全に陥る。原因は不明なことが多い。
2.〇 正しい。胎児機能不全がAさんの分娩で特に予測される。なぜなら、AさんのAFI 5で羊水量の減少していることから羊水過少に進行しやすいと考えられるため。今後、用水量が低下すれば臍帯圧迫が起きやすく、循環不全となり、今後胎児機能不全に陥ることが予測される。また、Aさんは過期妊娠に近く胎児機能不全を起こす可能性がある。過期妊娠とは、妊娠42週以降も妊娠が続く状態である。妊娠が長引きすぎると胎盤が胎児に十分な栄養を届け続けることができなくなり、胎児機能不全を起こす可能性がある。この状態を過熟と呼ぶ。
3.× 子宮内感染とは、病原菌が腟・ 子宮頸管の病原体が子宮内へと上行(上行感染)、もしくは胎盤を通過(経胎盤感染)し胎児へと感染することである。原因となる細菌は、淋菌、レンサ球菌、ブドウ球菌、大腸菌、結核菌などがある。 月経のとき、不潔なタンポンを膣内にあったり、タンポンを膣の中に長い間おいた場合も、子宮内にまで炎症を起こしてしまうことがある。一般的な症状は、下腹部痛、骨盤痛、発熱(分娩後1~3日以内に起こる場合がほとんど)、蒼白、悪寒、全身のけん怠感や不快感などのほか、しばしば頭痛や食欲減退もみられる。本症例の体温36.5℃であるため子宮内感染の優先度は低い。
4.× 肩甲難産とは、児頭娩出後に前在肩甲が恥骨結合につかえ、肩甲娩出が困難状況なために、児の娩出が不可能な状態である。危険因子としては胎児の大きさが最も重要である。他にも母体の糖尿病や、母体の妊娠中の過剰な体重増加、過期妊娠、母体の高年齢、骨盤の変形などがある。本症例は推定胎児体重2,600gであるため、肩甲難産の優先度は低い。
5.× 弛緩出血とは、児と胎盤の娩出後、本来なら子宮が収縮することで止まるはずの出血が続く状態である。原因は、多胎妊娠や巨大児による子宮の過伸展、子宮収縮剤の長時間投与、長引く分娩による母胎の疲労、子宮奇形などの体質によるもの、子宮内の凝血塊の遺残、全身麻酔などが挙げられる。

胎児機能不全とは?

胎児機能不全とは、お産の途中でさまざまな原因によって胎児が低酸素状態になることをいう。胎児仮死、胎児ジストレスとも呼ぶ。原因としては母体の妊娠高血圧症候群、胎盤早期剥離、臍帯の圧迫などである。新生児蘇生法ガイドライン(NCPR)に従って蘇生初期処置を行い、蘇生終了後、新生児の健康に不安がある場合、新生児管理に関する十分な知識と経験がある医師に相談する。

 

 

 

 

次の文を読み45〜47の問いに答えよ。
 Aさん(32歳、初産婦)。妊娠経過は順調であった。妊娠39週5日で3,420gの女児を吸引分娩で出産した。分娩所要時間20時間50分、破水から分娩までの所要時間1時間30分。分娩時出血量450mL。正中側切開術が施行された。

45 分娩後5時間。体温37.4℃、脈拍88/分、血圧100/74mmHg。子宮底の高さ臍高、子宮底は硬く触れる。赤色悪露中等量、後陣痛軽度。会陰縫合部の発赤(-)、腫脹軽度、発汗がみられ、口渇を訴える。
 この時点のAさんのアセスメントで適切なのはどれか。2つ選べ。

1.口渇は耐糖能の異常によるものである。
2.出血多量による頻脈がみられている。
3.自然に正常体温に戻る可能性が高い。
4.会陰縫合部の感染が疑われる。
5.子宮復古は良好である。

解答3・5

解説

本症例のポイント

・Aさん(32歳、初産婦)。
・妊娠経過:順調。
・妊娠39週5日:3,420g(女児、吸引分娩)
・分娩所要時間:20時間50分、破水から分娩までの所要時間1時間30分。
・分娩時出血量:450mL。正中側切開術が施行。

・分娩後5時間:体温37.4℃、脈拍88/分、血圧100/74mmHg。
・子宮底の高さ:臍高、子宮底:硬く触れる
・赤色悪露:中等量、後陣痛:軽度。
・会陰縫合部の発赤(-)、腫脹軽度、発汗がみられ、口渇を訴える。
→本症例は、意識清明・バイタルサインも正常である。分娩で消耗した体力・発汗による水分を回復するためエネルギー・水分補給を勧めていく。

1.× 口渇は「耐糖能の異常によるものである」と断定できない。なぜなら、設問文に糖の情報の記載がないため。本症例の場合、分娩で消耗した体力・発汗による水分を回復するためエネルギー・水分補給を勧めていく。ちなみに、妊娠糖尿病の場合、出産後は、妊娠中に比べ血糖が下がるため、妊娠中のインスリン量をそのまま続けると低血糖を起こしやすい。授乳が始まるとさらに血糖値は下がりやすいため食事エネルギー量を増やす必要がある。
2.× 出血多量による頻脈はみられていない。正常分娩の出血量は500mL未満とされている。また、一般的に頻脈は100回/分以上とされている。本症例の場合、分娩時出血量450mL、脈拍88/分であるためいずれも当てはまらない。
3.〇 正しい。自然に正常体温に戻る可能性が高い。お産のため一時的に発熱しているが、母体の脱水や疲労、交感神経が優位になっていることが原因であることが考えられる。したがって、分娩時には0.5℃上昇するとされている。通常12時間以降に低下し、翌日には休息により自然に正常体温に戻る可能性が高い。
4.× 会陰縫合部の感染は疑われない。なぜなら、創部の感染兆候は3日目以降見られることが多いため。また、本症例の会陰縫合部は腫脹軽度ではあるが、発赤(-)であるため正常範囲内と読み取れる。
5.〇 正しい。子宮復古は良好である。本症例の子宮底の高さ:臍高、(通常12時間で臍高~臍上1横指)であるが、子宮底:硬く触れる状態で赤色悪露:中等量であることから子宮復古は良好と考えられる。また、子宮底が高い場合には子宮収縮を妨げないためにも排尿を促す必要がある。

子宮復古状態とは?

子宮復古とは、妊娠・分娩によって生じたこれらの変化が、分娩後、徐々に妊娠前の状態に戻ることである。子宮復古状態は、腹壁上から触知する子宮の位置や硬さ、子宮底長、悪露の色と量、後陣痛の強さの訴えなどから判断できる。特に、直接子宮の状態を観察できる触診、子宮底長の情報は重要である。

子宮復古の状態

・分娩直後:①子宮底長(11~12cm)、②子宮底の高さ(臍下2~3横指)、③悪露の色調・におい(赤色:鮮血性、血液のにおい)
・分娩後12時間:①子宮底長(15cm)、②子宮底の高さ(臍高~臍上1~2横指少し右方に傾く)、③悪露の色調・におい(赤色:鮮血性、血液のにおい)
・1~2日:①子宮底長(11~17cm)、②子宮底の高さ(臍下1~2横指)、③悪露の色調・におい(赤色:鮮血性、血液のにおい)
・3日:①子宮底長(9~13cm)、②子宮底の高さ(臍下2~3横指)、③悪露の色調・におい(褐色、赤褐色:軽い異臭)
・4日:①子宮底長(9~10cm)、②子宮底の高さ(臍と恥骨結合の中央:臍恥中央)、③悪露の色調・におい(褐色、赤褐色:軽い異臭)
・5日:①子宮底長(8~11cm)、②子宮底の高さ(恥骨結合上縁3横指)、③悪露の色調・におい(褐色、赤褐色:軽い異臭)
・6日:①子宮底長(8~11cm)、②子宮底の高さ(恥骨結合上縁3横指)、③悪露の色調・におい(褐色、赤褐色:軽い異臭)
・7~9日:②子宮底の高さ(恥骨結合上わずかに触れる)、③悪露の色調・におい(褐色、赤褐色:軽い異臭)
・10日以降~3週間:②子宮底の高さ(腹壁上より触知不能)、③悪露の色調・におい(黄色・無臭)
・4~6週間:③悪露の色調・におい(白色・無臭)

 

 

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