第103回(R2) 助産師国家試験 解説【午前31~35】

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31 日本で実施されている全国調査のうち、DOHaD学説が調査の基盤概念となっているのはどれか。

1.乳幼児栄養調査
2.国民生活基礎調査
3.全国家庭児童調査
4.乳幼児身体発育調査
5.子どもの健康と環境に関する全国調査<エコチル調査>

解答

解説

Developmental Origin of Health and Disease(DOHaD) とは?

子宮内での環境悪化をはじめとした発育期の環境変化による影響が,将来の成人期の疾病発症にかかわるとする Developmental Origin of Health and Disease(DOHaD)学説が注目を集めている。この学説は,1920年代の新生児死亡率と約半世紀後の虚血性心疾患による死亡の相関の報告に始まり,「胎児期の環境悪化に適応するために低出生体重となることにより内分泌代謝の恒常性が変化し,そのことが成人期の生活習慣病リスクを上昇させる」という仮説が提唱された。Gluckmanらはこの仮説をより一般化し,「発達期の個体において環境の変化に対応した不可逆的な変化が生じ,このような変化が発達の完了した時期の環境に適応できなければそれは成人期に種々の疾患の源となる」というDOHaD仮説として定着するようになった。この仮説は多くの疫学研究や動物実験によっても支持されている。これまでの大規模疫学研究により,低出生体重が冠動脈疾患,高血圧,脳卒中,糖尿病,肥満,メタボリックシンドロームなどの多様な非感染性疾患(non-communicative disease:NCD)の発症リスクを増加させることが明らかになっている。極端な例として人類の歴史上不幸にして起こった飢餓事件の追跡コホート研究があり,胎児期に飢餓に直面することにより成人後に生活習慣病の増加が引き起こされる例が報告されている。

(一部引用:「Developmental Origin of Health and Disease(DOHaD)学説と腎臓」著:張 田 豊より)

1.× 乳幼児栄養調査とは、昭和60年から10年ごとに実施されている調査で、全国の乳幼児の栄養方法や食事状況などの実態を把握し、授乳・離乳支援や乳幼児の食生活改善の基礎資料を得ることを目的として行われるものである。
2.× 国民生活基礎調査とは、保健、医療、福祉、年金、所得など国民生活の基礎的事項を調査し、厚生労働行政の企画及び運営に必要な基礎資料を得るとともに、各種調査の調査客体を抽出するための親標本を設定することを目的とした厚生労働省が行う基幹統計調査である。
3.× 全国家庭児童調査とは、全国の家庭にいる児童及びその世帯の状況を把握し、児童福祉行政推進のための基礎資料を得ることを目的とした厚生労働省が行う調査である。
4.× 乳幼児身体発育調査とは、厚生労働省が10年ごとに調査するものである。調査内容は乳幼児の身長、体重、頭囲及び胸囲や、乳幼児の栄養方法、運動・言語発達、さらに子どもの成長、 発達に影響を与える母親の生活習慣、身体計測値、妊娠中の異常、在胎週数、出生順位などについてである。
5.〇 正しい。DOHaDとは「将来の健康や特定の病気へのかかりやすさは、胎児期や生後早期の環境の影響を強く受けて決定される」という概念である。子どもの健康と環境に関する全国調査<エコチル調査>とは、胎児が子宮内にいるときから13歳になるまで健康状態を定期的に調べる、出生コーホート(集団を追跡する)調査のことである。

 

 

 

 

 

32 抗不安薬内服中の妊婦から出生した新生児に認められる薬物離脱症候群の症状で注意するのはどれか。2つ選べ。

1.嘔吐
2.発疹
3.頭囲拡大
4.無呼吸発作
5.頭頂部の皮膚剝離

解答1・4

解説

薬物離脱症候群とは?

新生児薬物離脱症候群とは、お産の前に投与された薬や常用している嗜好品が、胎盤を通過して生まれてきた赤ちゃんに一時的な効果を及ぼし、その物質が赤ちゃんの体から排泄される過程で、赤ちゃんの脳、消化管や自律神経の症状が一時的に現われることです。脳の症状として、筋肉の緊張がなくなってグッタリしたり、不安興奮状態で手足をブルブルふるったりすることがあります。もっと重い症状として、息を止めたり、けいれんしたりすることがあります。消化管の症状として、下痢や嘔吐がみられる場合もあります。自律神経の症状として、たくさん汗をかいたり、熱をだしたりします。この原因として、てんかんの治療薬、不安感などの精神の安定をはかる薬、鎮 痛薬や喘息の治療に使う飲み薬などです。嗜好品には、アルコー ルやカフェイン、非合法の麻薬などがあります。

「※一部引用:「重篤副作用疾患別対応マニュアル 新生児薬物離脱症候群」厚生労働省HPより」

1.4.〇 正しい。嘔吐/無呼吸発作は、抗不安薬内服中の妊婦から出生した新生児に認められる薬物離脱症候群の症状で注意する。薬物離脱症候群とは、分娩前に使用された薬剤が胎盤を通過して児の体から排泄される過程で、児の脳・消化管や自律神経に一時的に影響を及ぼすことである。症状としては、筋緊張低下、不安興奮状態による激しい啼泣や手足のふるえ、無呼吸発作、下痢や嘔吐、発汗、発熱がある。
2.× 発疹とは、ウイルス感染やかぶれ、じんましんのように急に出る皮ふの変化をいう。
3.× 頭囲拡大は、主に水頭症や大頭症が原因で起こりやすい。
5.× 頭頂部の皮膚剝離は起こらない。皮膚剝離とは、表皮のみが剥離している状態のことである。特に高齢者では皮膚が弱くなっているためにおこりやすい。場所によっては褥瘡形成の初期段階として扱われることもある。

 

 

 

 

33 羊膜で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.血管がない。
2.羊水を分泌する。
3.胎生42日目に形成される。
4.エストロゲンが分泌される。
5.子宮内膜から分化したものである。

解答1・2

解説

(※図引用:「羊膜のご提供をお考えのお母さまへ」東京歯科大学HPより)

羊膜とは

羊膜は、細胞とコラーゲンやラミニン等のタンパクからなる基底膜や緻密層からなり、血管を含まない半透明の薄い袋状の膜である。子宮の中で赤ちゃんを包む卵膜の最内層を覆う厚さ約100~150μmの半透明の膜であり、母体からの胎盤組織への拒絶反応の抑制等、赤ちゃんを保護したり、羊水を分泌する役割があると考えられている。 赤ちゃん由来の組織であるため、拒絶反応が起こりにくく、炎症を抑える働きがある。薄くて伸縮性に富むため、昔から様々な医療用途に用いられている。

1.〇 正しい。血管がない。羊膜はコラーゲンに富む血管を含まず、羊水を保持している膜であるため血管がない。他にも絨毛膜も血管がない。
2.〇 正しい。羊水を分泌する。羊膜は胎盤および臍帯の胎児面を包むように形成され、羊水の一部を分泌する。
3.× 形成されるのは、「胎生42日目」ではなく胎生7日目である。胎児外肺葉および中胚葉が伸展して形成される。
4.× エストロゲン(卵胞ホルモン)が分泌されるのは、卵巣から分泌される。ちなみに、卵胞の発育、排卵を起こさせる作用がある。また、羊膜は機械的な伸展刺激によりサイトカインやコラゲナーゼなどを産生する。サイトカインとは、主に免疫系細胞から分泌されるタンパク質である。コラゲナーゼとは、タンパク質の一種であるコラーゲンを分解する酵素のことである。
5.× 子宮内膜から分化したもの「ではない」。羊膜は 赤ちゃん由来の組織であるため、拒絶反応が起こりにくく、炎症を抑える働きがある。薄くて伸縮性に富む。ちなみに、子宮内膜から分化したものは、脱落膜で母体側の組織である。卵膜は母体側から①脱落膜、②絨毛膜、③羊膜の3層構造になっている。また、胎児側の組織は絨毛膜と羊膜である。

胎児由来

胎児は受精卵から作られるが、胎児付属物(胎盤や臍帯、羊膜)も受精卵の一部から形成される。これらは、胎児が子宮内で母体から栄養や酸素を得て老廃物を母体血に引き渡すために必要な、いわば胎児の生命維持装置である。そのやり取りのために、胎盤、臍帯には母児の血液が多量に潅流しており、その異常の発生は胎児の生命だけでなく、母児の各種トラブルや後遺症と深く関連する。胎児だけでなく、妊娠中の胎児付属物に対する超音波診断も重要である。

 

 

 

 

 

34 羊水過多症に伴い母体に生じる症状はどれか。2つ選べ。

1.多尿
2.発熱
3.不眠
4.子宮収縮
5.食欲亢進

解答3・4

解説

羊水過多症とは?

羊水過多症とは、生理的な羊水量の範囲を大きく超え(800ml以上)、これにより子宮が大きくなって圧迫感子宮収縮子宮頸管長の短縮などの症状が出現している状態をいう。羊水過多は胎児奇形、多胎妊娠、母体糖尿病、および様々な胎児疾患により起こりうる。羊水過多は早期子宮収縮、前期破水、母体の呼吸障害、胎位異常または胎児死亡、ならびに陣痛および分娩時の様々な問題のリスクの上昇と関連する。羊水量に問題はないかを判断する目安として、子宮底長を用いられることがあるが、産婦人科ガイドラインでは子宮底長、腹囲の測定の有用性は認められないと報告されている。羊水過多の基準として、AFI24以上のことをいう。ちなみに、羊水過少はAFI5以下をいう。AFI(amniotic fluid index)とは、子宮の各4分の1について羊水深度を垂直に計測した値の合計である。

1.× 「多尿」ではなく乏尿がみられる。なぜなら、羊水過多症の原因として、母体糖尿病、胎児の嚥下障害、食道閉鎖症、幽門閉鎖症、十二指腸閉鎖症などがあるため。ちなみに、乏尿とは、何らかの原因により腎臓が障害を受け、尿量 が 1 時間あたり、(体重×0.5)ml 以下に減少した状態を指す。
2.× 「発熱」はみられにくい。発熱は炎症(感染症)などに見られやすい。
3.〇 正しい。不眠/子宮収縮は母体に生じる症状である。羊水過多症では、子宮の増大による呼吸困難、動悸、それに伴う不眠、浮腫、乏尿、食欲低下になりやすい。また、子宮壁が過伸展するため子宮収縮が起こり、切迫早産になりやすくなる。
5.× 「食欲亢進」ではなく食欲低下がみられる。なぜなら、子宮が大きくなって圧迫感や子宮収縮、子宮頸管長の短縮などの症状が出現するため。

 

 

 

 

35 異所性妊娠で正しいのはどれか。2つ選べ。

1.卵管間質部妊娠の頻度が最も高い。
2.クラミジア感染症がリスク因子となる。
3.黄体形成ホルモン<LH>値測定が診断に有用である。
4.妊娠週で子宮内に胎囊を認めない場合に診断される。
5.薬物療法としてメトトレキサートが用いられる。

解答2・5

解説

異所性妊娠とは?

卵管妊娠(子宮外妊娠、異所性妊娠)とは、正常妊娠と異なり、受精卵が子宮内膜以外に着床し、胎芽・胎児の発育が進んでしまうことである。最も多いのは卵管に着床するケースで、そのほかに卵巣や腹腔、子宮頸管などに着床することもある。全妊娠数の1%程度で発症する。卵管妊娠(子宮外妊娠、異所性妊娠)の原因として、性感染症であるクラミジアや一般細菌などへの感染が卵管付近の炎症を引き起こしたり、卵管の癒着につながったりするとされている。

1.× 妊娠の頻度が最も高いのは、「卵管間質部」ではなく卵管妊娠(約9割)である。異所性妊娠の種類には①卵管妊娠、②間質部妊娠、③頸管妊娠がある。異所性妊娠は全妊娠の1%弱に起こり、卵管妊娠(約9割)の頻度が最も高い。その中でも、卵管膨大部の妊娠が最も多い。ちなみに、症状としては、無月経および妊娠反応(尿中hCG)の陽性、切迫流産様の少量の出血、超音波上、子宮内に胎嚢をみとめない、下腹部痛などがある。
2.〇 正しい。クラミジア感染症がリスク因子となる。クラミジア感染による卵管炎が最も多い。他にも子宮内膜症や卵管手術後、体外受精、子宮内避妊具(IUD)挿入中の妊娠も原因に含まれる。
3.× 診断に有用であるのは「黄体形成ホルモン<LH>値測定」ではなくヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット(HCG)である。あわせて超音波検査で診断する。
4.× 「妊娠4週」ではなく妊娠6週頃、子宮内に胎囊を認めない場合に診断される。なぜなら、胎嚢の確認ができる時期は早い人でたれば妊娠4週ごろから確認できるが、通常であれば、遅くとも6週までには確認できるようになるため。ただし、妊娠5週を過ぎても、超音波検査によって子宮内に胎嚢が確認できない場合、子宮付属器にて胎児成分が存在しないか検索を行う。ちなみに、胎嚢とは、子宮内膜に受精卵が着床すると作られる、赤ちゃんを包む袋のことである。胎嚢は羊膜、尿膜、漿膜で包まれており、中は羊水で満たされている。通常は、胎嚢・胎芽・心拍の三つを確認できた時点で、正常妊娠であると診断される。
5.〇 正しい。薬物療法としてメトトレキサートが用いられる。治療としては開腹手術または腹腔鏡手術での摘出、薬物療法としてメトトレキサートが用いられる。メトトレキサートとは、葉酸代謝拮抗機序をもち免疫抑制剤に分類される薬剤である。抗悪性腫瘍薬、抗リウマチ薬、妊娠中絶薬などとして使用される。ただし、卵管妊娠以外の異所性妊娠では、母体の状態や胎児の心拍の有無、ヒト絨毛性ゴナドトロピンβサブユニット(HCG)の値などで医師が治療法を決定する。

クラミジア性器感染症

女性のクラミジア性器感染症は、放置すると子宮頚部から腹腔内へと進展し、子宮付属器炎や骨盤内炎症性疾患も発症する。しかし、無症状である場合が多く、卵管障害や卵管性不妊症が判明して、はじめて診断されるケースもある。そういう意味で、女性のクラミジア感染症は、男性に比して症状が軽度である一方で、合併症や後遺症などが深刻な問題になる場合が多いといえる。一般的にクラミジアによる症状は非特異的で、帯下(おりもの)増量、不正出血、下腹痛、性交痛などである。主な合併症:①子宮頸管炎、②子宮付属器炎、③骨盤腹膜炎、④肝周囲炎、⑤咽頭感染などである。

 

 

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