第100回(H29) 助産師国家試験 解説【午後36~40】

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次の文を読み36〜38の問いに答えよ。
 Aさん(19歳)。半年で7kgの体重増加があり、4か月間月経がなかったため、婦人科外来を受診した。「友人関係のストレスで甘いものばかり食べ過ぎてしまったと思う。最近、にきびが増えて気になる。体調はそんなに悪くはない」と言う。既往歴に特記すべきことはない。初経は12歳で月経周期は30日型であった。性交経験はない。身長157cm、体重70kg。脈拍74/分、血圧120/70mmHg。

36 診察の結果、乳房、陰毛の発育は正常。経腹超音波検査で、両側卵巣は軽度腫大しており、片側10個以上の小さい卵胞を認める。
 Aさんの血中ホルモン値として予想されるのはどれか。2つ選べ。

1.プロラクチン高値
2.テストステロン高値
3.黄体形成ホルモン<LH>高値
4.卵胞刺激ホルモン<FSH>高値
5.エストラジオールが測定感度以下の低値

解答2・3

解説

本症例のポイント

・Aさん(19歳、半年で7kgの体重増加)。
4か月間:月経がなし
・「友人関係のストレスで甘いものばかり食べ過ぎてしまったと思う。最近、にきびが増えて気になる。体調はそんなに悪くはない」と。
・既往歴:特記事項なし。
・初経:12歳、月経周期:30日型、性交経験:なし。
・身長157cm、体重70kg。脈拍74/分、血圧120/70mmHg。
・乳房、陰毛の発育:正常。
・経腹超音波検査:両側卵巣は軽度腫大、片側10個以上の小さい卵胞を認める
→本症例は、多嚢胞性卵巣症候群が疑われる。多嚢胞性卵巣症候群とは、「両側の卵巣が腫大・肥厚・多嚢胞化し、月経異常や不妊に多毛・男性化・肥満などを伴う症候群」と定義され、卵子が入った卵胞の成長に時間がかかり、排卵が起こりにくくなる病気である。多嚢胞性卵巣症候群は男性ホルモンが多く作られてしまうことで発症しやすい。この具体的な原因はよく分かっていないが、血糖値を下げるホルモンのインスリンが影響していると考えられている。

【診断基準】
①月経異常(月経不順や無月経)
②超音波検査で卵巣に卵胞がたくさん連なってみえること(多嚢胞性卵巣)
③血中男性ホルモン高値または黄体形成ホルモンが高値で、卵胞刺激ホルモンが正常。

1.× プロラクチンは、「高値」ではなく変化ない。つまり、正常値である。プロラクチンとは、乳腺刺激ホルモンともいい、脳の下垂体から分泌され、妊娠すると高くなり乳腺を成長させ乳汁産生を行う。一般的に出産後など授乳期間中において、乳頭の刺激で高くなり乳汁を分泌する。

2.3.〇 正しい。テストステロン/黄体形成ホルモン<LH>高値は、Aさんの血中ホルモン値として予想される。
・テストステロンとは、男子の第二次性徴に最も関与するホルモンである。アンドロゲン(雄性ホルモン、男性ホルモン)とは、ステロイドの一種で、生体内で働いているステロイドホルモンのひとつである。アンドロゲンにはテストステロンとジヒドロテストステロン (dihydrotestosterone;DHT)があり、精巣の分化、機能、組織形成、さらに内性器・外性器の形成に重要な役割を果たす。
・黄体形成ホルモンとは、下垂体前葉から分泌され、卵巣に影響し排卵を起こす上で重要な役割を担う。また、思春期に増加し、精巣においてテストステロン、卵巣においてエストロゲンの分泌を増加させる。

4.× 卵胞刺激ホルモン<FSH>は、「高値」ではなく変化ない。つまり、正常値である。卵胞刺激ホルモンとは、卵胞期に増加する。卵胞刺激ホルモンは、脳下垂体前葉から分泌される。卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンを性腺刺激ホルモンと呼ぶ。卵胞刺激ホルモンは、卵巣の卵胞の成熟を促進し、エストロゲンの分泌を刺激する。

5.× エストラジオールが測定感度以下の「低値」ではなく変化ない。つまり、正常値である。エストラジオールとは、エストロゲンの一種で、母体の肝臓と胎盤、胎児の副腎を経て生成されるため、その血中濃度は胎児の生命状態の指標として用いられる。エストロゲンの中で最も強い卵胞ホルモン作用を持つ物質で、女性の二次性徴に働き、卵巣機能調節、卵胞発育、子宮内膜増殖などの作用を示す。

MEMO

エストラジオール(エストロゲン)値を測定することによって、卵巣機能の状態や更年期・閉経の可能性などがわかる。エストロゲンの数値が基準値より低い場合は、卵巣機能が低下していることが推測され、無排卵や無月経、プレ更年期、40代後半以上では更年期が考えられる。

更年期障害とは、更年期に出現する器質的な変化に起因しない多彩な症状によって、日常生活に支障をきたす病態と定義される。更年期症状は大きく、①自律神経失調症状、②精神神経症状、③その他に分けられるが、各症状は重複して生じることが多い。治療の一つに、ホルモン補充療法(HRT)があげられる。ホルモン補充療法とは、エストロゲン(卵胞ホルモン)を補うことで、更年期障害を改善する治療法である。ほてり、のぼせ、発汗などといった代表的な症状に高い効果を示す。禁忌として、エストロゲン依存性悪性腫瘍(子宮内膜癌、乳癌)またその疑いのあるもの、重症肝機能障害、血栓性疾患などがあげられる。

 

 

 

 

 

次の文を読み36〜38の問いに答えよ。
 Aさん(19歳)。半年で7kgの体重増加があり、4か月間月経がなかったため、婦人科外来を受診した。「友人関係のストレスで甘いものばかり食べ過ぎてしまったと思う。最近、にきびが増えて気になる。体調はそんなに悪くはない」と言う。既往歴に特記すべきことはない。初経は12歳で月経周期は30日型であった。性交経験はない。身長157cm、体重70kg。脈拍74/分、血圧120/70mmHg。

37 体重の減量指導が開始された。Aさんは、現在は妊娠の希望はなく、避妊の必要もないという。無月経であることを心配しており、定期的に月経が来るような薬物治療を希望している。家族歴を聴取したところ、実父と叔父に血栓症の既往があり、叔父は外科手術後の肺塞栓症で死亡しているとのことであった。
 最も適切な治療法はどれか。

1.黄体ホルモン薬の内服
2.GnRHアゴニストの注射
3.抗テストステロン薬の内服
4.選択的エストロゲン受容体修飾薬の内服
5.低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬の内服

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(19歳、多嚢胞性卵巣症候群の疑い)。
4か月間:月経がなし
・既往歴:特記事項なし。
体重の減量指導:開始。
妊娠の希望はなく、避妊の必要もない
・希望:定期的に月経が来るような薬物治療(無月経を心配)
・家族歴:実父と叔父に血栓症の既往、叔父は外科手術後の肺塞栓症で死亡。
→本症例(妊娠の希望なし)は、多嚢胞性卵巣症候群が疑われ、無月経に対する治療を選択しよう。家族歴に血栓症があることに留意しよう。多嚢胞性卵巣症候群の治療方針は、現時点において子供を希望するかどうか(挙児希望)によって分かれることに留意しよう。

1.〇 正しい。黄体ホルモン薬の内服が最も適切な治療法である。なぜなら、本症例は、(妊娠の希望なし)は、多嚢胞性卵巣症候群が疑われるため。挙児希望がない場合は、定期的な消退出血を起こさせることを治療とする。なぜなら、多嚢胞性卵巣症候群において、エストロゲンの分泌は保たれ、子宮内膜は厚くなっているけれど、排卵が起きないために生理が起こらない事があるため。したがって、子宮内膜は増殖し続け、子宮内膜増殖症や子宮体癌などのリスクになる。そこで子宮内膜を定期的にリセットさせるために黄体ホルモン製剤を用いる。多毛やにきびなど男性ホルモン過剰による症状がある場合は、低用量ピルも用いられる(本症例の場合、家族歴から優先順位が下がる)。

2.× GnRHアゴニストの注射は、子宮筋腫や子宮内膜症などの良性腫瘍疾患に対する偽閉経療法として用いられるほか、生殖医療(不妊治療)や卵巣保護などにも応用されている。ちなみに、GnRHアゴニストとは、視床下部ホルモンであるGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)の誘導体である。アゴニストとは、生体内の細胞の受容体に結合して、神経伝達物質やホルモンなどと同様の機能を示す物質の総称である。薬では作動薬とも呼ばれる。

3.× 抗テストステロン薬の内服は、前立腺がんの治療薬である。抗テストステロン薬とは、男性ホルモンであるテストステロンの作用を抑える薬で、抗アンドロゲン薬とも呼ばれる。精巣や副腎から分泌されるジヒドロテストステロンがアンドロゲン受容体に結合する過程を阻害することで、男性ホルモンの働きを抑え、前立腺がんの増殖を抑制したり、肥大した前立腺を縮小させたりする効果がある。

4.× 選択的エストロゲン受容体修飾薬の内服は、骨粗鬆症に効果がある。選択的エストロゲン受容体修飾薬は、骨のエストロゲン受容体に選択的に作用して、閉経によるエストロゲン分泌の低下によってバランスが崩れた骨代謝を調整する薬剤である。

5.× 低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬の内服より優先されるものが他にある。なぜなら、本症例の家族歴に血栓症があるため。低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(低用量ピル)は、月経周期を調整し無月経を治療するのに有効である。

低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(LEP製剤)の副作用

軽い頭痛、軽い嘔気、少量の不正性器出血が起こることがありますが、飲み続けると徐々に改善します。重要な副作用として、血栓症(静脈血栓症・動脈血栓症)があります。血栓症は頻度こそ低いものの、致死的となる場合があるので、厳重な注意が必要です。海外の調査によると、服用していない女性の静脈血栓症発症のリスクは年間10,000人あたり1-5人であるのに対し、服用女性では3-9人と報告されています。喫煙、高年齢(40歳以上)、肥満、長時間の航空機搭乗(いわゆるエコノミークラス症候群)、などは血栓症の発症リスクを高めるため、注意が必要です。血栓症は以下の症状(ACHES)と関連することが報告されていますので、服用中に症状を認める場合には、すぐに医療機関を受診して下さい。
A:abdominal pain (激しい腹痛)
C:chest pain(激しい胸痛、息苦しい、押しつぶされるような痛み)
H:headache(激しい頭痛)
E:eye / speech problems(見えにくい、視野が狭い、舌のもつれ、失神、意識障害)
S:severe leg pain(ふくらはぎの痛み、むくみ、握ると痛い、赤くなっている)

(※引用:「IUS(ミレーナ)とLEP製剤(ルナベル・ヤーズ)について」大橋病院産婦人科様HPより)

 

 

 

 

 

次の文を読み36〜38の問いに答えよ。
 Aさん(19歳)。半年で7kgの体重増加があり、4か月間月経がなかったため、婦人科外来を受診した。「友人関係のストレスで甘いものばかり食べ過ぎてしまったと思う。最近、にきびが増えて気になる。体調はそんなに悪くはない」と言う。既往歴に特記すべきことはない。初経は12歳で月経周期は30日型であった。性交経験はない。身長157cm、体重70kg。脈拍74/分、血圧120/70mmHg。

38 その後Aさんは22歳で結婚し、現在は妊娠を希望している。体重はこの3年間に少しずつ減少し55kgとなっているが、現在でも自然には月経が来ないという。高血圧症や糖尿病はみられない。
 Aさんへの第一選択の治療法はどれか。

1.5kgの減量指導
2.メトホルミンの内服
3.ゴナドトロピンの注射
4.Kaufmann<カウフマン>療法
5.クロミフェンクエン酸塩の内服

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(19歳、多嚢胞性卵巣症候群の疑い)。
・22歳で結婚、現在は妊娠を希望
・体重は55kg(3年前体重70kg)
・現在:自然には月経が来ない
・高血圧症や糖尿病はみられない。
→Aさん(妊娠の希望あり)は、多嚢胞性卵巣症候群が疑われ、無月経に対する治療を選択しよう。多嚢胞性卵巣症候群の治療方針は、現時点において子供を希望するかどうか(挙児希望)によって分かれることに留意しよう。第一選択は、クロミフェンクエン酸塩である(※参考:「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)について② 治療」ミラザ新宿つるかめクリニック様HPより)。

1.× 5kgの減量指導は優先度が低い。なぜなら、Aさんは既に体重を70kgから55kgまで減量している(現在BMI:22.3)ため。さらに5kg減量すると、50kgとなり、身長157cmでBMIは20となる。普通の基準ではあるが、あえて減量する必要性は少ない。BMIとは、体重(㎏) ÷ 身長の2乗(m) で計算される体格指数のことである。日本肥満学会の基準では、18.5以下:低体重、25以下:普通、30以下:肥満Ⅰ度、35以下:肥満Ⅱ度、40以下:肥満Ⅲ度、40以上:肥満Ⅳ度である。

2.× メトホルミンの内服は、第一選択であるクロミフェンクエン酸塩が無効かつ、血液検査でインスリン抵抗性がある場合(糖尿病)に用いられる。

3.× ゴナドトロピンの注射は、第一選択であるクロミフェンクエン酸塩が無効である場合に用いられる。多嚢胞性卵巣症候群の治療として、挙児希望があれば排卵誘発剤を使用する。第一選択はクロミフェンクエン酸塩という飲み薬である。反応が不良の場合はインスリンの抵抗性を改善させるメトホルミン塩酸塩(飲み薬)が併用されることもある。これらの治療に反応が不良であれば、ゴナドトロピン療法という注射剤での排卵誘発の適応となる。また多嚢胞性卵巣症候群には腹腔鏡下卵巣多孔術という特有の治療法もあげられる(※参考:「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)について② 治療」ミラザ新宿つるかめクリニック様HPより)。

4.× Kaufmann<カウフマン>療法は、第2度無月経の治療法である。カウフマン療法とは、不妊治療のひとつで、正常の月経周期や女性ホルモン環境を人工的に作り出すホルモン療法である。これは、ホルモン剤を投与して擬似的に月経周期を作り出すことで排卵を抑制し、卵巣を休ませる治療法である。排卵を抑制することで自然な月経を促し、妊娠しやすい環境を整えることを目的とすることが多い。具体的には、エストロゲン製剤を数日間投与した後、さらに数日間エストロゲン製剤およびプロゲスチン製剤を併用投与し、休薬時に月経様の出血を起こさせる。
【第2度無月経の治療法】
「摂食障害や過激なダイエットによる体重減少、激しい運動や過度のストレスなどがあると、視床下部から下垂体への命令系が上手く働かないことがあります。すると、卵胞が発育しないためエストロゲン量は低値となり、排卵も起こらず無月経となります。このような無月経を第2度無月経といいます。第2度無月経の治療法として、「カウフマン療法」が広く行われています。カウフマン療法とは、正常の月経周期や女性ホルモン環境を人工的に作り出すホルモン療法です」(※引用:「若年女性の続発性無月経に対するホルモン治療 ~カウフマン療法~」冬城産婦人科医院様HPより)。

5.〇 正しい。クロミフェンクエン酸塩の内服が、Aさんへの第一選択の治療法である。なぜなら、多嚢胞性卵巣症候群の疑われるAさんは、挙児希望がみられるため。挙児希望があれば排卵誘発剤を使用する。第一選択はクロミフェンクエン酸塩という飲み薬である(※参考:「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)について② 治療」ミラザ新宿つるかめクリニック様HPより)。

 

 

 

 

次の文を読み39〜41の問いに答えよ。
 A病院の産科病棟は院内助産を行っており、分娩が終了するまで家族も産婦と個室で過ごせるようにしている。院内助産で分娩し、退院7日後に母乳外来を訪れたBさんから、夫が麻疹と診断されたとの情報を得た。夫は退院日の2日前から咳および鼻汁の症状がみられ、退院日の夜から38.0℃の発熱があった。退院後2日目から発疹が出現した。Bさんの夫の来院状況は以下のとおりであった。
 3月3日39週0日、陣痛発来による入院に夫が付き添う
    4日分娩に夫が立ち会う
    5日以降退院まで毎日来院
    9日退院の迎えで来院

39 Bさんの夫が原因で他の人に感染する可能性があった期間で最も適切なのはどれか。

1.3月3日〜3月9日
2.3月4日〜3月9日
3.3月7日〜3月9日
4.3月9日

解答

解説

本症例のポイント

【Bさんの夫(麻疹)の来院状況】
3日39週0日、陣痛発来による入院に夫が付き添う。
4日分娩に夫が立ち会う。
5日以降退院まで毎日来院。
・退院日の2日前:咳および鼻汁の症状。
9日退院の迎えで来院
・退院日の夜:38.0℃の発熱
・退院後2日目:発疹が出現
・Bさん:退院7日後に母乳外来
→麻疹に関しておさえておこう。麻疹は、①カタル期→②発疹期→③回復期に分かれる。麻疹の潜伏期間は約10日である。三大症状:①カタル症状(上気道炎症や結膜炎症状)、②発疹、③二峰性発熱(カタル期の終わりに一時的に熱が降下する)である。カタル期(1回目の発熱)、発疹期(2回目の発熱)、回復期と経過し、感染力が最も強いのはカタル期である。感染の可能性があるのは、発熱、カタル症状、発疹などの症状が出現する1日前から解熱後3日を経過するまでである。

1~2.× 3月3日〜3月9日/3月4日〜3月9日は考えにくい。なぜなら、麻疹による発熱(退院日:9日)から、5~6日前となるため。

3.〇 正しい。3月7日〜3月9日は、Bさんの夫が原因で他の人に感染する可能性があった期間である。なぜなら、感染の可能性があるのは、発熱、カタル症状、発疹などの症状が出現する1日前から解熱後3日を経過するまでであるため。Bさんの夫は、退院日(9日)の夜に38.0℃の発熱を呈している。

4.× 3月9日は考えにくい。なぜなら、Bさんの夫は、まだ発熱中であるため。解熱後3日を経過するまでは感染の可能性がある。

麻疹とは?

麻疹とは、麻疹ウイルスの感染後、10~12日間の潜伏期ののち発熱や咳などの症状で発症する病気のこと。38℃前後の発熱が2~4日間続き、倦怠感(小児では不機嫌)があり、上気道炎症状(咳、鼻みず、くしゃみなど)と結膜炎症状(結膜充血、目やに、光をまぶしく感じるなど)が現れて次第に強くなる。麻疹の合併症として、①中耳炎、②肺炎、③脳炎があげられる。特に脳炎と肺炎は死亡例が多い。

 

 

 

 

 

次の文を読み39〜41の問いに答えよ。
 A病院の産科病棟は院内助産を行っており、分娩が終了するまで家族も産婦と個室で過ごせるようにしている。院内助産で分娩し、退院7日後に母乳外来を訪れたBさんから、夫が麻疹と診断されたとの情報を得た。夫は退院日の2日前から咳および鼻汁の症状がみられ、退院日の夜から38.0℃の発熱があった。退院後2日目から発疹が出現した。Bさんの夫の来院状況は以下のとおりであった。
 3月3日39週0日、陣痛発来による入院に夫が付き添う
    4日分娩に夫が立ち会う
    5日以降退院まで毎日来院
    9日退院の迎えで来院

40 3月16日、Bさんから情報を聞き、産科病棟での感染管理を行うため、麻疹症状のある者を確認したところ発症者はいなかった。患者およびスタッフの接触者のうち、予防接種歴が確認できなかった者は、現在も入院治療中の切迫早産の妊婦2人とスタッフ2人であった。
 病棟内で感染を拡大させないための対応として適切なのはどれか。

1.切迫早産の妊婦2人に麻疹の予防接種を行う。
2.切迫早産の妊婦2人にγ-グロブリンを投与する。
3.予防接種歴が確認できなかった接触者の麻疹の抗体価を調べる。
4.予防接種歴が確認できなかったスタッフは直ちに出勤停止とする。

解答

解説

本症例のポイント

3月7日〜3月9日:感染が考えられる時期
3月16 日:麻疹症状のある者を確認したところ発症者はいなかった。
・予防接種歴が確認できなかった者:現在も入院治療中の切迫早産の妊婦2人とスタッフ2人。
→それぞれの選択肢の適応と禁忌をおさえておこう。

1.× 切迫早産の妊婦2人に麻疹の予防接種を行うことはできない。なぜなら、麻疹の予防接種は、妊婦の場合禁忌であるため。これは、麻疹の予防接種は、生ワクチンであり胎児にリスクを及ぼす可能性があるため。ちなみに、麻しん風しん混合ワクチン(MRワクチン)の禁忌として、強いアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を起こしたことがある人、妊娠していることが明らかな人、明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する人、および免疫力抑制をきたす治療を受けている人である。

2.× 切迫早産の妊婦2人にγ-グロブリンを投与しても効果は見込めない。なぜなら、発症を防ぐには、接触から72時間以内のワクチン接種、あるいは4日以上6日以内に限るため。設問の場合、感染が考えられる時期(3月9日)から、すでに1週間(7日)経過している。ちなみに、麻しんの感染力はきわめて強く、免疫のない人が麻しんにかかっている人と接すればほぼ確実に感染する。 発症を防ぐには、接触から72時間以内のワクチン接種、あるいは4日以上6日以内のガンマグロブリンの筋肉注射という方法がある(※参考:「麻しんQ&A III 麻しんへの対応」東京都感染症情報センター様HPより)。

3.〇 正しい。予防接種歴が確認できなかった接触者の麻疹の抗体価を調べる。なぜなら、麻疹に対する免疫の有無を確認するため。ちなみに、ウイルス抗体価とは、ウイルスを失活させる作用があるものを特に中和抗体と呼び、血液検査で測定できるこの中和抗体の量のことである。

4.× 予防接種歴が確認できなかったスタッフは、「直ちに出勤停止とする」と判断しない。なぜなら、予防接種歴が確認できなかった理由もさまざまであるため。つまり、予防接種したにも関わらず、予防接種歴が確認できなかったスタッフも含まれてしまう。また、そういったスタッフに対し、一概に全員を「直ちに出勤停止とする」といった対応をとってしまうと、病棟自体の業務が回らなくなってしまう恐れがある。スタッフの配置換えなどで対応することが多い。

麻疹患者発生時の対応・医療関連感染予防対策

医療機関内での麻疹患者発生には、次のような場合が考えられる。①未診断の患者が外来を受診する場合、②入院時に麻疹が疑われず十分な感染対策が行われていなかった状況で麻疹と診断され、既に入院病棟内において多くの接触者が発生している場合、③院内で麻疹患者と接触した患者、面会者、あるいは職員などから二次、三次感染が生じている場合など、さまざまな状況が想定される。麻疹(疑い)患者が感染拡大予防策を講じない状態で、外来受診した場合、あるいは入院後麻疹であると診断された場合、及び院内感染が判明した場合は、速やかに施設長に連絡するとともに、Infection Control Team(以下、ICT という。)あるいはそれに準じる組織、あるいは感染対策の担当者による対応方針を決定する必要がある。麻疹患者発生時には、「一人発生した時点で」、臨時に緊急感染対策委員会を開催する。

(※引用:「医療機関での麻疹対応ガイドライン 第七版」)

 

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