第100回(H29) 助産師国家試験 解説【午後1~5】

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1 2011年に改訂されたICM<国際助産師連盟>による助産師の定義で示されているのはどれか。

1.守秘義務
2.妊娠の合併症の診断
3.女性と助産師の関係性
4.Traditional Birth Attendant<TBA>の指導

解答

解説

(※引用:「ICM 助産師の定義」日本助産師会様HPより)

1.× 守秘義務は、保健師助産師看護師法において記載されている。守秘義務は、助産師に限ったことではなく、医療職全体にかかわる根幹的な姿勢である。ちなみに、保健師助産師看護師法とは、保健師・助産師および看護師の資質を向上し、もって医療および公衆衛生の普及向上を図ることを目的とする日本の法律である。通称は保助看法。(※一部引用:「保健師助産師看護師法」厚生労働省HPより)

2.× 妊娠の合併症の診断は、「助産師」ではなく医師が実施する。ただし、助産師の業務の範囲として、「予防的対応、正常出産をより生理的な状態として推進すること、母子の合併症の発見、医療あるいはその他の適切な支援を利用することと救急処置の実施が含まれる 」と記載されている(※引用:「ICM 助産師の定義」日本助産師会様HPより)。

3.〇 正しい。女性と助産師の関係性は、ICM<国際助産師連盟>による助産師の定義で示されている。「助産師は、社会的責任を担った専門職として認識されており、女性の妊娠、出産、産褥の各期を通じて、サポート、ケアおよび助言を行い、助産師の責任において出産を円滑に進め、新生児および乳児のケアを提供するために、女性とパートナーシップを持って活動する」と記載されている(※引用:「ICM 助産師の定義」日本助産師会様HPより)。

4.× Traditional Birth Attendant<TBA>の指導は、WHOが定義した「直訳:伝統的産婆」のことである。WHOではTBA(伝統的産婆)を「地域で出産を手助けする女性のこと、自分の出産を通してあるいは見習いを通して技術を身につける人(a person who assists the mother during child birth and who initially acquired her skills by delivering babies herself or through apprenticeship to other TBAs)」と定義している。TBAは一般的に女性であり、40歳以上のその地域に住む(地域から選ばれた)母親である。西洋的な教育を受けた助産師とは違い、彼女たちは観察を通して、経験を通して出産に関する技術を身につけていく。WHOの推定によると全世界では6割から8割の出産はTBAによるものと言われている(※引用:「TBA」SHARE様HPより)。

 

 

 

 

 

2 絨毛膜羊膜炎の産婦から出生した児で上昇している免疫グロブリンはどれか。

1.IgA
2.IgD
3.IgE
4.IgM

解答

解説

(※引用:「アレルギー総論」厚生労働省HPより)

1.× IgAとは、体内では2番目に多い免疫グロブリンで、鼻汁、涙腺、唾液、消化管、膣など、全身の粘膜に存在している。IgAは、粘膜の表面で病原体やウイルスと結合し、病原体やウイルスが持っている毒素を無効化して感染しないように阻止する働きがある。

2.× IgDとは、扁桃腺および上気道にある抗体を産生する形質細胞から放出され、呼吸器系の免疫に作用していると考えられている。 IgAやIgGと比較しても微量しか存在していない免疫グロブリンである。

3.× IgEとは、肥満細胞や好塩基球の細胞表面に存在している。ヒスタミン遊離によりアレルギー疾患を引き起こす。生後6か月以降の乳幼児では、しばしばアトピー性アレルギー疾患の進行に伴って血清中のIgE抗体が上昇する。

4.〇 正しい。IgMは、絨毛膜羊膜炎の産婦から出生した児で上昇している免疫グロブリンである。IgMとは、新生児由来であり、児に感染が起きたときに産生される免疫グロブリンである。しかし、感染防御力は低い。出生直後の新生児の血中IgMが高値の場合は、胎内または分娩時の感染が示唆される。感染の初期に発現し、生体防御の初段階を担うのはこのIgMに属するいずれかの抗体で、それらは症状が進むと再び発現するようになる。

Lenckiらによる臨床的絨毛膜羊膜炎の診断基準

絨毛膜羊膜炎とは、腟からの上行性感染により細菌が絨毛膜羊膜に至り、そこに止まっている状態を指す。この細菌が、破水などにより子宮腔内へ波及した状態が子宮内感染症である。したがって、子宮内感染症では、胎児感染も引き起こされている可能性がある。症状としては、発熱、子宮圧痛、悪臭のある羊水、膿性の頸管分泌物、母体または胎児の頻脈などがある。診断には母体の発熱、頻脈や白血球 15000/μL以上などがあげられる。

【Lenckiらによる臨床的絨毛膜羊膜炎の診断基準】
母体に38.0℃以上の発熱が認められ、 かつ ①母体頻脈≧100回/分、②子宮の圧痛、③腟分泌物・羊水の悪臭、④母体白血球数≧15,000/μLのうち、1項目以上を認めるか、母体体温が38.0℃未満あっても①から④すべてを認める場合、臨床的絨毛膜羊膜炎と診断するものである。

(※参考:「子宮内感染について」より)

 

 

 

 

3 マーサー,R.T.の母親役割獲得理論において、独自の母親役割を修正したり発達させたりする段階はどれか。

1.予期的段階
2.形式的役割取り込み段階
3.非形式的役割形成段階
4.個人的アイデンティティの形成段階

解答

解説

マーサー,R.T.の母親役割獲得理論

マーサー(Mercer R.T.)は、自分なりの母親像を獲得する母親獲得過程は、①妊娠期の予期的段階に始まり、②出産後に形式的段階、③非形式的段階と順次経過し、④最終地点である個人的段階に移行する。

➀妊娠期に妊娠に専念し、胎児へ関心や愛着をはぐくみ母親となる準備をする段階(予期的段階)。②産後2~6週間に身体の回復をしつつ、児の合図と世話を学ぶ段階(形式的段階)。➂産後最初の4ヶ月間、正常な経過の中で児の世話への自信を高める段階(非形式的段階)。➃産後4ヶ月以降に母親としての自己を確立する段階(個人的段階)。産後約1年かかるとされている。

1.× 予期的段階は、妊娠期に妊娠に専念し、胎児へ関心や愛着をはぐくみ母親となる準備をする段階である。

2.× 形式的役割取り込み段階は、形式的段階ともいい、産後2~6週間に身体の回復をしつつ、児の合図と世話を学ぶ段階である。専門家や友達の意見を聞いたり、模倣しながら、形式的な子育て行動を始める。

3.〇 正しい。非形式的役割形成段階は、独自の母親役割を修正したり発達させたりする段階である。産後最初の4ヶ月間、正常な経過の中で児の世話への自信を高める段階で、「形式的段階の周囲の模倣」ではなく、母親自身が新生児とのかかわりのなかで、一番よいケアを自分の判断で行うようになる。

4.× 個人的アイデンティティの形成段階は、産後4ヶ月以降に母親としての自己を確立する段階である。産後約1年かかるとされている。

 

 

 

 

 

4 Aさん(30歳、2回経産婦)。28歳のとき、子宮鏡下手術によって子宮粘膜下筋腫を切除した。妊娠40週6日で予定日超過のため入院し、翌日6時から子宮収縮薬の点滴静脈内注射による分娩誘発を開始し、9時に陣痛が発来した。14時の内診では子宮口全開大、Station +2、破水していた。その直後、Aさんは突然激しい腹痛を訴え、呼吸が速くなった。胎児心拍数陣痛図では変動一過性徐脈が出現し、その後高度徐脈となった。直ちに助産師が内診を行うと児頭を触知できなかった。異常な出血はみられなかった。
 このときのAさんの状態で最も考えられるのはどれか。

1.子宮破裂
2.腟壁裂傷
3.羊水塞栓症
4.常位胎盤早期剝離

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(30歳、2回経産婦)。
・28歳:子宮鏡下手術によって子宮粘膜下筋腫を切除。
・妊娠40週6日:予定日超過のため入院。
・翌日6時:子宮収縮薬の点滴静脈内注射による分娩誘発を開始。
・9時:陣痛が発来。
・14時の内診:子宮口全開大、Station +2、破水していた。
・直後:突然激しい腹痛、呼吸が速くなった。
・胎児心拍数陣痛図:変動一過性徐脈、その後高度徐脈
児頭を触知できなかった
・異常な出血はみられなかった。
→本症例は、子宮破裂が疑われる。本症例は、「子宮収縮薬の点滴静脈注射」を起点として、開始後6時間には様々な症状(突然激しい腹痛を訴え、その後、陣痛が減弱し、顔面蒼白となり呼吸が速くなった)が起こった。ちなみに、子宮破裂とは、子宮が自然に裂けて開くことであり、強い腹痛が続き、胎児の心拍数が異常に下がる。帝王切開の既往がある女性で治癒した瘢痕線に沿って起こることが多い。他に多胎妊娠や羊水過多なども原因となることがある。本症例のように、子宮内圧の低下により胎児が押し上げられ、内診しても児頭を触知することができなくなっている。

1.〇 正しい。子宮破裂がこのときのAさんの状態で最も考えられる。本症例は、「子宮収縮薬の点滴静脈注射」を起点として、開始後6時間には様々な症状(突然激しい腹痛を訴え、その後、陣痛が減弱し、顔面蒼白となり呼吸が速くなった)が起こった。子宮破裂とは、分娩時、まれに妊娠末期に起こる子宮の裂傷で、胎児死亡のみならず母体死亡にもいたる重篤な疾患である。 子宮破裂の発生頻度は、0.02~0.1%で、若干増加傾向にある。 陣痛促進薬で誘発された出産や子宮手術、帝王切開瘢痕(子宮の外傷)などが誘因となるものと、分娩中、何らかの原因により胎児の進行が停止し収縮輪が上昇することで破裂にいたるものがある。

2.× 腟壁裂傷とは、主に分娩時に腟が裂けてしまう状態を指す。赤ちゃんの体は腟の大きさに比べると大きく、物理的に腟が傷ついてしまうことがある。腟の壁はある程度伸び縮みしやすい構造をしているが、それでも腟壁裂傷が生じることは稀ではない。児分娩後に腟からの外出血が観察されるが、表層のみに傷口が留まっているときには自然治癒も期待できるため、縫い合わせる処置は行わず止血を確認することに留まる。しかし、傷口の深さが深い場合には、傷口を縫い合わせる処置が必要であり、大量出血を伴うような傷口になることもある。

3.× 羊水塞栓症とは、羊水が母体血中へ流入することによって引き起こされる。肺毛細管の閉塞を原因とする肺高血圧症と、それによる呼吸循環障害を病態とする疾患である。羊水塞栓症の症状として、①意識消失、②ショックバイタル、③播種性血管内凝固症候群(DIC)、④多臓器不全になる。ちなみに、播種性血管内凝固症候群〈DIC〉とは、小さな血栓が全身の血管のあちこちにできて、細い血管を詰まらせる病気である。血液凝固が増加することで出血の抑制に必要な血小板と凝固因子を使い果たしてしまい、過度の出血を引き起こす。感染、手術、出産時の合併症など、考えられる原因はいくつかある。

4.× 常位胎盤早期剝離とは、子宮壁の正常な位置に付着している胎盤が妊娠20週以降に剥がれてしまうことである。子宮壁の正常な位置に付着している胎盤が、胎児娩出以前に子宮壁より剥離することをいう。剥離出血のため、性器出血や激しい腹痛、子宮内圧の上昇、子宮壁の硬化が起こり、ショック状態を起こすことがある。胎盤が早い時期に剥がれると、在胎週数の割に成長しなかったり、死亡することさえある。また、低酸素のために急速に胎児機能不全に陥る。原因は不明なことが多い。

 

 

 

 

5 Aさん(28歳、初産婦)。妊娠39週0日で正常分娩した。産褥2日、母児同室中である。昨日から右乳頭上部に発赤がみられ、授乳時に痛みがある。乳房の形はⅢ型、乳管の開口数は左右とも2、3本である。
 助産師が行うケアとして最も適切なのはどれか。

1.右乳房の授乳は縦抱きで行うよう指導する。
2.乳房を児の口の中に押し込むようにする。
3.授乳時の児の吸着状態を確認する。
4.痛みがある間は右乳房の授乳は中止するよう説明する。

解答

解説

本症例のポイント

・Aさん(28歳、初産婦、妊娠39週0日:正常分娩)。
・産褥2日:母児同室中。
・昨日から:右乳頭上部に発赤授乳時に痛みがある。
・乳房の形:Ⅲ型、乳管の開口数:左右とも2、3本。
→乳房Ⅲ型の本症例に対し、乳房のタイプにあった授乳介助と効果的な吸着(ラッチオン)が行えるように支援する。児の下顎が乳房に埋もれこむようにすることで効果的な吸着(ラッチオン)が行えるようになる。①口が大きく開く、②唇が外向き、③下顎が乳房に触れている、④乳房の上方に比べ下方を深く含んでいるといった深い吸い方ができると乳頭亀裂などのトラブルが少なくなる。

(※図引用:「産褥婦さんの乳房のタイプ」看護師イラスト集HPより)

1.× 右乳房の授乳は縦抱きで行うよう指導するのは、主に乳房の形:Ⅰ型である。
【乳房の形と抱きやすい姿勢】
Ⅰ型(a<b):縦抱き
Ⅱa型(a≒b):横抱き
Ⅱb型(a>b):フットボール抱き(脇抱き)
Ⅲ型(a>>b):添え乳(or脇抱き)

2.× 乳房を児の口の中に押し込むようにする必要はない。①口が大きく開く、②唇が外向き、③下顎が乳房に触れている、④乳房の上方に比べ下方を深く含んでいるといった深い吸い方ができると乳頭亀裂などのトラブルが少なくなる。

3.〇 正しい。授乳時の児の吸着状態を確認する。なぜなら、本症例は、右乳頭上部の発赤と授乳時の痛みであり、これは乳腺炎や乳頭裂傷の可能性が考えられるため。したがって、授乳時に正しい吸着状態が確保されているかを確認し、必要に応じて授乳姿勢や方法を指導することが重要である。

4.× 痛みがある間は右乳房の授乳は、中止するよう説明する必要はない。なぜなら、両方交互で行うことで、その刺激を受けまた母乳は作られるため。片方からばかり授乳していると、乳首が痛くなったり母乳の分泌が悪くなったりする可能性がある。

 

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